初めての異世界転生

藤井 サトル

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神魔の宝玉

たまには普段着ない服って着てみたくなるよね

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「遅いわよ!ウォーラビットを5体倒してくるのに何でこんなに時間がかかるのよ!?」

 フルネールとの話を区切りつけた後、急いで追加3体のモンスターを倒して数の体裁は整えた。

 それでもレヴィアの眉尻が上がるほどには結構な時間だった。レヴィアが作った氷の檻の中にはナルが捕えた魚が入れられており、レヴィアとナルは服を着て待っていたのだ。もっともナルの着ている物はマント一枚なので服とはいいがたいものがあるけれど。

 レヴィアはナルから「お腹空いたね」という言葉が聞こえてくると「もう少ししたら大地達が戻ってくるから、そうしたらお肉とお魚食べられるわ。だからもう少し待ってちょうだい」と宥めて過ごし、1時間して帰ってきた二人にレヴィアが怒っているということなのだ。

 何時も滝へ飛び込む時にしきり代わりにしている大岩の上に立ったレヴィアが大地とフルネールへ問いただす。

「え、えーと、モンスターがなかなか見つからなくてな」

「そ、そうなんですよレヴィアちゃん。ウォーラビットが隠れるのお上手で」

 見つからないなら仕方がないよなと言ったようすで弁明を図る二人にレヴィアは更に眉尻をあげる。

「ナルがどれくらい我慢していたと思ってるのよ」

 そんなナルは少しはなれたところでレヴィアと大地とフルネールを見守っていたが自分のお腹が鳴ってお腹が減っていることを再認識したナルはレヴィアへと近付いていく。

「レヴィアおねえちゃん。ナルはだいじょうぶだよ?」

 そう健気に言うのだが、ナルの本意はどちらかというと「だから早くご飯食べたい」である。

 それをレヴィアはナルの瞳から完璧に読み取ったことでレヴィアは自身がから回っていたのかと少しだけ苦い顔をした。もっとも大地もフルネールもナルの本意を読み取る事は出来ていなかったために二人して「ごめんな。直ぐにご飯にしような!」と慌ててご飯の用意を始めたのだった。


 いつもの日常が終わり、大地達が森からホワイトキングダムに戻るが今日は色々話込んだ事もあり何時もより国の中へ入るのが遅くなってしまった。それ故にいつもよりも人の行き交いが多く喧騒の中を進む。

「ナルちゃんの衣服を取りに行きましょうか」

 朝の時間だろうと人が増えてきているこの時間帯ではナルの姿は人目を引いてしまう。可愛らしい女の子という点ではそれも致し方なし……と言いたいところなのだが、実情は狐の耳や尻尾の他にマント一枚というまるで『奴隷を引き連れている』様に見える格好のせいだ。

 だからこそ、フルネールの提案には大賛成であり彼女を先頭にその服屋へと直行した。ついた服屋は大地も何度か来たことがある場所だ。フルネールが入りそれに続いて大地、レヴィアと入っていく。ナルは少しだけ戸惑いもしたが同じように店内へと足を踏み入れる。

 店の主が愛想よく出迎えてくれた。前と変わらず色んな服があるのはいいんだが、前よりも品ぞろえがかなり増えている気がする。いや、服屋だから品ぞろえが増えるのは当たり前と言えばそうなんだが……しいて言えば大地の居た世界で見かけた服がちらほら見かけるのだ。

 例えば……白地の半袖で袖と襟が青く縁どられ、襟に沿う様にリボンを結んだセーラー服だったり、赤地だが上衣とスカートが一体になっているワンピースのようだが袖や裾が白い綿のようなものを付けられているサンタ服だったり、全体的に黒い生地でこちらもワンピースのような造りだが胸元がハート型に空いていてコウモリの羽が生えている小悪魔のような服だったり、ナルが魔法で作り上げていた巫女服のようなものがある。

 もちろんコーナーの一角で全体的にそういう服ばかりと言うわけではないが目についてしまう。

 どうですか大地さん。立派なお店になったでしょう?

 なぁフルネール。

 はい?

 おまえまさか……。

 そうです!こっそりここの店主にお告げしておいたんですよ!

 お告げ便利だな!

 はい!

 はいじゃないが……!?

「ごしゅじんさま~?どうですか?」

 魔法で作り上げていた服と寸分たがわない巫女服を纏ったナルが大地の前までやってきてそう聞いてきた。両手を広げるしぐさも可愛いが……狐耳に狐の尻尾の女の子が巫女服を着てるのは……グッとくるものがあるな。

「ああ。可愛いぞ!」

 大地が頭を撫でると「えへへ」と嬉しそうに笑う。そう言えばレヴィアの時も服を褒めると嬉しそうにしていたなと思い出した。

 もう、ナルちゃんが聞く前に大地さんから褒めないとダメですよ。

 え、ええ……。そのダメだしいるか?

 いりますよ!必要です!もっともっと女の子の機微を察しないとダメなんです。女の子によっては言い出せない子もいるんですからね!

 で、でもよ、フルネールが話しかけてきたから俺から話しかけるタイミング逃したんどけど……。

 …………えへ。

 誤魔化すなよ!

 ところで大地さん?

 ……たく。それでなんだ?

 私からも聞きますがナルちゃん可愛いですよね?

 ああ、そうだな。

 その服を選んだの……もっと言えば作るようにお告げしたの私何ですよ~?

 まぁ……フルネールくらいしかできないからな。

 でしょう?なら、ほら、わかりませんか?

 ……まあその、よくやった。

 言葉だけじゃ足りませんよ~?

 言葉だけでは甘えているように聞こえるかもしれないが、その実、ニヤニヤした笑みを向けて来ているフルネールはからかっているのだ。しかし、ここでなにもしないとエスカレートしていくだろう。主に大地が不利になる方向で……。

 でも、レヴィアの時もナルの時もナイスな服選びであることもそうなのだ。そしてもう一つ、これからすることでフルネールが可愛らしい笑顔を向けてくれる事がわかっているからこそ行動に移すのもやぶさかではないのだ。

 大地は手を手を伸ばしていく。その向かう先はフルネールの頭である。何者にも拒まれないその動きはフルネールも受け入れる様にただただ待つ。

 大地は自身の手がフルネールの頭に触れるとゆっくりと撫でる。するとわかっていた未来が確定されたかのようにフルネールは嬉しそうな表情をする。

 その様子を不思議そうにナルが見つめてきた。そこに声をかけようとした時だった。少し離れたところから声が聞こえてきた。

「リリ……様、今度は……を着…………さい」

「メリナさ…………は……ちょっと……」

「大丈夫……よ。私……か居な…………から」

「そ…うで……か?」

 聞き覚えのある声が少しだけ聞こえてきた。恐らくリリアとグラネスの妻のメリナだろうとあたりをつける。しかし、王族と貴族が来るような店ではないのに居るものだから大地は珍しがって声が聞こえてきた方向へ歩いていった。

「やっぱりメリナさんだな」

「あら?大地さんにフルネールさん。レヴィアちゃんに……」

 メリナの視線がナルを捉える。レヴィアより年上のようだがリリアよりも幼いといった印象を受けた。しかし、容姿はリリアの前例があるからこう見えても歳はそれなりの可能性を見いだした。

「大地さんは……連れ歩く女性を増やすのがお好きなんですね」

「そんなことあるか!」

「ですが、モンスターと複数契約してますし……それも女の子の……」

 弁明を図ろうとした時だった。近くの試着室から声が聞こえると同時にカーテンが動く兆しを見せた。

「メリナさん。着てみ――」

「あ。リリア様!開けてはダメです!!」

 メリナの止めにかかる声は無情にも意味をなさず、大地が近くにいると知らずにリリアはそのカーテンを開いた。

「……リリア?」

 大地とリリアの目と目が合う。だがすぐに大地は視線を下げてリリアの服装へと着目した。

 その出で立ちは何時もの聖女の服とは大きく違っていた。それは服屋の試着室にいることから予想はできるものの、予想外なのはリリアが着ていたものだ。

 裸の露出が普段と比べてかなり多い。普段の聖女の服の装甲度合いが100%カットとするならば、今現在の装甲度合いは20%くらいだろう。ただ、白地であるところからリリアらしさは出しているとも言える。

「きゃーーー!!!」

 リリアがすぐさまカーテンの中へ入ってしまった。そしてすぐに聞こえてくるのは彼女の泣く声だ。

「ダイチさんにこんな姿見られちゃいました……きっと幻滅されちゃいました……」

 悲しみに染まった声がカーテンから漏れ出てくる。それを聞いたメリナが慌てて弁明を図る。

「リリア様!大丈夫です!ダイチさんはそんな簡単に人を見限る人じゃないはずですから!」

 と言うがリリアは「大丈夫じゃありません!こ、こんな面積が全然ない服を着てて……」と更に声も沈んでいく。

 そこでメリナが威圧感を乗せたアイコンタクトを送ってくる。「なんとかして」この言葉を秘められているのは一目瞭然だ。

「あー。リリア?」

「うぅ……ダイチさん。ふ、普段からこのような服を着ているわけではないんです……」

 言い訳をするようにリリアはカーテン越しに言うがその声はやはり暗いものだ。

「わかってるさ」

「……わ、私がこのような服を着てて……はしたなくてごめんなさい」

「いや、良いんじゃないか?に、似合ってて可愛いぞ」

 先ほどのフルネールとのおさらいだ。リリアはきっと自分から褒めてと言い出せない女の子なのだろう。そう考えた故にくちにした。

「こここ、こんなに肌を出しててはしたないのにそんなわけないじゃないですか!!」

 だけど返ってきた言葉はむしろ怒ってもいるようだ。こうなっては大地はリリアの意思を汲み取るのは無理である。だからこそ最終手段である神頼みお願いフルネールをすることにした。

 どうしたらいい?

 やっぱり大地さんはまだまだですね。わかりました。私の言う通りに言ってくださいね?

 フルネールは頼りになる。だが、リリアが風邪を引いた時にとんでもないことを代弁させられたこともある為に恐怖も感じざるをえない。

「あ、あー。リリア」

「……何ですか」

 大地が適当に言ったと思ったのかリリアの声はやや不機嫌さも増してる。きっと彼女の中で色んな感情が混ざってるのだろう。

「俺ははしたないなんて思ってないし、さっき言った事は心から思ってるよ」

「でも!おヘソだって見えちゃってますし……こんな服を着る人なんて……」

「それがいっぱいいるんだよ……それに」

 と言ったところで次のお告げを口に出すのをためらいフルネールへと振り向く。だが、フルネールは親指を立てて『GO!』とジェスチャーをしてくる。

「お、俺もそういうのを見るのは好きなんだ……」

 と、口に出して言った。そのおかげでとなりの女性メリナからくる視線が痛い。そして、少なからず本心も混ざってる言葉だから罪悪感も少々。

「え……」

 リリアの驚いたような声は今の罪悪感からか少し引いているような気がしてならない。

「だって……こんな服を着ている人は見たことが……」

「海の近くじゃないと着ないから。水着って……」

「「水着?」」

 リリアだけじゃなくとなりのメリナからも同じような疑問が聞こえてきた。

「……ん?フルネール、リリアが着ていたのって水着だよな?」

「ええ。そうですね」

 このやり取り自作自演が凄くない?

 良いじゃないですか。今大事なのがリリアちゃんの着ているビキニはちゃんとしたところで着るものですよっというお話をするのが大事なんですから。

 少しだけカーテンが動いてリリアが顔だけ出してきた。

「リリアちゃんもメリナさんも水着って知らないんですね」

「水着って何ですか?」

「海で着る衣服ですよ」

 そう答えるフルネールにメリナはぼそりと「踊り子が着る服じゃなかったのね……」と呟く。

「因みに……」

 メリナの呟きを無視したフルネールがリリアの耳へ顔を近づけて内緒話のように言う。

「大地さんのいた世界にあったものですよ」

「ダイチさんの?」

「はい。でも、心構えなしでは恥ずかしかったですよね。ちょっとお邪魔しますね」

「ふ、フルネールさん!?」

 フルネールがリリアを試着室の中へ押し込めると同時に自分も入っていく。こうなると大地やメリナはカーテン越しの声しか聞くことは出来ない。

「リリアちゃんは大地さんに見せたい服を買いに着たんですね」

「あ、いや、そのぉ……」

「それなら水着もいいですが、普段使いならきっとこっちの服が良いですよ」

「きゃっ。フルネールさんいきなり脱がさないでください」

「はい。こちらを来てください。……うん、良いですね。あ、見せるときは少しだけスカートをヒラヒラさせた方が大地さんは喜びますよ」

 二人の声によってある程度のやり取りは察しがつく。なのだけれど、最後のフルネールのアドバイスによって再びメリナが少しのジト目を帯びて見てくるのを横目で受け流す。

「それじゃあ開けますよ」

「は、はい!」

 シャー。とカーテンが揺れ動きリリアを隠していた布が一ヶ所に纏められていく。そこで姿を表したのは先ほどの布面積とは遥かに違った。ワンピースのような上衣とスカートが一体化した服だ。

 リリア自身が体を少しだけ動かしてスカートを揺らした。スカートの揺れ動く時間は1秒にも満たないが女の子相応の笑顔を見せるリリアの姿は一枚絵のような綺麗さを大地の中に残した。

 すぐにハッと気づいた大地は先刻のおさらいPart2だと言わんばかりに口を開いた。

「その服も似合ってるな」

 今度は嬉しそうにお礼を言ってくると思っていた大地はだが、またしても予想していた反応が外れる。

「あ、ありがとうございます」

 顔を赤くしてもじもじさせながら答えると、直ぐにフルネールを試着室から追い出してカーテンを一気に閉めた。

「じゃ、じゃあ何時もの服にも、戻りますから!」

 と勢いよく宣言するのであった。
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