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第七話 愉快な家族
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さて、エコテラの番が終わって主導権が俺に戻ってきたのは良いが、身体の疲労はかなりのものだ。
いや、ほぼ丸一日海面にいたことを考えるとむしろ調子が良いくらいか。
とにかく今日は疲れた。頭の整理も全然追いついていないし、もうひと眠りして明日の朝考えるとしよう。
っと、その前に。ひとつ書き置きをしておこう。次に彼女の番が回ってくるのがいつかは分からないが、コミュニケーションは大切だ。
俺たちふたりは身体を共有している。相手の番になっている時は意識が混濁しているのだ。こう、凄まじい眠気が常に襲ってきているような。俺も途中からほぼ寝ているような状態だった。
だから話の内容は聞こえてはいるが、頭の中には少ししか入ってきていない。当然、俺がエコテラとコミュニケーションを取るのは非常に難しい。
こんなにも近くにいるというのに、難儀なものだ。
記憶も共有しているとはいえ、これは気持ちだ。自己紹介が必要だろう。
俺は小さな机の引き出しに入っていた木簡を取り出し、筆で文字を書く。これからよろしく頼むと。
次に備えて書置きを残し、俺は再びベットに潜った。フカフカで、ほのかに花のような香りのする気持ちのいいベットに身体を沈める。
朝、窓から差し込むあたたかな日差しで目が覚めた。
窓とは言っても、エコテラの記憶にあったガラスではなく、ただ壁に大きな穴があるだけだが。
太陽の光で目が覚めるというのは気持ちがいい。それまであった眠気が吹き飛び、今日という一日を精一杯頑張る気力が湧いてくる。
長い赤毛を輪で後ろにまとめ、顔を叩いて目を覚ました。
一度寝て起きたが、まだ俺、エコノレの番のようだ。いったい何が条件で人格が変わるのか、まだ俺には分からない。エコテラは分かっているんだろうか。
昨日の書置きに、それを質問する文も追加しておこう。
ぐっと伸びをしてみると、下の階から温かいにおいが漂ってきた。海産物を炒めるにおいだ。
彼らは朝が早いな。もう朝ごはんの準備をしているのか。
部屋を出て階段を降りていくと、さらに香りが強くなってきた。単純な塩ではない。もっとスパイシーな何かのにおいだ。
「あ、おはようございます、お姉……いや、今はお兄さんなんですね。おはようございます!」
「おはようパパ~!」
「おはよう。って、俺はパパじゃないぞ~」
元気な子どもたちだ。この家には朝から笑顔が溢れている。俺の実家よりもずっと空気が良い。
にしても、目に入る身長の高い男性を父と間違えてしまうのは、ロブスターでも変わらないのか。
「起きたのかエコノレ、昨日は色々あったぞ。エコテラの方にはもう済ませたが、改めて自己紹介させてくれ」
コンマーレさんも朝から元気だ。声の調子が明るい。朝に弱い俺とは大違いだな。
コンマーレさんはキッチンで朝食の準備をしつつ、一人ずつ紹介してくれた。
エコテラの番だった時は意識が朦朧としていたから、まだ顔と名前が一致していないんだ。改めて紹介してくれるのは助かる。
上から順に、長男のプロテリア。次男のコストーデ。長女のランジア。次女のミノファンテ。
皆父コンマーレと同じく青い髪と青い瞳をしている。母親もいるが、今は少し遠くに出ているらしい。
俺も改めて彼らに自己紹介をする。
どうやらエコテラは彼らととても仲良くなっていたようで、俺の話を笑顔で聞いてくれた。
実家には小さい子どもがいなかったが、俺は子どもが好きなようだ。彼らの元気さがとてもうらやましい。
特に末っ子のミノファンテ。彼女の笑顔がとてもまぶしく感じる。
「まあ座れよ。朝食が出来たぞ。今日はお前とじっくり話がしたいんだ」
コンマーレさんにそう言われ、俺は空いている窓際の席に座った。
大きな机に並べられた、朝食にふさわしい野菜中心の軽い食事。朝に弱い俺にはとてもありがたい。
彼らには食事を順番に食べるという文化がないようで、各々好きなものを好きなように食べている。
正直、俺も食事は自由でいいと思っていた。彼らに倣い、俺も好きに食べるとしよう。
まずは野菜だな。生の葉物野菜を塩で味付けしている、シンプルなものだ。子どもには少々苦いかと思ったが、皆おいしそうに食べている。好き嫌いは少ないようだな。
おや、この赤い野菜は何だろうか。炒めてある。スパイシーなにおいがするな。朝漂ってきたのはこれのにおいか。
辛味はあまり食べる機会がないが、これは……。
「旨いだろ、唐辛子って言うんだ。ま、正式名称は別にあるらしいけど、俺はそう呼んでるぜ」
「ああ、少々喉に来るが、とてもおいしい。この唐辛子? 高いのではないか? 俺のいた領地では中々食べることは出来ないものだ」
俺のいた領地、というか大陸では、このような香辛料の類はあまり流通していなかった。 かなり高い金を払わなければ手に入れられなかったはず。
「いんや? 胡椒とかはまだ高いけど、唐辛子はそんなに高くないぞ。多分だが、お前がいいた大陸よりもこっちの方が湿度が高くて温かいんだろう。香辛料の生産は活発だから、法外な値段というわけではない」
なるほど、俺の国では香辛料の生産が難しかったが、こっちではそうでもないのか。
これほどの食品でも生産量が多ければ価格は下がる。これは良い情報を掴んだぞ。
「それで、お前はこれからどうするつもりなんだ? エコテラは全部お前に任せるって言ってた。その身体の所有権はお前にあるからってな」
彼女がそんなことを……。正直ありがたくはあるが、彼女もこの身体を共有しているのだから、もう少し自由に動いても良いんだぞ。何も、俺に従う必要はない。
「そうだな。取り敢えず主な目標はふたつ。俺の故郷の大陸に渡る方法を確立するのと、会社を興して莫大な資金を獲得すること。ひとまずはこの大陸の状況を教えてくれるとありがたい」
「なるほど。海を渡るだけなら俺が協力すれば簡単だが……。お前が望んでいるのはそういうことじゃないみたいだな。にしても会社を興すか。エコノレは一応この世界の人間だろ? 随分行動力があるな」
「ええ、誰にも譲れない目標があるので。そのためにエコテラを巻き込んだのだから、これを果たせないというのは、俺の誇りにかけて絶対にありえない」
俺のせいで、多くの人を巻き込んだ。当然エコテラもそうだが、アミコたち研究所のメンバーにも迷惑をかけた。
パラレルを召喚した件は秘匿されているはずだが、それでも父や弟には小さくない影響が出てしまっただろう。騎士の中には脱退した者もいるかもしれない。
だからこそ、俺が諦めるわけにはいかない。ここまで多くの人に迷惑をかけておいて、いまさら引くことなど出来ないのだ。
幸い、目的を達成するだけの力が今の俺にはある。
「ごちそうさま。取り敢えず、近くに村や町はないか? この国の市場を確認しておきたい。実際作戦を考えるのはエコテラだが、情報収集は俺の仕事だからな」
「そうか、なら案内しよう。準備は……特に必要ないか」
「ああ、特に持ち物もなく流されたからな」
俺の持ち物はこの学者の制服だけだ。昨日はずぶぬれになっていたが、長女ランジアが乾かしてくれたらしい。本当に気の利く女の子だ。
「お前たちも買い物に行くか? 今日はエコノレの付き合いだから時間がかかるが」
「僕は行くよ。調味料が心もとなくなってきたから。父さんはテキトウに味濃くしすぎ」
「ミノもついてくー!」
どうやら長男プロテリアと末女ミノファンテが付いてきてくれるようだ。
にしても長男、料理ができるのはうらやましい。俺は料理なんてさせてもらえなかったからな。
「俺は家にいるよ。罠を補修しなくちゃいけない」
「アタシも、まだ木簡の整理が終わってないから」
次男コストーデと長女ランジアはここに残るらしい。
彼らもやることがあるようだ。子どもながらしっかりしている。いや当然か、子どもに見えて、その実彼らは俺よりもずっと年上なのだから。
「わかった、留守をよろしくな。エコノレ、ちょっと準備してくるから待っててくれ。プロ、一緒に来な。ミノはエコノレと遊んでてくれ」
父コンマーレにそう言われ、ミノファンテがトコトコと俺に近づいてきた。
とても可愛らしい。彼女の笑顔を浴びるだけで心がほぐれていくようだ。
「うむ、遊んで待っているから、ゆっくり準備してきてくれ」
奥に入っていった二人を見届け、ミノに何をして遊ぼうかと相談を始める。
~~~~~~~~~~
「父さん、教えなくていいの? あの人、気付いてないみたいだけど、あと二年もしないうちに死んじゃうよ」
「分かってる。けど、教えるのはあれを解決すつ方法を見つけてからだ。今度お師匠のところにも行ってみる。それと、お前は分かってないな。アイツはあれで賢い男だ。自分の身が危険なことくらい分かっている」
いや、ほぼ丸一日海面にいたことを考えるとむしろ調子が良いくらいか。
とにかく今日は疲れた。頭の整理も全然追いついていないし、もうひと眠りして明日の朝考えるとしよう。
っと、その前に。ひとつ書き置きをしておこう。次に彼女の番が回ってくるのがいつかは分からないが、コミュニケーションは大切だ。
俺たちふたりは身体を共有している。相手の番になっている時は意識が混濁しているのだ。こう、凄まじい眠気が常に襲ってきているような。俺も途中からほぼ寝ているような状態だった。
だから話の内容は聞こえてはいるが、頭の中には少ししか入ってきていない。当然、俺がエコテラとコミュニケーションを取るのは非常に難しい。
こんなにも近くにいるというのに、難儀なものだ。
記憶も共有しているとはいえ、これは気持ちだ。自己紹介が必要だろう。
俺は小さな机の引き出しに入っていた木簡を取り出し、筆で文字を書く。これからよろしく頼むと。
次に備えて書置きを残し、俺は再びベットに潜った。フカフカで、ほのかに花のような香りのする気持ちのいいベットに身体を沈める。
朝、窓から差し込むあたたかな日差しで目が覚めた。
窓とは言っても、エコテラの記憶にあったガラスではなく、ただ壁に大きな穴があるだけだが。
太陽の光で目が覚めるというのは気持ちがいい。それまであった眠気が吹き飛び、今日という一日を精一杯頑張る気力が湧いてくる。
長い赤毛を輪で後ろにまとめ、顔を叩いて目を覚ました。
一度寝て起きたが、まだ俺、エコノレの番のようだ。いったい何が条件で人格が変わるのか、まだ俺には分からない。エコテラは分かっているんだろうか。
昨日の書置きに、それを質問する文も追加しておこう。
ぐっと伸びをしてみると、下の階から温かいにおいが漂ってきた。海産物を炒めるにおいだ。
彼らは朝が早いな。もう朝ごはんの準備をしているのか。
部屋を出て階段を降りていくと、さらに香りが強くなってきた。単純な塩ではない。もっとスパイシーな何かのにおいだ。
「あ、おはようございます、お姉……いや、今はお兄さんなんですね。おはようございます!」
「おはようパパ~!」
「おはよう。って、俺はパパじゃないぞ~」
元気な子どもたちだ。この家には朝から笑顔が溢れている。俺の実家よりもずっと空気が良い。
にしても、目に入る身長の高い男性を父と間違えてしまうのは、ロブスターでも変わらないのか。
「起きたのかエコノレ、昨日は色々あったぞ。エコテラの方にはもう済ませたが、改めて自己紹介させてくれ」
コンマーレさんも朝から元気だ。声の調子が明るい。朝に弱い俺とは大違いだな。
コンマーレさんはキッチンで朝食の準備をしつつ、一人ずつ紹介してくれた。
エコテラの番だった時は意識が朦朧としていたから、まだ顔と名前が一致していないんだ。改めて紹介してくれるのは助かる。
上から順に、長男のプロテリア。次男のコストーデ。長女のランジア。次女のミノファンテ。
皆父コンマーレと同じく青い髪と青い瞳をしている。母親もいるが、今は少し遠くに出ているらしい。
俺も改めて彼らに自己紹介をする。
どうやらエコテラは彼らととても仲良くなっていたようで、俺の話を笑顔で聞いてくれた。
実家には小さい子どもがいなかったが、俺は子どもが好きなようだ。彼らの元気さがとてもうらやましい。
特に末っ子のミノファンテ。彼女の笑顔がとてもまぶしく感じる。
「まあ座れよ。朝食が出来たぞ。今日はお前とじっくり話がしたいんだ」
コンマーレさんにそう言われ、俺は空いている窓際の席に座った。
大きな机に並べられた、朝食にふさわしい野菜中心の軽い食事。朝に弱い俺にはとてもありがたい。
彼らには食事を順番に食べるという文化がないようで、各々好きなものを好きなように食べている。
正直、俺も食事は自由でいいと思っていた。彼らに倣い、俺も好きに食べるとしよう。
まずは野菜だな。生の葉物野菜を塩で味付けしている、シンプルなものだ。子どもには少々苦いかと思ったが、皆おいしそうに食べている。好き嫌いは少ないようだな。
おや、この赤い野菜は何だろうか。炒めてある。スパイシーなにおいがするな。朝漂ってきたのはこれのにおいか。
辛味はあまり食べる機会がないが、これは……。
「旨いだろ、唐辛子って言うんだ。ま、正式名称は別にあるらしいけど、俺はそう呼んでるぜ」
「ああ、少々喉に来るが、とてもおいしい。この唐辛子? 高いのではないか? 俺のいた領地では中々食べることは出来ないものだ」
俺のいた領地、というか大陸では、このような香辛料の類はあまり流通していなかった。 かなり高い金を払わなければ手に入れられなかったはず。
「いんや? 胡椒とかはまだ高いけど、唐辛子はそんなに高くないぞ。多分だが、お前がいいた大陸よりもこっちの方が湿度が高くて温かいんだろう。香辛料の生産は活発だから、法外な値段というわけではない」
なるほど、俺の国では香辛料の生産が難しかったが、こっちではそうでもないのか。
これほどの食品でも生産量が多ければ価格は下がる。これは良い情報を掴んだぞ。
「それで、お前はこれからどうするつもりなんだ? エコテラは全部お前に任せるって言ってた。その身体の所有権はお前にあるからってな」
彼女がそんなことを……。正直ありがたくはあるが、彼女もこの身体を共有しているのだから、もう少し自由に動いても良いんだぞ。何も、俺に従う必要はない。
「そうだな。取り敢えず主な目標はふたつ。俺の故郷の大陸に渡る方法を確立するのと、会社を興して莫大な資金を獲得すること。ひとまずはこの大陸の状況を教えてくれるとありがたい」
「なるほど。海を渡るだけなら俺が協力すれば簡単だが……。お前が望んでいるのはそういうことじゃないみたいだな。にしても会社を興すか。エコノレは一応この世界の人間だろ? 随分行動力があるな」
「ええ、誰にも譲れない目標があるので。そのためにエコテラを巻き込んだのだから、これを果たせないというのは、俺の誇りにかけて絶対にありえない」
俺のせいで、多くの人を巻き込んだ。当然エコテラもそうだが、アミコたち研究所のメンバーにも迷惑をかけた。
パラレルを召喚した件は秘匿されているはずだが、それでも父や弟には小さくない影響が出てしまっただろう。騎士の中には脱退した者もいるかもしれない。
だからこそ、俺が諦めるわけにはいかない。ここまで多くの人に迷惑をかけておいて、いまさら引くことなど出来ないのだ。
幸い、目的を達成するだけの力が今の俺にはある。
「ごちそうさま。取り敢えず、近くに村や町はないか? この国の市場を確認しておきたい。実際作戦を考えるのはエコテラだが、情報収集は俺の仕事だからな」
「そうか、なら案内しよう。準備は……特に必要ないか」
「ああ、特に持ち物もなく流されたからな」
俺の持ち物はこの学者の制服だけだ。昨日はずぶぬれになっていたが、長女ランジアが乾かしてくれたらしい。本当に気の利く女の子だ。
「お前たちも買い物に行くか? 今日はエコノレの付き合いだから時間がかかるが」
「僕は行くよ。調味料が心もとなくなってきたから。父さんはテキトウに味濃くしすぎ」
「ミノもついてくー!」
どうやら長男プロテリアと末女ミノファンテが付いてきてくれるようだ。
にしても長男、料理ができるのはうらやましい。俺は料理なんてさせてもらえなかったからな。
「俺は家にいるよ。罠を補修しなくちゃいけない」
「アタシも、まだ木簡の整理が終わってないから」
次男コストーデと長女ランジアはここに残るらしい。
彼らもやることがあるようだ。子どもながらしっかりしている。いや当然か、子どもに見えて、その実彼らは俺よりもずっと年上なのだから。
「わかった、留守をよろしくな。エコノレ、ちょっと準備してくるから待っててくれ。プロ、一緒に来な。ミノはエコノレと遊んでてくれ」
父コンマーレにそう言われ、ミノファンテがトコトコと俺に近づいてきた。
とても可愛らしい。彼女の笑顔を浴びるだけで心がほぐれていくようだ。
「うむ、遊んで待っているから、ゆっくり準備してきてくれ」
奥に入っていった二人を見届け、ミノに何をして遊ぼうかと相談を始める。
~~~~~~~~~~
「父さん、教えなくていいの? あの人、気付いてないみたいだけど、あと二年もしないうちに死んじゃうよ」
「分かってる。けど、教えるのはあれを解決すつ方法を見つけてからだ。今度お師匠のところにも行ってみる。それと、お前は分かってないな。アイツはあれで賢い男だ。自分の身が危険なことくらい分かっている」
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