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月光の花嫁
気づかない内に助けたり助けられたり。人ってそういうもの
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リリアが大地の瞳を覗き込むように見つめてくる。
「どこから話すか……」
少し考えたあと一番大事な事から話そうと決めた。
「それじゃあ夜伽を断る理由からにするか」
リリアが意外だと言う顔を一瞬してから頷いた。
「断る理由は凄い単純なんだ」
「単純?」
「ああ。俺は……リリアの事が好きなんだよ」
その言葉を聞いた瞬間、リリアは不思議な気持ちを感じた。今まで両親からもアーデルハイドやクルスから言われた事は当然あるし、自分からも言ったことがある。でも、その時はこんな不思議な気持ちになることは一度も無かった。
でもそれは……。
「好き……なら嬉しいんじゃないんですか?お兄ちゃんがそう言うものだって……」
「そうだな。さっきリリアは魅力が無いなんて言ったけど俺はそう思わないし、嬉しいのは確かだ」
「それなら!」
「でも、だからこそダメなんだよ。お礼だなんだで受け入れたいと思わない……ま、これは俺のわがままだな」
「わがまま……」
「そもそも、リリアは助けてもらってばかりでお礼をしていないというが、俺からしたら逆なんだよ」
「逆?」
リリアは訝しんだ表情へと変わった。それはどう見ても逆になんてなるわけがなく、大地が自分に気を使っているだけなのだと考えたからだ。
「そんなことあるわけないじゃないですか。私がどうやってダイチさんを助けていると言うんですか……」
「……そうだな、それはリリアにとって当たり前で、リリアが何時も俺の側にいて笑ってくれている事なんだ」
確かに何時も大地を見つけたリリアは小走りで近づいていくのが殆どだ。だけど、それがどう助けていることに繋がるのかさっぱりわからない。
「そんなこと言われてもわかりませんよ……」
「リリアがずっと前からしてきた事で俺がその恩恵を受けているんだ」
「ずっと前から……?」
「そう。それは信頼を得るだ。俺はリリアが近くにいてくれたからこそ……こうしていられるんだ」
それが答えなのだがそれでもリリアはピンとこない。
「信頼を得るだなんて……そもそもダイチさんだって色んな人に信頼されているじゃないですか。なのにそんなこと言われても……」
「本当にそう思うか?」
大地の思わぬ返答にリリアが困惑の色を強めた。
「え?」
「考えても見てほしい。いきなりパッと現れたおっさんがSランクのモンスターを簡単に倒せる力を持っていたんだ。もし、その力が自分に向いたらと考えたら普通なら怖がるところだろ?」
「でも、ダイチさんはそんなことをしません!」
まるで自分のことのようにあっさりと否定してくれるリリアに嬉しく思うが、その感情を出している時じゃないと思い直す。
「そうだな。でもそれを知っているのはリリアが何時も側にいて見てくれていたからだ。でも、俺を知らなければ人がどういう行動を取るかわかるか?」
「……それは……」
一つの答えに思い至ったリリアが言葉に詰まる。なにせ、そう行動をすると前例があるからだ。
「……迫害……ですよね」
「そうだ。亜人と同じだな。身体能力が高いと自分達にいつ牙を剥いてくるかわからない恐れから起きる集団心理だ」
「でも!ダイチさんはそうなっていないじゃないですか。それと比較するのは――」
「そうならなかったのはリリア。君が俺の側で笑っていてくれたからだ」
「私が……?」
「リリアがずっとホワイトキングダムで君自身の信頼を得てきたからこそ、リリアを通して俺の事が安全だと認識されてきたんだ。隣にリリアがいて笑っているなら大丈夫だろう……と」
「……」
「リリア……側に居てくれてありがとう。俺はずっとリリアに助けられてここにいるんだ」
俯いてしまっているリリアの表情は大地から見ることはできない。だけど、今の大地の想いを聞いて整理する時間が必要だと言うことはわかる。
「……ずっと迷惑しかかけていないって思ってました……私、ダイチさんに迷惑ばかりかけていたんじゃないんですね……」
少しずつしゃくりあげていくリリアの頭をゆっくり撫でる。
「当たり前だ。俺の近くにいられない……何て言ったけど、俺はリリアがいてくれないと困る」
「でも、もう私がいなくてもダイチさんは国の人達から信頼されています……もう私と一緒に依頼をする必要も無いじゃないですか……」
だから一緒にいる必要がない。再び消え入りそうな声でそう言うリリアに大地はその鬱屈さを晴らすべく笑顔を向ける。
「言ったろ?俺はリリアの事が好きだって。だから誘われれば嬉しいんだよ」
「ダイチさん……」
リリアが自分の瞳に溜まった涙を乱暴に拭う。そして顔を上げて「はい!」と返事をしてようやく笑顔に戻る。それはとても喜ばしいことなのだが、ひとつ問題があるとすれば……話を振り替えると先程から告白めいた事ばかり並べる結果となってしまった。
これは非常にまずい。だが、唯一の救いはリリアがライクとラブの違いをわかっていないことだ。きっとそう言う事としては捉えないはずである。
「そ、それでもダイチさん。やっぱり私、ダイチさんに何かしたいのですけど……」
そう言う事として捉えなかったけれど話は続くようだ。
「え、ええ……」
「……ご迷惑なら……諦めます……」
あああ!その顔はずるい……ぐぬぬ……。
悲しそうな顔をしながらやや俯く姿勢は大地の罪悪感をものすごい勢いでかきたてる。だから……負けてしまってもしょうがない。よね?
「わかった……あー、それなら添い寝してくれるか?」
こ、ここまでならきっとセーフだよね……。いや、アウトでもバレなければ……。
「はい!」
大地が別の罪悪感を感じているのを他所にリリアは本日一番の笑顔で返事をするのだった。
「どこから話すか……」
少し考えたあと一番大事な事から話そうと決めた。
「それじゃあ夜伽を断る理由からにするか」
リリアが意外だと言う顔を一瞬してから頷いた。
「断る理由は凄い単純なんだ」
「単純?」
「ああ。俺は……リリアの事が好きなんだよ」
その言葉を聞いた瞬間、リリアは不思議な気持ちを感じた。今まで両親からもアーデルハイドやクルスから言われた事は当然あるし、自分からも言ったことがある。でも、その時はこんな不思議な気持ちになることは一度も無かった。
でもそれは……。
「好き……なら嬉しいんじゃないんですか?お兄ちゃんがそう言うものだって……」
「そうだな。さっきリリアは魅力が無いなんて言ったけど俺はそう思わないし、嬉しいのは確かだ」
「それなら!」
「でも、だからこそダメなんだよ。お礼だなんだで受け入れたいと思わない……ま、これは俺のわがままだな」
「わがまま……」
「そもそも、リリアは助けてもらってばかりでお礼をしていないというが、俺からしたら逆なんだよ」
「逆?」
リリアは訝しんだ表情へと変わった。それはどう見ても逆になんてなるわけがなく、大地が自分に気を使っているだけなのだと考えたからだ。
「そんなことあるわけないじゃないですか。私がどうやってダイチさんを助けていると言うんですか……」
「……そうだな、それはリリアにとって当たり前で、リリアが何時も俺の側にいて笑ってくれている事なんだ」
確かに何時も大地を見つけたリリアは小走りで近づいていくのが殆どだ。だけど、それがどう助けていることに繋がるのかさっぱりわからない。
「そんなこと言われてもわかりませんよ……」
「リリアがずっと前からしてきた事で俺がその恩恵を受けているんだ」
「ずっと前から……?」
「そう。それは信頼を得るだ。俺はリリアが近くにいてくれたからこそ……こうしていられるんだ」
それが答えなのだがそれでもリリアはピンとこない。
「信頼を得るだなんて……そもそもダイチさんだって色んな人に信頼されているじゃないですか。なのにそんなこと言われても……」
「本当にそう思うか?」
大地の思わぬ返答にリリアが困惑の色を強めた。
「え?」
「考えても見てほしい。いきなりパッと現れたおっさんがSランクのモンスターを簡単に倒せる力を持っていたんだ。もし、その力が自分に向いたらと考えたら普通なら怖がるところだろ?」
「でも、ダイチさんはそんなことをしません!」
まるで自分のことのようにあっさりと否定してくれるリリアに嬉しく思うが、その感情を出している時じゃないと思い直す。
「そうだな。でもそれを知っているのはリリアが何時も側にいて見てくれていたからだ。でも、俺を知らなければ人がどういう行動を取るかわかるか?」
「……それは……」
一つの答えに思い至ったリリアが言葉に詰まる。なにせ、そう行動をすると前例があるからだ。
「……迫害……ですよね」
「そうだ。亜人と同じだな。身体能力が高いと自分達にいつ牙を剥いてくるかわからない恐れから起きる集団心理だ」
「でも!ダイチさんはそうなっていないじゃないですか。それと比較するのは――」
「そうならなかったのはリリア。君が俺の側で笑っていてくれたからだ」
「私が……?」
「リリアがずっとホワイトキングダムで君自身の信頼を得てきたからこそ、リリアを通して俺の事が安全だと認識されてきたんだ。隣にリリアがいて笑っているなら大丈夫だろう……と」
「……」
「リリア……側に居てくれてありがとう。俺はずっとリリアに助けられてここにいるんだ」
俯いてしまっているリリアの表情は大地から見ることはできない。だけど、今の大地の想いを聞いて整理する時間が必要だと言うことはわかる。
「……ずっと迷惑しかかけていないって思ってました……私、ダイチさんに迷惑ばかりかけていたんじゃないんですね……」
少しずつしゃくりあげていくリリアの頭をゆっくり撫でる。
「当たり前だ。俺の近くにいられない……何て言ったけど、俺はリリアがいてくれないと困る」
「でも、もう私がいなくてもダイチさんは国の人達から信頼されています……もう私と一緒に依頼をする必要も無いじゃないですか……」
だから一緒にいる必要がない。再び消え入りそうな声でそう言うリリアに大地はその鬱屈さを晴らすべく笑顔を向ける。
「言ったろ?俺はリリアの事が好きだって。だから誘われれば嬉しいんだよ」
「ダイチさん……」
リリアが自分の瞳に溜まった涙を乱暴に拭う。そして顔を上げて「はい!」と返事をしてようやく笑顔に戻る。それはとても喜ばしいことなのだが、ひとつ問題があるとすれば……話を振り替えると先程から告白めいた事ばかり並べる結果となってしまった。
これは非常にまずい。だが、唯一の救いはリリアがライクとラブの違いをわかっていないことだ。きっとそう言う事としては捉えないはずである。
「そ、それでもダイチさん。やっぱり私、ダイチさんに何かしたいのですけど……」
そう言う事として捉えなかったけれど話は続くようだ。
「え、ええ……」
「……ご迷惑なら……諦めます……」
あああ!その顔はずるい……ぐぬぬ……。
悲しそうな顔をしながらやや俯く姿勢は大地の罪悪感をものすごい勢いでかきたてる。だから……負けてしまってもしょうがない。よね?
「わかった……あー、それなら添い寝してくれるか?」
こ、ここまでならきっとセーフだよね……。いや、アウトでもバレなければ……。
「はい!」
大地が別の罪悪感を感じているのを他所にリリアは本日一番の笑顔で返事をするのだった。
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