※異世界ロブスター※

Egimon

文字の大きさ
上 下
67 / 84
第二章 アストライア大陸

第六十六話 戦場俯瞰者

しおりを挟む
~SIDE ボンスタ~

 盛大に城を破壊して、ニーズベステニー殿が去って行く。
 俺にはまったく理解できない、『ゲート』という魔法を使っているそうだ。あれで遠くの海まで一瞬で辿り着く。いったいどういう理屈なのか。

 まあ、魔法のことを俺が考えても仕方がない。そっちの勉強はしてこなかったから。
 俺にできることは、ただ人を殺すことだけだ。情報収集だの隠密能力だのは、全て殺人のために磨いた技術。最終的な着地点はそこに収まる。

 俺は周囲を見回し、十数名いる部下全員とアイコンタクトを取る。
 全員、準備は万端な様子だ。作戦はすべて伝えた。動き方の指導も済んでいる。あとは、極力不測の事態が起きないよう各自勤めるだけである。

 次に、足元にいる魔獣の背へ手を乗せる。ニーズベステニー殿から借りているプロツィリャント、スターダティルである。彼の能力は凄まじく、流石は準精霊と呼ぶべきだ。身体能力もさることながら、その魔法はほんのわずかであっても人間を殺せる。

「……そう言えば、お前は群れを裏切ってニーズベステニー殿に付いているんだったな。ハハ、同じ裏切者同士、仲良くしようじゃないか、スターダティル」

 まるで俺の言葉が分かっているかのように、スターダティルは頷き鳴き声を上げる。
 いや、本当に俺の言葉が分かっているのだろう。今までただの準精霊と思っていたが、発声器官を持たないだけで人間並みの知能を有しているのだ。プロツィリャントとは人知には収まらない生物だと、最近になってようやく知った。

 そうこうしていると、城の方から一際大きな音が鳴り響く。
 どうやら、順調に作戦は進行しているようだ。身体強化で視力を高めると、巨大なタイタンロブスターが暴れまわっているのが良く見えた。

 アレはウチョニーさんだ。普段は美少女の姿なのに、戦闘になると恐ろしいタイタンロブスターに変貌する。その巨体と体重から放たれる一撃は、たとえ身体強化をしていなくとも精霊種を圧倒できる。数百年を生きるタイタンロブスターとはそういう生き物だ。

 対して、ニーズベステニー殿の異常な魔法は見受けられない。作戦通り、アーキダハラという精霊と共に、一足先に海まで向かったのだろう。強力な水の精霊ドゥフ相手に、しばらくの間二人で戦うのだ。

 ウチョニーさんの動きを確認したのち、何の合図もなく俺たちは駆け出す。
 木々を伝い一瞬で、立体的な機動でもって城まで辿り着いた。その時には、既に城は崩壊しかけている。ウチョニーさんは、相変わらずの化け物ぶりだ。

 城の内部に潜入すると、途端に空気感が変わる。湿気にも近い、肌にまとわりつくような重さがあるのだ。魔法に長けている部下ほど、これを顕著に感じている。
 かく言う俺も、この中では一際気だるさを感じていた。

 しかしこれは何も悪いものではない。ウチョニーさんから溢れだした、無属性の魔力だ。
 ウチョニーさんはタイタンロブスターでありながら、魔法はあまり得意でないらしい。だが、体内に保有する魔力は絶大だ。それを利用するための作戦が、これである。

 共に駆け出したスターダティルが、天へと向かって高らかに吠える。
 周囲を漂う不吉な魔力は彼へと集合していき、その一部が吸収された。

 いわゆる、群体魔法という奴らしい。俺には良くわからないが、海の魔獣は良く使うそうだ。それを、ウチョニーさんの手術とニーズベステニー殿の魔力で合成し、スターダティルにも扱えるようにした。このためだけに、ニーズベステニー殿は深海まで行ってひと狩りしてきたそうだから、大変なことだ。というか、準備期間はほとんどそれに費やしている。

 群体魔法、遺魂の導きを改良したこの魔法は、周囲に無属性の魔力が漂う限り半永久的に魔法を使うことが可能になり、また身体強化の練度が凄まじく上昇する。事実、スターダティルは今までと段違いの身体能力を見せつけている。

 わざと目立ってくれたウチョニーさんに迫る敵を、目にもとまらぬ速度で捕らえ食い殺したのだ。追撃の数名も、全身から放つ風魔法で切断し瞬殺している。

 正直、恐ろしくてたまらない。こんなにも凶暴で獰猛な生物と行動を共にしていたのだと思うと、頼もしさよりもずっと、恐怖が勝ってしまうのだ。
 しかし逆に、そんな恐怖を緩和させる行動も、スターダティルは見せる。

 なんと、暗殺の対象となっていない人間に対しては、過剰に攻撃しないのだ。
 風魔法の塊をぶつけ気絶させるだけで、それ以上のことはしない。本当なら、その魔法ひとつで絶命せしめるはずなのに。

 スターダティルは、誰を殺し誰を生かすのか完全に理解しているのだ。
 であれば、俺たちに牙を向けることはない。ニーズベステニー殿が釘を刺してくれているはずだから。

「そんじゃ、後は頼むよ~! アタシはあのゴミぶっ殺してくるから!」

 恐らく、スターダティルにだろう。ウチョニーさんが声を掛けて去って行った。
 彼女とスターダティルは目立つ役で、俺たちは陰から幹部クラスを暗殺する役だ。今回の襲撃は、あくまでも準精霊と魔獣の暴走ということに仕向ける。

 本当に、素晴らしい活躍だ。周囲の兵士は全員、ウチョニーさんとスターダティルに引き付けられている。潜伏している俺たちの存在など、誰も気に掛けてはいないのだ。ここまでお膳立てをされて、俺たちが任務を遂行できないはずはない。

 俊足で走るウチョニー殿の後を追う三人の男。全員暗殺対象者だ。この都市で相当高い地位におり、ウダボルスティを仕入れている連中でもある。元凶、とも言うべきだろうな。

 俺は気配を決して彼らに近づき、魔法を放つ。石杭は抜かない。この魔法は、今までの武器よりも遥かに殺傷性が高く、しかも隠密という点において満点なのだ。

 龍断刃。タイタンロブスターには必須の魔法で、水系魔法の中でも屈指の攻撃力を持っている。達人ならばまさに龍の首を落とすことも可能で、俺のような人間でも相当な威力を出せるのだ。むしろ何故今まで石杭など使っていたのか、疑問にすら思う。

 龍断刃を纏った右手はひと撫でで三人の首を切断し、血をまき散らす。
 過去共に働いた仲だが、別に好きだったわけではない。むしろ、嫌いな部類の連中だ。ためらいはなかった。

 三人を殺した直後、わかりやすくスターダティルが大魔法を放ち城を破壊する。
 表に出てしまった俺を再び潜伏させるため、わざと目立ってくれているのだ。有力な戦士は皆スターダティルを警戒し、その周囲に集まっている。

 この隙に、俺は周囲の暗殺対象者を殺して回った。もちろんスターダティルを戦闘している中にも対象者はいるが、アレは最後でいい。全員殺して目撃者がいなくなったところで、スターダティルと共闘し殺してやろう。

 暗殺というのは何も、陰に隠れてやらなければいけないわけではない。極端な話、街中で堂々と殺そうとも、それを感づかれなければ良いのだ。あるいは一般市民に知られたとしても、重要人物に伝わらなければいい。簡単なことだ。

 それにしても、スターダティルは凄いな。この都市にいる兵士は相当な実力者ばかりだが、数十名の兵士を相手にまだまだ余裕気な表情を見せている。
 無尽蔵の魔力を持つ準精霊というのは、本当に強いのだ。俺が百の兵を率いて討伐に向かおうとも、勝てるビジョンが浮かばないほどに。

「俺も、負けてられないな。取り敢えず、スターダティルと戦ってない暗殺対象はこれで最後だ。後は……兵士団長と副団長。俺の兄貴、ジョルトニーか。不死身の男が相手ならば、俺も本気が出せるってもんだ。悪いなスターダティル。ここは俺の独壇場だぜ」

 思わず笑みがこぼれだす。副団長は正直言ってカスだ。軍を動かせるだけで、実力があるわけじゃない。だが、兵士団長ジョルトニーは強い。尋常じゃなく。この都市において、ドゥフの次に強い男だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界楽々通販サバイバル

shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。 近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。 そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。 そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。 しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。 「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

勇者じゃないと追放された最強職【なんでも屋】は、スキル【DIY】で異世界を無双します

華音 楓
ファンタジー
旧題:re:birth 〜勇者じゃないと追放された最強職【何でも屋】は、異世界でチートスキル【DIY】で無双します~ 「役立たずの貴様は、この城から出ていけ!」  国王から殺気を含んだ声で告げられた海人は頷く他なかった。  ある日、異世界に魔王討伐の為に主人公「石立海人」(いしだてかいと)は、勇者として召喚された。  その際に、判明したスキルは、誰にも理解されない【DIY】と【なんでも屋】という隠れ最強職であった。  だが、勇者職を有していなかった主人公は、誰にも理解されることなく勇者ではないという理由で王族を含む全ての城関係者から露骨な侮蔑を受ける事になる。  城に滞在したままでは、命の危険性があった海人は、城から半ば追放される形で王城から追放されることになる。 僅かな金銭で追放された海人は、生活費用を稼ぐ為に冒険者として登録し、生きていくことを余儀なくされた。  この物語は、多くの仲間と出会い、ダンジョンを攻略し、成りあがっていくストーリーである。

その転生幼女、取り扱い注意〜稀代の魔術師は魔王の娘になりました〜

みおな
ファンタジー
かつて、稀代の魔術師と呼ばれた魔女がいた。 魔王をも単独で滅ぼせるほどの力を持った彼女は、周囲に畏怖され、罠にかけて殺されてしまう。 目覚めたら、三歳の幼子に生まれ変わっていた? 国のため、民のために魔法を使っていた彼女は、今度の生は自分のために生きることを決意する。

スキル『モデラー』で異世界プラモ無双!? プラモデル愛好家の高校生が異世界転移したら、持っていたスキルは戦闘と無関係なものたったひとつでした

大豆茶
ファンタジー
大学受験を乗り越えた高校三年生の青年『相模 型太(さがみ けいた)』。 無事進路が決まったので受験勉強のため封印していた幼少からの趣味、プラモデル作りを再開した。 しかし長い間押さえていた衝動が爆発し、型太は三日三晩、不眠不休で作業に没頭してしまう。 三日経っていることに気付いた時には既に遅く、型太は椅子から立ち上がると同時に気を失ってしまう。 型太が目を覚さますと、そこは見知らぬ土地だった。 アニメやマンガ関連の造形が深い型太は、自分は異世界転生したのだと悟る。 もうプラモデルを作ることができなくなるという喪失感はあるものの、それよりもこの異世界でどんな冒険が待ちわびているのだろうと、型太は胸を躍らせる。 しかし自分のステータスを確認すると、どの能力値も最低ランクで、スキルはたったのひとつだけ。 それも、『モデラー』という謎のスキルだった。 竜が空を飛んでいるような剣と魔法の世界で、どう考えても生き延びることが出来なさそうな能力に型太は絶望する。 しかし、意外なところで型太の持つ謎スキルと、プラモデルの製作技術が役に立つとは、この時はまだ知るよしもなかった。 これは、異世界で趣味を満喫しながら無双してしまう男の物語である。 ※主人公がプラモデル作り始めるのは10話あたりからです。全体的にゆったりと話が進行しますのでご了承ください。

異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

転生幼女はお願いしたい~100万年に1人と言われた力で自由気ままな異世界ライフ~

土偶の友
ファンタジー
 サクヤは目が覚めると森の中にいた。  しかも隣にはもふもふで真っ白な小さい虎。  虎……? と思ってなでていると、懐かれて一緒に行動をすることに。  歩いていると、新しいもふもふのフェンリルが現れ、フェンリルも助けることになった。  それからは困っている人を助けたり、もふもふしたりのんびりと生きる。 9/28~10/6 までHOTランキング1位! 5/22に2巻が発売します! それに伴い、24章まで取り下げになるので、よろしく願いします。

異世界転生でチートを授かった俺、最弱劣等職なのに実は最強だけど目立ちたくないのでまったりスローライフをめざす ~奴隷を買って魔法学(以下略)

朝食ダンゴ
ファンタジー
不慮の事故(死神の手違い)で命を落としてしまった日本人・御厨 蓮(みくりや れん)は、間違えて死んでしまったお詫びにチートスキルを与えられ、ロートス・アルバレスとして異世界に転生する。 「目立つとろくなことがない。絶対に目立たず生きていくぞ」 生前、目立っていたことで死神に間違えられ死ぬことになってしまった経験から、異世界では決して目立たないことを決意するロートス。 十三歳の誕生日に行われた「鑑定の儀」で、クソスキルを与えられたロートスは、最弱劣等職「無職」となる。 そうなると、両親に将来を心配され、半ば強制的に魔法学園へ入学させられてしまう。 魔法学園のある王都ブランドンに向かう途中で、捨て売りされていた奴隷少女サラを購入したロートスは、とにかく目立たない平穏な学園生活を願うのだった……。 ※『小説家になろう』でも掲載しています。

処理中です...