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神魔の宝玉
貴族と奴隷と宝玉と
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ホワイトキングダムの東に有る山は山岳地帯になっていていくつもの山が連なっている。大きさは大小様々でモンスターも平然と現れる。その為、人の通りはほぼ無い状態であり道の手入れはされておらず超えるのも一苦労である。
だが、大地達は最初の山を超え終わっていて次に連なっている山の中を探索していた。
「この山に隠れ家が有るらしい」
リリアやグラネスはハンターであり山を一つ超える程度は問題ない。アーデルハイドやクルスも何故か問題なく山を歩いていた。フルネールやレヴィア、ナルは人外なので気にする方が無駄である。――人外って人聞き悪いですよーー!!
「ぜぇ……ぜぇ……おまえ……ら、歩くの……早すぎるだろ……」
この中で唯一息を乱して着いてきたのがバージルと言う男だ。ホワイトキングダムの牢屋にいれられていて、一度牢屋に入った大地は言葉を交わしたことがある。なんでも結構大きめな盗賊団の頭領らしい。
牢屋からでたあと大地は一度この男に会いに行く……つもりがすっかり忘れていたのだ。山を登り始める前にアーデルハイドが連れてきた時に存在を思い出したぐらいである。
「体力ねぇな。盗賊団の頭だったんだろ?」
大地の煽りにバージルは息継ぎしながら答えた。
「ふざ……けろ……ずっと牢屋……入れられて、体力……つくかよ!」
アーデルハイドがバージルを連れてきた理由は単純明快で隠れ家を見つけさせるためだ。「盗賊団の頭領なら容易いだろ?」と言うことだ。因みにバージルが断ると言う選択肢はなかった。
何せこの探索はアーデルハイドが行う亡くなった親衛隊達の弔い合戦だからだ。なので目がマジのアーデルハイドに「私の役に立ちたいか、それとも死にたいか選べ」と言う交渉を持ちかけられたら付き従うしかないのだ。
一応第三の選択肢でアーデルハイドを出し抜く、又は襲って逃げるの選択肢は思い付いていたものの、もしそれを選んでいたら強化+限界突破の魔法で首は簡単に落ちていただろう。
「ふむ、それならこれを飲め」
アーデルハイドが赤い液体の入った瓶をバージルへと渡す。もちろんこれはヤバめの液体ではない。このドリンクは疲労を回復する体力モドリンクという飲み物でハンターは重宝する代物でもある。
「王女さんはこんなものまで用意するんだな」
一息に飲み干したバージルは息が整ってきたことで体力が戻ってきたことを実感し、空き瓶をその辺へ投げ捨てた。
「あー!ダメですよ。その辺に捨てては……」
それをリリアが怒った事を言いつつも呆れながら空き瓶を拾う。
「聖女様は立派だな。物なんてその辺のモンスターが食うだろうに」
「ダメですよ!それはそれで危ないんです!」
「もう!」と少しだけぼやくリリアがゴミを袋にいれるのを横目で見ながら大地がバージルに話しかける。
「それにしても脱獄はしなかったんだな」
「まぁアンタが処刑にならなかったことを兵士から聞いたからな」
いつか顔を見せに行こうと思っていたのをガチで忘れていたのだが、何だかんだで約束を守る当たりは盗賊だけど根は悪いやつじゃないのだろうか。
「だけど、あんたとの約束のせいで山の中へハイキングだぞ」
どうしてくれるんだ?と言った意思が込められた視線を大地は受けるが気にした素振り無く言う。
「たまには外の空気を吸うのも悪くないだろ?」
「牢屋の中よりはマシってだけだ……と。全員止まってくれ」
バージルが何かを見つけたのか足を止めて山の木々と近くの崖のような岩壁を見渡す。それから膝を折って屈み草木や砂利の多い地面を調べるように触れる。
「人が来た痕跡か……やはり、この壁がそれっぽいな」
一人納得しながバージルは頷く。
「この壁に何かあるのか?」
クルスがバージルに近づいて壁をまじまじと見ながらそう聞いた。
「恐らくここが探している隠れ家に繋がる場所だろう」
ただの岩にしか見えず、興味をもったナルが手を伸ばそうとした。
「触ったらダメですよナルちゃん」
だが、寸でのところでフルネールがナルを抱え込むとその場から少しはなれる。その様子を見てバージルは安堵した。
「わからないように幻覚の魔法で扉が隠されていて、しかも厄介な事に触れたら発動する罠まであるな」
「見ただけでわかるものなのか?」
「コツがあるんだよ。もっとも妖精とか魔力を直接視る事ができるならもっとわかりやすいんだけどな」
その言葉を聞いてリリアは試しに集中する。しだいに空中に今まで見えてなかったキラキラする光が視界に映ってくる。そしてそのまま岩壁へと視線を向ける。
大気中に漂う光よりも少しくすんだ光が岩壁の縁に沿って刻まれている。さらに岩壁の中心にはくすんだ光が三重の円で刻まれている。その様子からピンときたリリアはバージルに問いかける。
「罠って三つですか?」
「ん?少し待て。魔法で調べるからよ」
バージルが岩壁に手をかざすと目の前に魔方陣を作り出す。
「バージル。お前魔法使えたんだな」
「これがなきゃ盗賊団なんてやってねぇよ!」
笑いながら言うがクルスやアーデルハイドからしたら『盗賊団なんて有ってもやるなよ』と思いつつ覚めた視線を送る。
「確かに罠は三種類あるな。よくわかったな……」
「解除出来るのか?」
アーデルハイドの心配を他所にバージルは「あったりめぇよ!」と威勢良く返す。
「ま、こんな魔法なくても世界のどこかにあるどんな扉でも開けられる魔道具があれば一発なんだけどな」
「へぇ。そんな魔道具があるのか」
「ああ。鍵だろうと魔法だろうと。閉じられた扉を開けられるらしい。ただ、魔力を込めれば大きさは自由に変えられるらしいから誰も見たことがない伝説の魔道具らしいぜ?」
「魔道具の伝説ねぇ。信憑性あるのか?」
「さあな?俺も伝え聞いた口だから信憑性については正直わからねぇ……が、そう言うのは信じてこそロマンじゃないか?」
「そうだな。無粋なことを聞いた」
バージルの答えに納得しつつもやはり伝説の域はでないだろうと大地は考える。
そんな魔道具があればどの家にも入り放題、てなもんだから悪目立ちは避けられないだろう。それが無くて話だけ伝わると言うのであれば誰かの願望が伝わったんじゃないか?ま、有るかわからない物を信じるのが賊としてのロマンなんだろうな。
「よし、開いたぞ」
バージルの声と同時に今まで岩壁だったものが霧が晴れるよう消え去り隠されていた鉄の扉が姿を表した。
「この先で宝玉が作られているんだな」
全員が中にはいり階段を下りながらアーデルハイドがそう呟いた。まるで秘密の研究所に繋がる坑道の道ような作りに緊張感が走る。
階段が終わると長い通路が待ち受けていた。その先頭を歩くのは大地とフルネールだ。フルネールに光の魔法で奥を照らしてもらっていて何かあれば大地が対処する布陣である。
「リリア。そう怒らないでくれ」
「怒っていません」
クルスの言葉に素っ気なくリリアは答える。
それはリリアがフルネールの立ち位置を立候補したが、いくら大地の近くとはいえ危険すぎるとすぐに止められてしまいやや不貞腐れているのだ。
そんなリリアを見てクルスもアーデルハイドも『ずいぶんとわがままが言えるようになったんだな』と思う。嬉しくもあるけど困りもすると言うのが本音だ。
「緊張感ねぇな。いつ罠が降ってくるかわからないんだぞ?」
バージルが呆れていると大地が目の前に木の扉を見つけた。ここまで一本道だったことから必ずここは通っているはずなのた。
「開けるぞ」
全員が頷くと大地は扉に手を掛けて開いた。そしてそのまま中に入るとひとつの部屋にでる。地面には魔方陣が中央に大きく描かれていた。
また、入ってきた逆側の壁にはどこに繋がっているのか検討もつかない通路があるが、やはりいま気になるのはこの魔方陣だ。
「これは……?」
「ダイチさん。触らないでください!」
魔方陣に近寄る大地をリリアが止める。その言葉にしたがって大地が数歩下がるとリリアは部屋の魔方陣を注意深く見る。
「この魔方陣は……危険です」
リリアがそう呟くと同時に逆側の通路から足音が聞こえてきた。それも二人分だ。
クルスとアーデルハイドは剣、グラネスは大剣を構え、通路奥の暗闇からやってくる人影を注視する。
「困りましたね。招待していない人に入ってこられるのは……」
女性の声と共に部屋に入ってきた人物は真っ白いフードつきのマントで姿を隠していた。そのフードの額部分には青色で炎の模様が描かれている。
「お前は何者だ?そのフードをとって顔を見せてみろ」
大地がそう言うとクスクスとフードの奥で笑い出した。
「ふふ。まさかこんな人が多い部屋で脱ぐように言われたのは初めてです」
恥じらうような艶のある言い方でドキッとしつつも声を荒げて大地は反発する。
「フードのことだっつうの!!」
「ええ。フードのことですよ?」
達人は数度手合わせをしただけで相手の力量がわかるという。それは大地も同じだった。再びフードの奥でクスクスと笑っているこの女に口では叶わなそうだということだ。
「それより、もう一人いるんだろう?出てきたらどうだ?」
クルスが通路の奥にいるであろう人物を見定めながら言う。すると何か金属が擦れるジャラという音が聞こえてきた。
「そうですね。ほら。出てきてください」
以外にも同意したのは目の前のフードの女だった。その手をみると鎖が握られていて引っ張っていた。どこに繋がってるのかと目で追うと通路の方へと続いている。
「……」
何も声を出さないその男はフラフラとした足取りで部屋へとはいってくる。痩せこけたような容姿で、小説や漫画などで出てくる奴隷と言えばこの服というようなノースリーブの裾が長い服をみずぼらしく着ていた。
どこかでみたことがあるような気がする。
大地が思い出そうとしているなか、入ってきた男の姿を見たクルスやアーデルハイド、そしてグラネスが動揺していた。
「なぜ、ここに……」
部屋に入ってきたのは元貴族であり、名前は……。
「アルグニール!?」
アーデルハイドの驚きながら叫んでいた。
あー、そんな名前だ。紅茶のような奴。
あんな小汚ない人を呼ぶのに紅茶の前を出さないでください。紅茶が可愛そうですよ。
何時にも増して辛辣な言葉を並べるフルネールには触れず、リリエッタを救い出すときに壊滅した貴族の名前がわかって少しスッキリとした。
「何故貴様は生きているんだ?あの日、処刑したはずだ!」
奴隷を扱う人間はその人がどうなろうと国は関与しない方針だ。それが貴族であれ国の中であれば全てに適用されるらしい。
「やっぱり……そうしていたのですね」
薄々気づいていたらしいリリアが悲しそうに呟いた。どうやらリリアには隠していたことらしい。
「リリア……こう言うことも必要なんだ。アルグニールは多くの奴隷を連れ去って殺していたんだ」
「はい……わかってます……」
クルスが諭すように言うのに対してリリアは気落ちしながらも頷く。リリアとてホワイトキングダムの王女だ。奴隷を従える人の末路はわかっているつもりである。
「……それで、処刑された人間がどうしてここにいるのかって聞いたら答えてくれるのか?……って言うかアルグニールのほうはなんか様子が変じゃないか?」
大地がフードの女とアルグニールを交互に見た後、一向にしゃべる気配がないアルグニールに違和感を覚えた。見た目は痩せこけただけだが目には精気というものが欠如しているようにも思える。
「処刑される前に魔法で作ったアルグニールと予め入れ換えたからです」
以外にもフードの女は答えてくる。
「魔法で作った……?あり得ない嘘を突くな!魔法で偽物を作っても鑑定魔法ですり変わったことがわかるはずだ!」
クルスがフードの女にいきり立てながらそういった。だが奴はまたもやフードの奥でクスクスと笑う。
「パンドラの魔力を用いた魔法なれば容易いことなのですよ。さらに奴隷とそこの魔方陣を使えば神魔の宝玉をつくれるんです。素敵だと思いませんか?」
「パンドラの魔力?奴隷?……まさか……」
クルスの瞳に動揺と怒りが見え、フードの女は見えないフードの奥で口許をつり上がらせた。
「貴様!アルグニールにパンドラの魔力を使わせて奴隷の命から神魔の宝玉を作らせていたな!?」
その答えにたどり着いたクルスに対して嘲笑するように笑う。
「ふふ。奴隷にパンドラの魔力を使わせて別の奴隷の魂を使って宝玉を作り、パンドラの魔力を使って廃人になった奴隷をまた別の奴隷にパンドラの魔力を突かせて廃人となった奴隷の魂で宝玉を作る。そうやって循環させて神魔の宝玉を作り続ける場所なのですよ。ここは!アルグニールは失態した為、ここを潰す事になりましたので廃人になってもらいましたが……。因みにこの先を進むとホワイトキングダムの南にある森に出るので死体処理には便利だったんですけどね」
アストルが楽しそうに言い終わると今まで静かだったアーデルハイドが口を開いた。
「――貴様が外道と言うことはわかった。ひとつ教えてくれ……お前が神魔の宝玉を使って南の森にクラスターモンキーを解き放ったのか?」
「もちろん私ですよ。王女サマ」
完全に相手が誰だかしった上での挑発だ。すぐにアーデルハイドの顔は怒りで染まり射ぬくような視線を向けるが、フードの女は満足したようにフードは高笑いで迎える。
直後、アーデルハイドが動いた。既に強化魔法の重ね掛けによる限界突破まで使用した身体能力はそこらのSランクハンターを凌駕できるほどだ。
アーデルハイドは地を蹴り、壁を利用して三角蹴りのような起動でフードの女へと一瞬で近づいた。
そしてそのまま刃を振るう。だが、正確に捉えた刃はフードの女が掌をアーデルハイドに向けただけで止まってしまう。フードの女が魔法壁を作って防いだのだ。
刃と魔法壁がぶつかり、生まれた衝撃は相手の白いフードを揺らした。
「そう言えば名乗っていませんでしたね。私はホワイトディザスターのリーダーを勤めさせていただいております。アストルと申します。お見知り置きを」
名乗りと同時にフードが捲れると綺麗目な女性が姿を見せた。
だが、大地達は最初の山を超え終わっていて次に連なっている山の中を探索していた。
「この山に隠れ家が有るらしい」
リリアやグラネスはハンターであり山を一つ超える程度は問題ない。アーデルハイドやクルスも何故か問題なく山を歩いていた。フルネールやレヴィア、ナルは人外なので気にする方が無駄である。――人外って人聞き悪いですよーー!!
「ぜぇ……ぜぇ……おまえ……ら、歩くの……早すぎるだろ……」
この中で唯一息を乱して着いてきたのがバージルと言う男だ。ホワイトキングダムの牢屋にいれられていて、一度牢屋に入った大地は言葉を交わしたことがある。なんでも結構大きめな盗賊団の頭領らしい。
牢屋からでたあと大地は一度この男に会いに行く……つもりがすっかり忘れていたのだ。山を登り始める前にアーデルハイドが連れてきた時に存在を思い出したぐらいである。
「体力ねぇな。盗賊団の頭だったんだろ?」
大地の煽りにバージルは息継ぎしながら答えた。
「ふざ……けろ……ずっと牢屋……入れられて、体力……つくかよ!」
アーデルハイドがバージルを連れてきた理由は単純明快で隠れ家を見つけさせるためだ。「盗賊団の頭領なら容易いだろ?」と言うことだ。因みにバージルが断ると言う選択肢はなかった。
何せこの探索はアーデルハイドが行う亡くなった親衛隊達の弔い合戦だからだ。なので目がマジのアーデルハイドに「私の役に立ちたいか、それとも死にたいか選べ」と言う交渉を持ちかけられたら付き従うしかないのだ。
一応第三の選択肢でアーデルハイドを出し抜く、又は襲って逃げるの選択肢は思い付いていたものの、もしそれを選んでいたら強化+限界突破の魔法で首は簡単に落ちていただろう。
「ふむ、それならこれを飲め」
アーデルハイドが赤い液体の入った瓶をバージルへと渡す。もちろんこれはヤバめの液体ではない。このドリンクは疲労を回復する体力モドリンクという飲み物でハンターは重宝する代物でもある。
「王女さんはこんなものまで用意するんだな」
一息に飲み干したバージルは息が整ってきたことで体力が戻ってきたことを実感し、空き瓶をその辺へ投げ捨てた。
「あー!ダメですよ。その辺に捨てては……」
それをリリアが怒った事を言いつつも呆れながら空き瓶を拾う。
「聖女様は立派だな。物なんてその辺のモンスターが食うだろうに」
「ダメですよ!それはそれで危ないんです!」
「もう!」と少しだけぼやくリリアがゴミを袋にいれるのを横目で見ながら大地がバージルに話しかける。
「それにしても脱獄はしなかったんだな」
「まぁアンタが処刑にならなかったことを兵士から聞いたからな」
いつか顔を見せに行こうと思っていたのをガチで忘れていたのだが、何だかんだで約束を守る当たりは盗賊だけど根は悪いやつじゃないのだろうか。
「だけど、あんたとの約束のせいで山の中へハイキングだぞ」
どうしてくれるんだ?と言った意思が込められた視線を大地は受けるが気にした素振り無く言う。
「たまには外の空気を吸うのも悪くないだろ?」
「牢屋の中よりはマシってだけだ……と。全員止まってくれ」
バージルが何かを見つけたのか足を止めて山の木々と近くの崖のような岩壁を見渡す。それから膝を折って屈み草木や砂利の多い地面を調べるように触れる。
「人が来た痕跡か……やはり、この壁がそれっぽいな」
一人納得しながバージルは頷く。
「この壁に何かあるのか?」
クルスがバージルに近づいて壁をまじまじと見ながらそう聞いた。
「恐らくここが探している隠れ家に繋がる場所だろう」
ただの岩にしか見えず、興味をもったナルが手を伸ばそうとした。
「触ったらダメですよナルちゃん」
だが、寸でのところでフルネールがナルを抱え込むとその場から少しはなれる。その様子を見てバージルは安堵した。
「わからないように幻覚の魔法で扉が隠されていて、しかも厄介な事に触れたら発動する罠まであるな」
「見ただけでわかるものなのか?」
「コツがあるんだよ。もっとも妖精とか魔力を直接視る事ができるならもっとわかりやすいんだけどな」
その言葉を聞いてリリアは試しに集中する。しだいに空中に今まで見えてなかったキラキラする光が視界に映ってくる。そしてそのまま岩壁へと視線を向ける。
大気中に漂う光よりも少しくすんだ光が岩壁の縁に沿って刻まれている。さらに岩壁の中心にはくすんだ光が三重の円で刻まれている。その様子からピンときたリリアはバージルに問いかける。
「罠って三つですか?」
「ん?少し待て。魔法で調べるからよ」
バージルが岩壁に手をかざすと目の前に魔方陣を作り出す。
「バージル。お前魔法使えたんだな」
「これがなきゃ盗賊団なんてやってねぇよ!」
笑いながら言うがクルスやアーデルハイドからしたら『盗賊団なんて有ってもやるなよ』と思いつつ覚めた視線を送る。
「確かに罠は三種類あるな。よくわかったな……」
「解除出来るのか?」
アーデルハイドの心配を他所にバージルは「あったりめぇよ!」と威勢良く返す。
「ま、こんな魔法なくても世界のどこかにあるどんな扉でも開けられる魔道具があれば一発なんだけどな」
「へぇ。そんな魔道具があるのか」
「ああ。鍵だろうと魔法だろうと。閉じられた扉を開けられるらしい。ただ、魔力を込めれば大きさは自由に変えられるらしいから誰も見たことがない伝説の魔道具らしいぜ?」
「魔道具の伝説ねぇ。信憑性あるのか?」
「さあな?俺も伝え聞いた口だから信憑性については正直わからねぇ……が、そう言うのは信じてこそロマンじゃないか?」
「そうだな。無粋なことを聞いた」
バージルの答えに納得しつつもやはり伝説の域はでないだろうと大地は考える。
そんな魔道具があればどの家にも入り放題、てなもんだから悪目立ちは避けられないだろう。それが無くて話だけ伝わると言うのであれば誰かの願望が伝わったんじゃないか?ま、有るかわからない物を信じるのが賊としてのロマンなんだろうな。
「よし、開いたぞ」
バージルの声と同時に今まで岩壁だったものが霧が晴れるよう消え去り隠されていた鉄の扉が姿を表した。
「この先で宝玉が作られているんだな」
全員が中にはいり階段を下りながらアーデルハイドがそう呟いた。まるで秘密の研究所に繋がる坑道の道ような作りに緊張感が走る。
階段が終わると長い通路が待ち受けていた。その先頭を歩くのは大地とフルネールだ。フルネールに光の魔法で奥を照らしてもらっていて何かあれば大地が対処する布陣である。
「リリア。そう怒らないでくれ」
「怒っていません」
クルスの言葉に素っ気なくリリアは答える。
それはリリアがフルネールの立ち位置を立候補したが、いくら大地の近くとはいえ危険すぎるとすぐに止められてしまいやや不貞腐れているのだ。
そんなリリアを見てクルスもアーデルハイドも『ずいぶんとわがままが言えるようになったんだな』と思う。嬉しくもあるけど困りもすると言うのが本音だ。
「緊張感ねぇな。いつ罠が降ってくるかわからないんだぞ?」
バージルが呆れていると大地が目の前に木の扉を見つけた。ここまで一本道だったことから必ずここは通っているはずなのた。
「開けるぞ」
全員が頷くと大地は扉に手を掛けて開いた。そしてそのまま中に入るとひとつの部屋にでる。地面には魔方陣が中央に大きく描かれていた。
また、入ってきた逆側の壁にはどこに繋がっているのか検討もつかない通路があるが、やはりいま気になるのはこの魔方陣だ。
「これは……?」
「ダイチさん。触らないでください!」
魔方陣に近寄る大地をリリアが止める。その言葉にしたがって大地が数歩下がるとリリアは部屋の魔方陣を注意深く見る。
「この魔方陣は……危険です」
リリアがそう呟くと同時に逆側の通路から足音が聞こえてきた。それも二人分だ。
クルスとアーデルハイドは剣、グラネスは大剣を構え、通路奥の暗闇からやってくる人影を注視する。
「困りましたね。招待していない人に入ってこられるのは……」
女性の声と共に部屋に入ってきた人物は真っ白いフードつきのマントで姿を隠していた。そのフードの額部分には青色で炎の模様が描かれている。
「お前は何者だ?そのフードをとって顔を見せてみろ」
大地がそう言うとクスクスとフードの奥で笑い出した。
「ふふ。まさかこんな人が多い部屋で脱ぐように言われたのは初めてです」
恥じらうような艶のある言い方でドキッとしつつも声を荒げて大地は反発する。
「フードのことだっつうの!!」
「ええ。フードのことですよ?」
達人は数度手合わせをしただけで相手の力量がわかるという。それは大地も同じだった。再びフードの奥でクスクスと笑っているこの女に口では叶わなそうだということだ。
「それより、もう一人いるんだろう?出てきたらどうだ?」
クルスが通路の奥にいるであろう人物を見定めながら言う。すると何か金属が擦れるジャラという音が聞こえてきた。
「そうですね。ほら。出てきてください」
以外にも同意したのは目の前のフードの女だった。その手をみると鎖が握られていて引っ張っていた。どこに繋がってるのかと目で追うと通路の方へと続いている。
「……」
何も声を出さないその男はフラフラとした足取りで部屋へとはいってくる。痩せこけたような容姿で、小説や漫画などで出てくる奴隷と言えばこの服というようなノースリーブの裾が長い服をみずぼらしく着ていた。
どこかでみたことがあるような気がする。
大地が思い出そうとしているなか、入ってきた男の姿を見たクルスやアーデルハイド、そしてグラネスが動揺していた。
「なぜ、ここに……」
部屋に入ってきたのは元貴族であり、名前は……。
「アルグニール!?」
アーデルハイドの驚きながら叫んでいた。
あー、そんな名前だ。紅茶のような奴。
あんな小汚ない人を呼ぶのに紅茶の前を出さないでください。紅茶が可愛そうですよ。
何時にも増して辛辣な言葉を並べるフルネールには触れず、リリエッタを救い出すときに壊滅した貴族の名前がわかって少しスッキリとした。
「何故貴様は生きているんだ?あの日、処刑したはずだ!」
奴隷を扱う人間はその人がどうなろうと国は関与しない方針だ。それが貴族であれ国の中であれば全てに適用されるらしい。
「やっぱり……そうしていたのですね」
薄々気づいていたらしいリリアが悲しそうに呟いた。どうやらリリアには隠していたことらしい。
「リリア……こう言うことも必要なんだ。アルグニールは多くの奴隷を連れ去って殺していたんだ」
「はい……わかってます……」
クルスが諭すように言うのに対してリリアは気落ちしながらも頷く。リリアとてホワイトキングダムの王女だ。奴隷を従える人の末路はわかっているつもりである。
「……それで、処刑された人間がどうしてここにいるのかって聞いたら答えてくれるのか?……って言うかアルグニールのほうはなんか様子が変じゃないか?」
大地がフードの女とアルグニールを交互に見た後、一向にしゃべる気配がないアルグニールに違和感を覚えた。見た目は痩せこけただけだが目には精気というものが欠如しているようにも思える。
「処刑される前に魔法で作ったアルグニールと予め入れ換えたからです」
以外にもフードの女は答えてくる。
「魔法で作った……?あり得ない嘘を突くな!魔法で偽物を作っても鑑定魔法ですり変わったことがわかるはずだ!」
クルスがフードの女にいきり立てながらそういった。だが奴はまたもやフードの奥でクスクスと笑う。
「パンドラの魔力を用いた魔法なれば容易いことなのですよ。さらに奴隷とそこの魔方陣を使えば神魔の宝玉をつくれるんです。素敵だと思いませんか?」
「パンドラの魔力?奴隷?……まさか……」
クルスの瞳に動揺と怒りが見え、フードの女は見えないフードの奥で口許をつり上がらせた。
「貴様!アルグニールにパンドラの魔力を使わせて奴隷の命から神魔の宝玉を作らせていたな!?」
その答えにたどり着いたクルスに対して嘲笑するように笑う。
「ふふ。奴隷にパンドラの魔力を使わせて別の奴隷の魂を使って宝玉を作り、パンドラの魔力を使って廃人になった奴隷をまた別の奴隷にパンドラの魔力を突かせて廃人となった奴隷の魂で宝玉を作る。そうやって循環させて神魔の宝玉を作り続ける場所なのですよ。ここは!アルグニールは失態した為、ここを潰す事になりましたので廃人になってもらいましたが……。因みにこの先を進むとホワイトキングダムの南にある森に出るので死体処理には便利だったんですけどね」
アストルが楽しそうに言い終わると今まで静かだったアーデルハイドが口を開いた。
「――貴様が外道と言うことはわかった。ひとつ教えてくれ……お前が神魔の宝玉を使って南の森にクラスターモンキーを解き放ったのか?」
「もちろん私ですよ。王女サマ」
完全に相手が誰だかしった上での挑発だ。すぐにアーデルハイドの顔は怒りで染まり射ぬくような視線を向けるが、フードの女は満足したようにフードは高笑いで迎える。
直後、アーデルハイドが動いた。既に強化魔法の重ね掛けによる限界突破まで使用した身体能力はそこらのSランクハンターを凌駕できるほどだ。
アーデルハイドは地を蹴り、壁を利用して三角蹴りのような起動でフードの女へと一瞬で近づいた。
そしてそのまま刃を振るう。だが、正確に捉えた刃はフードの女が掌をアーデルハイドに向けただけで止まってしまう。フードの女が魔法壁を作って防いだのだ。
刃と魔法壁がぶつかり、生まれた衝撃は相手の白いフードを揺らした。
「そう言えば名乗っていませんでしたね。私はホワイトディザスターのリーダーを勤めさせていただいております。アストルと申します。お見知り置きを」
名乗りと同時にフードが捲れると綺麗目な女性が姿を見せた。
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