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神魔の宝玉
戦力確保は大事なこと
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ナルを連れて森からホワイトキングダムに帰った大地達がギルド前で寝ていると、ユーナがギルドを開けるためギルド前にやって来た。
朝陽が上り始めていた刻限で辺りはやや薄暗いのだが、ヴァンパイアである亜人の彼女は通常の人よりも夜目が聞く。つまり多少薄暗くても物を確りと見極められるのだ。
そんな彼女が今日は大地が寝ているんだな。と昨日見なかった光景にクスリと笑みをこぼした時だった。
――大地の上に何か居る。
ユーナは直ぐに目を凝らした。足があるところから人であるのは間違いない。体は小さめだがレヴィアではない。それは大地の隣でレヴィアが寝ていることからわかっている。
ヒラヒラしていそうなスカートを纏って居るのか、裾から獣の尻尾がちょこんと出ていた。これだけではモンスターなのか亜人なのかは判断がつかない。つかないが……レヴィアのような人型に成れるモンスターと大地が契約したのだろう。とユーナは推測した。
徐々に大地の顔の方へと視線を移すと獣耳が生えている可愛らしい寝顔が見えてくる。また女の子だろうか?そう思うユーナはリリアを思い出すとやや複雑な心境だ。
「もっとリリア様の事を構ってあげてほしいんですけどね……」
そう誰にも聞こえないように小さな声でユーナは口をこぼした。だが、前日に大地とリリアが寝た事(ただの添い寝)を知らない故の発言でもある。
それでも大地に会ってから確実に変わった聖女はきっと良い方向へ進んでるだろうと思う。この先、リリアが聖女として辛くなる日がくる。それまでの間はどうか楽しい日々を過ごさせてやって欲しい。自分達では出来なかったことを眠りこけている大地へ声に出さずにそう祈るのだ。
と、そんな普段思わないことを考えたのは朝陽が上り始め、澄んだ空気と人気がない不思議な時間に包まれているからだと思いながら改めて大地の上に乗る女の子を見た。
よくよく見ると女の子のスカートと思われていたのは服ではないとわかった。彼女の首から下をすっぽりと覆っているそれは……。
「まさか……マント……ですか?」
そうわかると、今までの穏やかな気持ちが消え去った。人目につくこの公の場でマント一枚の女の子?に抱きつかせて寝ているのだ。『いかがわしい』とか、『いかがわしくない』とかそんな言葉がでない程におこになったユーナが大地を叩き起こす。
「ダイチさん!おきなさーーい!!」
そう言って大地の頭部へ回ったユーナが腰を落としておでこを叩く。すると睡眠中に聞こえてきた声と額に当たる衝撃で驚きながら大地が目を覚ました。
「え!?なに!?なに!??」
いったい何事か?そう思いながら寝ぼけ眼の大地は意識がはっきりするまで視線を右往左往と彷徨わせる。
意識がはっきりしていく中で視界に幅を利かせている何かを捉える。それがユーナだと直ぐに気づく……のだが、意識がはっきりしてくるとユーナの体勢が気になってくる。
そもそも彼女の服装はギルド指定の制服である。上服を見ればピシッと決まっているが、下のスカートを見ると割りと丈が短いのだ。つまり、もし大地が少しでも顎をあげてユーナの方向を振り向くと下着が見えてしまう位置と姿勢なのだと想像させられる。
「……ユーナさん?」
「ユーナさん?じゃありませんよ!」
視界に入るユーナさんは顔と胸が殆どだ。視線がその胸に引っ張られないようにしながら下着への邪念を棄てるのは地獄のような所業である。
「どうしました~?」
「どうしたのよ?」
ユーナの話が開始されようとしたタイミングでフルネールとレヴィアが起き上がる。二人の頭が大地から離れたことによって自由になると大地はナルを転がり落とさないように背中に手を回して支えながら上半身だけ起こした。
「そ、それでどうしたんですか?」
ユーナが起き上がった大地の前へと回り込んで来たので大地はユーナの顔を見上げながらそう尋ねた。何しろ大地からしたらいきなり怒られたようなものだ。理由くらいは聞いても良いだろう。
「ここは公共の場ですよ!なのに女の子を布一枚で抱きつかせて寝るなんて何を考えているんですか!」
傍目から見ても怒っているユーナさんの視線をたどる。その行き着く先はナルだ。ここに来たときは夜であった事と疲れていた事であまり気にしていなかったが、布一枚の女の子を抱える自分を客観的に見ると……酷い絵面だ。
「あ、じ、実は服が今日まで出来なくてですね……それに宿に泊まるお金もなくて……」
服も金もなく仕方なかったんです。そうアピールすると少しだけユーナさんの眉尻が下がった。
よし!同情作戦は成功だ!
「だからと言って困ります。先ほども言ったようにここは公共の場でいろんな人の目につくんですよ?なのに――」
「ううん……ごしゅじんさま~?」
ユーナの言葉を遮ったのは大地の腕の中でもぞりと動いたナルの声だった。そのナルは目を擦りながら大地の視線を追うように自分の体を反転させて見上げた。
「きゅー!」
ナルの視界に映った少し怒った顔のユーナを見てナルは驚いてモンスターに戻ると大地の膝の上で丸まってしまった。
ナルは人間が怒った時の怖さはうんと知っている。時に武器を取り、時に魔法を放ってきて、時に罠を張る。それも自分を殺すためにだ。
もっともそうされることをナルはしてきた事でもあるし、大地達のおかげで人間が怖いだけの存在じゃ無いことも知っている。
それでも怖さはぬぐえず、怒った人を見ればとても怖くて正面から見ることは出来ないのだ。だからこそ目の前に怒ったユーナがいてナルは怖がってしまった。
「大丈夫だ。ナル。怖くないぞ」
そのフサフサな毛並みを撫でながら声をかけると丸まったままのナルがピクリと動いてその姿勢を解いた。そして顔を上げてユーナを見る。
その一連の流れで怒っていたことを忘れたユーナは呆気にとられた表情になっていた為か今度はナルは怖がらずにマジマジとユーナをながめる。
「きゅー?」
人の姿を取らないナルでは言葉をしゃべる事はできない。だからこそ鳴き声と仕草で意思を伝える。つまり小首をかしげるのだ
「……この子――」
「ナルって言うのよ。この子じゃないわ」
名前を知らないユーナにレヴィアが訂正させるように名前を教えた。
「……ナルちゃんはナインテイルですよね?」
「そうだけど、まさかナインテイルは契約してはダメとかあるのか?」
「いえ、そう言うわけではないんですけど……」
歯切れの悪いユーナに大地は考える。
ナインテイルと契約する事は問題ないみたいだ。でもこの反応はなんだろう?何か言いたげな。まさか!?名前の事か……?『ナル』と言う名前は可愛い。だが、おっさんがつけると考えたら可愛すぎるのではないか?でも実際に名付けたのはリリアだがユーナさんはその事を知らないし、俺がつけたと思っているのかもしれない。思い返せば名前を聞いたときに少しの間があった気がする。……と言うことはユーナさんは『俺が名前をつけたと思い込んでドン引きしている。』つまり、そう言うことだな?俺の推理力も捨てたもんじゃないな!これで決まりだ!となれば名前はリリアがつけたことをさっそく教えよう。
「ああ。名前はリリアがつけてくれたんですよ」
つけたと言うよりも勝手に呼んでいた感じだが、ナルも嫌がっているわけではないのでそこは良いだろう。
「リリアちゃんが?」
ユーナさんの表情は困惑の色を強めていた。……なぜだ?
「ええ、そうですが……」
「……あのダイチさん?」
「はい」
ユーナの視線は真っ直ぐ大地の目を見る。まさに今、大事な話をすると言わんばかりで呼び掛けてから3秒程度見つめ合う形となった。
「リリアちゃんからきいていますか?ナインテイルは大人になると九尾になってSランクになることを……」
ふむ……。知っているし何か問題あるのか?
「ええ。もちろん知っていますよ」
しれっと答える大地に頭痛の種がまた増えたと言うような仕草でユーナは頭を抱え、ため息を一つ吐き出してから言った。
「正直、過剰戦力を一人が引き連れるのはよくないんですけど……」
大地はチラリとフルネールへ視線を向けた。
そう言うものなのか?
それはそうでしょう。昔から強い人の回りには色々集まりますから。いい人も悪い人も……。特に大地さんは大地さん自身の強さがありますし、もし、ナルちゃんが九尾になったら三つの国を同時に滅ぼすことができると言っても過言じゃありません。SランクのレヴィアちゃんにSランクのナルちゃん。そして女神の私!女神の私!
何で二回言った!?
ちゃんとアピールしておかないと都合のいい女と思われている気がしたので……。
人聞きの悪いこと言うなよ……。そんなこと思ってないから!
心のため息を吐き出した大地はユーナへと振り向いた。
「ま、まぁレヴィアもナルも元の姿が他の人にばれないように人の姿になってもらうからさ」
大地がそう言うもユーナはあまり納得した様子を見せず「うーん」と唸る。たとえ大地の言うように元の姿を誰にも見せないとしても悪目立ちする事は避けられない。ただ、それでもこれは大地達の事情であり踏み込み過ぎることは良くないのだ。ギルドの一員として。
「……わかりました。ただ気を付けてくださいね?気づく人は気づきます。そして、そういう人達にかぎって良くない人達なんです。最悪、命だって狙われてしまいますから……」
「あらあら。ユーナさんは大地さんの事が心配なんですね!」
フルネールがいつもの調子で人をからかうように言ったのだが、ユーナは照れもなければちょっと怒ったように「当たり前です!」と答えた。そして、フルネールからレヴィア、ナルへと視線を移しながら続ける。
「ダイチさんだけじゃありません!フルネールさんもレヴィアちゃんもナルちゃんも心配しているんですよ!」
「え?……あ……そうなんですね」
ユーナの返答にはフルネールも少し戸惑った。何せ前は自分の事を怪しんでいたはずだし、レヴィアは本来の姿が姿なだけに強さは折り紙つきだからだ。
「何かあれば私も力になりますけど、あまり無茶はなさらないでくださいね」
そう全員に言うとユーナはギルドの施錠を開けて入っていった。
「うーん、ユーナさんをあまりからかえませんでした」
「からかわなくてもいいだろ……」
心配してくれている相手に何て事を言ってんだと思いながら大地は別方向から感じた視線に振り向いた。
「ダイチのおっさん」
やってきたのはカイ青年だ。「よっ!」と言うように片手を上げてする挨拶を真似て大地も片手だけ上げて挨拶を手短に終わらせる。
「朝から早いな。どうしたんだ?」
そう問いかけるとカイが少し照れ臭そうに頭を掻く。
「……ダイチのおっさんにちゃんとお礼言ってないと思ってさ」
どうやらカイは昨日の晩の事を律儀にお礼を言いに来たらしい。
「あんなのお礼言うほどじゃないだろ。それよりカイのおかげでシーラ……亜人の女性は無事だったよ。ありがとな!」
「それこそお礼なんていらねぇよ!俺は命助けてもらえてんだから。こっちこそありがとな!」
そんな風に対抗してくるカイに大地は「いやいや」と否定するとカイも続いて「いやいやいや」と否定してくる。
それが三回ほど続くと黙っていたマリンがしびれを切らした。
「二人してなに気持ち悪いことしてるんだ」
その強烈な言葉が大地とカイにグサリと突き刺さり、あえなく撃沈した。
「そろそろギルドに入らないか?早めに済ませたいんだが」
「済ませる?って何をだ?」
昨日の報告が終わってないのか?と大地は考えたけれど雰囲気的にはそんな感じがしない。オーガスの言葉で少しだけピリッとしたのだ。
「そうだ。ダイチのおっさんも止めてくれよ。マリンとオーガスがギルドを辞めるって言うんだぜ」
「ギルドを?なんだ?昨日の戦いで自信でもなくしたか?」
やや二人を煽るような言い方するが。これで少しでも怒りを感じて話しやすくなるならそれも言いと思いながらだ。
「そんなんじゃないさ。ただ、カイが強くなりたいって言ったからね。これからランクをドンドン上げるなら私達もついていく事にしたのさ」
マリンの言葉にオーガスも頷く。この二人がやることは詰まるところ高ランクになった時の強制召集対策だ。
「ハンターを辞めた状態でパーティ続けるのは構わないけど、お前らが奴隷に見られる可能性だってあるだろ!?」
ギルドのシステム的に高ランクが何人パーティにいても報酬は変わりはしない。けれど、いつかのカイのようにハンターではないのにパーティに加わっているだけで疑われる要因にもなるのだ。
「それも大丈夫だろ」
今度はオーガスがそう言ってマリンが頷く。
「大丈夫なのか?」
その辺でようやく大地が口をだすとオーガスがニヤリと笑った。
「何せハンターではない人間をパーティに入れる形態を先駆けでやってる奴がいるからな」
俺達もそれに習うと言わんばかりにオーガスもマリンも大地を見てくる。つまり俺達が先駆者になったおかげでそう言う形態もありなのだと考えているようだ。
「ま、まぁ本人達が良いなら良いんじゃないか?」
色々考えている……かわからないが、少なくとも本人達がそう決めたのなら口をだすのも野暮だろう。
大地の言葉が決め手になったようにカイ達がギルドに入って行くのを見届ける。思えば彼らが朝早くからギルドに来たのは止められたりする面倒事を減らしたかったからだろう。
「とりあえず俺達も何時もの奴に行くか」
そう言って確りと起き上がると全員で南の森へと歩いていった。
朝陽が上り始めていた刻限で辺りはやや薄暗いのだが、ヴァンパイアである亜人の彼女は通常の人よりも夜目が聞く。つまり多少薄暗くても物を確りと見極められるのだ。
そんな彼女が今日は大地が寝ているんだな。と昨日見なかった光景にクスリと笑みをこぼした時だった。
――大地の上に何か居る。
ユーナは直ぐに目を凝らした。足があるところから人であるのは間違いない。体は小さめだがレヴィアではない。それは大地の隣でレヴィアが寝ていることからわかっている。
ヒラヒラしていそうなスカートを纏って居るのか、裾から獣の尻尾がちょこんと出ていた。これだけではモンスターなのか亜人なのかは判断がつかない。つかないが……レヴィアのような人型に成れるモンスターと大地が契約したのだろう。とユーナは推測した。
徐々に大地の顔の方へと視線を移すと獣耳が生えている可愛らしい寝顔が見えてくる。また女の子だろうか?そう思うユーナはリリアを思い出すとやや複雑な心境だ。
「もっとリリア様の事を構ってあげてほしいんですけどね……」
そう誰にも聞こえないように小さな声でユーナは口をこぼした。だが、前日に大地とリリアが寝た事(ただの添い寝)を知らない故の発言でもある。
それでも大地に会ってから確実に変わった聖女はきっと良い方向へ進んでるだろうと思う。この先、リリアが聖女として辛くなる日がくる。それまでの間はどうか楽しい日々を過ごさせてやって欲しい。自分達では出来なかったことを眠りこけている大地へ声に出さずにそう祈るのだ。
と、そんな普段思わないことを考えたのは朝陽が上り始め、澄んだ空気と人気がない不思議な時間に包まれているからだと思いながら改めて大地の上に乗る女の子を見た。
よくよく見ると女の子のスカートと思われていたのは服ではないとわかった。彼女の首から下をすっぽりと覆っているそれは……。
「まさか……マント……ですか?」
そうわかると、今までの穏やかな気持ちが消え去った。人目につくこの公の場でマント一枚の女の子?に抱きつかせて寝ているのだ。『いかがわしい』とか、『いかがわしくない』とかそんな言葉がでない程におこになったユーナが大地を叩き起こす。
「ダイチさん!おきなさーーい!!」
そう言って大地の頭部へ回ったユーナが腰を落としておでこを叩く。すると睡眠中に聞こえてきた声と額に当たる衝撃で驚きながら大地が目を覚ました。
「え!?なに!?なに!??」
いったい何事か?そう思いながら寝ぼけ眼の大地は意識がはっきりするまで視線を右往左往と彷徨わせる。
意識がはっきりしていく中で視界に幅を利かせている何かを捉える。それがユーナだと直ぐに気づく……のだが、意識がはっきりしてくるとユーナの体勢が気になってくる。
そもそも彼女の服装はギルド指定の制服である。上服を見ればピシッと決まっているが、下のスカートを見ると割りと丈が短いのだ。つまり、もし大地が少しでも顎をあげてユーナの方向を振り向くと下着が見えてしまう位置と姿勢なのだと想像させられる。
「……ユーナさん?」
「ユーナさん?じゃありませんよ!」
視界に入るユーナさんは顔と胸が殆どだ。視線がその胸に引っ張られないようにしながら下着への邪念を棄てるのは地獄のような所業である。
「どうしました~?」
「どうしたのよ?」
ユーナの話が開始されようとしたタイミングでフルネールとレヴィアが起き上がる。二人の頭が大地から離れたことによって自由になると大地はナルを転がり落とさないように背中に手を回して支えながら上半身だけ起こした。
「そ、それでどうしたんですか?」
ユーナが起き上がった大地の前へと回り込んで来たので大地はユーナの顔を見上げながらそう尋ねた。何しろ大地からしたらいきなり怒られたようなものだ。理由くらいは聞いても良いだろう。
「ここは公共の場ですよ!なのに女の子を布一枚で抱きつかせて寝るなんて何を考えているんですか!」
傍目から見ても怒っているユーナさんの視線をたどる。その行き着く先はナルだ。ここに来たときは夜であった事と疲れていた事であまり気にしていなかったが、布一枚の女の子を抱える自分を客観的に見ると……酷い絵面だ。
「あ、じ、実は服が今日まで出来なくてですね……それに宿に泊まるお金もなくて……」
服も金もなく仕方なかったんです。そうアピールすると少しだけユーナさんの眉尻が下がった。
よし!同情作戦は成功だ!
「だからと言って困ります。先ほども言ったようにここは公共の場でいろんな人の目につくんですよ?なのに――」
「ううん……ごしゅじんさま~?」
ユーナの言葉を遮ったのは大地の腕の中でもぞりと動いたナルの声だった。そのナルは目を擦りながら大地の視線を追うように自分の体を反転させて見上げた。
「きゅー!」
ナルの視界に映った少し怒った顔のユーナを見てナルは驚いてモンスターに戻ると大地の膝の上で丸まってしまった。
ナルは人間が怒った時の怖さはうんと知っている。時に武器を取り、時に魔法を放ってきて、時に罠を張る。それも自分を殺すためにだ。
もっともそうされることをナルはしてきた事でもあるし、大地達のおかげで人間が怖いだけの存在じゃ無いことも知っている。
それでも怖さはぬぐえず、怒った人を見ればとても怖くて正面から見ることは出来ないのだ。だからこそ目の前に怒ったユーナがいてナルは怖がってしまった。
「大丈夫だ。ナル。怖くないぞ」
そのフサフサな毛並みを撫でながら声をかけると丸まったままのナルがピクリと動いてその姿勢を解いた。そして顔を上げてユーナを見る。
その一連の流れで怒っていたことを忘れたユーナは呆気にとられた表情になっていた為か今度はナルは怖がらずにマジマジとユーナをながめる。
「きゅー?」
人の姿を取らないナルでは言葉をしゃべる事はできない。だからこそ鳴き声と仕草で意思を伝える。つまり小首をかしげるのだ
「……この子――」
「ナルって言うのよ。この子じゃないわ」
名前を知らないユーナにレヴィアが訂正させるように名前を教えた。
「……ナルちゃんはナインテイルですよね?」
「そうだけど、まさかナインテイルは契約してはダメとかあるのか?」
「いえ、そう言うわけではないんですけど……」
歯切れの悪いユーナに大地は考える。
ナインテイルと契約する事は問題ないみたいだ。でもこの反応はなんだろう?何か言いたげな。まさか!?名前の事か……?『ナル』と言う名前は可愛い。だが、おっさんがつけると考えたら可愛すぎるのではないか?でも実際に名付けたのはリリアだがユーナさんはその事を知らないし、俺がつけたと思っているのかもしれない。思い返せば名前を聞いたときに少しの間があった気がする。……と言うことはユーナさんは『俺が名前をつけたと思い込んでドン引きしている。』つまり、そう言うことだな?俺の推理力も捨てたもんじゃないな!これで決まりだ!となれば名前はリリアがつけたことをさっそく教えよう。
「ああ。名前はリリアがつけてくれたんですよ」
つけたと言うよりも勝手に呼んでいた感じだが、ナルも嫌がっているわけではないのでそこは良いだろう。
「リリアちゃんが?」
ユーナさんの表情は困惑の色を強めていた。……なぜだ?
「ええ、そうですが……」
「……あのダイチさん?」
「はい」
ユーナの視線は真っ直ぐ大地の目を見る。まさに今、大事な話をすると言わんばかりで呼び掛けてから3秒程度見つめ合う形となった。
「リリアちゃんからきいていますか?ナインテイルは大人になると九尾になってSランクになることを……」
ふむ……。知っているし何か問題あるのか?
「ええ。もちろん知っていますよ」
しれっと答える大地に頭痛の種がまた増えたと言うような仕草でユーナは頭を抱え、ため息を一つ吐き出してから言った。
「正直、過剰戦力を一人が引き連れるのはよくないんですけど……」
大地はチラリとフルネールへ視線を向けた。
そう言うものなのか?
それはそうでしょう。昔から強い人の回りには色々集まりますから。いい人も悪い人も……。特に大地さんは大地さん自身の強さがありますし、もし、ナルちゃんが九尾になったら三つの国を同時に滅ぼすことができると言っても過言じゃありません。SランクのレヴィアちゃんにSランクのナルちゃん。そして女神の私!女神の私!
何で二回言った!?
ちゃんとアピールしておかないと都合のいい女と思われている気がしたので……。
人聞きの悪いこと言うなよ……。そんなこと思ってないから!
心のため息を吐き出した大地はユーナへと振り向いた。
「ま、まぁレヴィアもナルも元の姿が他の人にばれないように人の姿になってもらうからさ」
大地がそう言うもユーナはあまり納得した様子を見せず「うーん」と唸る。たとえ大地の言うように元の姿を誰にも見せないとしても悪目立ちする事は避けられない。ただ、それでもこれは大地達の事情であり踏み込み過ぎることは良くないのだ。ギルドの一員として。
「……わかりました。ただ気を付けてくださいね?気づく人は気づきます。そして、そういう人達にかぎって良くない人達なんです。最悪、命だって狙われてしまいますから……」
「あらあら。ユーナさんは大地さんの事が心配なんですね!」
フルネールがいつもの調子で人をからかうように言ったのだが、ユーナは照れもなければちょっと怒ったように「当たり前です!」と答えた。そして、フルネールからレヴィア、ナルへと視線を移しながら続ける。
「ダイチさんだけじゃありません!フルネールさんもレヴィアちゃんもナルちゃんも心配しているんですよ!」
「え?……あ……そうなんですね」
ユーナの返答にはフルネールも少し戸惑った。何せ前は自分の事を怪しんでいたはずだし、レヴィアは本来の姿が姿なだけに強さは折り紙つきだからだ。
「何かあれば私も力になりますけど、あまり無茶はなさらないでくださいね」
そう全員に言うとユーナはギルドの施錠を開けて入っていった。
「うーん、ユーナさんをあまりからかえませんでした」
「からかわなくてもいいだろ……」
心配してくれている相手に何て事を言ってんだと思いながら大地は別方向から感じた視線に振り向いた。
「ダイチのおっさん」
やってきたのはカイ青年だ。「よっ!」と言うように片手を上げてする挨拶を真似て大地も片手だけ上げて挨拶を手短に終わらせる。
「朝から早いな。どうしたんだ?」
そう問いかけるとカイが少し照れ臭そうに頭を掻く。
「……ダイチのおっさんにちゃんとお礼言ってないと思ってさ」
どうやらカイは昨日の晩の事を律儀にお礼を言いに来たらしい。
「あんなのお礼言うほどじゃないだろ。それよりカイのおかげでシーラ……亜人の女性は無事だったよ。ありがとな!」
「それこそお礼なんていらねぇよ!俺は命助けてもらえてんだから。こっちこそありがとな!」
そんな風に対抗してくるカイに大地は「いやいや」と否定するとカイも続いて「いやいやいや」と否定してくる。
それが三回ほど続くと黙っていたマリンがしびれを切らした。
「二人してなに気持ち悪いことしてるんだ」
その強烈な言葉が大地とカイにグサリと突き刺さり、あえなく撃沈した。
「そろそろギルドに入らないか?早めに済ませたいんだが」
「済ませる?って何をだ?」
昨日の報告が終わってないのか?と大地は考えたけれど雰囲気的にはそんな感じがしない。オーガスの言葉で少しだけピリッとしたのだ。
「そうだ。ダイチのおっさんも止めてくれよ。マリンとオーガスがギルドを辞めるって言うんだぜ」
「ギルドを?なんだ?昨日の戦いで自信でもなくしたか?」
やや二人を煽るような言い方するが。これで少しでも怒りを感じて話しやすくなるならそれも言いと思いながらだ。
「そんなんじゃないさ。ただ、カイが強くなりたいって言ったからね。これからランクをドンドン上げるなら私達もついていく事にしたのさ」
マリンの言葉にオーガスも頷く。この二人がやることは詰まるところ高ランクになった時の強制召集対策だ。
「ハンターを辞めた状態でパーティ続けるのは構わないけど、お前らが奴隷に見られる可能性だってあるだろ!?」
ギルドのシステム的に高ランクが何人パーティにいても報酬は変わりはしない。けれど、いつかのカイのようにハンターではないのにパーティに加わっているだけで疑われる要因にもなるのだ。
「それも大丈夫だろ」
今度はオーガスがそう言ってマリンが頷く。
「大丈夫なのか?」
その辺でようやく大地が口をだすとオーガスがニヤリと笑った。
「何せハンターではない人間をパーティに入れる形態を先駆けでやってる奴がいるからな」
俺達もそれに習うと言わんばかりにオーガスもマリンも大地を見てくる。つまり俺達が先駆者になったおかげでそう言う形態もありなのだと考えているようだ。
「ま、まぁ本人達が良いなら良いんじゃないか?」
色々考えている……かわからないが、少なくとも本人達がそう決めたのなら口をだすのも野暮だろう。
大地の言葉が決め手になったようにカイ達がギルドに入って行くのを見届ける。思えば彼らが朝早くからギルドに来たのは止められたりする面倒事を減らしたかったからだろう。
「とりあえず俺達も何時もの奴に行くか」
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