初めての異世界転生

藤井 サトル

文字の大きさ
上 下
225 / 281
月光の花嫁

気づかない内に助けたり助けられたり。人ってそういうもの

しおりを挟む
 リリアが大地の瞳を覗き込むように見つめてくる。

「どこから話すか……」

 少し考えたあと一番大事な事から話そうと決めた。

「それじゃあ夜伽を断る理由からにするか」

 リリアが意外だと言う顔を一瞬してから頷いた。

「断る理由は凄い単純なんだ」

「単純?」

「ああ。俺は……リリアの事が好きなんだよ」

 その言葉を聞いた瞬間、リリアは不思議な気持ちを感じた。今まで両親からもアーデルハイドやクルスから言われた事は当然あるし、自分からも言ったことがある。でも、その時はこんな不思議な気持ちになることは一度も無かった。

 でもそれは……。

「好き……なら嬉しいんじゃないんですか?お兄ちゃんがそう言うものだって……」

「そうだな。さっきリリアは魅力が無いなんて言ったけど俺はそう思わないし、嬉しいのは確かだ」

「それなら!」

「でも、だからこそダメなんだよ。お礼だなんだで受け入れたいと思わない……ま、これは俺のわがままだな」

「わがまま……」

「そもそも、リリアは助けてもらってばかりでお礼をしていないというが、俺からしたら逆なんだよ」

「逆?」

 リリアはいぶかしんだ表情へと変わった。それはどう見ても逆になんてなるわけがなく、大地が自分に気を使っているだけなのだと考えたからだ。

「そんなことあるわけないじゃないですか。私がどうやってダイチさんを助けていると言うんですか……」

「……そうだな、それはリリアにとって当たり前で、リリアが何時も俺の側にいて笑ってくれている事なんだ」

 確かに何時も大地を見つけたリリアは小走りで近づいていくのが殆どだ。だけど、それがどう助けていることに繋がるのかさっぱりわからない。

「そんなこと言われてもわかりませんよ……」

「リリアがずっと前からしてきた事で俺がその恩恵を受けているんだ」

「ずっと前から……?」

「そう。それはだ。俺はリリアが近くにいてくれたからこそ……こうしていられるんだ」

 それが答えなのだがそれでもリリアはピンとこない。

「信頼を得るだなんて……そもそもダイチさんだって色んな人に信頼されているじゃないですか。なのにそんなこと言われても……」

「本当にそう思うか?」

 大地の思わぬ返答にリリアが困惑の色を強めた。

「え?」

「考えても見てほしい。いきなりパッと現れたおっさんがSランクのモンスターを簡単に倒せる力を持っていたんだ。もし、その力が自分に向いたらと考えたら普通なら怖がるところだろ?」

「でも、ダイチさんはそんなことをしません!」

 まるで自分のことのようにあっさりと否定してくれるリリアに嬉しく思うが、その感情を出している時じゃないと思い直す。

「そうだな。でもそれを知っているのはリリアが何時も側にいて見てくれていたからだ。でも、俺を知らなければ人がどういう行動を取るかわかるか?」

「……それは……」

 一つの答えに思い至ったリリアが言葉に詰まる。なにせ、そう行動をすると前例があるからだ。

「……迫害……ですよね」

「そうだ。亜人と同じだな。身体能力が高いと自分達にいつ牙を剥いてくるかわからない恐れから起きる集団心理だ」

「でも!ダイチさんはそうなっていないじゃないですか。それと比較するのは――」

「そうならなかったのはリリア。君が俺の側で笑っていてくれたからだ」

「私が……?」

「リリアがずっとホワイトキングダムで君自身の信頼を得てきたからこそ、リリアを通して俺の事が安全だと認識されてきたんだ。隣にリリアがいて笑っているなら大丈夫だろう……と」

「……」

「リリア……側に居てくれてありがとう。俺はずっとリリアに助けられてここにいるんだ」

 俯いてしまっているリリアの表情は大地から見ることはできない。だけど、今の大地の想いを聞いて整理する時間が必要だと言うことはわかる。

「……ずっと迷惑しかかけていないって思ってました……私、ダイチさんに迷惑ばかりかけていたんじゃないんですね……」

 少しずつしゃくりあげていくリリアの頭をゆっくり撫でる。

「当たり前だ。俺の近くにいられない……何て言ったけど、俺はリリアがいてくれないと困る」

「でも、もう私がいなくてもダイチさんは国の人達から信頼されています……もう私と一緒に依頼をする必要も無いじゃないですか……」

 だから一緒にいる必要がない。再び消え入りそうな声でそう言うリリアに大地はその鬱屈さを晴らすべく笑顔を向ける。

「言ったろ?俺はリリアの事が好きだって。だから誘われれば嬉しいんだよ」

「ダイチさん……」

 リリアが自分の瞳に溜まった涙を乱暴に拭う。そして顔を上げて「はい!」と返事をしてようやく笑顔に戻る。それはとても喜ばしいことなのだが、ひとつ問題があるとすれば……話を振り替えると先程から告白めいた事ばかり並べる結果となってしまった。

 これは非常にまずい。だが、唯一の救いはリリアがライクとラブの違いをわかっていないことだ。きっとそう言う事としては捉えないはずである。

「そ、それでもダイチさん。やっぱり私、ダイチさんに何かしたいのですけど……」

 そう言う事として捉えなかったけれど話は続くようだ。

「え、ええ……」

「……ご迷惑なら……諦めます……」

 あああ!その顔はずるい……ぐぬぬ……。

 悲しそうな顔をしながらやや俯く姿勢は大地の罪悪感をものすごい勢いでかきたてる。だから……負けてしまってもしょうがない。よね?

「わかった……あー、それなら添い寝してくれるか?」

 こ、ここまでならきっとセーフだよね……。いや、アウトでもバレなければ……。

「はい!」

 大地が別の罪悪感を感じているのを他所にリリアは本日一番の笑顔で返事をするのだった。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

アブソリュート・ババア

筧千里
ファンタジー
 大陸の地下に根を張る、誰も踏破したことのない最大のロストワルド大迷宮。迷宮に入り、貴重な魔物の素材や宝物を持ち帰る者たちが集まってできたのが、ハンターギルドと言われている。  そんなハンターギルドの中でも一握りの者しかなることができない最高ランク、S級ハンターを歴代で初めて与えられたのは、『無敵の女王《アブソリュート・クイーン》』と呼ばれた女ハンターだった。  あれから40年。迷宮は誰にも踏破されることなく、彼女は未だに現役を続けている。ゆえに、彼女は畏れと敬いをもって、こう呼ばれていた。  アブソリュート・ババ「誰がババアだって?」

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

世界樹を巡る旅

ゴロヒロ
ファンタジー
偶然にも事故に巻き込まれたハルトはその事故で勇者として転生をする者たちと共に異世界に向かう事になった そこで会った女神から頼まれ世界樹の迷宮を攻略する事にするのだった カクヨムでも投稿してます

クラスまるごと異世界転移

八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。 ソレは突然訪れた。 『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』 そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。 …そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。 どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。 …大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても… そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

見よう見まねで生産チート

立風人(りふと)
ファンタジー
(※サムネの武器が登場します) ある日、死神のミスにより死んでしまった青年。 神からのお詫びと救済を兼ねて剣と魔法の世界へ行けることに。 もの作りが好きな彼は生産チートをもらい異世界へ 楽しくも忙しく過ごす冒険者 兼 職人 兼 〇〇な主人公とその愉快な仲間たちのお話。 ※基本的に主人公視点で進んでいきます。 ※趣味作品ですので不定期投稿となります。 コメント、評価、誤字報告の方をよろしくお願いします。

死んでないのに異世界に転生させられた

三日月コウヤ
ファンタジー
今村大河(いまむらたいが)は中学3年生になった日に神から丁寧な説明とチート能力を貰う…事はなく勝手な神の個人的な事情に巻き込まれて異世界へと行く羽目になった。しかし転生されて早々に死にかけて、与えられたスキルによっても苦労させられるのであった。 なんでも出来るスキル(確定で出来るとは言ってない) *冒険者になるまでと本格的に冒険者活動を始めるまで、メインヒロインの登場などが結構後の方になります。それら含めて全体的にストーリーの進行速度がかなり遅いですがご了承ください。 *カクヨム、アルファポリスでも投降しております

処理中です...