※異世界ロブスター※

Egimon

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第三章 転生王妃

第八十三話 海龍VS霊王

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~SIDE ウチェリト~

 衝撃と轟音が、深い森に轟いた。木々をなぎ倒し大地を抉り返したそいつは、空中から突如として現れ出でたのだ。大きな身体には無数の鱗。鉄壁の防御には、精霊種としての魔力を持った森の木々すら突き刺さらない。流石の一言である。

 彼は蛇が神格化した者だとも、逆に蛇を生み出した者だ言われていた。タイタンロブスターやメルビレイなどよりも遥かに長大で、ロンジェグイダの本体を除けば間違いなく最大級の生物と呼ぶことができる。彼の無尽蔵の魔力も、その巨体ゆえだ。

 対する我は、外面上は一羽のちっぽけなトンビに過ぎない。霊格を持っているとはいえ、身体の大きさで言えばロンジェグイダの化身、人型にも遠く及ばない。その分、魔力量も他より低いのだ。身体の体積から見れば、多い方なのだが。

「にしても、ロンジェグイダは失敗したか。まあ、アグロムニーはタイタンロブスターの中でも規格外の存在だからな。想定外の事態が起きることも、予測していかなければならない。何より、我とてコイツの相手をするだけで手一杯だ」

 我は今、皆と離れ一人で行動している。それは、とある敵を相手するためだ。
 ロンジェグイダやムドラストでは、コイツの相手はできない。絶対的な機動力を持ち、この世界における最強格の攻撃魔法を持つ我でなければ。

 ロンジェグイダは我と対等の位置を保っているが、正直我の方が強いことはお互い理解している。何せ、我は蜉蝣カゲロウ様を食した霊獣であるのに対し、ロンジェグイダの起源は我の排泄物に含まれていた野花の種だ。

 それでも、彼は我と対等になるべく努力を続けている。蜉蝣様のことを研究しているのも、精霊種を解き放って戦いと同時に技術を研鑽させているのも、ひとえに、我に置いて行かれないためだ。本来格の違うはずのロンジェグイダは、それでも尋常ならざる努力の末に、辛うじて我と対等と言える力を手に入れた。

 しかし、この世にたった一人。8000年の努力を真正面から否定できる男が存在する。
 タイタンロブスターの大英雄、アグロムニーだ。奴は、知能を獲得してからたった100年ちょっとで我らを超えてしまった。当時の我らも、彼には畏怖を抱いたものだ。

 そして、コイツもまた奴を最強たらしめる所以。奴の相棒にして、世界中に数多く存在する龍種の中でも間違いなく最強格の存在。
 海龍クーイク。400年前も、いったいどれほどコイツに辛酸をなめさせられたことか。

「一応聞いておくぞ、クーイク。今回も、我らと戦うつもりなのか? 海の主でありながら正義の龍としての格も持つお前のことだ。アグロムニーの悪事、気付いていないわけではないだろう。それを、認めているわけではないだろう!」

『私も、アグロムニーが間違いを犯しているということは理解している。しかし、忘れてはいないか。私とて、元は彼に首を斬られ、ムドラストとアグロムニーによって再誕した召喚獣である。私とリーンビレニーでは訳が違うが、死者を復活させようという思考自体を否定することは出来ない。それは、私の存在を否定することでもある』

 そう、だったな。思い返してみれば、クーイクも一度死んでいるのだったか。
 それを復活させた際には、ムドラストも関わっている。海龍を召喚獣として再誕させるのには、異世界出身者を虐殺するような非道を行わなくていいのだ。

「そうか、残念だクーイク。今回もお前を倒さなければならない。我はこの大陸の秩序と平和を守る者だ。今回は、タイタンロブスターの英雄たるアグロムニーが大きく秩序を乱した。法を破るなど、規範たるべき者のすることではない。制裁は受け入れよ」

『私が、そう簡単にくたばるとお思いか? 400年前とは訳が違う。精霊種は寿命が長すぎる故に、めったに成長することはないだろう。しかし、私は召喚獣としての生を受ける以前は、普通の龍種であった。日々研鑽を積めば、それだけで強くなれる』

 ほう、クーイクも強くなったと言うか。しかし、我からしてみれば400年など、本当に微々たる時間でしかない。蜉蝣様から力を授かったあの日。たった一日の出来事が、我の中では数百年にも及ぶほど色濃く残っているのだ。

「では、その400年の研鑽というものを見せてみよ。……侮るなかれ。我らも、400年間何もしていなかったわけではない。それに、確かに精霊種は急成長しないものだが、8000年分の知識というものはそれを覆して余りあるのだ!」

 飛び出す。トンビである俺は、地を離れ一瞬も経たないうちに最高速へ到達した。
 音速を超えたスピードはソニックブームを生み出し、周囲の木々をなぎ倒す。風の魔法など使わずとも、我の力に掛かれば身体能力だけで生物の限界を突破できるのだ。

 海龍クーイクは水生生物だが、龍としての格を持っている以上地上でも活動できる。
 森の中ではあの巨体も取り回しがし辛いだろう。加えて俺のスピードがあれば、奴を一方的に攻撃することが可能である。

 奴の肉体に取りつき、我は空間切断を放った。できることならば奴の長大な身体を輪切りにしてやりたかったが、流石にそこまでは不可能だ。純粋な龍種であるクーイクは、魔法耐性があまりにも高すぎる。

 ニーズベステニーやアーキダハラは、空間魔法が万能の切断魔法だと思っているが、そうではない。魔法耐性を鍛え上げておけば、防ぎ切ることが可能なのだ。まあ、空間魔法ほどの高度な魔法を防御するというのは、それこそアグロムニーやクーイクくらいの練度がなければ不可能ではあるが。

 クーイクの分厚い魔法耐性に阻まれ、我の攻撃は奴の鱗を剥がし皮膚を切断する程度に収まった。
 そして、当然彼の身体に張り付いたままでは反撃がやってくる。

 我は再び飛び立ち、先程よりもさらにスピードアップしてその攻撃を躱した。
 なんと、奴は自身の身体を傷つけることもいとわず攻撃を仕掛けてきたのだ。魔力消費を一切考えない、水系魔法の連弾。それは、森の地形を変えようとも収まることがない。

 相変わらず、海龍クーイクはバカげた魔法を使ってくるものだ。我が躊躇うような高威力の魔法も、構わず叩き込んでくる。無尽蔵の魔力量を活かしきった力押しな戦い方は、複数の敵を同時に相手するのに向いていた。

 そしてそれは、我にも刺さる戦法であるのだ。
 我はこのアストライア大陸で間違いなく最速の生物であるが、あれほど魔法の弾幕を張られては、こちらから仕掛けることは難しい。

 せめて、熱線魔法や落雷魔法などであれば良かったというのに。
 我が通り抜けられるだけの隙間さえあれば、この動体視力と身体能力で接近することは可能である。しかし、奴の魔法はそれすらも許さないほどの密度であった。

「ただでは攻めさせてくれないか……。しかし、やはり我ほどのスピードがなければクーイクの相手は務まらないな。ロンジェグイダやムドラストでは、もう何発か魔法を喰らっていただろう。防御魔法も間に合うだろうが、お前と持久戦をするのは不利が過ぎる」

 我は身体が小さい分、他の者よりも魔力量が少ない。ゆえに、短期決戦を仕掛けざるを得ないのだ。しかし、それこそこのクーイクに対しては最適解。魔力量に任せて耐久戦をするよりも、一瞬にして削り切ってしまう方が賢いのだ。

「クーイク。悪いが、今回ばかりは本当に殺させてもらう。前回のように、見逃してやることはない。今回はアグロムニーだけでなく、お前の責任でもあるからな。……身体強化、霊王ッ!」

 地上での戦いは、最大と最小の一騎打ち。強さと速さ。力と技。決着は、海中よりも早く付くだろう。
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