初めての異世界転生

藤井 サトル

文字の大きさ
上 下
236 / 281
迷って腐って浄化して

あとは寝るだけって時に何かあるよね

しおりを挟む
 大地はシャーリーの家から出て、小蜘蛛の居場所を調整し終えたところだった。何体かは民家に入ってしまっていた為、居場所を変えて家の外を監視するようにしたのだ。

 そうしている間に夕飯の時間帯だ。どうしようかと考えながらギルドへと向かう途中、フルネールとレヴィアに偶然会った。

「大地さん。ちょうど良いところに!」

 フルネールが会えたことを嬉しそうにし、レヴィアは大地の真横へトコトコ歩いてぴったりとくっつく。

「どうかしたのか?」

 二人の反応には少し嬉しくなり大地がそう訪ねるが内心では少しの贅沢が出来たことによるお礼を言ってくるかな?と浮き足立つ。なにせ彼女たちには9万5千ゴールドも渡しているのだ。

「お金を全部使っちゃっいました」

「……なんだって?」

 もう一度言おう。彼女たちには9万5千ゴールドという『大金』を渡しているのだ。

「でですね、そのせいで……」

 大地が聞き返すもそれを無視して話を続けようとするフルネールへ大地は手で制す。

「まてまてまてまて。9万5千預けたよな!?え?全部なくなったの?」

「はい!」

 大地の質問にフルネールは悪びれるようすもなく笑顔で答える。元気があって大変よろしい……。

「まじかよ……何に使ったんだ?」

「服に使っちゃいました!」

 服かぁ……服ねぇ……。

「そうか。それなら仕方がないか……」

 服は高い物。そして、何れ買った服で目の保養が出来る事を考えると大地は不思議と許せてしまう。……まぁ本音はいつも野宿ばかりだから多少の贅沢は許してあげたい。

「この世界にきて金に執着しなくなったのは良いことなのか、悪いことなのか……」

「……大地さんは買った服見せろとか言わないんですね?」

「ん?ああ、興味があるのはその服を着たフルネールやレヴィアだからな。服だけ見てもしょうがないだろ」

「そうですか。でもそう言っていただけるなら私としても服屋さんで服の調整をしてもらっている最中なので助かります」

 フルネールは「楽しみにしていてくださいね」と笑顔を振り撒いてくる。そんな美人の笑顔に釘付けになっていると隣のレヴィアが服を引っ張ってきた。

「大地。あたしお腹すいたわ……」

 もうそろそろ良い時間なのだ。……が、一つだけ気になった。

「なぁ金を全部使ったと言ったな。もしかして昼飯は食ってない……とか?」

「え?えーっと、ほんの少し食べましたよ?」

 そう目を泳がせながら言うフルネールだ。嘘だろうと疑っていると横からレヴィアが口を開いた。

「嘘よ。私達は食べたけど、フルネールは食べてないわ」

「あー!レヴィアちゃん言っちゃダメですよ」

 珍しくフルネールが慌てる。

 自分が食べていないことを隠したかったのだろうか?しかし、大地としてはフルネールもしっかり食べてほしいと思う。

「はぁ……ここに5千ゴールドある。これで宿とって少なくなった金で飯を食うか。それとも、全部飯代に使ってギルド前で寝るか。どちらが良い?」

 そう聞くと、フルネールもレヴィアも後者を選択するのだ。外で寝ることに違和感も危機感も嫌悪感もないのだろうか?

 そう思いながらも、自分もその内の一人であることに飯を食い終わってから気づき若干のセルフダメージを大地は受けるのだった。

 その後、寝床ギルド前までやって来るともう遅い時間だというのにギルド内が少し騒がしい。

 何とも嫌な予感がする。こういう時の予感が当たるって俺は知ってるんだ(実体験からの本能で……)。

「よし、フルネール。寝ようか」

 大地はロールプレイングゲームで強制イベントを回避して進もうとするRTA張りの柔軟さを見せつける。ゲームではないが明日の朝を拝むタイムアタックだ。

 ※RTAとはリアルタイムアタックの略である。ゲームでの遊び方の一つで、ゲームのクリア時間を競うときによく使われる言葉。

「え?こんなお外で誘われるなんて……流石の私でも恥ずかしいです……」

 強制イベントを回避したら、別の強制イベントがやって来る件について……。

 等と奥ゆかしさを全面に表して言ってきたフルネールを見て、少し想像してしまった大地は声を張り上げることでやましい気持ちを振り払う。

「何言ってんだよ!ただここで夜を過ごすだけだろ!?」

「大地さん。大地さん。言っていること同じですよ」

 やや混乱しているのでは?と思ったフルネールが心配そうにする。そして、大地の声に誘われるようにユーナがギルドから出てきた。

「あ、ダイチさん。ちょうど良いところに」

 ここで寝ているのだからちょうど良いも何もないのだが、一先ずユーナの話を聞く為に彼女へ振り向いた。

「何かあったんですか?」

「実は……カイさんが南の森へ依頼をこなしに行ったんですけど、トラブルが発生したようなんです」

 ……幽霊が出ると噂されてるのに南の森に行くのかよ……。

「カイさんはBランクへ昇格する為の依頼だったんですが、南の森で旅人がモンスターに教われていたらしく……」

「そこからは私が話すよ」

 ギルドの扉が開くとそこからマリンが出てくる。その後ろからは見慣れない男女と子供だ。

「私達が南の森で調査をしている時だったんだ――」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉

Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」  華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。  彼女の名はサブリーナ。  エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。  そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。  然もである。  公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。    一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。  趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。  そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。 「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。  ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。  拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。    

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

婚約破棄を目撃したら国家運営が破綻しました

ダイスケ
ファンタジー
「もう遅い」テンプレが流行っているので書いてみました。 王子の婚約破棄と醜聞を目撃した魔術師ビギナは王国から追放されてしまいます。 しかし王国首脳陣も本人も自覚はなかったのですが、彼女は王国の国家運営を左右する存在であったのです。

処理中です...