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神魔の宝玉
引き継がれる意思と無力な仲間
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「えっと……グラネスさん。助けて頂けませんか……?」
遠慮しがちに助けを求めるのは困り顔のリリアだ。基本的にリリアは誰かに助けを求めることが少ない。それは一概に自分の能力、聖女としての力が根本にあり、人を死なせたくないと言う思いから危険を遠ざけ、自分がなんとかできるならそれに越した事はないと言う思想を持っている……いや、持っていたのだ。
『いる』から『いた』の過去形に変わったのはここ最近での出来事の多さによるものだ。自分の力ではどうにもならない事に多く直面し、また、自分が無茶して危険な目に遭えば誰かが助けに無茶してしまう事を知った。
だから、自分の力で何とかできる範疇を越えようとするものに直面したら誰かの手を借りるべきだと自分がずっとしてきた生き方を変え始めたのだ。だからリリアは助けを求めた。長くパートナーを務めてくれるグラネスへと。
しかし、助けを求められたグラネスは店の入り口前で顔を背けて非常な言葉を言いはなった。
「……すまない。妻の暴走は俺でも止められないんだ」
その衝撃的な発言で顔を青ざめさせながらリリアはグラネスの妻、メリナに引っ張られて服屋へと連れていかれる。
もっとも入った服屋はお高い場所ではないが気が利いて、品揃えも豊富で、様々な人が通う質の良い店だ。
「あ、あの。私は一人でも買えるので……」
そうメリナの協力を否定の言葉で抵抗したところで無駄である。
「そんなこと言って、リリア様は服の買い物したことあるんですか?貴族御用達のお店じゃないこういうお店で」
そう言われたリリアは「うっ」と痛いところを突かれて言い返せなくなる。基本的に聖女の服を着て過ごし、パーティーなどがあれば貴族御用達の服屋で適当にドレスを見繕ってもらっている。なので、今回が初の試みとなるのだ。
そもそも、何故メリナに引っ張られるように服屋へと行く事になったのかと言うと……少し前へ時間を遡ることになる。
リリアが自分の宿の扉を開いて出ようとした時だった。
「リリア様。たまには別の御召し物を着てみては如何ですか?」
確りとした丁寧な口調でリリアへそう告げるのは特別にリリアの部屋を整える事が許されている専属メイドのハンナである。
「いえ、私には必要ないですよ」
そうリリアが否定するとハンナは自前の薄い桃色の髪を揺らしながリリアへと近づいた。
「でも、ダイチ様だって色んな服装のリリア様を見たいと思いますよ?」
「え?そ、そんなことは……」
「無いと言いきれますか?」
さらに一歩、リリアを追い詰めるようにハンナは顔を近づけた。その圧力から……と言うわけではないが、ハンナの言葉で思い出されるのはお城のパーティーだった。
聖女の服ではなくパーティー用のドレスを着てテラスで大地と話した時、大地が自分を見ながら言った一言。それを思い出すと顔が熱くなる。
「ほら、リリア様だってダイチ様に褒められたいでしょう?女性はそれが普通なんですから。あ!でも!大衆用の服屋さんに行ってくださいね。そちらの方がダイチ様に見せられる色んな服が有りますからね!」
「は、ハンナさん。私行くとは……!」
リリアが拒もうとした時に別の女性の声が聞こえてきた。
「リリア様?」
その声が知り合いだとわかるのに時間は掛からずリリアは振り向きながら名前を口にした。
「メリナさん?」
片手を振って応えたメリナは隣のグラネスと共にリリアへと近づく。
「どうしたんですか?」
そう最初に聞いたのはリリアからだ。メリナがグラネスと共にここに来るのはなかなか珍しい事なのである。
「クッキーを焼いたんだけどグラネスに持たすの忘れちゃって……」
照れた笑みを浮かべながらメリナは続ける。
「それでグラネスに追い付いたのがこの近くだったから、せっかくだしリリア様の顔を見ていこうかと……。リリア様はどうしたんですか?」
一通り話したメリナがそう聞き返すとリリアが少し困った顔をしながらチラリとハンナを見やった。
「え、えっと、何でも無いですよ~」
大地が認める大根役者っぷりを披露したリリアの言葉をメリナは真に受けるはずがなく、リリアとやり取りしていたと思われるハンナへと視線を移した。
「リリア様の御召し物を増やすようにと勧めておりました」
正しく一礼した後、ハンナは続けて応える。
「リリア様の服装は聖女様としての御召し物しか着られておりませんので、たまには別の服装をして好きな方へ見せてみては……と」
ここまで聞くとメリナは大地の事を思い出す。自分の旦那であるグラネス以外の男性と共に行動することが多いのは彼だけなのだ。そこから『つまり……リリア様はダイチに好意を持っている』と続き『ダイチが何時もと違った服装のリリア様を見れば今よりもっと好意を持つかも?』との考えに至る。
「なるほど……メイドさん」
「は、はい」
貴族であるメリナに呼ばれたハンナは宿屋に守られているとは言え、やはり相手は貴族であるのだから何か粗相をしてしまったのかと内心焦りながら返事をした。
「リリア様の衣服は任せてちょうだい」
しかし、メリナの態度に高圧的なものは無く、むしろ言葉には褒めるような弾んだ声でリリアをの手を引っ張っていた。
「わわ。め、メリナさん?」
急なことで慌てて、さらにバランスを崩しそうになったことで抵抗することが出来なかったリリアは、手を惹かれるままにメリナへと自身の体が傾いてそのままメリナに体を預ける形になってしまった。
「さぁリリア様?服をかいに行きましょう!」
そう言ってメリナは強引にリリアを連れてきたのが今いる服屋なのだ。そして、リリアはグラネスに助けを求めたのだがそれが出来ないと言われてしまったのである。
流石に服屋で無茶をするような事は無いというのが前提にあるからだが、今、メリナの暴走を止めると被害を被るのはグラネスなのだ。
妻を怒らせたら後が恐い。惚れた弱みと言うのもあるが、それはたぶん世界共通の認識だろう。そして自分にとって何が一番恐いかと言うと酒関係に影響があることだ。
以前一度だけ怒らせてしまったことがあり、その結果、家にある全てのお酒が全部甘ったるいシロップのような酒に変えられてしまったのだ。(泣いて詫びたら1ヶ月で許してくれた)
そんなこともあり、今の上機嫌のメリナを止める勇気は出てこない。
「俺は外で待っているので……」
そう言って背を向けたグラネスを見てリリアはやや絶望しながら店の中奥へと連れてかれたのだった。
遠慮しがちに助けを求めるのは困り顔のリリアだ。基本的にリリアは誰かに助けを求めることが少ない。それは一概に自分の能力、聖女としての力が根本にあり、人を死なせたくないと言う思いから危険を遠ざけ、自分がなんとかできるならそれに越した事はないと言う思想を持っている……いや、持っていたのだ。
『いる』から『いた』の過去形に変わったのはここ最近での出来事の多さによるものだ。自分の力ではどうにもならない事に多く直面し、また、自分が無茶して危険な目に遭えば誰かが助けに無茶してしまう事を知った。
だから、自分の力で何とかできる範疇を越えようとするものに直面したら誰かの手を借りるべきだと自分がずっとしてきた生き方を変え始めたのだ。だからリリアは助けを求めた。長くパートナーを務めてくれるグラネスへと。
しかし、助けを求められたグラネスは店の入り口前で顔を背けて非常な言葉を言いはなった。
「……すまない。妻の暴走は俺でも止められないんだ」
その衝撃的な発言で顔を青ざめさせながらリリアはグラネスの妻、メリナに引っ張られて服屋へと連れていかれる。
もっとも入った服屋はお高い場所ではないが気が利いて、品揃えも豊富で、様々な人が通う質の良い店だ。
「あ、あの。私は一人でも買えるので……」
そうメリナの協力を否定の言葉で抵抗したところで無駄である。
「そんなこと言って、リリア様は服の買い物したことあるんですか?貴族御用達のお店じゃないこういうお店で」
そう言われたリリアは「うっ」と痛いところを突かれて言い返せなくなる。基本的に聖女の服を着て過ごし、パーティーなどがあれば貴族御用達の服屋で適当にドレスを見繕ってもらっている。なので、今回が初の試みとなるのだ。
そもそも、何故メリナに引っ張られるように服屋へと行く事になったのかと言うと……少し前へ時間を遡ることになる。
リリアが自分の宿の扉を開いて出ようとした時だった。
「リリア様。たまには別の御召し物を着てみては如何ですか?」
確りとした丁寧な口調でリリアへそう告げるのは特別にリリアの部屋を整える事が許されている専属メイドのハンナである。
「いえ、私には必要ないですよ」
そうリリアが否定するとハンナは自前の薄い桃色の髪を揺らしながリリアへと近づいた。
「でも、ダイチ様だって色んな服装のリリア様を見たいと思いますよ?」
「え?そ、そんなことは……」
「無いと言いきれますか?」
さらに一歩、リリアを追い詰めるようにハンナは顔を近づけた。その圧力から……と言うわけではないが、ハンナの言葉で思い出されるのはお城のパーティーだった。
聖女の服ではなくパーティー用のドレスを着てテラスで大地と話した時、大地が自分を見ながら言った一言。それを思い出すと顔が熱くなる。
「ほら、リリア様だってダイチ様に褒められたいでしょう?女性はそれが普通なんですから。あ!でも!大衆用の服屋さんに行ってくださいね。そちらの方がダイチ様に見せられる色んな服が有りますからね!」
「は、ハンナさん。私行くとは……!」
リリアが拒もうとした時に別の女性の声が聞こえてきた。
「リリア様?」
その声が知り合いだとわかるのに時間は掛からずリリアは振り向きながら名前を口にした。
「メリナさん?」
片手を振って応えたメリナは隣のグラネスと共にリリアへと近づく。
「どうしたんですか?」
そう最初に聞いたのはリリアからだ。メリナがグラネスと共にここに来るのはなかなか珍しい事なのである。
「クッキーを焼いたんだけどグラネスに持たすの忘れちゃって……」
照れた笑みを浮かべながらメリナは続ける。
「それでグラネスに追い付いたのがこの近くだったから、せっかくだしリリア様の顔を見ていこうかと……。リリア様はどうしたんですか?」
一通り話したメリナがそう聞き返すとリリアが少し困った顔をしながらチラリとハンナを見やった。
「え、えっと、何でも無いですよ~」
大地が認める大根役者っぷりを披露したリリアの言葉をメリナは真に受けるはずがなく、リリアとやり取りしていたと思われるハンナへと視線を移した。
「リリア様の御召し物を増やすようにと勧めておりました」
正しく一礼した後、ハンナは続けて応える。
「リリア様の服装は聖女様としての御召し物しか着られておりませんので、たまには別の服装をして好きな方へ見せてみては……と」
ここまで聞くとメリナは大地の事を思い出す。自分の旦那であるグラネス以外の男性と共に行動することが多いのは彼だけなのだ。そこから『つまり……リリア様はダイチに好意を持っている』と続き『ダイチが何時もと違った服装のリリア様を見れば今よりもっと好意を持つかも?』との考えに至る。
「なるほど……メイドさん」
「は、はい」
貴族であるメリナに呼ばれたハンナは宿屋に守られているとは言え、やはり相手は貴族であるのだから何か粗相をしてしまったのかと内心焦りながら返事をした。
「リリア様の衣服は任せてちょうだい」
しかし、メリナの態度に高圧的なものは無く、むしろ言葉には褒めるような弾んだ声でリリアをの手を引っ張っていた。
「わわ。め、メリナさん?」
急なことで慌てて、さらにバランスを崩しそうになったことで抵抗することが出来なかったリリアは、手を惹かれるままにメリナへと自身の体が傾いてそのままメリナに体を預ける形になってしまった。
「さぁリリア様?服をかいに行きましょう!」
そう言ってメリナは強引にリリアを連れてきたのが今いる服屋なのだ。そして、リリアはグラネスに助けを求めたのだがそれが出来ないと言われてしまったのである。
流石に服屋で無茶をするような事は無いというのが前提にあるからだが、今、メリナの暴走を止めると被害を被るのはグラネスなのだ。
妻を怒らせたら後が恐い。惚れた弱みと言うのもあるが、それはたぶん世界共通の認識だろう。そして自分にとって何が一番恐いかと言うと酒関係に影響があることだ。
以前一度だけ怒らせてしまったことがあり、その結果、家にある全てのお酒が全部甘ったるいシロップのような酒に変えられてしまったのだ。(泣いて詫びたら1ヶ月で許してくれた)
そんなこともあり、今の上機嫌のメリナを止める勇気は出てこない。
「俺は外で待っているので……」
そう言って背を向けたグラネスを見てリリアはやや絶望しながら店の中奥へと連れてかれたのだった。
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