初めての異世界転生

藤井 サトル

文字の大きさ
上 下
281 / 281
セブンナイト

七日目の戦い

しおりを挟む
 リリアが連れ去られてから七日目。大地達は城へと乗り込み始めていた。派手に乗り込むのがテッド、アルメルス、ヨシュア。それに加えて手伝いを申し出てくれたルーナだ。

 危険だからと断ったのだが、大地とリリアの恩を返すためにどうしても手伝いたいと言われて断りきれなかった。

 尚、その時のフルネールの視線はかなり冷ややかなものだったが、精霊使いのルーナは他の人には見えないがシルフ、ウンディーネ、サラマンダー、ノームの四精霊がついている。

 ルーナはシーラの精霊使いとしての力を9割方吸収している。それは意図的ではなかったものの確かに力が集まっているのだ。それにより強さの規模で言えばアルメルスと互角に渡り合えるだろう。

 とはいえ、それは能力だけの話で本当にアルメルスと戦えば経験の差からいって大敗するだろうが……。何にせよ心強い味方であるのは間違いがない。

 何にせよ暴れながら突入してもらう班としてもそこらの騎士達ではまず負けはしないだろう。

 次にフルネール、レヴィア、ナルの三人だ。こちらはテッドから教えてもらった秘密の抜け穴から入ってもらう。だが、どこかで入った事をばれるようにしてもらうのだ。こちらが本命と思わせるように。

 だが本当の本命は大地の単独侵入である。これは適当な窓から入り、地下の牢屋へ行ってリリアを救う。そしてそのまま王様と王妃様の呪いを解くのが目的だ。


 城の正面についた王子、騎士、そして場違い感のある精霊使いのルーナ。四人が行きなり目の前にやって来た事で二人の門番はすぐに理解が出来なかった。

 昨日、処刑されるはずだった王子が隠れもせずに現れたのだから反応が一瞬遅れるのも無理はないのだが、だからこそ簡単に隙をついたアルメルスとヨシュアは二人の門番を沈黙させた。

 しかし、白昼堂々とそんな事をするのだから直ぐに他の兵士が駆け寄ってくるだろう。

「アルメルス。扉を派手に破壊しろ!」

 テッドがそう命令すると大きめな両開きの扉へ予め集めていた魔力を解き放った。

「スターランス!」

 アルメルスは魔力をまとった剣の剣先を扉に向けて突き出した。圧縮された魔力は輝く光り、鋭く細い尖った槍の形状になって扉を派手に破壊した。

 スターランスか通過した空間には粒子の光が舞い散るがその美しさを眺めている時間はない。扉を破壊した音は城全体に響いたことだろう。それゆえに一分以内には兵士が集まってくるのが予想される。

 だから直ぐに内部へ進もうとした時だ。入り口すぐの大広間。左右のカーブ気味に作られた階段の先の踊り場から三人の騎士が飛び降りてきた。

「この先には進ませんぞ!」

「七騎士か……」

 アルメルスが剣を構えながらそう呟く。直ぐにでも動けるように臨戦態勢を取ったのだ。

「貴様らを断罪してやる」

 左から剣を持つやつ、剣を持っているやつ、剣を持って構えてるやつだ。

「七騎士って剣しか使っちゃダメなんですか?」

 他の騎士よりは装飾が見事な鎧を着けているものの、丸で個性がないと言うようにルーナは首をかしげる。それに対してアルメルスは首を横に振った。

「いや、基本的に本人が使いやすいと思う物を選んで良いことになっているんだ。ヨシュアの武器なんかはウィップソードって言って刃が幾重にも連なっている剣なんだ」

「俺はこれが一番使いやすいからね」

 ヨシュアは自慢の武器を持ちながらルーナへウィンクする。その手に持つ刃の長さは50cmとショートソード程度の長さしかないが、いざ攻撃を繰り出すとその射程は遥かに伸びる。

 それは刃同士を繋げている特殊な繊維によるものだ。遠心力と力。その二つが合わさった時に刃は自由自在に曲がり獲物を切り刻むことが出来る。

 そして、ヨシュアはこの武器の扱いに置いて言えば手足同然とも言えるのだ。もちろん影で行っていた練習量は図り知れず、自らの体を幾度も刻んできた。

「ウィップソード?」

 だけど、ルーナは再び首をかしげた。それも今度はヨシュアに向けてだ。

 ウィップソードとは言うなればムチの様にしなった動きが出来る刃なのだが、騎士でもなければ武器マニアでもないルーナからしてみたら名前だけ聞いてもわからないのである。

「三騎士の異色担当が!そんな武器で我々に勝てると思うなよ!」

 真ん中の敵騎士が剣先を向けながら怒りを露にして言う。どうやら彼にはかなりお気に召さないらしい。

「テッド殿下。殿下は王様達の下へ!」

 そんな彼らの憤りなど知ったことではないアルメルスは新たに構え直してテッドへ先へ行くように促す。

「……わかった!」

 無謀にもテッドは七騎士の脇を通りすぎようと駆ける。

「行かせると思うなよ!」

 七騎士が動く。右側にいた騎士がテッドへと飛び出した。しかし、それをヨシュアはシャラララと刃が擦れる音を奏でながらムチのように刃をしならせて阻む。

 真ん中の騎士はアルメルスへと斬りかかっていた。この中で一番強いのは間違いなく彼だからだ。それさえ叩いてしまえば恐るに足らずと言うことだ。

 しかし、そんな雑な攻撃では当たるどころか体勢を崩すことすら叶わなかった。アルメルスは軽く剣を振ってあしらうのだ。

 そして最後に左端にいた騎士もテッドへと向かうのだが、それを遮るように突如、小さな竜巻が現れた。

「テッド様。行ってください!」

 精霊シルフの力だ。それもかなり威力を抑えているのだが敵を止めるには充分である。

「すまない!」

 躊躇いそうになりつつもテッドは三人に謝るとそのまま城の奥へと走っていった。

「おいおい。騎士でもなんでもないお嬢ちゃんがよくも俺の邪魔をしてくれたな」

 テッドへと向けられていた視線はルーナへと向けられている。明らかに敵意がある目。それは普通の女の子でもあるルーナからしたら恐怖の対象でもある。

 なのでもちろん怖い……のだが引く気は微塵もないのだ。あの日、危険を省みずに自分と姉を助けに来てくれた大地と聖女に少しでも恩を返すために。

「あ、貴方なんか全然怖くないんだからね!!」
しおりを挟む
感想 11

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(11件)

Lone Star
2022.06.13 Lone Star

最新話まで読みました〜
大変楽しませてもらっています。
これからもよろしくおねがいしますっ

藤井 サトル
2022.06.13 藤井 サトル

ありがとうございますー!
最近は色々あって更新が遅いんですけど、楽しんで書いていきますのでよろしくおねがいしますー!

解除
ケロ ネロ
2022.03.06 ケロ ネロ

尊い成分とシリアス成分が混ざり合ってぇ~・・・
柔らか~い、甘~い、そんな雰囲気が好きです。
こういう穏やか~な時間が続けばいいんでしょうけど、おそらくこのままうまくいくわけじゃなさそうですね。。不穏な気配があちこちで出ていますし。。

藤井 サトル
2022.03.06 藤井 サトル

個人的にはしんどくない山あり谷ありをめざしているのです。ただ、もっとシリアスが上手くなれればいいのですが。

解除
ケロ ネロ
2021.11.25 ケロ ネロ

「観測さえできれば干渉できる
干渉できるなら制御もできる
観測できない、存在すら確認できないものは手の出しようがない」

ある映画での心に刺さるセリフです・・・

藤井 サトル
2021.11.25 藤井 サトル

かっこいい!
自分もそういう言葉を考えたいなぁ

解除

あなたにおすすめの小説

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

アブソリュート・ババア

筧千里
ファンタジー
 大陸の地下に根を張る、誰も踏破したことのない最大のロストワルド大迷宮。迷宮に入り、貴重な魔物の素材や宝物を持ち帰る者たちが集まってできたのが、ハンターギルドと言われている。  そんなハンターギルドの中でも一握りの者しかなることができない最高ランク、S級ハンターを歴代で初めて与えられたのは、『無敵の女王《アブソリュート・クイーン》』と呼ばれた女ハンターだった。  あれから40年。迷宮は誰にも踏破されることなく、彼女は未だに現役を続けている。ゆえに、彼女は畏れと敬いをもって、こう呼ばれていた。  アブソリュート・ババ「誰がババアだって?」

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

世界樹を巡る旅

ゴロヒロ
ファンタジー
偶然にも事故に巻き込まれたハルトはその事故で勇者として転生をする者たちと共に異世界に向かう事になった そこで会った女神から頼まれ世界樹の迷宮を攻略する事にするのだった カクヨムでも投稿してます

クラスまるごと異世界転移

八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。 ソレは突然訪れた。 『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』 そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。 …そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。 どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。 …大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても… そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。

死んでないのに異世界に転生させられた

三日月コウヤ
ファンタジー
今村大河(いまむらたいが)は中学3年生になった日に神から丁寧な説明とチート能力を貰う…事はなく勝手な神の個人的な事情に巻き込まれて異世界へと行く羽目になった。しかし転生されて早々に死にかけて、与えられたスキルによっても苦労させられるのであった。 なんでも出来るスキル(確定で出来るとは言ってない) *冒険者になるまでと本格的に冒険者活動を始めるまで、メインヒロインの登場などが結構後の方になります。それら含めて全体的にストーリーの進行速度がかなり遅いですがご了承ください。 *カクヨム、アルファポリスでも投降しております

異世界貴族は家柄と共に! 〜悪役貴族に転生したので、成り上がり共を潰します〜

スクールH
ファンタジー
 家柄こそ全て! 名家生まれの主人公は、絶望しながら死んだ。 そんな彼が生まれ変わったのがとある成り上がりラノベ小説の世界。しかも悪役貴族。 名家生まれの彼の心を占めていたのは『家柄こそ全て!』という考え。 新しい人生では絶望せず、ついでにウザい成り上がり共(元々身分が低い奴)を蹴落とそうと決心する。 別作品の執筆の箸休めに書いた作品ですので一話一話の文章量は少ないです。 軽い感じで呼んでください! ※不快な表現が多いです。 なろうとカクヨムに先行投稿しています。

見よう見まねで生産チート

立風人(りふと)
ファンタジー
(※サムネの武器が登場します) ある日、死神のミスにより死んでしまった青年。 神からのお詫びと救済を兼ねて剣と魔法の世界へ行けることに。 もの作りが好きな彼は生産チートをもらい異世界へ 楽しくも忙しく過ごす冒険者 兼 職人 兼 〇〇な主人公とその愉快な仲間たちのお話。 ※基本的に主人公視点で進んでいきます。 ※趣味作品ですので不定期投稿となります。 コメント、評価、誤字報告の方をよろしくお願いします。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。