初めての異世界転生

藤井 サトル

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神魔の宝玉

宝玉

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 あの後、リリアが出てくるまでの間、フルネールとメリナが何やら話し込んでいた。どう言ったことを話していたかまでは聞こえず……と言うより恐らくフルネールの魔法で声が届いてこないのだろう。

 そのことで不穏さも感じながら心配にはなるものの、二人に近づいて話を聞きに行く勇気などはない。もし近づけばフルネールから普段の5割り増しくらいでからかってくるだろう。

 虎の子を手に入れる訳でもないのに虎穴にはいるアホはいないよな。

 視線をリリアが入っている試着室のカーテンへと向けるとそれが揺れ動く。音を立てながら開かれると何時ものリリアが立っていた。

「ダ、ダイチさん。えへへ」

 まだ照れを引きずっているのかリリアが大地と目を合わせたときに笑って誤魔化すように笑顔を向けてきた。

「さっきの服は買うのか?」

「そ、それは……私にはこの服聖女の服がありますし……」

「そうか、それは少し残念だな」

「そ、そうですか……?」

 リリアが戸惑いながらそう答えた時だった。大地の後ろから忍び寄る黒い影がリリアへと飛び付いたのだ。

「リリアちゃんだー!」

「きゃっ!?」

 いきなり抱きつかれたリリアは驚きの声をあげる。ただ、直ぐに相手が女の子だとわかり冷静に抱きついてきた人を見る。

「え、えっと……誰ですか?」

 知らない子供だ。歳は自分より低いように見える。それに亜人だろうか?頭に耳が生えてるのも見える。

「えへへ、わたしだよ!」

 そう言われてさらに困惑の色を強めたところで大地が女の子を持ち上げて引き離してくれた。

「まったく、それじゃあわからないだろ?」

「大地さんのお知り合いですか?」

 親しげに話す亜人の子を見てリリアが聞くと、大地が彼女を下ろした。そして『しっかり挨拶をしてみな』と言うように女の子の背中をポンと押す。

「ナルです。あしをなおしてくれてありがとうございました」

「ナル……ちゃんって」

 リリアが察し始めたのを見て大地は答え合わせと言うように言った。

「ああ。ベルナーに居たナインテイルのナルだよ」

「本当にナルちゃんなんですか!?」

 リリアがそう驚くとナルは狐の姿に戻ってリリアに再び飛び付いた。それを見事に「わわっ」と言って抱き止めながらリリアは目を輝かせる。

「本当にナルちゃんなんですね」

 リリアは嬉しそうにナルの毛並みと抱き心地を楽しむのだった。


 それから外に出るとグラネスが立っていた。入る時は見なかったが今来たのだろうか。

「グラネス?何時来たんだ?」

 そんな疑問を無視したグラネスが大地を見ると言った。

「ちょうどいい大地。リリアさんと城に来てくれるか?」

「グラネスさん?どうしたんですか?」

「先ほどクルス殿下からの使いが来て話していたんですが、お城に大地を連れて来てほしいとのことです」

「そうですか。ありがとうございます」

 リリアはグラネスにお礼を言うと大地の方向へと振り向いた。

「ダイチさん。一緒に来ていただけますか?」

「特に予定もないからな」

「ありがとうございます。それでは早速向かいましょう」

 リリアが歩きだそうとした時にフルネールが大地の側へやってきた。

「大地さん。先ほどユーナさんから頂いた報酬を頂けますか?」

「ああ。ほいよ」

 そう言って報酬の入った袋を丸ごとフルネールへ渡すと「ありごとうございます!」と言って嬉しそうにメリナと共に再び店の中へ楽しそうに小走りしていく。

 行くと言ったそばからこれである。

「あー。すまない、フルネールを待ってやってくれ」

「大丈夫ですよ。フルネールさんも好きな服が見つかったのかもしれません」

 珍しいものを見たというようにリリアはクスリと笑う。

「ところでダイチ。また、契約したモンスターを増やしたのか?」

 人の姿に戻っているナルを見ながらグラネスはそう聞いてきた。

「ああ。ってモンスターだとわかるのか?」

「ああ。亜人ではなくモンスターよりの気配だからな……まさか、あの時のナインテイルか?」

 レヴィアの隣にいるナルを見てグラネスは言う。

「おんせんにいたときにわたしをこうげきしようとしてたひと?」

 ナルはそのグラネスに顔を向けると温泉の中でこっみを見て構えていた事を思い出しながら言った。その言葉にリリアが反応する。

「グラネスさんそんなことを……?」

「いや、それは……しかし、温泉の中でモンスターに遭遇したらそれが普通ですので……」

「ナルはグラネスの事は怖くないのか?」

「うん!こうげきされなかったからだいじょうぶだよ!」

 ナルが体の動きも使って精一杯の言葉でグラネスを庇う。

 もっともグラネスが攻撃をしなかったのは大地の行動で毒気を抜かれたからだ。決して敵意がないモンスターと戦うより酒が飲みたかったわけではないたぶん

「そうか。グラネスもこれからナルの事を宜しくたのむ」

 グラネスが頷いて了承したタイミングでフルネールが店から出てきた。

「お待たせしました。さぁお城に参りましょうか」

 その一言を皮切りにメリナと別れてお城に向かった。


 ホワイトキングダムのお城に入るのは何回めだろうか。大きな門の前には何時も通り奴がいる。

「よ!精が出るな」

 大地は門番へと気安く声を掛けた。

「ん?また呼ばれたのか?」

 城へ入るたびに声をかけて少しの会話をするだけの仲だが、繰り返せば仲もよくなるもの。そのおかげか門番は大地の人となりを理解してくれて気軽に言葉を返してくれる。

「ああ何の用かはさっぱりわからないんだけどな」

「ほー。ま、お叱りじゃなければ良いな。あんたいろんな所に顔を出してそうだし」

 大地が叱られてる様を思い浮かべたのか門番が笑いながらそう話す。

「因みに叱られるとして何か心当たりは?」

「叱られるの前提かよ。そうそう心当たり何て……あ……」

 よくよく考えれば昨日の南の森で白い呪いの固まりと言えるモンスターが放った攻撃で森を結構吹き飛ばしていた気がする。正確な被害を見た訳ではないけれど……。

「……あるのか?」

「いや、ある……というかアレは俺のせいではないはずなんだよ!」

「心当たりあるんだな。また牢屋行きじゃないか?」

「まてまてまて、っていうか何で俺が牢屋に入ったこと知ってるんだよ!」

「そりゃ兵士の中でリリア様の為に行動して捕まった話で持ちきりだからさ。しかも、リリア様を守るためなら世界中の人間が全員敵になっても戦う英雄だって兵士の中でそんな話まで出てきて有名だぞ?」

「なんだそりゃ……それ、一歩間違えたら俺を狂人認定していることにならないか?」

 そのうち一人のために世界を滅ぼす!とか言われそうだ……どこかの魔王かよ。

「門番さん。そろそろいれていただけませんか?」

「は!失礼しました!どうぞお入りください!」

 大地と話していた雰囲気から180度変わった門番が綺麗な敬礼と共に脇にそれて道を開けた。

「ありがとうございます」

 そうお礼を言いながらリリアを先頭に皆入っていく。最後にナルが通る。ナルは門番を横切る前に深くお辞儀してから大地達に追い付くようにトテトテと小走りで去っていった。


「クルスお兄様。どうしたのですか?」

 城に入り応接室に入るとクルスとアーデルハイドが座って待っていた。その他にも護衛と思われる兵士が待機している事もあり、リリアは王女としての礼節をもって接する。

「リリア。それにダイチ来てくれてありがとう」

「クルス殿下。私は廊下でお待ちしていた方が宜しいですか?」

 流石のグラネスも畏まった口調だ。でもそれが当たり前なのだ。にもかかわらず……。

「いや、いてくれて構わない」

「クルスもアーデルハイドも少し表情が固くないか?」

 大地の接し方は相変わらずである。だけどそれを咎めるのは誰もいない。クルスもアーデルハイドも不快に思っていないことと、兵士は兵士で英雄の生大地を見て他の兵士に自慢しようと上の空だからだ。

「あー、取り敢えず座ってくれ」

 全員が座るのを見届けたクルスはようやく本題に入れると言う感じだ。因みにナルはフルネールの膝の上に、レヴィアは大地の膝の上に横向きで座って顔をクルスに向けている。

「さて、どこから話すか」

「クルス兄様にいさま。私から話します」

 今までだんまりだったアーデルハイドが口を開いた。

「ダイチはモンスターを呼び出す宝玉は知っているよな?」

 宝玉というと高価そうなものだが、何度か見たビー玉みたいな奴だろう。アレを割ってモンスターを出しているのを見たことがあるし、あの玉の中にモンスターを封じ込めるのも見た。

「実はな。前に国内でモンスターを出した男からやっと色々吐き出させられたんだ。それでわかったのは宝玉について二つの情報だ」

 アーデルハイドは自分の隊を壊滅させられた過去がある。それは状況から見て宝玉からモンスターのクラスターモンキーを呼び出され襲われたと見て間違いない。その怒りから彼女はずっと首謀者を追っているのだ。

「一つは作られている場所でな」

「作られている場所か。それで俺についてきてほしいと?」

「話が早くて助かる。頼めないか?」

 Sランクモンスターを封じ込められる玉だ。流石に一人で乗りこむのは危険だと判断したのだろう。

「わかった。それなら一緒に行こう」

 大地がそう言うとクルスもアーデルハイドも表情が柔らかくなった。

「お姉様。私は何で呼ばれたのですか?」

 大地が返事をする前にリリアが首をかしげて聞く。

「リリアにも王女として宝玉の存在を知っておいてほしいからなんだ」

「メンバーはここにいる8人か?」

 大地がそう聞くとアーデルハイドはもう一人いると答える。それでメンバーは全員だと言うようだったのだが、クルスがレヴィアとナルを交互に見ながら聞いてきた。

「そちらの可愛らしい二人のお嬢さんも連れていくのか?」

 契約したモンスターであるというのは腕のリングを見ればわかるがクルスから見たら二人は幼い子供だ。

「大丈夫だろ」

「いやしかし、危険じゃないか?」

「クルス兄様?少なくともレヴィアは心配する必要ないかと思いますよ」

 アーデルハイドはレヴィアがリヴァイアサンと言うことは知っている。あの雪山で今の姿になるのを見ているからだ。もっとも混乱を招くことを防ぐためにレヴィアがリヴァイアサンである事実はその場にいた人達全員に口止めしているのでクルスが知らないのも無理はないのだ。

「そうよ、ナルはアタシが守るからアンタは自分の身の心配でもしてなさいよ」

 一国の王子に言う台詞がこれである。レヴィアとしては人間の位など知ったことではないが、大地やフルネールからしたらヒヤヒヤしたものである。クルスが怒って何か言われれば……否、今の時点で不敬罪に当たっていてもおかしくはない。そうであれば牢屋行きに大地まっしぐらである。

 しかし、それは王族サイドも同じであった。リリアやアーデルハイドからしたらレヴィアの態度でクルスが憤りを感じて変な事を言おうとしたらすぐに止めなければならない。ダイチがいるからとて嫌なことを言われれば誰だって怒るのだ。リヴァイアサンに怒られたなら国なんてひとたまりもない。二人は固まった笑顔で内心冷や汗を流し続ける。

「それは失礼したね。お詫びに花蜜で作られたアメは如何かな?」

 懐から瓶を出して一つ一つが個包装された少し大きめのアメ玉を取り出すとレヴィアへと差し出した。

 少しだけ戸惑い考えてからはレヴィアは手を伸ばしてあめ玉を受け取ることにした。

「あ、ありがと」

 そのやり取りをナルはじっと見ていた。その視線が気になり……もとい、その視線が突き刺さっていたクルスはナルの方にも同じように差し出した。

「ナルちゃんだったね。一つどうかな?」

 レヴィアと違いナルはベルナーの町で物を受け取りなれている。それは狐の姿の時であればお礼のように「きゅー」と鳴き、人の姿であればそれ相応の方法を心得ているのだ。

 物をくれる相手の目を見ながら笑顔を作って「ありがとうございます」と元気よく言う。半分以上はフルネールからの教えでもあるが、こうやってお礼を言うと次も貰える可能性が上がるからだ。

 それにしても花蜜は高級品である。妖精のミルにしこたま頼まれて財布が一気に空になったほどだ。それを簡単に出すのは流石一国の王子だと言う他ならない。

「それで肝心の場所は?」

「東の山に隠されているらしい」

 山に入ったことがあるが確かに隠れて何かをするには十分に入り組んでいる。

「それで宝玉の二つ目の情報は?」

「名前だ。この玉の名前を神魔の宝玉と言うらしい」
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