初めての異世界転生

藤井 サトル

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神魔の宝玉

安寧と暗雲

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 グリムナイトを倒し、ホワイトキングダムに戻ると別れ際にアーデルハイドが皆を見た。

「今回の事は私からギルド長へ伝えておく。それと、今日の夕方頃に城へ来てほしい」

 面倒事を引き受けてくれるのならそれに越したことはない。それにお礼が貰える事も聞いているため、城に行った時に金一封のような褒美が貰えるものだろう。そう思って特に用事などもないことから大地は二つ返事で了承して別れた。

 そこからしばらく歩いての事だ。

「ん?あれってダレンとロアか?」

 白髪のダレンは魔法で死体を操ることができる。そして傍らにはその相棒とも言えるべきポニーテールの女性だ。剣風で飛んでくる弾丸すら切り裂くことが出きるのだ。

「ダイチか」

 大地が二人の名前を呼んだことであちらも気づいたらしく近寄ってきた。

「二人がこっちにいるのは珍しいな。仕事は休みか?」

「ええ。ダレンが用事があると言っていたので私はたんなる付き添いです」

 ロアの言葉に大地は視線をダレンへと向ける。

「知り合いから手紙が届いたから会いに行くだけだ。ところでそっちのはダイチのツレだったよな?」

 ダレンもロアもフルネールとレヴィアを見たことがある。戦争で捕まった時だ。一方でもう一人の白と赤の衣服を纏った狐の幼女は今回が初見だ。

「なるほど。貴方はそう言う趣味なのですね」

 ロアの視線は冷ややかなものだった。
 モンスターを連れ歩く人間はいない訳じゃない。そして目の前のモンスターは腕にある腕輪から契約していることもわかる。だけど、幼い子だけを契約して連れ歩く人間を見るのはダイチが始めてだった。

 だからロアの目には『こんな幼い子供を騙して契約する人だったんですね』と言う文句が映っている。

「貴女いきなり失れ――」

「人間を威圧して回れる奴ばかりよりはいいだろ?それにこの子達くらいに可愛らしい女の子で愛嬌もあればトラブルも起きないって訳よ」

 レヴィアの台詞を遮るように大地がそう言うとロアは何故かすんなりと「……そういうものですか」とだけ答えた。

「それじゃあ俺達はそろそろ行くよ」

「ああ。俺もこれから昼飯だ。旧友との再開なら楽しんでな」

 あっさりと言いながら大地は手をひらひらさせて二人から離れることにした。これから遅めの昼食なのだ。

 そんな風に大地が離れたのを見届けたロアはダレンに振り替える。

「良いのですか?嘘をついて……」

「嘘なんかじゃねえよ」

 そう言ってダレンが手紙をひらひらとロアに見せつける。その手紙の差出人の名前は『ハンナ』と書いてあった。

「俺の妹からの手紙なんだから知り合いだろ」

「それは……そうですが、そもそも本当に本人からの手紙なのかも疑わしいと思いませんか?」

 ロアのその言葉はダレンの痛いところを突いてくる。もちろん何年も前に死んだはずの妹からの手紙だ。

「だとしても、あの日……治せず、死亡したと告げられて、二度と会えなくなった妹からの手紙なら真偽を確かめたいんだ」

「そう……なら私も付き合うわ」

 ふふ。とロアは笑みをこぼしながら言う。


 ダレン達と別れると猫猫亭へとやってきていた。本当なら肉!!!魚!!野菜!パァン!と豪勢にいきたかったところなのだ。しかし、何故かフルネールから所持金は少ないですよ!と告げられる……。理由はどうあれ豪遊することは出来ない事を知る。だが……豪遊とは金だけに非ずだった。

「ダイチさん。いらっしゃいませ!こっちの席空いてるよ!」

 店内に入ると猫耳、猫尻尾を隠した店員のリリエッタが笑顔で出迎え、四人席用のテーブルへと案内してくれる。

「ダイチさん。メニュー表をお持ちしました」

 そのリリエッタの後ろからアルテリナがヒョコっと顔を出して飲み水を置くとメニューが書かれた物を渡してくれる。心なしかアルテリナの頬が紅く染まっているようにも見えた。

「ありがとう」

 大地はメニューを受けとるがどうしてもその次の行動が決まってしまう。それはフルネールへメニュー表をパスすることだ。だって文字がよめないんだもの。

 それに現在の所持金を正確に把握しているのもフルネールなので大地が適当に頼むわけにもいかず、フルネールがアルテリナに注文を告げる。

「かしこまりました。あ、あとダイチさん!お、お花が……とても綺麗でした!」

 アルテリナはそれどけ言うとそそくさと逃げるように場を離れる。それから暫くしてから爽やかな金髪のイケメンエルフであるライズが声をかけてきた。

「ダイチもここに食いに来たのか。リリアさんと一緒じゃないのも珍しいな」

 基本的に調理担当らしく厨房から中々出てこないはずなのだ。しかし、客の前で火を使って仕上げる料理を考案したら大盛況をよんで、それもライズの容姿から女性客にも大人気……なのはいいんだが、もう一人の調理担当が行くと女性客の落胆し具合が目に見えてしまい格差社会を生んでるとか何とか。

「まぁな。いつも一緒って訳じゃないさ」

「そうなのか?一緒によくいるって話を結構聞くぞ?聖女様にベッタリのおっさんって」

「まてまてまて!俺はそんなにベッタリしているか?」

 最近緩みきっていたがこれは不味い事態なのではないか?リリアは良くて中学生に見える程だ。そんな女の子を連れ回すおっさんの話しなんてしていたらいずれ怪異レベルの噂話になるのではないか?

 妖怪『ロリ連れ三十ろりづれさんじゅう
 幼女や少女を魅了して連れ回す三十歳おっさんの怪異。少女は連れ回されている自覚がないまま歩かされ、疲れきったところを連れ去ってしまうと言う。まるでハーメルンの笛吹のように……。

 ……なぁフルネールさん?脳内で変なこと言うのやめてくれ。だいたいハーメルンの笛吹はそんなんじゃないだろ。

「聞いた話じゃこの国に来たときからリリアさんとほぼ一緒だっていうじゃないか。シャーリーが残念がっていたぞ?ギルドに登録していたら私がそう言われてたかも――……」

「にいさん!変な話をしていなくて良いから!厨房に戻って!」

 後からやってきた長い金髪にとがった耳が特徴のエルフであるシャーリーが頬を紅くして困った顔を浮かべながらライズを押していく。その過程で「待ってくれ。俺まだダイチが連れてきた新しい女の子とお話しをしてないんだーー」と大地からしたら物凄く人聞きの悪いことを叫びながら厨房へと押し戻されていった。

「えへへ。気にしないでね」

 厨房から戻ってきたシャーリーは可愛らしく笑顔でフルネールが頼んだ料理の一部を置いてくれた。

「ダイチさん。この子も契約したの?」

 その視線に向けられているのはナルだ。シャーリーも温泉の町ベルナーに行ってはいるがナルとの接点はほぼなかったはずだからピンとこないのも仕方がない。

「ああ。ナインテイルのナルだ」

 大地がそう言うとナルはニコニコと明るい笑顔で椅子に座ったまま言った。

「ナルです!……えーと」

 自分の名前を元気よく言うもののその次に言う言葉が出てこないのは相手の名前を知らないからである。それにシャーリーは気づいてはっとしてから優しい笑みを向けた。

「私はシャーリーよ。宜しくね、ナルちゃん」

「はい!」

 その二人の話しを後ろで話を聞いていた人物が割って入ってきた。

「ナルちゃんっていうんだね。リリエッタよ。宜しくね」

 そう言ってコトリコトリと残りの料理を置いたリリエッタはウィンクしながら言う。

「と、ところでお水のおかわり欲しかったら言ってね。……えと、ダイチさんなら名前で呼びつけても良いんだよ?」

 シャーリーが照れを交えた恥ずかしそうな顔で言う。それは大変可愛らしいのだ。

「お、おう何かあったら呼ばせてもらうな」

 大地も少しの照れを含みながらそう返す。

「もう、シャーリーさんばかりダイチさんとお話してずるい」

 リリエッタがやや膨れ面で言うのにたいしてシャーリーは両手を合わせてごめんねと言うように軽い仕草で返す。

「そういや今日はヒュリーは見ないな」

「はい!今日はお休みなんです」

 そう教えてくれたのは戻ってきたアルテリナだった。配膳が落ち着いてるからこそ集まってきてお話しに混ざりたかったのだろう。

「今はシャーリーさんとライズさんが入ってくださってますからお休みも比較的簡単にとれているんです」

 気が付けば大地のついているテーブルには可愛らしい店員達がキャッキャッと騒いでいる。そんな傍から見れば豪遊するよりも羨ましい状況が食事の終わりまで続くのだった。


 猫猫亭をでると夕方までにその辺をブラブラと歩くことにした。

 服屋に魔道具屋、雑貨屋等とフルネールに手を握られて先導されながら色んな場所へ歩く。どうやらナルのお披露目を兼ねているようだ。ナルもナルで人当たりがいいものだから気前良くドリンクやちょっとした魔道具をもらっていた。

 そんな風に過ごして大通りから脇道に入り、人気がない方向へと歩いていく。フルネールから何か言われないか、それだけが心配だったが特に何も言わずについてきてくれた。この人気が全くない袋小路の中へ。

「さて、そろそろ何用か聞いても言いかな?」

 大地達が振り替えると布を何重にも重ね、口許は垂らした布で隠していて目だけが際だって見える。

「やはり、ずっと見ていたことはお見通しか……英雄ダイチは名ばかりではないようだな」

 衣服で顔や体型が分かりにくいせいで性別がわからなかったが、声からしておそらく男だ。

「それで?何が目的だ?俺達とやりあうのか?」

 大地の言葉に反応してレヴィアとナルは魔力を掌に溜める。

「箱の食べ残しを利用した実験を邪魔した英雄を見ておこうと思っただけだ。そして……ひとつ忠告もさせていただこうか」

 男がそう言うと両手を左右に伸ばしてゆらゆら動かす。するとその腕が少しずつズレていき五本の腕になった……と思いきやその男の左右から二人ずつ同じ姿の人間に分離……いや、分かれるように出てきた。

「「「「「これ以上、我々の邪魔はするな」」」」」

 重なった五人の声でそう言ってきた。微妙なハモりのズレから魔法で五人にわかれているわけではないのだと理解できた。

「邪魔をしたらどうなるんだ?」

 奇抜な格好で変なパフォーマンスをして五人に増えた怪しい集団を前に大地が涼しそうな顔をしながら問う。

「くくく。それは挑発しているのか?」
「くくく。愚かな質問だとわかるか?」
「くくく。……え?皆なんて答える?」
「くくく。無駄なことは止めておけよ?」
「くくく。試してみて後悔するか?」

 五人が同時に答えた。その中で一人ポンコツがいた気がする。……っていうか。

「一斉にしゃべるから何言ってるのかわからねえよ!!……とりあえず俺の敵なんだな?」

 大地がそう言った瞬間、手を前へ付き出してハンドガンを手の中で召喚する。そして、1秒もかからない時間で引き金をひき終わっていた。 

 もちろん弾丸は鎮圧用の電気ショックのゴム弾と言う魔法の弾丸だ。少しでも弾丸に触れれば意識は失うだろう。

「フッ。そんなものが当たると思うのか?」

 その言葉と共に男達の体は煙となり弾丸はすり抜けて……「あぎゃー!!」

 避けられたと思った弾丸は避けそこなった一人の男に命中したらしく、その場で悲鳴をあげながら倒れる。

「……フッ。我らの邪魔はせぬことだな!」

 倒れた男の醜態を無視して決め台詞を放った謎の男の集団は四人で気絶した男を隠すように立つと再び煙を発して消えていった。

「消えたか……それにしても物騒な世の中だな」

「みんなが色んな事を考えてるからですよ」

 良くわからない五人衆に呆れながら言う大地。フルネールもまた同じように呆れながら応える。

「ご主人さま。人げんもぶんしんまほうが使えるんですか?」

 ナルの瞳は興奮で溢れ帰っていた。まるでヒーローショーかアトラクションで遊んだようなはしゃぎようだ。しかし、ナルの間違いをレヴィアは正すように言う。

「ナル。さっきのは魔力を感じなかったわ。だからあれはフルネールから聞いた手品よ」

 うーん、それも微妙に間違いな気がするな……。

 レヴィアのそれを正すことはなく日が沈み始めたのを知ると大地達はそのままお城へと足を向けた。

 近づけば近づくほどに大きくなっていく城。歩きだったせいで城についたのは日が完全に落ちてからだ。門番へ軽く挨拶をして通してもらい城に入ると複数のメイドが出迎えてくれる。正直いって目のやり場に困る……ロングスカートのメイド服って良いよね!

 メイドに案内されていきついた大広間の扉をあける。

「遅かったな」

 目の前にはドレス姿のアーデルハイドがいた。さすが王女というだけあって着こなしかたも見せ方も麗しさがある。

「そうか?ところで……お礼って言うのはこの事か?」

 入った部屋に目を向けるとパーティーの時と同じように料理が置かれているのだ。つまり今回はお金ではなく食事でのお礼なのか?と言うことだ。そして、それに目が眩んだレヴィアとナルは料理のある場所へ一目散だ。フルネールも二人の付き添いに少しの駆け足で行ってしまう。

「ああ。今日のメンバーと私の親友のミリアだけを招待した立食パーティーにしてみたんだ……その、ダメだったか?」

 始終凛々しさがあるアーデルハイドはどんな時も表情を崩すことはない。それは今回の依頼中でもそうだった。だけれど、今しがた大地に見せたアーデルハイドの困ったような表情は美人の可愛らしい一面とも言えるものがあった。

 その意外な一面で顔を紅くした大地は目をそらし、奥でリリアとナルが話している和んだ空気見ながら言う。

「いいや、助かるよ。あいつらに良いもん食わせてやりたいと思っていたからな」

「そうか……それなら良いんだ」

 アーデルハイドの表情が和らいだのを見ていると横から人がやってくる気配を感じた。

「ダイチさん」

 やってきたのはアーデルハイドの親衛隊隊長をつとめていたミリアだった。大地は彼女の事を二度見かけたことがある。南の森で助けた時が一回目、レヴィアがリヴァイアサンとして出てきた時が二回目だ。

 今のミリアは鎧姿ではなく、アーデルハイドと同じようにパーティー用のドレスだ。貴族のたしなみと見せつけるような着こなしで、鎧の時の勇ましさは今はなく美しさが際立って見える。

「遠征の時にちゃんと挨拶を言えなくてすみません。それと……私と姫様をクラスターモンキーから助けてくださりありがとうございました」

 そんなミリアが綺麗に頭を下げてお礼を言ってくるのをダイチは手で制止をかける。

「そんな風にかしこまらないでくれ。前にアーデルハイドにも言ったが、傷を治療して助けたのはリリアだ。俺はちょっと戦っただけだよ」

 謙虚な姿を見せるダイチにミリアはクスリと笑顔を見せる。

「それでもお礼を言わせてください。……あと、私の事はミリアと呼んでくださいね」

「ああ。よろし――」

 ミリアの笑顔に返事をしかけたところで酔っぱらいバージョンのバージルが千鳥足でやってきた。

「うおおーい。やっときたのかー?」

 そう言いながらワインの瓶をラッパ飲みしだすバージル。既に出来上がっていた。それに対してミリアが飲み方を考えろとたしなめていた。

「……アーデルハイド。あれは牢屋にいれておかなくて良いのか?」

「あー……。今回の一件のお礼に私の権限で釈放もしているんだ。それにせっかくだから性根を叩き直そうとも思っている」

 呑気に飲んでるバージルにアーデルハイドはフフフと不適な笑みを浮かべている。

 こっそりその場を離れた大地は料理を取り終わったところでクルスとレヴィアを見つけた。

「あら本当ね。この料理も美味しいわ」

「そうだろう?北の港で取れる魚介類を魔法で即座に凍結させることで安心安全な上、新鮮さを保ちながら運ばれてくるんだ。肉にしてもこっちの料理も美味しいぞ」

 クルスが骨がついたやや薄切りの肉料理を小皿に乗せて赤みがかったソースを適度にかけてからレヴィアへと渡す。

 それにお礼をいって受け取ったレヴィアが骨の部分で手に取り肉にかぶりつく。

「ん~~ーー!」

 レヴィアから声にならない叫びが上がる。どうやらほっぺたが落ちそうになるくらい美味かったのだろう。

「すごいわ……あ!大地!このお肉がとっても美味しいわよ!」

 感想を言った直後にレヴィアが大地に気づいて声をかけてきた。

「おう、クルスに取ってもらってるのか」

 やはりと言うかテーブルの高さでチビメンバーが料理を取るのは難しそうだ。しかし、レヴィアはクルスに、リリアとナルはフルネールがついてるから問題もなさそうである。

「ええ、美味しい料理を教えてもらってるわ」

 本当に美味しそうに食べる姿からは嘘ではないとまるわかりである。

「悪いな。クルス」

「大したことないさ。このお嬢ちゃんには助けてもらったからな。それよりあっちにいるリリアにも声をかけてやってくれないか」

 クルスがダイチへ耳打ちするように声を潜めて続きを言う。

「ダイチが来るのを心待にしていたんだ。顔を見せにいってあげてくれ」

「そうだな声でもかけに行くか」

「あ、それとな」

 リリアのいる方向に足を向けた途端、クルスが再び声をかけてきた。その事に大地は顔だけクルスへ向ける。

「頼みを聞いてくれてありがとな。よかったら家一軒くらい褒美をとらせる事もできるぞ?」

 王族から家を貰えるとなるとかなり立派な家が貰えるだろう。ライズとシャーリーの家のような。だけど……。

「それは嬉しいが……維持費がな……」

 大問題である。もし立派な家を貰えば四人住んでもまだまだ余る程広い可能性がある。つまり使用人を雇わなければ掃除も行き届かないかもしれない。となるとそれを維持する金が必要なのだ。常に金欠となる自分達には無理ではなかろうか……そんな疑問がすぐに湧いてくる。

「まぁ気持ちだけ貰っとく。ちょっとリリアのところに行ってくる」

 その場を離れた大地はリリア達が雑談と食事を楽しんでいる場へ足を向けた。

「あ、ダイチさん!」

「よ!この前のドレスか。やっぱり良く似合ってるよ」

「そうですか……?えへへ、ありがとうございます」

 大地さん、いいですよ!しれっとやって来てスマートに誉める!ジゴロレベル上がってきてますね!女たらしに磨きがかかってきてますよ!

 フルネール。それ誉めてる?

 心の中でため息を吐き出している大地にリリアは思い出したように大地の目を見てくる。

「ダイチさん。何であんなに脱出するのが遅かったんですか?それとも早く脱出してたけど出てくるタイミングでも計っていたんですか?」

「え?」

 リリアの鋭い問いかけに大地は少しの戸惑いを見せた。

「ああ……それはだな……」

 視界の端に映るフルネールの無言の圧力からタイミングを計っていたことを伏せなければならないと感じた。

「あの場所にきたあの女を取り押さえようとしていたら遅くなったんだよ」

「何でそんな危険なことを……一人で……」

 大地がリリアに言ったことは嘘を含めている。実際には取り押さえる気はなく命を奪うつもりだった。放った弾丸もゴム弾はなく魔力で作り上げた殺傷力のある鉛弾だ。

「せっかくの手伝いだからな。アーデルハイドの件を早く片付けてやりたかったんだよ。逃がしちまったけどな」

「アーデルハイドお姉様の?」

「ん?お姉ちゃんって呼ばないのか?」

「あ、えと、実は今日ここに来た時に大臣さんにお姉ちゃんって呼ぶの見つかっちゃって」

 えへへと笑うリリアに窮屈そうだなと感じつつも彼女はやはりと王女なのだ。そしてここはお城の中だ。つまりそれ相応のルールがあるのだ。

「ごしゅじんさま!ここのおりょうりおいしいです!」

 フルネールにとって貰った料理を食べていたナルが元気良く教えてくれる。

「ナルちゃん美味しいよね。次のお料理もフルネールさんに取って貰おっか」

「はい!」

 ナルとリリアのやり取りにフルネールもニコニコしながら二人に料理を渡す。そんなフルネールの姿も微笑ましく映る。


 こうして人数の少ないパーティーは安らぎのひとときと言うように終わりを向かえた。お城の外でリリアと解散したのは暗くてもホワイトキングダム内なら問題ないと言われたからだ。それでも一度は送ると言ったのだが「子供扱いしないでください。私は大丈夫ですよ!」と言われてしまった。


 ……しかし、次の日の朝。ギルドに来たのはリリアではなく宿屋のメイドであるハンナだった。

 そして息切れをしながらハンナは大地に言うのだった。

「リリア様が居なくなってしまいました!」
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