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神魔の宝玉
幻槍魔人グリムナイト
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「貴様は何が目的だ!」
薄い青髪を揺らし不適に笑うアストルから飛び退いて距離を取るとアーデルハイドは剣先を突きつけながらそう問いただした。
「薄々気づかれていると思いますがどれもホワイトキングダムのお城を落とす為ですよ」
「なんだと……?」
「第一陣のクラスターモンキーで貴女を殺してそのままホワイトキングダムを襲わせれば大打撃になるでしょう。次に別の国に戦争を仕掛けさせたことで人員を削り、そこで海龍をけしかければ落とせる……はずだったのです。貴女は何故生きてるのですか?クラスターモンキーは貴女では倒せないと踏んでいたのですけれど……」
綺麗な顔立ちの中で輝くようにアストルの薄紫色の瞳が怪しく光る。まるで今にもとんでもない魔法を放ってきそうな雰囲気すら感じる。
「ふざけるな!貴様のせいで私の隊は……!それだけでは飽きたらず多くの人を……貴様だけはゆるさない!」
再び跳躍しながらアーデルハイドはアストルへと切りかかる。しかし、バチっと再び魔法壁によって防がれる。
「そんなに怒ると品位がさがりますよ?」
「だまれ!!」
魔法壁に阻まれて尚、アーデルハイドは剣に力を込める。だが、そのせいでがら空きになってしまっている体にアストルは空いている手から魔力を圧縮して放った。
「ぐふっ……」
アストルが放った攻撃をもろに受けたアーデルハイドだが、その高威力が幸いしたのか飛ばされた距離が大きく魔方陣に触れることなく大きく吹き飛んだ。
「お姉ちゃん!!」
リリアがすぐさま駆け寄って治療を開始する。
「私が皆様をお相手しても良いのですが、残念ながら私はやるべき事を先にこなさないといけません。ですので、魔方陣の破棄ついでに貴方達のダンス相手をご紹介しましょう」
アストルがそう言うと神魔の宝玉を1つ取り出した。それを目の前で地面へ投げると宝玉が割れてモンスターが姿を表す。
現れたのは馬のモンスターだ。白い毛並みに額には長く鋭い一角が生えている。ユニコーンだ。
アストルが指を鳴らした。すると出たばかりのユニコーンの回りに黒い雷が纏わりついて動きを封じ込める。そして、次にアルグニールが宙を舞う。まるでアストルが動かす手に操られる様にユニコーンの真上へと移動する。
何をする気なのかわからない。だが、リリアはとてつもなくいやな予感がして叫ぶ。
「だめーーーー!!」
その叫びもむなしく聞き入れられず、アルグニールはアストルが召喚した魔法の刃で背中から突き刺された。アルグニールの血液が剣の柄を通ってユニコーンを染めていく。
「ひ、ひどい……」
リリアの嘆く姿を見てアストルはクスクス笑う。
「奴隷をせっせと集めて廃人になったゴミにまで情けを掛けるなんて……なんて滑稽なのでしょうか。でもお楽しみはここからですよ?」
アストルの言葉に魔方陣が光り、シールが剥がれるように浮かび上がった。
宙には息絶えたアルグニール、下には血に染まり真っ赤なユニコーン。その間に地面に描かれていた魔法陣が収まるとアルグニールとユニコーンは魔方陣の円内に吸い寄せられるように動かされた。
二つの生物が魔方陣へ収まると強烈な光が生じた。
「パンドラの魔力を使うと今ではこう言う事も出来るのです」
魔方陣もユニコーンもアルグニールの死体さえもなくなり、代わりに出てきたのは真っ赤なモンスターだ。
下半身は先程の一回り大きくなって四足から六足へとなったユニコーンだ。角も禍々しくなっていて聖獣から悪魔の獣になったように感じる。
上半身はユニコーンの背中から人間の姿が生えている。ただ人間の面影などなく骨格から人間とは規格が違うことを一目で見せられる。まるでケンタウロスが悪魔になったような姿だ。その一連の流れを見て大地は思わず心の中で叫んだ。
これ悪○合体だ!
大地さん!ゲームの話をしている場合じゃないですよ!
「グリムナイト。この場所を破壊しなさい」
アストルの命令に従うようにモンスターは角に光をため始める。
「みんなこの場所は不味い!引き返してここから出るぞ!」
「ですが兄様!」
目の前には件の首謀者がいる。せっかく見つけた隊員達の仇だ。
「ダメだ!あんなモンスターが暴れたら確実にここは崩壊する!まずは生きるのが先決だ!」
クルスがアーデルハイドの手を引っ張りながら来た道を戻っていく。そうやって外に出るために向かって走っていく中、大地だけはその場で留まっていた。
「……今ここでお前を殺れば少しは平和になるだろ?」
「ふふ。そうかもしれませんね」
大地の言葉にアストルがそう返した瞬間、ハンドガンを出すと共に引き金を引いた。アストルが名乗って直ぐ行動に移さなかったのはリリアに人を撃ち殺す場面を見せたくなかったからだ。
「あらあら、恐いことをするんですね」
アストルはノーモーションで魔法の壁を作り出していた。その壁に大地が放った弾丸は阻まれたのだ。その結果に大地は舌打ちをして忌々しそうにアストルを睨む。
「そう睨まないでください。ダイチさん」
この女の前では名乗っていないその名をアストルは呼んだ。
「……まったく有名になるのは嫌になるぜ」
「あら?私が貴方の名前を口にしたと言うのにあまり驚かれないのですね」
「ザルドーラの仲間か何かだろ?お前らは……。俺の初撃を防いだのも知っていたから予め魔法で守っていたってところだろう」
一息に大地がそう言うとアストルはクスクス笑う。
常々美女が笑うのは良いものだと思っていたが、美女でも怪しい女だと嬉しくないもんだな。
「お前ら……と申しますとブラックボックスともご面識がおありなのですね。頭の回転が良い人は好きですよ」
「ああ。そうかい!」
再びハンドガンを向けて弾丸を放つ。
『人は殺さないでほしい』というリリアとの約束はあれど絶対に守るべきものではない。今目の前に居るのはアーデルハイドの親衛隊を壊滅させ、目の前でホワイトキングダムを滅ぼすと宣言している。ならば人だろうがモンスターだろうが殺っておくのが最良だと割りきったのだ。
しかし、又もや弾丸はアストルに届かなかった。今度はアストルに作られた赤いケンタウロスのようなモンスターの大きな手に阻まれてしまったのだ。その真っ赤な手に弾丸は食い込もう貫通までには至らない。
「本当ならもう少しお話したかったのですが、先も言った通りやる事がありますのでここで失礼させていただきますね」
そう言ってニコリと笑顔を見せる。
「さぁ始めなさい。グリムナイト」
アストルが指を鳴らした。それがモンスターに送る合図なようでグリムナイトの角にたまった輝きが強く光った。
そして衝撃が辺りを揺らしこの地下が崩れ始めたらしい。少しずつ天井から岩が落ちてきてるのはその証拠だ。
「やべ!!」
そんな風にあわてふためく大地とは裏腹にアストルは笑みを崩さずに瓦礫の奥に消えていった。
「ダイチさんは……まだ出てこないのですか……」
リリア達は大地が来ていないのに途中で気づいていたものの、フルネールの「大地さんは大丈夫ですから出口まで駆け上がって下さい」という一言に押されて階段を上った。そうして外に出たはいいが一向に大地が出てこなくてリリアは心配そうに呟いた。
突如、大きく地面が揺れた。それと同時に真っ赤な光の柱が昇った。
その場所は恐らく先ほどの魔法陣があった部屋の方角だ。グリムナイトが部屋を破壊したのだとわかってしまう。だけど気になるのはグリムナイトの破壊行動ではなくて中に居るはずの大地がどうなったかだ。
その場に居た全員が見上げて赤い光を目で追った。その光が収束すると同時に何かが空へ飛び出してきたのが見えた。
「王女さん……俺の仕事終わったよな?帰ってもいいか……?」
飛び出してきたのは真っ赤な体を持つグリムナイトだ。右腕を円錐状の武器であるランスへと変えて空中で制止しながら奴の視線はこちらへ向いていた。自分達が狙われている事は明らかだ。
「……アレから逃げられる自信があるならな。無いならここにいろ!」
そのアーデルハイドの一言でバージルは黙るしかなかった。今この場から離れるのは簡単だが、もしグリムナイトに目をつけられれば逃げきる自信はない。
「グラネス!お前の見立てであのモンスターに勝てそうか?」
「ダイチが居なければ五分でしょう。或いは……」
グラネスはチラリとレヴィアを見やる。大地の仲間でフルネールはあまり強くない見立てだ。ナインテイルの子供もグリムナイトと戦うには力不足だろう。だが、レヴィアは別格である事はわかる。もしレヴィアが全力で戦うのならあのグリムナイトを間違いなく倒すことはできる。
「嫌よ。多少の手伝いくらいはしてあげるけれど、大地のお願いでも何でもないなら貴方達で頑張りなさい」
グラネスの視線から察したレヴィアはそう言いきって確りと拒否する姿勢を見せる。とは言え……レヴィアは元々人を嫌っているのだ。だからこそそう言った答えが返ってくることも予想は出来ていた。
「レ~ヴィアちゃん。そんなつんけんした態度を取らなくてもちゃんと話せばわかってくれる人達ですよ?」
「な、何よ……」
「アーデにグラネスさん。ごめんなさいね。レヴィアちゃんはナルちゃんと私を守る事を優先してくれるので積極的に戦いにいけないんですよ」
そう言われれば納得するほかない。
「五分の勝負ならやるしかないだろう」
クルスが長剣を引き抜きながら構える。そして、戦闘準備万端なアーデルハイド、グラネスに視線を向けていきリリアにも視線を向けた。
「リリア?」
そのリリアは戦闘準備をまったく取っていなかった。というのも、いまだに大地が出てこなくてもしかしたら生き埋めになってしまったのではないかと心配を続けている。
「ダイチさんがまだ……」
これから強いモンスターと戦うのにこんな調子で集中力を欠いていては殺られてしまう。
「心配なのはわかるが、今は目の前のモンスターに集中しないと死人が出るぞ」
「で、でも……」
「それにダイチがあの程度で死ぬような奴では無いだろ?」
「アーデルハイドお姉ちゃん……うん!」
リリアが納得したように顔つきを変えた。
「何でもいいけど……ここは不味いだろ!そこの森を抜けると視界がひらけた場所があった!そっちに移動するぞ!」
そう指揮したのは意外にもバージルであった。彼の言葉には全員が頷き森の方へと走る。それは大地がまだ来ていないのにここを離れる罪悪感を持ったリリアも同じだった。
「バージル。逃げたそうにしていたのに意外だな」
「今でも逃げられるなら逃げてえよ!姫さん恨むぜ……」
「フッ。泣き言は後でたっぷり聞いてやろう。今はここを切り抜けるぞ!」
森は直ぐに抜けると森に囲まれた草原のような場所に出る。これほどの空間なら戦うのに支障はないだろう。
そうして戦闘場所に行き着いた直後に急降下しながらグリムナイトが飛んできた。それは羽が生えたように自由に飛び回るようなものではなく、地面にいるようにユニコーンの足で駆けて向かってきているのだ。
「うおおおおおおお!」
猛々しく吠えながらグラネスは全員の前に出て大剣を縦のように構えた。人が一人すっぽりと隠れられるほど面が広いグラネスの剣は受け方一つで十分に敵の攻撃を防ぐことができる。
グラネスの狙い通りに重い一撃を剣の腹で受けた。鈍い音を立て、勢いに押されて地面を擦るもののグリムナイトの初撃を完全に防ぎきった。そうしてグリムナイトが止まった瞬間、示し合わせた様にアーデルハイドとクルスが左右から斬りかかった。
二人の刃がグリムナイトの肌を裂いた。だが、手応えはあまり無い。
「切れはしたものの……深く刃が通らないな……」
身体強化を使った上での一撃だった。それなのにダメージを深く与えることが出来ず落胆は隠せない。
「これはなかなか……」
アーデルハイドより浅く切ることしか出来なかったクルスも改めて目の前のモンスターの強さに驚かされる。
「うおおおおおーー!!」
だが手応えが無いにしても二人の一撃により少しの隙が出来ていた。そこにグラネスは自分のありたったけの力を込め、飛びかかりながら大剣を振り下ろした。
グラネスは力だけならアーデルハイドの身体強化を上回るほどのものを持っている。そこに重量が重い剣とそれを振るう技量が合わさることで、グラネスが振るった刃はグリムナイトの上半身を真正面から切りつけた。
切り裂いた肌から鮮血がより流れていることで二人のソレよりも深く切り裂いたとわかる。しかし、その程度の攻撃でモンスターが怯み続ける事はなく、グリムナイトが長く鋭いランスを横薙ぎに振るってきた。
薄い青髪を揺らし不適に笑うアストルから飛び退いて距離を取るとアーデルハイドは剣先を突きつけながらそう問いただした。
「薄々気づかれていると思いますがどれもホワイトキングダムのお城を落とす為ですよ」
「なんだと……?」
「第一陣のクラスターモンキーで貴女を殺してそのままホワイトキングダムを襲わせれば大打撃になるでしょう。次に別の国に戦争を仕掛けさせたことで人員を削り、そこで海龍をけしかければ落とせる……はずだったのです。貴女は何故生きてるのですか?クラスターモンキーは貴女では倒せないと踏んでいたのですけれど……」
綺麗な顔立ちの中で輝くようにアストルの薄紫色の瞳が怪しく光る。まるで今にもとんでもない魔法を放ってきそうな雰囲気すら感じる。
「ふざけるな!貴様のせいで私の隊は……!それだけでは飽きたらず多くの人を……貴様だけはゆるさない!」
再び跳躍しながらアーデルハイドはアストルへと切りかかる。しかし、バチっと再び魔法壁によって防がれる。
「そんなに怒ると品位がさがりますよ?」
「だまれ!!」
魔法壁に阻まれて尚、アーデルハイドは剣に力を込める。だが、そのせいでがら空きになってしまっている体にアストルは空いている手から魔力を圧縮して放った。
「ぐふっ……」
アストルが放った攻撃をもろに受けたアーデルハイドだが、その高威力が幸いしたのか飛ばされた距離が大きく魔方陣に触れることなく大きく吹き飛んだ。
「お姉ちゃん!!」
リリアがすぐさま駆け寄って治療を開始する。
「私が皆様をお相手しても良いのですが、残念ながら私はやるべき事を先にこなさないといけません。ですので、魔方陣の破棄ついでに貴方達のダンス相手をご紹介しましょう」
アストルがそう言うと神魔の宝玉を1つ取り出した。それを目の前で地面へ投げると宝玉が割れてモンスターが姿を表す。
現れたのは馬のモンスターだ。白い毛並みに額には長く鋭い一角が生えている。ユニコーンだ。
アストルが指を鳴らした。すると出たばかりのユニコーンの回りに黒い雷が纏わりついて動きを封じ込める。そして、次にアルグニールが宙を舞う。まるでアストルが動かす手に操られる様にユニコーンの真上へと移動する。
何をする気なのかわからない。だが、リリアはとてつもなくいやな予感がして叫ぶ。
「だめーーーー!!」
その叫びもむなしく聞き入れられず、アルグニールはアストルが召喚した魔法の刃で背中から突き刺された。アルグニールの血液が剣の柄を通ってユニコーンを染めていく。
「ひ、ひどい……」
リリアの嘆く姿を見てアストルはクスクス笑う。
「奴隷をせっせと集めて廃人になったゴミにまで情けを掛けるなんて……なんて滑稽なのでしょうか。でもお楽しみはここからですよ?」
アストルの言葉に魔方陣が光り、シールが剥がれるように浮かび上がった。
宙には息絶えたアルグニール、下には血に染まり真っ赤なユニコーン。その間に地面に描かれていた魔法陣が収まるとアルグニールとユニコーンは魔方陣の円内に吸い寄せられるように動かされた。
二つの生物が魔方陣へ収まると強烈な光が生じた。
「パンドラの魔力を使うと今ではこう言う事も出来るのです」
魔方陣もユニコーンもアルグニールの死体さえもなくなり、代わりに出てきたのは真っ赤なモンスターだ。
下半身は先程の一回り大きくなって四足から六足へとなったユニコーンだ。角も禍々しくなっていて聖獣から悪魔の獣になったように感じる。
上半身はユニコーンの背中から人間の姿が生えている。ただ人間の面影などなく骨格から人間とは規格が違うことを一目で見せられる。まるでケンタウロスが悪魔になったような姿だ。その一連の流れを見て大地は思わず心の中で叫んだ。
これ悪○合体だ!
大地さん!ゲームの話をしている場合じゃないですよ!
「グリムナイト。この場所を破壊しなさい」
アストルの命令に従うようにモンスターは角に光をため始める。
「みんなこの場所は不味い!引き返してここから出るぞ!」
「ですが兄様!」
目の前には件の首謀者がいる。せっかく見つけた隊員達の仇だ。
「ダメだ!あんなモンスターが暴れたら確実にここは崩壊する!まずは生きるのが先決だ!」
クルスがアーデルハイドの手を引っ張りながら来た道を戻っていく。そうやって外に出るために向かって走っていく中、大地だけはその場で留まっていた。
「……今ここでお前を殺れば少しは平和になるだろ?」
「ふふ。そうかもしれませんね」
大地の言葉にアストルがそう返した瞬間、ハンドガンを出すと共に引き金を引いた。アストルが名乗って直ぐ行動に移さなかったのはリリアに人を撃ち殺す場面を見せたくなかったからだ。
「あらあら、恐いことをするんですね」
アストルはノーモーションで魔法の壁を作り出していた。その壁に大地が放った弾丸は阻まれたのだ。その結果に大地は舌打ちをして忌々しそうにアストルを睨む。
「そう睨まないでください。ダイチさん」
この女の前では名乗っていないその名をアストルは呼んだ。
「……まったく有名になるのは嫌になるぜ」
「あら?私が貴方の名前を口にしたと言うのにあまり驚かれないのですね」
「ザルドーラの仲間か何かだろ?お前らは……。俺の初撃を防いだのも知っていたから予め魔法で守っていたってところだろう」
一息に大地がそう言うとアストルはクスクス笑う。
常々美女が笑うのは良いものだと思っていたが、美女でも怪しい女だと嬉しくないもんだな。
「お前ら……と申しますとブラックボックスともご面識がおありなのですね。頭の回転が良い人は好きですよ」
「ああ。そうかい!」
再びハンドガンを向けて弾丸を放つ。
『人は殺さないでほしい』というリリアとの約束はあれど絶対に守るべきものではない。今目の前に居るのはアーデルハイドの親衛隊を壊滅させ、目の前でホワイトキングダムを滅ぼすと宣言している。ならば人だろうがモンスターだろうが殺っておくのが最良だと割りきったのだ。
しかし、又もや弾丸はアストルに届かなかった。今度はアストルに作られた赤いケンタウロスのようなモンスターの大きな手に阻まれてしまったのだ。その真っ赤な手に弾丸は食い込もう貫通までには至らない。
「本当ならもう少しお話したかったのですが、先も言った通りやる事がありますのでここで失礼させていただきますね」
そう言ってニコリと笑顔を見せる。
「さぁ始めなさい。グリムナイト」
アストルが指を鳴らした。それがモンスターに送る合図なようでグリムナイトの角にたまった輝きが強く光った。
そして衝撃が辺りを揺らしこの地下が崩れ始めたらしい。少しずつ天井から岩が落ちてきてるのはその証拠だ。
「やべ!!」
そんな風にあわてふためく大地とは裏腹にアストルは笑みを崩さずに瓦礫の奥に消えていった。
「ダイチさんは……まだ出てこないのですか……」
リリア達は大地が来ていないのに途中で気づいていたものの、フルネールの「大地さんは大丈夫ですから出口まで駆け上がって下さい」という一言に押されて階段を上った。そうして外に出たはいいが一向に大地が出てこなくてリリアは心配そうに呟いた。
突如、大きく地面が揺れた。それと同時に真っ赤な光の柱が昇った。
その場所は恐らく先ほどの魔法陣があった部屋の方角だ。グリムナイトが部屋を破壊したのだとわかってしまう。だけど気になるのはグリムナイトの破壊行動ではなくて中に居るはずの大地がどうなったかだ。
その場に居た全員が見上げて赤い光を目で追った。その光が収束すると同時に何かが空へ飛び出してきたのが見えた。
「王女さん……俺の仕事終わったよな?帰ってもいいか……?」
飛び出してきたのは真っ赤な体を持つグリムナイトだ。右腕を円錐状の武器であるランスへと変えて空中で制止しながら奴の視線はこちらへ向いていた。自分達が狙われている事は明らかだ。
「……アレから逃げられる自信があるならな。無いならここにいろ!」
そのアーデルハイドの一言でバージルは黙るしかなかった。今この場から離れるのは簡単だが、もしグリムナイトに目をつけられれば逃げきる自信はない。
「グラネス!お前の見立てであのモンスターに勝てそうか?」
「ダイチが居なければ五分でしょう。或いは……」
グラネスはチラリとレヴィアを見やる。大地の仲間でフルネールはあまり強くない見立てだ。ナインテイルの子供もグリムナイトと戦うには力不足だろう。だが、レヴィアは別格である事はわかる。もしレヴィアが全力で戦うのならあのグリムナイトを間違いなく倒すことはできる。
「嫌よ。多少の手伝いくらいはしてあげるけれど、大地のお願いでも何でもないなら貴方達で頑張りなさい」
グラネスの視線から察したレヴィアはそう言いきって確りと拒否する姿勢を見せる。とは言え……レヴィアは元々人を嫌っているのだ。だからこそそう言った答えが返ってくることも予想は出来ていた。
「レ~ヴィアちゃん。そんなつんけんした態度を取らなくてもちゃんと話せばわかってくれる人達ですよ?」
「な、何よ……」
「アーデにグラネスさん。ごめんなさいね。レヴィアちゃんはナルちゃんと私を守る事を優先してくれるので積極的に戦いにいけないんですよ」
そう言われれば納得するほかない。
「五分の勝負ならやるしかないだろう」
クルスが長剣を引き抜きながら構える。そして、戦闘準備万端なアーデルハイド、グラネスに視線を向けていきリリアにも視線を向けた。
「リリア?」
そのリリアは戦闘準備をまったく取っていなかった。というのも、いまだに大地が出てこなくてもしかしたら生き埋めになってしまったのではないかと心配を続けている。
「ダイチさんがまだ……」
これから強いモンスターと戦うのにこんな調子で集中力を欠いていては殺られてしまう。
「心配なのはわかるが、今は目の前のモンスターに集中しないと死人が出るぞ」
「で、でも……」
「それにダイチがあの程度で死ぬような奴では無いだろ?」
「アーデルハイドお姉ちゃん……うん!」
リリアが納得したように顔つきを変えた。
「何でもいいけど……ここは不味いだろ!そこの森を抜けると視界がひらけた場所があった!そっちに移動するぞ!」
そう指揮したのは意外にもバージルであった。彼の言葉には全員が頷き森の方へと走る。それは大地がまだ来ていないのにここを離れる罪悪感を持ったリリアも同じだった。
「バージル。逃げたそうにしていたのに意外だな」
「今でも逃げられるなら逃げてえよ!姫さん恨むぜ……」
「フッ。泣き言は後でたっぷり聞いてやろう。今はここを切り抜けるぞ!」
森は直ぐに抜けると森に囲まれた草原のような場所に出る。これほどの空間なら戦うのに支障はないだろう。
そうして戦闘場所に行き着いた直後に急降下しながらグリムナイトが飛んできた。それは羽が生えたように自由に飛び回るようなものではなく、地面にいるようにユニコーンの足で駆けて向かってきているのだ。
「うおおおおおおお!」
猛々しく吠えながらグラネスは全員の前に出て大剣を縦のように構えた。人が一人すっぽりと隠れられるほど面が広いグラネスの剣は受け方一つで十分に敵の攻撃を防ぐことができる。
グラネスの狙い通りに重い一撃を剣の腹で受けた。鈍い音を立て、勢いに押されて地面を擦るもののグリムナイトの初撃を完全に防ぎきった。そうしてグリムナイトが止まった瞬間、示し合わせた様にアーデルハイドとクルスが左右から斬りかかった。
二人の刃がグリムナイトの肌を裂いた。だが、手応えはあまり無い。
「切れはしたものの……深く刃が通らないな……」
身体強化を使った上での一撃だった。それなのにダメージを深く与えることが出来ず落胆は隠せない。
「これはなかなか……」
アーデルハイドより浅く切ることしか出来なかったクルスも改めて目の前のモンスターの強さに驚かされる。
「うおおおおおーー!!」
だが手応えが無いにしても二人の一撃により少しの隙が出来ていた。そこにグラネスは自分のありたったけの力を込め、飛びかかりながら大剣を振り下ろした。
グラネスは力だけならアーデルハイドの身体強化を上回るほどのものを持っている。そこに重量が重い剣とそれを振るう技量が合わさることで、グラネスが振るった刃はグリムナイトの上半身を真正面から切りつけた。
切り裂いた肌から鮮血がより流れていることで二人のソレよりも深く切り裂いたとわかる。しかし、その程度の攻撃でモンスターが怯み続ける事はなく、グリムナイトが長く鋭いランスを横薙ぎに振るってきた。
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