初めての異世界転生

藤井 サトル

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セブンナイト

祭りの日

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「わぁ。すっごい人がいっぱいですね!」

 祭り当日。女性騎士メローナと共にリリアは早速祭りに参加していた。町中はたくさんの人でごった返していて、楽しそうな笑い声で喧騒が溢れている。その光景だけでもリリアは少しワクワクと心を踊らせた。

「リリア様。あまりはしゃがれてしまいますと町の人にばれてしまいます」

 この祭りに参加するに当たって条件が出されている。それは町の人に聖女だとばれないようにだ。

 その為、今のリリアは聖女の服の上に全身を覆うことができるフード付きのマントで身を隠している。フードもすっぽり被っている状態だ。

 もちろんメローナ自身も同じようにフードを深く被って身バレを防いでいる。

「あの。その、様って呼ぶとバレてしまうかもしれません」

「そ、そうですね。ではここからはリリアさんとお呼びしますね」

「はい!ではメローナさん。行きましょう!」

 楽しい雰囲気にあてられながら美味しそうな出店が立ち並ぶ町を通りすぎる。色んな人の呼び込み声を聞くのも、誰かが笑っている声を聞くのも楽しくなる要因の一つだ。

「みんな楽しそうにしていますね!」

「ええ。このお祭りは年に一度しかやりませんからね」

「お祭りの由来とかってあるんですか?」

 メローナは待ってましたと言わんばかりに頷いた。

「はい!といってもお伽噺おとぎばなしとして絵本で読まれるものくらいなので本当にあった事なのかわからないんですけどね……」

 メローナはそう前置きをしてから話し始める。それはナイトガーデンに三騎士がまだ存在していなかった遠い遠い昔の話。

 この国に一体のドラゴンがやって来たことが始まりだった。その体は城と同等の大きさがあり、その漆黒の皮膚は矢も魔法も弾く。一度炎を吐けば骨すら残らない。

 誰もが勝てないとそう思った時だった。三人の騎士が立ち上がったのだ。その騎士達はとても強かった。炎を避け、固い皮膚に傷を与え、互角の戦いを繰り広げたのだ。

 しかし、その拮抗は時間の経過と共にドラゴンの優勢へと傾いていった。このままでは漆黒のドラゴンを殺すことは出来ない。それ程までに強く災厄とも言えるほどの存在だった。

 だからこそ三人の騎士と王は最終手段に出ることにした。それは宝玉を用いて作られた魔道具の中にドラゴンを封印するというものである。

 そのために必要なことは二つ。一つは封印する対象……ドラゴンをある程度まで弱らせないといけない事だ。現時点の消耗度合いから考えるとギリギリだろう。いや、それどころか弱らせる前に全滅もあり得る。

 しかし、三人の騎士は逃げることを選ばなかった。何故なら必要なことの二つ目。封印をほどこす為の鍵になる事を王が引き受けたからである。

 その身を鍵としての役割にしてしまうと死ぬことが許されないのはもちろんの事、封印の魔道具から遠く離れてもいけない。生涯ナイトガーデンの町の中で過ごすしか出来ないのだ。

 だからこそ、王の覚悟と意思を聞いた三人の騎士はぼろぼろの体でも立ち上がり、ありったけの力を出し尽くした末にドラゴンを封印するに至った。

「そうしてドラゴンを封じた魔道具はお城の地下へ。三人の騎士はその功績を称え王様が三騎士として位を作り、封印した日をお祭りの日にしたんです」

「それが今日なんですね……でもそれだと王様はずっと生きていることになりませんか?」

 さも当然の疑問にメローナは「ふふ」と笑った。

「そうですよね。だからお伽噺なんだと思います。当たり前ですが当初の王様も遥か昔に亡くなっていますから」

 少し悲しそうにするメローナからは残念だという様子がうかがえた。

「私はこの絵本がずっと好きで三騎士にも憧れたんでけどね……」

「あ、でもそれなら今でもお城の地下には魔道具はあるんじゃないですか?」

 リリアが思い付いた提案にメローナは首を横に振るう。

「ええ。そう思ってお城の地下も見てみましたけど……残念ながらお城の地下にはそれらしい魔道具がありませんでした」

 やっぱりお伽噺の範疇はんちゅうから出ないのだと彼女は言った後、気を取り直すように作った笑顔を向けた。

「そ、それよりお腹すきませんか?色々美味しいお店が出ていますから買いに行きませんか?」

「いいですね!行きましょう!」

 快く提案を受け入れたリリアから目を離して歩き始めるとすぐさまそれは起きた。

「わ、わ、わぁぁぁぁぁ」

 突如悲鳴のような声が聞こえてきたのだ。この声は数秒前に聞いたリリアと同じものである。

 メローナはすぐにリリアの居た場所へ視線を向けた。しかしその場所にリリアは居なかった。まさかリリアの正体を知った何らかな者達によって拐われてしまったのではないか?と考え付くとメローナは声がした方向へ素早く視線を移した。

「助けてくださーーい」

 メローナの視線を移した先で見たものはリリアが人の行列と言う川にさらわれてしまい、どんぶらこ、どんぶらこと言うように流されていく姿があった。

「あー!待ってくださーい!!」

 人の濁流からメローナは何とかリリアを救出するが、体力を使ったのかメローナはへたり込みながら少しだけ肩で息をする。

「ご無事で――」

 「なにより」そう言おうとした矢先、再びリリアの悲鳴が上がる。

「ひゃーーーーー」

「二度目ーーーー!!」

 再び別の濁流に飲まれていくリリアをメローナは必死に追いかけた。二度の救出を経て先ほどよりも疲労の色が濃くなったメローナはぜぇぜえとより深く肩で息をする。

「あ、ありがとうございます……」

 その傍らでもみくちゃにされていたリリアは目をぐるぐるとさせながら混乱の状態異常に掛けられていたのだった。

 しばらくして落ち着くとリリアは噴水の近くにあるベンチで「リリアさん。私が買いに行って来ますのでここでお待ちください」と待機を命ぜられてしまった。

 とはいえ二回も人の川で流されたのだから致し方ないと諦め、リリアは大人しくベンチに座って待つことにした。

 一人になるとこの騒がしい場所だからこそ考えてしまう。こういうお祭りを大地と一緒に回りたかったな。と。

 そう考えると次に思うことは今ごろ大地は何しているのかな?だ。フルネールにはゆっくり来て大丈夫だとは言ったもののやはり会いたいのは変わらないわけで……。

「ダメですねこんなんじゃ……」

 少しの寂しさを紛らわす為に流れ行く人を眺めたり、真後ろの噴水に視線を移したりと忙しなく視界を動かした。

「王様と王妃様が心配だよな……」

 ふと近くのベンチに座っている男二人組からそんな声が聞こえてきた。

「……え?」

 王様と王妃様に挨拶が出来ていないところに不穏な話が出てきてリリアは気になって耳を傾ける。

「ああ。そうだな」

「せっかくの祭りの日だから王様と王妃様も楽しんで貰えれば良かったんだけど……」

「今の状態じゃ難しいんじゃないか?」

「だよな。早く病気が治ってくれるといいな」

 王様と王妃様が病気?もしかしてそれが原因で昨日は断られたのだろうか?

 そんな想像を横切らせると同時にリリアの胸には何故か不安の影がチラつく。このまま何もしないで待っているだけだと取り返しのつかない何かがあるようで……。

「お待たせしました。一緒に食べましょう」

 小走りで戻ってきたメローナの両手には大量の食べ物が抱えられていた。正直二人で食べるには多いんじゃないかとも思えるが彼女のニコニコ笑顔を見るとそんなことを言えるわけもなく、リリアは笑顔で「ありがとうございます」と答えるのだった。
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