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迷って腐って浄化して
生きる力
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カイがモンスターに気付いた途端、奴は動いた。スーっと近づいてくるのは見えているのに体が動かない。まるで世界が遅くなりモンスターだけが自由に動けているような感覚だ。
そのモンスターはカイを素通りするとマリンへ接近する。それによってマリンはモンスターに気づいたが……攻撃を防ぎきる事は出来なかった。
白い人形のモンスターの攻撃は途中までシンプルだった。先細る白い手を振るってくるだけなのだ。時にしなやかな鞭のように、時に硬い棒のように。その攻撃をマリンはしっかりと防いでいた。
しかし、最後の攻撃をマリンが戦斧を回していなした直後だ。モンスターの体の中心が光を増した。それは光を収束するように集まりきった瞬間、その光が解き放たれた。
収束された光はマリンに直撃した。幸いなことに貫通力のある攻撃ではなかった事で風穴が空くことはなかったが威力はかなりあったようで吹き飛ばされ木に打ち付けられたマリンは気を失ってしまった。
そして、白い人型のモンスターは次の目標をオーガスに見定めた。
「オーガス!切り札を使え!あるんだろ!?」
カイがモンスターへ斬りかかるが簡単に避けられてしまう。
「ダメだ……」
「何でだよ!」
「あれは時間がかかるんだ!」
しかし、オーガスも手をこまねいてるつもりはない。マリンとモンスターがやりあっているわずかな時間に溜めた魔力で魔法を放つ。
「フローズンバインド!」
白い人形モンスターの周囲が凍りつき始める。地面と奴の足を凍らせて動きを封じるまでの時間はさほど掛からなかった。
だが、ここまではこの魔法の準備段階だ。凍った足場からつららが伸びてモンスターへと突き刺さる。それも三方向から体を貫いているため身動きを許さない。
「カイ!今だ!」
オーガスの呼び掛けよりも前に動いていたカイが飛び掛かりながら剣を振るう。それも一太刀ではない。モンスターに接近してから着地までに3回の斬撃を振るった。
つららごと切り裂いた。手応えは十分……なのだが、白い人形のモンスターから血液のようなものは吹き出さない。
カイが困惑した瞬間、モンスターは動いた。自分に触れる氷を一瞬で粉々にしつつオーガスの目の前へ移動する。
そして先細りの手に光を収束させオーガスの腹へ押し当てると光が爆発した。その衝撃に耐えきれないオーガスは気を失いながら吹き飛ばされる。
「くそ!何で俺を無視してやがるんだ!!」
悪態をつきながらカイは何度目かの剣を振るうが簡単にいなされた。そして、しなる腕が何本にも見える速度でカイを滅多打ちにする。
それも一つ一つが重くこのまま攻撃を受け続ければ意識を失い殺されてしまう。
「ぐはぁっ!」
カイが反撃にでるのを見越したようにモンスターが強烈な突きをカイの腹に見舞った。
「……ま……ずい」
このまま光の攻撃を受ければただではすまない。そして自分が意識を失えば全滅……いや、それだけじゃない。血吸いベアの事を考えるとリビングデッド化されてしまうかもしれない。
痛む体に鞭打ってカイは渾身の蹴りをモンスターの体へと当てた。その衝撃で少しだけ離れた直後にモンスターの先細りの手に溜まっていた光が爆発した。
カイがその衝撃で吹き飛ばされた。意識はある。まだ死んでいないのはモンスターが手加減しているからだろう。その理由はいたぶって遊んでいるとかではない。恐らく死体となった時に部位の欠損を少なくしたいんじゃないだろうか。
「くそ……こんな時ばかり頭の回転がいいな……俺は……!」
そのお陰で嫌なことばかりわかってしまう。目の前では両手に光を集めている。あれは自分達を殺す光だ。
自分達――。そう、今のカイの後ろにはマリンとオーガスが倒れている。全員が同じ方向に吹き飛ばされたのだ。
あの光でカイ達を殺そうというのだろう。マリンの時のように飛ばすのか、オーガスの時のように爆発させるのかはわからないが……。どの道このままでは死ぬ。
「こんなところで……諦めてたまるか!」
クラリス姉さんは言ったんだ。「どんな絶望的な状況でも諦めないで。立って最後の一滴まで力を振り絞るの」と。
一日だけの訓練で「ここまでする必要あるの!?」とか、「こんなのただの理不尽じゃないか」って言ったけど……正しく必要なことだったんだ。
諦めないというのは自分の為だけじゃない。マリンとオーガス……その大事な仲間を護る為の事だ。護りたい……!
「絶対……三人で生き残るんだよ!!」
その一点の思いが無意識にカイの体を動かした。片足を自分の後ろへ引き、両手で持った剣の刃を下段で構える。
その刃に淡い色の魔力が灯った。淡い光は澄み渡る青色へと変化する。そしてそれに伴いカイ自身の感覚も研ぎ澄まされていく。
護ると考えていた思考も今ではたった一つ『斬る』という思いだけだ。
やがてモンスターの手が突き出され光が放たれた。どでかい光の奔流のような光弾がカイ達を飲み込みに掛かる。
「うおおおおおおおおお!!!!」
それに対抗するためにカイは下段から切り上げるように剣を振るった。カイの光の斬撃がモンスターの光を切り裂いていく。
カイを起点に二つに別れた光は後方のマリンとオーガスに当たることなく地面をえぐりながら森の中へと消えていった。
「ふせ……げた……」
まさに無我夢中の技でカイ自身も驚きでいっぱいだった。自分の中でわかる今のはただの技ではなく魔法との組み合わせによる魔技と呼ばれる奴だ。ただ、自身が使える魔法なんてあっただろうか?そんな疑問が浮かぶがすぐに考えるのをやめる。
何せまだモンスターの驚異が消えた訳じゃないからだ……。
「まさか……」
カイがモンスターへ目を向けると驚愕の声をあげる。なにせ、先ほどはなった光の奔流は片手分だと知ってしまったからだ。
先ほどの魔技は体で覚えた。だが、もう一度使うには魔力を溜める時間が足りない。つまり……打つ手なしだ。それでも……諦めちゃダメなのだ。
カイががむしゃらに握った剣を振るおうとするが白い人型のモンスターはそれよりも早く先細りの手を突きだして光を放った――。
「くっそーーーーー!!!」
「だめーーーー!!」
それは幼い子供の声だった。その声を聞いてカイは自分の動きを止めると何が起きたのかを理解する。
自分の前に女の子が一人いるのだ。それはあの幽霊と言われている子で、先ほどカイを誘導してくれた女の子。見た目としては大地と一緒にいるレヴィアという子よりも少し年上に見えるほどの背丈だ。
その女の子が両手を突きだしてバリアのような魔法でモンスターの光から護ってくれていた。
大地が駆けつけて出くわした場面はそんな危機的な状況だった。
そのモンスターはカイを素通りするとマリンへ接近する。それによってマリンはモンスターに気づいたが……攻撃を防ぎきる事は出来なかった。
白い人形のモンスターの攻撃は途中までシンプルだった。先細る白い手を振るってくるだけなのだ。時にしなやかな鞭のように、時に硬い棒のように。その攻撃をマリンはしっかりと防いでいた。
しかし、最後の攻撃をマリンが戦斧を回していなした直後だ。モンスターの体の中心が光を増した。それは光を収束するように集まりきった瞬間、その光が解き放たれた。
収束された光はマリンに直撃した。幸いなことに貫通力のある攻撃ではなかった事で風穴が空くことはなかったが威力はかなりあったようで吹き飛ばされ木に打ち付けられたマリンは気を失ってしまった。
そして、白い人型のモンスターは次の目標をオーガスに見定めた。
「オーガス!切り札を使え!あるんだろ!?」
カイがモンスターへ斬りかかるが簡単に避けられてしまう。
「ダメだ……」
「何でだよ!」
「あれは時間がかかるんだ!」
しかし、オーガスも手をこまねいてるつもりはない。マリンとモンスターがやりあっているわずかな時間に溜めた魔力で魔法を放つ。
「フローズンバインド!」
白い人形モンスターの周囲が凍りつき始める。地面と奴の足を凍らせて動きを封じるまでの時間はさほど掛からなかった。
だが、ここまではこの魔法の準備段階だ。凍った足場からつららが伸びてモンスターへと突き刺さる。それも三方向から体を貫いているため身動きを許さない。
「カイ!今だ!」
オーガスの呼び掛けよりも前に動いていたカイが飛び掛かりながら剣を振るう。それも一太刀ではない。モンスターに接近してから着地までに3回の斬撃を振るった。
つららごと切り裂いた。手応えは十分……なのだが、白い人形のモンスターから血液のようなものは吹き出さない。
カイが困惑した瞬間、モンスターは動いた。自分に触れる氷を一瞬で粉々にしつつオーガスの目の前へ移動する。
そして先細りの手に光を収束させオーガスの腹へ押し当てると光が爆発した。その衝撃に耐えきれないオーガスは気を失いながら吹き飛ばされる。
「くそ!何で俺を無視してやがるんだ!!」
悪態をつきながらカイは何度目かの剣を振るうが簡単にいなされた。そして、しなる腕が何本にも見える速度でカイを滅多打ちにする。
それも一つ一つが重くこのまま攻撃を受け続ければ意識を失い殺されてしまう。
「ぐはぁっ!」
カイが反撃にでるのを見越したようにモンスターが強烈な突きをカイの腹に見舞った。
「……ま……ずい」
このまま光の攻撃を受ければただではすまない。そして自分が意識を失えば全滅……いや、それだけじゃない。血吸いベアの事を考えるとリビングデッド化されてしまうかもしれない。
痛む体に鞭打ってカイは渾身の蹴りをモンスターの体へと当てた。その衝撃で少しだけ離れた直後にモンスターの先細りの手に溜まっていた光が爆発した。
カイがその衝撃で吹き飛ばされた。意識はある。まだ死んでいないのはモンスターが手加減しているからだろう。その理由はいたぶって遊んでいるとかではない。恐らく死体となった時に部位の欠損を少なくしたいんじゃないだろうか。
「くそ……こんな時ばかり頭の回転がいいな……俺は……!」
そのお陰で嫌なことばかりわかってしまう。目の前では両手に光を集めている。あれは自分達を殺す光だ。
自分達――。そう、今のカイの後ろにはマリンとオーガスが倒れている。全員が同じ方向に吹き飛ばされたのだ。
あの光でカイ達を殺そうというのだろう。マリンの時のように飛ばすのか、オーガスの時のように爆発させるのかはわからないが……。どの道このままでは死ぬ。
「こんなところで……諦めてたまるか!」
クラリス姉さんは言ったんだ。「どんな絶望的な状況でも諦めないで。立って最後の一滴まで力を振り絞るの」と。
一日だけの訓練で「ここまでする必要あるの!?」とか、「こんなのただの理不尽じゃないか」って言ったけど……正しく必要なことだったんだ。
諦めないというのは自分の為だけじゃない。マリンとオーガス……その大事な仲間を護る為の事だ。護りたい……!
「絶対……三人で生き残るんだよ!!」
その一点の思いが無意識にカイの体を動かした。片足を自分の後ろへ引き、両手で持った剣の刃を下段で構える。
その刃に淡い色の魔力が灯った。淡い光は澄み渡る青色へと変化する。そしてそれに伴いカイ自身の感覚も研ぎ澄まされていく。
護ると考えていた思考も今ではたった一つ『斬る』という思いだけだ。
やがてモンスターの手が突き出され光が放たれた。どでかい光の奔流のような光弾がカイ達を飲み込みに掛かる。
「うおおおおおおおおお!!!!」
それに対抗するためにカイは下段から切り上げるように剣を振るった。カイの光の斬撃がモンスターの光を切り裂いていく。
カイを起点に二つに別れた光は後方のマリンとオーガスに当たることなく地面をえぐりながら森の中へと消えていった。
「ふせ……げた……」
まさに無我夢中の技でカイ自身も驚きでいっぱいだった。自分の中でわかる今のはただの技ではなく魔法との組み合わせによる魔技と呼ばれる奴だ。ただ、自身が使える魔法なんてあっただろうか?そんな疑問が浮かぶがすぐに考えるのをやめる。
何せまだモンスターの驚異が消えた訳じゃないからだ……。
「まさか……」
カイがモンスターへ目を向けると驚愕の声をあげる。なにせ、先ほどはなった光の奔流は片手分だと知ってしまったからだ。
先ほどの魔技は体で覚えた。だが、もう一度使うには魔力を溜める時間が足りない。つまり……打つ手なしだ。それでも……諦めちゃダメなのだ。
カイががむしゃらに握った剣を振るおうとするが白い人型のモンスターはそれよりも早く先細りの手を突きだして光を放った――。
「くっそーーーーー!!!」
「だめーーーー!!」
それは幼い子供の声だった。その声を聞いてカイは自分の動きを止めると何が起きたのかを理解する。
自分の前に女の子が一人いるのだ。それはあの幽霊と言われている子で、先ほどカイを誘導してくれた女の子。見た目としては大地と一緒にいるレヴィアという子よりも少し年上に見えるほどの背丈だ。
その女の子が両手を突きだしてバリアのような魔法でモンスターの光から護ってくれていた。
大地が駆けつけて出くわした場面はそんな危機的な状況だった。
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