247 / 281
神魔の宝玉
引き継がれる意思と無力な仲間
しおりを挟む
「えっと……グラネスさん。助けて頂けませんか……?」
遠慮しがちに助けを求めるのは困り顔のリリアだ。基本的にリリアは誰かに助けを求めることが少ない。それは一概に自分の能力、聖女としての力が根本にあり、人を死なせたくないと言う思いから危険を遠ざけ、自分がなんとかできるならそれに越した事はないと言う思想を持っている……いや、持っていたのだ。
『いる』から『いた』の過去形に変わったのはここ最近での出来事の多さによるものだ。自分の力ではどうにもならない事に多く直面し、また、自分が無茶して危険な目に遭えば誰かが助けに無茶してしまう事を知った。
だから、自分の力で何とかできる範疇を越えようとするものに直面したら誰かの手を借りるべきだと自分がずっとしてきた生き方を変え始めたのだ。だからリリアは助けを求めた。長くパートナーを務めてくれるグラネスへと。
しかし、助けを求められたグラネスは店の入り口前で顔を背けて非常な言葉を言いはなった。
「……すまない。妻の暴走は俺でも止められないんだ」
その衝撃的な発言で顔を青ざめさせながらリリアはグラネスの妻、メリナに引っ張られて服屋へと連れていかれる。
もっとも入った服屋はお高い場所ではないが気が利いて、品揃えも豊富で、様々な人が通う質の良い店だ。
「あ、あの。私は一人でも買えるので……」
そうメリナの協力を否定の言葉で抵抗したところで無駄である。
「そんなこと言って、リリア様は服の買い物したことあるんですか?貴族御用達のお店じゃないこういうお店で」
そう言われたリリアは「うっ」と痛いところを突かれて言い返せなくなる。基本的に聖女の服を着て過ごし、パーティーなどがあれば貴族御用達の服屋で適当にドレスを見繕ってもらっている。なので、今回が初の試みとなるのだ。
そもそも、何故メリナに引っ張られるように服屋へと行く事になったのかと言うと……少し前へ時間を遡ることになる。
リリアが自分の宿の扉を開いて出ようとした時だった。
「リリア様。たまには別の御召し物を着てみては如何ですか?」
確りとした丁寧な口調でリリアへそう告げるのは特別にリリアの部屋を整える事が許されている専属メイドのハンナである。
「いえ、私には必要ないですよ」
そうリリアが否定するとハンナは自前の薄い桃色の髪を揺らしながリリアへと近づいた。
「でも、ダイチ様だって色んな服装のリリア様を見たいと思いますよ?」
「え?そ、そんなことは……」
「無いと言いきれますか?」
さらに一歩、リリアを追い詰めるようにハンナは顔を近づけた。その圧力から……と言うわけではないが、ハンナの言葉で思い出されるのはお城のパーティーだった。
聖女の服ではなくパーティー用のドレスを着てテラスで大地と話した時、大地が自分を見ながら言った一言。それを思い出すと顔が熱くなる。
「ほら、リリア様だってダイチ様に褒められたいでしょう?女性はそれが普通なんですから。あ!でも!大衆用の服屋さんに行ってくださいね。そちらの方がダイチ様に見せられる色んな服が有りますからね!」
「は、ハンナさん。私行くとは……!」
リリアが拒もうとした時に別の女性の声が聞こえてきた。
「リリア様?」
その声が知り合いだとわかるのに時間は掛からずリリアは振り向きながら名前を口にした。
「メリナさん?」
片手を振って応えたメリナは隣のグラネスと共にリリアへと近づく。
「どうしたんですか?」
そう最初に聞いたのはリリアからだ。メリナがグラネスと共にここに来るのはなかなか珍しい事なのである。
「クッキーを焼いたんだけどグラネスに持たすの忘れちゃって……」
照れた笑みを浮かべながらメリナは続ける。
「それでグラネスに追い付いたのがこの近くだったから、せっかくだしリリア様の顔を見ていこうかと……。リリア様はどうしたんですか?」
一通り話したメリナがそう聞き返すとリリアが少し困った顔をしながらチラリとハンナを見やった。
「え、えっと、何でも無いですよ~」
大地が認める大根役者っぷりを披露したリリアの言葉をメリナは真に受けるはずがなく、リリアとやり取りしていたと思われるハンナへと視線を移した。
「リリア様の御召し物を増やすようにと勧めておりました」
正しく一礼した後、ハンナは続けて応える。
「リリア様の服装は聖女様としての御召し物しか着られておりませんので、たまには別の服装をして好きな方へ見せてみては……と」
ここまで聞くとメリナは大地の事を思い出す。自分の旦那であるグラネス以外の男性と共に行動することが多いのは彼だけなのだ。そこから『つまり……リリア様はダイチに好意を持っている』と続き『ダイチが何時もと違った服装のリリア様を見れば今よりもっと好意を持つかも?』との考えに至る。
「なるほど……メイドさん」
「は、はい」
貴族であるメリナに呼ばれたハンナは宿屋に守られているとは言え、やはり相手は貴族であるのだから何か粗相をしてしまったのかと内心焦りながら返事をした。
「リリア様の衣服は任せてちょうだい」
しかし、メリナの態度に高圧的なものは無く、むしろ言葉には褒めるような弾んだ声でリリアをの手を引っ張っていた。
「わわ。め、メリナさん?」
急なことで慌てて、さらにバランスを崩しそうになったことで抵抗することが出来なかったリリアは、手を惹かれるままにメリナへと自身の体が傾いてそのままメリナに体を預ける形になってしまった。
「さぁリリア様?服をかいに行きましょう!」
そう言ってメリナは強引にリリアを連れてきたのが今いる服屋なのだ。そして、リリアはグラネスに助けを求めたのだがそれが出来ないと言われてしまったのである。
流石に服屋で無茶をするような事は無いというのが前提にあるからだが、今、メリナの暴走を止めると被害を被るのはグラネスなのだ。
妻を怒らせたら後が恐い。惚れた弱みと言うのもあるが、それはたぶん世界共通の認識だろう。そして自分にとって何が一番恐いかと言うと酒関係に影響があることだ。
以前一度だけ怒らせてしまったことがあり、その結果、家にある全てのお酒が全部甘ったるいシロップのような酒に変えられてしまったのだ。(泣いて詫びたら1ヶ月で許してくれた)
そんなこともあり、今の上機嫌のメリナを止める勇気は出てこない。
「俺は外で待っているので……」
そう言って背を向けたグラネスを見てリリアはやや絶望しながら店の中奥へと連れてかれたのだった。
遠慮しがちに助けを求めるのは困り顔のリリアだ。基本的にリリアは誰かに助けを求めることが少ない。それは一概に自分の能力、聖女としての力が根本にあり、人を死なせたくないと言う思いから危険を遠ざけ、自分がなんとかできるならそれに越した事はないと言う思想を持っている……いや、持っていたのだ。
『いる』から『いた』の過去形に変わったのはここ最近での出来事の多さによるものだ。自分の力ではどうにもならない事に多く直面し、また、自分が無茶して危険な目に遭えば誰かが助けに無茶してしまう事を知った。
だから、自分の力で何とかできる範疇を越えようとするものに直面したら誰かの手を借りるべきだと自分がずっとしてきた生き方を変え始めたのだ。だからリリアは助けを求めた。長くパートナーを務めてくれるグラネスへと。
しかし、助けを求められたグラネスは店の入り口前で顔を背けて非常な言葉を言いはなった。
「……すまない。妻の暴走は俺でも止められないんだ」
その衝撃的な発言で顔を青ざめさせながらリリアはグラネスの妻、メリナに引っ張られて服屋へと連れていかれる。
もっとも入った服屋はお高い場所ではないが気が利いて、品揃えも豊富で、様々な人が通う質の良い店だ。
「あ、あの。私は一人でも買えるので……」
そうメリナの協力を否定の言葉で抵抗したところで無駄である。
「そんなこと言って、リリア様は服の買い物したことあるんですか?貴族御用達のお店じゃないこういうお店で」
そう言われたリリアは「うっ」と痛いところを突かれて言い返せなくなる。基本的に聖女の服を着て過ごし、パーティーなどがあれば貴族御用達の服屋で適当にドレスを見繕ってもらっている。なので、今回が初の試みとなるのだ。
そもそも、何故メリナに引っ張られるように服屋へと行く事になったのかと言うと……少し前へ時間を遡ることになる。
リリアが自分の宿の扉を開いて出ようとした時だった。
「リリア様。たまには別の御召し物を着てみては如何ですか?」
確りとした丁寧な口調でリリアへそう告げるのは特別にリリアの部屋を整える事が許されている専属メイドのハンナである。
「いえ、私には必要ないですよ」
そうリリアが否定するとハンナは自前の薄い桃色の髪を揺らしながリリアへと近づいた。
「でも、ダイチ様だって色んな服装のリリア様を見たいと思いますよ?」
「え?そ、そんなことは……」
「無いと言いきれますか?」
さらに一歩、リリアを追い詰めるようにハンナは顔を近づけた。その圧力から……と言うわけではないが、ハンナの言葉で思い出されるのはお城のパーティーだった。
聖女の服ではなくパーティー用のドレスを着てテラスで大地と話した時、大地が自分を見ながら言った一言。それを思い出すと顔が熱くなる。
「ほら、リリア様だってダイチ様に褒められたいでしょう?女性はそれが普通なんですから。あ!でも!大衆用の服屋さんに行ってくださいね。そちらの方がダイチ様に見せられる色んな服が有りますからね!」
「は、ハンナさん。私行くとは……!」
リリアが拒もうとした時に別の女性の声が聞こえてきた。
「リリア様?」
その声が知り合いだとわかるのに時間は掛からずリリアは振り向きながら名前を口にした。
「メリナさん?」
片手を振って応えたメリナは隣のグラネスと共にリリアへと近づく。
「どうしたんですか?」
そう最初に聞いたのはリリアからだ。メリナがグラネスと共にここに来るのはなかなか珍しい事なのである。
「クッキーを焼いたんだけどグラネスに持たすの忘れちゃって……」
照れた笑みを浮かべながらメリナは続ける。
「それでグラネスに追い付いたのがこの近くだったから、せっかくだしリリア様の顔を見ていこうかと……。リリア様はどうしたんですか?」
一通り話したメリナがそう聞き返すとリリアが少し困った顔をしながらチラリとハンナを見やった。
「え、えっと、何でも無いですよ~」
大地が認める大根役者っぷりを披露したリリアの言葉をメリナは真に受けるはずがなく、リリアとやり取りしていたと思われるハンナへと視線を移した。
「リリア様の御召し物を増やすようにと勧めておりました」
正しく一礼した後、ハンナは続けて応える。
「リリア様の服装は聖女様としての御召し物しか着られておりませんので、たまには別の服装をして好きな方へ見せてみては……と」
ここまで聞くとメリナは大地の事を思い出す。自分の旦那であるグラネス以外の男性と共に行動することが多いのは彼だけなのだ。そこから『つまり……リリア様はダイチに好意を持っている』と続き『ダイチが何時もと違った服装のリリア様を見れば今よりもっと好意を持つかも?』との考えに至る。
「なるほど……メイドさん」
「は、はい」
貴族であるメリナに呼ばれたハンナは宿屋に守られているとは言え、やはり相手は貴族であるのだから何か粗相をしてしまったのかと内心焦りながら返事をした。
「リリア様の衣服は任せてちょうだい」
しかし、メリナの態度に高圧的なものは無く、むしろ言葉には褒めるような弾んだ声でリリアをの手を引っ張っていた。
「わわ。め、メリナさん?」
急なことで慌てて、さらにバランスを崩しそうになったことで抵抗することが出来なかったリリアは、手を惹かれるままにメリナへと自身の体が傾いてそのままメリナに体を預ける形になってしまった。
「さぁリリア様?服をかいに行きましょう!」
そう言ってメリナは強引にリリアを連れてきたのが今いる服屋なのだ。そして、リリアはグラネスに助けを求めたのだがそれが出来ないと言われてしまったのである。
流石に服屋で無茶をするような事は無いというのが前提にあるからだが、今、メリナの暴走を止めると被害を被るのはグラネスなのだ。
妻を怒らせたら後が恐い。惚れた弱みと言うのもあるが、それはたぶん世界共通の認識だろう。そして自分にとって何が一番恐いかと言うと酒関係に影響があることだ。
以前一度だけ怒らせてしまったことがあり、その結果、家にある全てのお酒が全部甘ったるいシロップのような酒に変えられてしまったのだ。(泣いて詫びたら1ヶ月で許してくれた)
そんなこともあり、今の上機嫌のメリナを止める勇気は出てこない。
「俺は外で待っているので……」
そう言って背を向けたグラネスを見てリリアはやや絶望しながら店の中奥へと連れてかれたのだった。
0
お気に入りに追加
158
あなたにおすすめの小説
日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
アブソリュート・ババア
筧千里
ファンタジー
大陸の地下に根を張る、誰も踏破したことのない最大のロストワルド大迷宮。迷宮に入り、貴重な魔物の素材や宝物を持ち帰る者たちが集まってできたのが、ハンターギルドと言われている。
そんなハンターギルドの中でも一握りの者しかなることができない最高ランク、S級ハンターを歴代で初めて与えられたのは、『無敵の女王《アブソリュート・クイーン》』と呼ばれた女ハンターだった。
あれから40年。迷宮は誰にも踏破されることなく、彼女は未だに現役を続けている。ゆえに、彼女は畏れと敬いをもって、こう呼ばれていた。
アブソリュート・ババ「誰がババアだって?」
スマートシステムで異世界革命
小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 ///
★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★
新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。
それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。
異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。
スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします!
序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです
第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練
第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い
第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚
第4章(全17話)ダンジョン探索
第5章(執筆中)公的ギルド?
※第3章以降は少し内容が過激になってきます。
上記はあくまで予定です。
カクヨムでも投稿しています。
世界樹を巡る旅
ゴロヒロ
ファンタジー
偶然にも事故に巻き込まれたハルトはその事故で勇者として転生をする者たちと共に異世界に向かう事になった
そこで会った女神から頼まれ世界樹の迷宮を攻略する事にするのだった
カクヨムでも投稿してます
クラスまるごと異世界転移
八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。
ソレは突然訪れた。
『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』
そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。
…そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。
どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。
…大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても…
そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。
明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです
見よう見まねで生産チート
立風人(りふと)
ファンタジー
(※サムネの武器が登場します)
ある日、死神のミスにより死んでしまった青年。
神からのお詫びと救済を兼ねて剣と魔法の世界へ行けることに。
もの作りが好きな彼は生産チートをもらい異世界へ
楽しくも忙しく過ごす冒険者 兼 職人 兼 〇〇な主人公とその愉快な仲間たちのお話。
※基本的に主人公視点で進んでいきます。
※趣味作品ですので不定期投稿となります。
コメント、評価、誤字報告の方をよろしくお願いします。
死んでないのに異世界に転生させられた
三日月コウヤ
ファンタジー
今村大河(いまむらたいが)は中学3年生になった日に神から丁寧な説明とチート能力を貰う…事はなく勝手な神の個人的な事情に巻き込まれて異世界へと行く羽目になった。しかし転生されて早々に死にかけて、与えられたスキルによっても苦労させられるのであった。
なんでも出来るスキル(確定で出来るとは言ってない)
*冒険者になるまでと本格的に冒険者活動を始めるまで、メインヒロインの登場などが結構後の方になります。それら含めて全体的にストーリーの進行速度がかなり遅いですがご了承ください。
*カクヨム、アルファポリスでも投降しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる