※異世界経済王※ ~二重人格、彼と彼女の物語~

Egimon

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第八話 コンマーレ様

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 ミノファンテと遊んでいると、奥の部屋からコンマーレさんとプロテリアが出てきた。どうやら準備が終わったらしい。
 特に何か持ってきた様子はないし、着替えてきた様子もないが、いったい何を準備したというのか。

「待たせたなエコノレ。ミノと遊んでくれてありがとよ」

「いやいや、なんということはない。子どもは大好きだ。この子から朝のエネルギーをもらったよ」

 俺はタイタンロブスターのことは良くわからない。人間とは異なる、彼らなりの準備があるのだろう。特に俺が気にするようなこともない。

「じゃあ行こうか。二人とも、留守を任せたぞ!」

 家に残る二人に一言告げ、俺たちは家を出た。入ってきた時とは別、海とは反対側の階段を下っていく。

 改めて見てみると、海辺だというのに意外と植物が多い。浜も俺が住んでいたところより小さいか? その分森がかなり近い。
 どうやらこの辺りには、コンマーレさんの家しか建物はないようだ。

 俺はズンズンと森の中を進み始めた三人に慌てて付いて行く。まさか道のない森の中をそんなに迷いなく突き進むとは思わなかった。
 普段あまりこの道を使わないのか、草が踏み固められた跡もない。

「これから市場に行くのではないのか? 特に何も持っていない様子だが。俺はこの服以外に価値のあるものは持っていないぞ」

「ああ、大丈夫だよ。今日は俺が全部出す。まだお前はこっちに来て日が浅いからな。いずれその金も全部返してくれるんだろ?」

 彼には何か考えがあるようだ。ここは全部任せてしまおう。何、これほど頼もしい男はそうそういない。悪い結果にはならないだろう。

「パパはね~すごいんだよ! こうね~何にもないところからお金さんを出しちゃうの! そしたらみんな、食べ物をくれるの! だからお金さんの力はすごいの!」

 所々何を言っているのか分からなかったが、この大陸にも金銭は存在しているのか。俺の国でも数十年前に導入された。
 金というものは非常に便利で、まさに、凄まじいパワーを持っているのだ。エコテラの記憶にもそう記されている。

 ……待て、今ミノは、何もないところから金を出すと言ったか? それはつまり……。

「もしや、コンマーレ殿は錬金術の使い手なのか!?」

 錬金術。それは土や石などから金属を作り出す、物質の価値を自在に変えられる存在。
 俺たち研究員の中にも、錬金術を研究していた者がいた。しかしあまりに高度過ぎて、研究は途中で断念したのだ。

「いや? 俺は錬金術師じゃねぇよ。空間魔法って言ってな、ものを簡単に収納できるんだ。これがあれば、持ち物はほとんどなくなるぜ。だからホラ、価値のあるもん見繕ってきたが、外見上俺はなんも持ってねぇだろ?」

 なんと、錬金術にも匹敵する、超が付く難易度の魔法が飛び出してきた。
 空間系の魔法と言えば、我が国でも使える者は数人しかいないというもの。それを、こんなにあっさり使える人物がいようとは。

「すごいですねコンマーレ殿! 空間魔法を使える人なんて、俺は初めて見たぞ」

「あ~そりゃそうだろうな。地域とか遺伝にも寄るが、人間は基本的に空間系の魔力を持ってないからな。逆にその、空間系の魔法が使えるという奴がおかしいんだろ。ま、お前には今度詳しく魔法について教えてやる。人間は色々勘違いしてるからな」

 魔法について勘違い……? 俺は研究所で魔法を研究していたが、何か前提が間違っていたのだろうか。
 高い知能を持ち、数多の魔法に精通すると言われているタイタンロブスターに直接ご教授願えるのなら、これ以上のことはない。

「そんなこと話してないで、そろそろ着きますよ。父さん、くれぐれも目立たないでくださいね」

「釘刺さなくても分かってるっての」

 長男プロテリアにそう言われ、コンマーレは薄いフードを目深に被る。青い薄着は、彼の顔をほとんど覆い隠していた。

 そして今度は、何もないところから硬貨の束をふたつ取り出した。
 円形の中心に穴が空いていて、そこに紐を通すことで持ち運びを楽にしているようだ。我が国の硬貨とは随分違うな。

 にしてもこれが空間系魔法か。やはり凄まじい。持ち運びが楽、とかいう次元ではない。どんなに巨大で重たいものでも、これを使えば無になるのだ。

 彼の力に驚いていると、背の低い木々が並ぶ森を抜け、大きめの町に出た。
 これまた背の低い家屋が居並び、それぞれの家屋が石の壁で囲まれている。

 ここは居住区、ということで良いのか。特に市場のようなものは見えない。しかし住民は活気に満ちていて、誰もが笑顔だ。俺の住んでいた場所に比べると、通りにいる人の数が多い。

「もうすぐだぞ、この大通りをまっすぐ進んでいくと、周囲よりも大きな石壁が見えるだろ。あれが市場だ」

 おおあれが、かなり大きな外壁に囲まれているんだな。家屋を守っている壁は俺の背丈よりも低いくらいだが、あそこに見える石壁は俺二人分くらいだろうか。もう少し近づいてみないと詳しいことは分からないが、かなり高いのは確かだ。

 早速森を出て大通りを歩いていると、何やらこちらをチラチラと見てくる人が多いような気がする。
 いや、気がするではない、確実にこちらとチラチラと見てきている。そして何やら話している。

「おい、ちょっと急ぐぞ。ここに長居しているとマズい」

 隣を歩くコンマーレがそうささやいてきた。
 何がマズいというのか。確かに彼らは気になるが、事情も聞かずに去ってしまうのは少々冷たくないか?

 そう思いつつも、歩みの早くなったコンマーレに付いて行く。
 子どもたち二人は、慣れた様子で足早に父を追いかけていた。いったい何があるのか。

 そう考えていると、不意に通りがかった青年がコンマーレのフードを覗き、はっとした顔をすると声をかけてきた。

「あの~もしかして、森外れの……」

「走るぞエコノレ、全力で付いてこい!」

 途端、コンマーレは猛ダッシュを始めた。まるでかの青年から逃げるように。
 彼の足は速い。人間の俺とは遥かに身体能力が違うのだ。研究所にこもっていた俺にはキツイ。

「やはりコンマーレ様だ! おいみんな、コンマーレ様が町に来ているぞ! お土産をもってならべぇい! 絶対に今日こそ、町の収穫物を受け取っていただくのだァ!」

 急に大声を出した青年。彼の言葉を皮切りに、元々人の多かった通りはさらに密度が増し、外に出てきた人間は皆一様に何か食べ物を持っている。

 いったい、何がどうなっているというんだ!? どうして皆コンマーレに食べ物を上げようとしているんだ? 分からん、何も分からんぞ~!

「えぇい足が遅いなお前は、仕方がない。少し魔法をかけてやる、あとは自力でどうにかしろ! マーケットまで逃げ切れば俺たちの勝ちだ!」

 足が遅いのは仕方がないじゃないか! 俺は身体こそ立派なものだが、その実ほとんどの時間を研究所で過ごしていたのだ。筋トレと運動は違う!

 そんな風にコンマーレを非難していると、途端に足が軽くなった。どころか、身体全体がとても軽くなった。
 そして足の回転が異様に速くなり、コンマーレに付いて行くのが苦ではなくなっていた!

 おかしい、他人に身体強化の魔法を付与するなど、不可能なはず。

 そう、研究所では結論付けた。しかし現実はどうだ。実際にコンマーレは俺の身体に何らかの魔法をかけ、俺の身体能力は確実に向上している。
 こんな超常的な魔法まで行使できるのか、タイタンロブスターという種族は。

「お待ちください、コンマーレ様~! どうか我々の捧げものを受け取ってくだされ~!」

「みんなバイバ~イ。追いかけっこ、楽しかったよ~!」

 最後にミノがそう言い捨て、俺たちはマーケット、つまり巨大な石壁の中に飛び込んだ。
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