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セブンナイト
暇なときは一人より二人
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リリアの返事により扉を開けて入ってきたのは偉そうな男とその付き人らしき騎士2名だ。男の年齢は50から60といったところだろうか。しかし衣服はかなり位が高いように見える。
「リリア様。このようにお連れしたことを最初にお詫びいたします」
男がペコリと頭をひとつ下げる。物腰が柔らかいように見え、もし拉致のように連れてこられてなければ警戒はしなかっただろう。
「あなたは?」
「私はギルニア・ルミサットと申します。この国では公爵を務めさせてもらってます。この部屋は如何でしょう?リリア様のためにご用意させて頂いたのですが住みにくいなどは有りますか?」
何時も寝泊まりしている宿と比べるのならこちらの方が広くベッドの柔らかさも段違いではある。そしてホワイトキングダムの自室と比べるのならば同程度の広さとベッドの質も同じくらいだ。
むしろ自室では大臣の小言がいつ飛んでくるかわからないぶん、こちらの方が落ち着けると言うのは言いすぎだろうか……。
「いえ、居心地は悪くありません。それでギルニア様。私はどうしてここに連れてこられたのでしょうか?」
「それなのですが夜中に急に来てもらって落ち着いてもいないでしょう。本日は軽い挨拶だけとさせていただいて、明日、その説明に時間を割かせて頂きます。ですので今日はこのままおくつろぎ下さい」
部屋に入ったギルニア公爵は一度も部屋の椅子に座らずそう言って部屋の外に向かう。それもリリアの制止の声も聞かずに急いでいるといった様子でだ。
結局、たったの一言二言言葉を交わしただけで話が終わってしまった。とはいえ相手の顔が見えたことで少しだけ不安は取り除かれた。というのも最悪の結果は自分はこのまま殺されるんじゃないかもしれない。そんな物騒な事が頭の中をよぎっていたからだ。
だけどそれが杞憂そうだとわかったのだから一先ずは安心していい。ただ、うっすらと漂う呪いの気配は気になってしまう。その事について触れて起きたかった。
場所的にはこの部屋ではないのは確かだ。それに呪いの力もそこまで強くはないようにも感じられる。だからギルニア公爵は焦った素振りを見せていなかったのかもしれない。
「……もしかして交渉するための準備をしているのでしょうか?」
解呪と言うのはそれほどまで難しいものなのだ。リリアは無償で解呪を行うが一般的には結構な金額になるものである。悪どい奴は人の足元を見て値段をつり上げたりもする。そこで交渉が行われるわけだが……リリアにはほぼ無関係な話だ。
ここ最近はめっきりないが、技量的にも高いリリアは別の国まで行って解呪を行ったりも良くしていたのだ。
その時によくあった問題は対価は必要ないと言う言葉を中々聞いてくれないことだった。それも偉い人……例えば貴族の位が高ければ高いほど金品を用意して渡そうとしてくる。結局断りきれずに受け取ってしまう事もしばしばだ。
そんなわけで、きっと今ごろあの手この手で解呪の対価を少なくしようと画策しているのかも知れない。それはたぶん時間が必要なことで、恐らくそれまでの間はこの部屋に閉じ込められたままになるのかもしれない。
「それはいいんですけど……やることがなくて暇なんですよね……」
カップの中の紅茶へ口をつけた後、リリアは一度飽きた窓の外へと目を向ける。やることがないものだから少しでも動きの有る城下町を見ている方が楽しいかもしれないと思い直したのだ。
「人も多いですけど騎士さんも多いんですね」
それはホワイトキングダムの城下町では中々見れない光景だ。それも騎士と住人が中良さそうにしているようにも見える。それは少し羨ましいと思う。何せホワイトキングダムの兵士や騎士が城下町に住む人々と気さくに話している姿を見かけたことがないのだ。
「こう言ったところは見習うべきですよね。……お姉様とお兄様に言ってみようかな」
一瞬「お姉ちゃん」「お兄ちゃん」と言いそうになったのをグッと堪える。つい先日、大臣から注意されたばかりで、しかもこの場所は他国なのだ。何時だれが自分の言葉を聞いているかわからない。
唐突にコンコンと音が鳴った。扉がノックされるのは本日二度目だ。先程と同じようにリリアは「どうぞ」と扉の奥の誰かへ告げる。
その言葉を聞いてか扉は開かれる。そして入ってきたのはリリアより少しだけ背が高い人間だ。顔立ちはやや幼くショートヘアーも相まって少年とも少女とも見えてしまう。ただ、ほんの少しの胸の膨らみから女性だとわかる。
「こんにちは!貴女が某国のお姫様?」
不躾に、だけど、裏表がないような笑顔を向けてきた。そして某国の姫と言われればそれに違いはない。
「えっと、そうですけど……あなたは?」
「僕はソルシャ!君の話し相手をするように来たんだ!」
「ソルシャさんって言うんですね。私はリリアです」
「リリア?リリアー?どこかで聞いたような……?ま、いいか!宜しくねリリアちゃん!」
ソルシャと名乗った少女はその少しの言葉を交わしただけで素直な性格なのだとわかる。恐らく思ったことをそのまま口に出しているように見える。
そして自分が聖女だとも気づいていないようだ。でもそれならそれの方が話しやすいと考えたリリアは隠す事にして笑顔で「はい」と答える。
そうしてソルシャが対面に座るとリリアはあることに気づいた。それは……。
「あ!ソルシャさんにもカップが必要ですね!」
話し相手になってくれるのなら同じように紅茶を啜り、クッキーが食べられる状態であるべきなのだ。
リリアの言葉に反応したのか部屋の外で待機していたメイドが新たなクッキーと紅茶を乗せたカートを押してきた。凄く用意の良いメイドだと感心しつつ準備が出来た事にリリアは喜ぶ。
「ありがとうございます」
今日一番の笑顔でリリアはお礼を言う。それは自分用に紅茶を置いてもらった時の作った笑顔よりもメイドには嬉しそうに映る。それのせいか、お礼を言われたことが嬉しくなったメイドはそれを隠すように顔に出てしまうのを我慢しながら「いえ、仕事ですので」と言ってそそくさと退室することにした。
「えへへ。一人で暇だったので嬉しいです」
目の前に現れた少女が紅茶に口をつけたタイミングでリリアがそう言うとソルシャも釣られたように笑みで返した。
「リリア様。このようにお連れしたことを最初にお詫びいたします」
男がペコリと頭をひとつ下げる。物腰が柔らかいように見え、もし拉致のように連れてこられてなければ警戒はしなかっただろう。
「あなたは?」
「私はギルニア・ルミサットと申します。この国では公爵を務めさせてもらってます。この部屋は如何でしょう?リリア様のためにご用意させて頂いたのですが住みにくいなどは有りますか?」
何時も寝泊まりしている宿と比べるのならこちらの方が広くベッドの柔らかさも段違いではある。そしてホワイトキングダムの自室と比べるのならば同程度の広さとベッドの質も同じくらいだ。
むしろ自室では大臣の小言がいつ飛んでくるかわからないぶん、こちらの方が落ち着けると言うのは言いすぎだろうか……。
「いえ、居心地は悪くありません。それでギルニア様。私はどうしてここに連れてこられたのでしょうか?」
「それなのですが夜中に急に来てもらって落ち着いてもいないでしょう。本日は軽い挨拶だけとさせていただいて、明日、その説明に時間を割かせて頂きます。ですので今日はこのままおくつろぎ下さい」
部屋に入ったギルニア公爵は一度も部屋の椅子に座らずそう言って部屋の外に向かう。それもリリアの制止の声も聞かずに急いでいるといった様子でだ。
結局、たったの一言二言言葉を交わしただけで話が終わってしまった。とはいえ相手の顔が見えたことで少しだけ不安は取り除かれた。というのも最悪の結果は自分はこのまま殺されるんじゃないかもしれない。そんな物騒な事が頭の中をよぎっていたからだ。
だけどそれが杞憂そうだとわかったのだから一先ずは安心していい。ただ、うっすらと漂う呪いの気配は気になってしまう。その事について触れて起きたかった。
場所的にはこの部屋ではないのは確かだ。それに呪いの力もそこまで強くはないようにも感じられる。だからギルニア公爵は焦った素振りを見せていなかったのかもしれない。
「……もしかして交渉するための準備をしているのでしょうか?」
解呪と言うのはそれほどまで難しいものなのだ。リリアは無償で解呪を行うが一般的には結構な金額になるものである。悪どい奴は人の足元を見て値段をつり上げたりもする。そこで交渉が行われるわけだが……リリアにはほぼ無関係な話だ。
ここ最近はめっきりないが、技量的にも高いリリアは別の国まで行って解呪を行ったりも良くしていたのだ。
その時によくあった問題は対価は必要ないと言う言葉を中々聞いてくれないことだった。それも偉い人……例えば貴族の位が高ければ高いほど金品を用意して渡そうとしてくる。結局断りきれずに受け取ってしまう事もしばしばだ。
そんなわけで、きっと今ごろあの手この手で解呪の対価を少なくしようと画策しているのかも知れない。それはたぶん時間が必要なことで、恐らくそれまでの間はこの部屋に閉じ込められたままになるのかもしれない。
「それはいいんですけど……やることがなくて暇なんですよね……」
カップの中の紅茶へ口をつけた後、リリアは一度飽きた窓の外へと目を向ける。やることがないものだから少しでも動きの有る城下町を見ている方が楽しいかもしれないと思い直したのだ。
「人も多いですけど騎士さんも多いんですね」
それはホワイトキングダムの城下町では中々見れない光景だ。それも騎士と住人が中良さそうにしているようにも見える。それは少し羨ましいと思う。何せホワイトキングダムの兵士や騎士が城下町に住む人々と気さくに話している姿を見かけたことがないのだ。
「こう言ったところは見習うべきですよね。……お姉様とお兄様に言ってみようかな」
一瞬「お姉ちゃん」「お兄ちゃん」と言いそうになったのをグッと堪える。つい先日、大臣から注意されたばかりで、しかもこの場所は他国なのだ。何時だれが自分の言葉を聞いているかわからない。
唐突にコンコンと音が鳴った。扉がノックされるのは本日二度目だ。先程と同じようにリリアは「どうぞ」と扉の奥の誰かへ告げる。
その言葉を聞いてか扉は開かれる。そして入ってきたのはリリアより少しだけ背が高い人間だ。顔立ちはやや幼くショートヘアーも相まって少年とも少女とも見えてしまう。ただ、ほんの少しの胸の膨らみから女性だとわかる。
「こんにちは!貴女が某国のお姫様?」
不躾に、だけど、裏表がないような笑顔を向けてきた。そして某国の姫と言われればそれに違いはない。
「えっと、そうですけど……あなたは?」
「僕はソルシャ!君の話し相手をするように来たんだ!」
「ソルシャさんって言うんですね。私はリリアです」
「リリア?リリアー?どこかで聞いたような……?ま、いいか!宜しくねリリアちゃん!」
ソルシャと名乗った少女はその少しの言葉を交わしただけで素直な性格なのだとわかる。恐らく思ったことをそのまま口に出しているように見える。
そして自分が聖女だとも気づいていないようだ。でもそれならそれの方が話しやすいと考えたリリアは隠す事にして笑顔で「はい」と答える。
そうしてソルシャが対面に座るとリリアはあることに気づいた。それは……。
「あ!ソルシャさんにもカップが必要ですね!」
話し相手になってくれるのなら同じように紅茶を啜り、クッキーが食べられる状態であるべきなのだ。
リリアの言葉に反応したのか部屋の外で待機していたメイドが新たなクッキーと紅茶を乗せたカートを押してきた。凄く用意の良いメイドだと感心しつつ準備が出来た事にリリアは喜ぶ。
「ありがとうございます」
今日一番の笑顔でリリアはお礼を言う。それは自分用に紅茶を置いてもらった時の作った笑顔よりもメイドには嬉しそうに映る。それのせいか、お礼を言われたことが嬉しくなったメイドはそれを隠すように顔に出てしまうのを我慢しながら「いえ、仕事ですので」と言ってそそくさと退室することにした。
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