初めての異世界転生

藤井 サトル

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神魔の宝玉

誤った選択は時として崩壊を招くもの

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 無敗の王国ホワイトキングダムの南には森がある。昨夜に行ったばかりの場所だが大地達はこの場所へほぼ毎日通っているのだ。

 果物や木の実、山菜やモンスターの肉と森の恵みが充実しているというのもあるが、この森には大地やフルネールにとって必要不可欠のスポットがある。


 それは滝である。


 生きるためには水が必要だ。しかし、目的は飲み水確保ではない。汗を流して清潔さを保つためだ。それは何故?と聞かれれば大地ならこう答えるだろう。

「女性から言われるきつい言葉で体臭関係はガチへこみランキングトップ3に入るから」

 そんなわけで大地達は今、南の森の滝がある場所へと訪れていた。因みにギルド前から動こうとした時にギルドから出てきたユーナに声をかけられて昨日の報酬も貰えた。

 変わらぬ何時もの日常。
 それを満喫するというのは心の平穏を保つ重要なファクターだ。もっとも一つだけ変化したことがある。

 それは今日からナルが加わった事だ。彼女は滝を見るや否やいきなり飛び込もうとした。けれど、その行動を読みきっていたレヴィアが腕を捕まえてそれを阻止に成功する。

 そして引きずられるように大地とフルネール達とを区切る岩影へとナルを連れていった。そこからはフルネールが何とか説明をして、完全な裸になったナルの体を魔法の黒い板で視覚情報をしっかりと遮断してくれた。

 そんなこんなで水浴びをしている時だった。ナルが大地に近づいて言うのだ。

「ごしゅじんさまー!これつかまえたよ!」

 そう言ってくるナルの手元に目を向けるとその手の中には一匹の魚が捕まえられていた。ここの滝はたまった水が溢れて川へと流れていく。そのように水が流れて水質を保っているので魚がいてもおかしくないのだが……これまで一度も見かけなかった。

 予想するにこの滝に着た時は基本的に騒がしくしていたからこそ警戒されて隠れられていたのかもしれない。それをナルは見つけて捕えたのだ。

「おお!よくやった!」

 何時もの朝食は山菜とモンスターの肉だ。ナルが加わった分も考えて多めに集めるつもりでいたが、まさか別方向で食材が増えるとは思わず大地は笑顔でナルの頭を撫でた。

「レヴィア、ちょっと来てくれるか?」

 ナルの頭から手を離してレヴィアを呼びつけると、彼女は「どうしたの?」と大地とナルの近くへやってきた。

「ナルが魚を捕まえてな」

 レヴィアがナルの手の中にある魚に目をやると嬉しそうに口を開いた。

「凄いじゃない!」

 そう褒めるとナルは「えへへ」とこちらも嬉しそうに笑う。その二人の微笑ましい姿を見ていたかったがレヴィアへ本題に入る。

「レヴィア。この魚を入れられる氷の箱を魔法で作れるか?」

「ええ。お安いご用よ」

 二つ返事で頷くとレヴィアは滝から上がって氷の箱を作り上げ、ナルがその中へ魚を入れる。

「ナル。あと3匹ほど捕まえられるか?」

 そう聞くとナルは元気よく「はい!」と答える。朝から元気いっぱいな彼女なら難なくこなすだろう。

「レヴィア。ナルについてやっててくれ」

「わかったわ」

 これで何かあっても大丈夫だろう。さて俺は……。

 大地は水浴びから上がり、焚き火の近くで乾かしていた洗った服に着替える。

「それじゃあ行きましょうか大地さん。今日は一緒に行動しましょう」

「うわっ!?」

 まだ水浴びしていると思っていたフルネールがいつのまにかに服を着て真横にたっていたもんだから驚きの声を上げてしまった。

「……ゆっくり水浴びしていてもいいんだぞ?」

「あら?そんなに私の裸が見たいんですか?」

「ちゃうわい!……だいたい魔法で見えなくしてるだろ」

 顔を赤くしながら言う自分ではまたからかわれると思い、大地は顔をそらしながら体の向きを森の奥へと向ける。

「それより、今日は一緒なのか?」

「はい。……大地さんにお話ししたい事が有りますし」

 フルネールが真面目な顔で言ってくる。その雰囲気は場の空気が引き締められるように感じられ、大事な話をこれからする。そういう印象を与えてくる。

「そうか」

 どんな話が飛び出すのかやや不安を感じながら大地はフルネールと共にモンスターを探しに森の中へ足を踏み入れる。

「ところで大地さん」

「ん?」

 もう話すのか?そう思って大地は顔を向けるがフルネールの雰囲気が先程とは違って何時もの感じがした。

「いえね、こうして仲間をおいて森の中に二人だけで入って行くのって……二人でイケナイことをするように見えますね!」

 いきなりの言葉に「ゲホッゲホッ」とむせた大地をフルネールが「大丈夫ですか?」と優しく背中をさする。

「いきなり変なこと言うなよ……」

「身構えていたように見えたので、ごめんなさい」

 と謝る割には「ふふ」と面白そうに笑うのだ。

「お話はモンスターの狩り中でも大丈夫ですから、まずは行きましょう」

 そう言ってフルネールが先頭きって森の奥へとは行っていく。その後を追う形で大地も奥へと入って行った。


 ウサギのモンスター。名を『ウォーラビット』と言ってギルドからでる討伐依頼の対象となる。長い爪を武器にすばしっこい特性を持って襲いかかってくる危険性があるが、南の森で初めてモンスターと戦うならこのモンスターだと言われている。ただし、その場合は必ず複数人でのパーティを組むことを強く推奨されている。

 だが、大地にとっては何度も倒しているモンスターであり、この程度のモンスターなら素手でも倒せるだろう。

 むしろ、無駄な損傷を抑える為には派手な武器は使用しない方が良いまである。なにせこのモンスターの肉は食えるからだ。

 鶏肉のように淡白な味わいだろうと金がない大地達にとっては超重要で、例え調味料を買えていなくても必要なのだ。

 因みに素手で倒せると言っても基本はハンドガンからのヘッドショットで即死による狩りが基本だ。損傷も少なく危険も少ない。複数体現れても問題なく仕留められるのだ。

「今日はなかなか現れないな」

 2匹のモンスターを仕留めた後、めっきり姿を現さず森の中を見回すが何かが動く気配を感じられない。そんな風に大地は獲物を探しているが、いつ話が始まるのかとしびれをきらしてしまい大地から先にフルネールへ声をかけた。

「……なぁ。カイは特別なのか?」

 昨日、フルネールがカイを鼓舞する為に言っていた言葉を聞いてみることにした。

「え?ええ、そうですね。カイさんは結構な血筋の子孫ですよ」

 血筋……漫画の主人公には必要不可欠なあれか。

「結構なって……例えば王族とか?」

 冗談混じりに大地は言うがフルネールが意外そうな顔して言った。

「あら、よくわかりましたね。カイさんは間違いなく王族の子孫ですよ」

「まじかよ!?っていうことはあいつは王子なのか?」

「はい。ただ、その王国も遠い昔に滅んでいますし、本人も自分の先祖が王族なんて知らないでしょうけど」

 自分だけが知っている事が寂しいからか、ちょっとつまらなさそうにフルネールは教えてくれる。

「自分の先祖の事なんて知りようがないしな。しっかし、そのカイの先祖が世界に愛されているような奴だったのか?」

「海の王国に住む王族の子孫が空の国に行って、空の国の王族と結ばれた後、その子孫が地下の王国に行って、そこの王族と結ばれて出来た子の子孫なんですよね」

 アイツは王族のサラブレッドかよ……。

「やっぱり遠い昔の話か?」

「はい。ホワイトキングダムが作られる前からの話ですよ。カイさんの遠い遠い先祖の話です」

「しかし、物語の主人公みたいな血筋なんだな」

 平凡な自分と比べるとなんとも言えず、少し羨ましく思っている大地にフルネールは楽しそう近付くと頭に手を乗せて動かす。

「まぁまぁ。大地さんはこの女神に愛されているんですからひがまないでください」

「そんなに僻んでねえよ」

 良い子良い子と、後ろから頭を撫でてくる女神に大地はやや恥ずかしさを覚えるが振り払うことはせず少しだけ身を任せる。

 そしてフルネールが撫で終えて手を止めると表情を真面目なそれへと一変させ――。

「大地さん」

 と、少しだけ重い口調でそう名前を呼ぶ。

 ついに来た。大地はそう思った。彼女が再び口を開くのを待つが周りの自然の音が何時もよりいっそう大きく聞こえる程、自分が緊張しているのだと理解する。

「私のお話を聞いてもらえますか?」

「ああ。何を俺に話したかったんだ?」

 大地がそう聞くと再び少しの間が空く。神の威光を目の当たりにしているような雰囲気に飲まれていく。もしかしたらあえて間を空けているのかもしれない。スピーチで視聴者に自分の声を集中させて聞かせるような……。

「大地さんは私がメガミッターをやっていることは知っていますよね」

「は?……あ、あー何かT○it○er見たいな奴だっけか?」

 予想外な出だしで困惑の立て直し&記憶の掘り出しを行いながら答えるとフルネールはゆっくりと頷いた。

「はい。そうです。そして私がリリアちゃんをメインにした小説を書いてるのも覚えてますか?」

「ああ。そう言っていたな……待て、今その話が出てくるってことはお前の話はリリア関係なのか?それともこの世界に関係してくることなのか?」

 大地がそう聞くとフルネールはまた口を閉じたまま大地を凝視する。まるで大地を通して何かを見据えるような……。時間にしては数秒程度だったが、大地の体感で数十秒の時が経った頃、フルネールが口を開いた。

「そうですね。これからの事に深く関わってきてとても重要な話です」

 フルネールは神様だ。その神様が書いた物語と言うのには何かしら意味があってもおかしいわけではない。例えばその書いた内容はフルネールが等であれば今のフルネールの言葉を聞き逃すわけにはいかない。

「わかった。心して聞くよ」

 大地がそう言うとフルネールの表情が少しだけ和らいだ。

「私が書いているリリアちゃんの小説が……炎上しちゃってるんです」

「なるほど……は?炎上?」

 一度頷いてからフルネールが言った言葉を自分の中で噛み砕いて理解したところで思っていた方向性と違っていた為、大地はすっとんきょうな声を上げてからフルネールへアホ面を向けて聞いた。

「ええ。他の女神に中々好評だったんですけど……みなさんがいきなり手のひらを返したように叩き始めたんです」

「そ、それは……何が原因か心当たりはないのか?」

「いえ、ありません。どれもリリアちゃんを可愛く書けていた自信があります」

「そうか……」

 この事が世界にどう関わっているのかわからないけれど、少なくともフルネールが困っているのであれば助けてやりたい。そう思って何か解決策を……と考えているとフルネールは少し他人事のように言った。

「第二章リリアちゃんの幼妻編おさなづまへんの何がいけなかったんでしょうか」

「まて、なんだそれ」

 その言葉からさらに訳のわからない単語がでてきたせいで大地は一度考えるのを止めた。

「何って……第一章で黒幕を倒して堂々完結したので始めた二章ですよ。リリアちゃんが妻としてせっせと働く姿を書きたくて……でも、何故か開始した直後から不評酷評の嵐で」

「そりゃそうだろ!その第一章がどんな終わり方をしたのかは知らないが、少なくともリリアを主人公として書いたんだよな?その主人公をいきなり人妻にして『甲斐甲斐しく動くところをみてください。』なんて言ったら話の方向性が180度変わって読者層が変わるだろうし、今まで読んできた人?神?だってなんだこれ?ってなるだろうよ」

「大地さん……そんなにをオーバーキルして楽しいですか?」

 やや落ち込みながら怨めしそうに言ってくるフルネールを見て『やべ、言いすぎた』と思った大地は焦りながら励ますように言う。

「ま、まぁ炎上なんて時間で収束するだろうからさ」

「いえ、もう小説は非公開にして封鎖しているので……」

「え?それじゃあ話したいことって何だよ……」

 今までの話が全て前フリと知って脱力した大地がそう聞くとフルネールは改めて凛とした表情で大地を見つめる。

「実はですね、リリアちゃんの小説を非公開にしてから別の小説を書こうと思っているんですけれどネタが何一つ思いつかないんです!」

「はぁ?」

 ブワッと涙目になるように表情を一気に崩したフルネールが藁にもすがると言う勢いで大地の腕へ抱きつく。

「何か良い案をください!お願いします!」

「い、いやそんなこと言われても知らねえよ!!」

 そこから逃げだそうとするが、フルネールは逃がさない言わんばかりに抱きついた体を使って引っ張りだす。

「そんなことを言わずに!神を助けると思って!!何か!!!案を!!!!」

「案って言われても!な、なら、身近なことでも書けばいいだろ!!」

 その瞬間、フルネールの腕が離れた。

「うわっ!?」

「あ!そうしましょう!」

 勢い余って地面へ激突するが、それに目も向けないフルネールがナイスアイディアと言うように笑顔で両手を叩いた。

「いたた……これからの事に深く関わるって何だったんだよ」

「私のメガミッターのこれからに関わることなので」

 起き上がりながら不満を呟きながら起き上がる大地にフルネールは手を貸しながらそう言った。

「まったく。俺が見た世界が壊れる夢と関係あるのかと思ったじゃないか……」

 大地がそう何気なく呟くとフルネールから笑顔は消えていて、少し驚いているような表情に変わっていた。

「大地さん。それもう少し教えてくれますか?」

「え?ああ。少し前なんだけどギルド前の大通りに俺がいてどんどん暗闇に覆われていく夢だよ。リリアに話したら何か考え込んでいる見たいだったけど」

 そう言うと、フルネールはリリアと同じように考え込むように下を向く。

「ど、どうしたって言うんだよ」

「確か、リリアちゃんは死んだ人の夢を見ると言っていましたね」

「ん?夢なんて言っていたっけか?」

「あっ!?」

 フルネールが珍しくやってしまったという顔をして目を泳がせる。

「まぁいいや。それで俺の夢とリリアの夢は関係あるのか?」

「それは――」

「嘘はつかないでくれ」

 大地が先制して釘を刺すとフルネールは一度言葉につまってから再び口を動かした。

「大地さんは世界に意思があると言ったら信じますか?」

「な、なんだって!!??」

 大地の驚きようにもう少し深く話したほうが良さそうだと思ったフルネールだが、次の瞬間には大地の表情は別段困惑した様子はなかった。

「……と驚いてみたけど聖女は世界がどうのこうのだったよな?」

「なんでそんな雑な覚え方なんですか!」

「だって興味ないし」

 そんな風にあっけなく言う大地を見て少しだけ気が緩んだフルネールは一つため息を吐き出した。

「もう……」

「それで?夢を見せてるのは世界の意思とやらなのか?」

 世界には意思があり、世界を守るために聖女を産み出した。生み出すと言っても生まれてくる赤子に力を分け与えるようなものだ。そして、聖女が死ぬと数年後に次の聖女が生まれる……と説明しようと考えたのが無に帰して、フルネールは残念そうに言う。

「そうですよ。せっかくちゃんと説明しようと思ったのに……」

「フルネールがあまりにもシリアスよりで話すから……ついな」

「もうもう!大地さんの夢もリリアちゃんの夢も世界からの警告だと思うのに」

「警告……?」

「そうですよ。世界が崩壊する予兆と言い替えてもいいですけど……」

「崩壊か……何とかする方法は?」

「今はありません」

 フルネールは即答する。

「今は……ね。この事はリリアは?」

「全部は知らないと思いますが、ある程度気づいているかもしれませんね」

 途中からずっと落ち着いた様子で言うフルネールに引っ掛かり最後の質問を大地は聞いた。

「フルネール。世界が崩壊すると知っていたのか?」

 その問いにフルネールは作った笑顔で言った。

「秘密です」
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