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迷って腐って浄化して
人が腐る瞬間とは誘惑に負けたときなのだ
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「さて……取り敢えず飯か」
腹ごしらえは重要なことだ。『腹が減っては戦はできぬ』と言う言葉がある。先人はいいことを言うなぁ。
とは言え大地はこの世界の文字が一生読めない身だ。つまり、店でメニューが読めないと腹を空かしたまま路頭に迷うことになる。
でも文字が読めないことをハンデに考えたことは一度もない。何故なら基本的になんて書いてあるか読んでもらっているからだ!
……あれ、なんかダメ男のような成金男みたいな印象が自分からしてくるぞ?確かに常に女の子に読んでもらっているけれど……お金はちゃんと払っているし?メニュー見て自分の代わりにご飯を頼んでもらっているけれどお金はちゃんと払っているし!?
何度考えても数人の女の子を引き連れて世話を焼かせている成金ダメ男の印象が強くなる。
「……ま、まぁ取り敢えず考えても文字は読めないから猫猫亭で適当に見繕ってもらうか」
ギルドから食事処の猫猫亭へと歩いている時だった。
「やっぱりタイミングよくいるわけないよね」
「ダメ元でも探すんでしょ?」
聞いたことのある声が耳に届いた。
「あ!居た!ダイチさん!」
先程聞こえてきた声の一人が大地の腕に自分の腕を絡めながら言ってきた。
「捕まえました!」
「うむ、また捕まってしまったな」
等と平静を装っているが、その姿勢は大地の腕に体を押し付ける形のせいで、胸やお腹が当たって体温を直に感じてしまう。つまり……内心ドキドキなのである。
「リリエッタ。どうしたんだ?」
それでも冷静にそう訪ねるのだがその返答は帰ってこない。その代わりにリリエッタがもう一人の声の主へ顔を向けて口を開いた。
「ほら!クラリスちゃんも!一緒に捕まえて!」
一気にクラリスの顔が赤くなった。リリエッタのように抱きつくのがかなり恥ずかしいのだ。しかし、それが普通だと大地でさえ認識している。……まぁリリエッタの距離感も男である大地としては嫌いではない。
「え……えと……えい!」
かなり躊躇していたはずなのクラリスが思いきって大地の残った腕へと抱きついてきた。そんなうれしはずかし体験を味わってしまっているが、それでも何とか表情は崩さなかった。
「クラリス……恥ずかしいならやらなくていいんだぞ?俺は逃げないから」
「い、いえ!がんばります!!」
何を頑張ると言うのだろうか……。
「でも……迷惑ですか……?」
しかし、クラリスが直ぐにこの行為について考えたのか弱々しく聞いてくる。
二人の女の子に挟まれるなど元の世界では決してなかったであろう。それを迷惑などとは口が避けても言えない。だが、なにも言わずに今の状況を楽しむのはフェアと言えない。
「……いや、迷惑じゃないけど……胸とか当たってるんだが」
「はい……」
クラリスはわかっているような返事をしてくれた。だけど、その後の行動が離れるものではなく、逆にぎゅっと力を込めて引っ付いきた。
より感触が鮮明になるのだが、町の往来で、二人の女の子に挟まれている状況で反応するわけにはいかないのだ。この先を生きるために……。
「それで……なにか用があるのか?」
「えっとね。今日はアルテリナちゃんの誕生日なんです。それで、出来ればダイチさんにも来てもらいたくて……」
アルテリナ。確か猫猫亭の従業員の一人で以前、人売り?に拉致られた女の子だ。
「ああ。それはめでたいな。是非参加させて貰うよ」
「やった!それじゃあ行きましょう!」
大地が承諾するとリリエッタが喜びながら大地を引っ張っていく。
「まてまて、このまま行くのか?」
「うん!だって私たちが大地さんを捕まえてるんだから。さ、行こ?」
抱きつかれて捕らえられてしまっているのは確かだ。それなら仕方ないと自分に言い聞かせながら引っ張られる力に抵抗せず大地も歩き出した。
「そうだ!聞いてよダイチさん。クラリスちゃんがカイさんってハンターを虐めてるんだよ!」
クラリスがいじめ……?
「ち、ちが!そんなことしてないよ!!」
否定するクラリスにリリエッタが口を尖らせながらいった。
「でも、昨日カイさんがボロボロになっても無理やり起こさせて叩いてたじゃん……見てて可哀想だったよ」
「あれは……カイ君がBランク昇格依頼前に強くなりたいって言ってきたから……。一日で強くなる方法なんてないから、せめて窮地に陥っても頑張れる様に終わりを見せない組手をしてたの……」
つまりカイを想って鍛えていたのか……。
「でも起きる体力的無いって言っていても起きなきゃ当たる様に攻撃してたじゃん!それも地面が抉れてたんだよ!」
「それは……口先だけだ諦めようとしてたからだよ!ハンターは場合によっては体力が無くなってから動かないといけないときがあるんだよ!じゃないと……」
「死ぬからか?」
クラリスの言葉を引き継ぐように大地が言った。少しだけ驚いたクラリスが直ぐに頷く。
「リリエッタ。カイに生きてほしいからやったことなんだよ。傍から見ればそれは酷い有り様かもしれないけどハンターとしては大事なことなんだと思う」
場合によっては息つく暇もない状況なんてざらに有るのだろう。生き残れるハンターはそこで食いしばれるかどうか。それを教えるためなのだとしたら相当追い込まないといけないのはわかる。
「……そうなの?」
もっともハンターではないリリエッタが想像できないのは無理もないことだ。
「うん……でも、やっぱりやり過ぎたのかな……」
クラリスがそう思うのは恐らく回りからの評価だろう。一番最初にハンター達からクラリスのことを聞いたときはバーサーカーのような戦闘狂を思ったくらいだ。
「えっと……その、ごめんね。知らなかったけどクラリスちゃんも必死だったんだね」
そう謝るとリリエッタが大地から離れる。そして大地にだけ聞こえる様に言うのだ。
「ねね。ダイチさん。クラリスちゃんの頭を撫でてあげて?」
「え?いや、女性の髪をむやみに触るのはダメだろう」
「ううん。クラリスちゃんなら大丈夫!私が保証するから……お願い」
それを信じて本当によいのだろうか。そんな猜疑心が一瞬だけ生まれるがそれを振り払ってリリエッタを信じることにした。
「クラリス……カイもハンターならやりすぎくらいでちょうどいいだろ」
そう言いながら頭を撫でるのだが、クラリスの反応はなにかを言う訳ではなく、顔を腕へ押し付けるようにくっ付けてきた。
やはり髪をいきなり触られて嫌だったのだろうか。そう思いながらクラリスを見続けてると声が聞こえてきた。
「うん……ありがとう」
お礼を言ってくると言うことはきっと嫌なわけではなかったのだろう。そう安堵しているとクラリスも抱きついていた腕を離した。
少し惜しい気持ちは当然あるのだが、これで成金野郎の振るまいからは脱却できるのだ。
しかし、その後のクラリスの行動は驚かせるものだった。何せ、大地の懐にはいるように引っ付いてきたのだ。
「あの、よかったら抱き寄せてくれると嬉しい……です」
などと言うのだ。『◯◯してほしい』とお願いされたわけではないが、この言い方はそれと同等以上の強制力がありこの要求を飲めなければ男として失格の烙印を押されてしまうことだろう。
だから……大地は『致し方なく(ここ大事!)』クラリスの肩へ手を回して抱き寄せるのだ。
そして、それを見たリリエッタが反応してくる。
「あー!クラリスちゃんばかりずるい!ダイチさん!私も私もー!」
と言いながらクラリスと同じようにあいているもう片方の懐へ入り込んでくる。そして、目で訴えかけてくるのだ。『肩に手を回して抱き寄せて』と。
それならば、やはりここも『致し方なく(テストに出るほど大事!)』リリエッタの肩へ手を回して抱き寄せた。
もしかして今の俺はモテ期なのだろうか?と考えた後……今の現状を見て、よく漫画に出てくる根性の腐った成金が女の子を連れ回すシーンじゃね?と思わざるを得なかった。
腹ごしらえは重要なことだ。『腹が減っては戦はできぬ』と言う言葉がある。先人はいいことを言うなぁ。
とは言え大地はこの世界の文字が一生読めない身だ。つまり、店でメニューが読めないと腹を空かしたまま路頭に迷うことになる。
でも文字が読めないことをハンデに考えたことは一度もない。何故なら基本的になんて書いてあるか読んでもらっているからだ!
……あれ、なんかダメ男のような成金男みたいな印象が自分からしてくるぞ?確かに常に女の子に読んでもらっているけれど……お金はちゃんと払っているし?メニュー見て自分の代わりにご飯を頼んでもらっているけれどお金はちゃんと払っているし!?
何度考えても数人の女の子を引き連れて世話を焼かせている成金ダメ男の印象が強くなる。
「……ま、まぁ取り敢えず考えても文字は読めないから猫猫亭で適当に見繕ってもらうか」
ギルドから食事処の猫猫亭へと歩いている時だった。
「やっぱりタイミングよくいるわけないよね」
「ダメ元でも探すんでしょ?」
聞いたことのある声が耳に届いた。
「あ!居た!ダイチさん!」
先程聞こえてきた声の一人が大地の腕に自分の腕を絡めながら言ってきた。
「捕まえました!」
「うむ、また捕まってしまったな」
等と平静を装っているが、その姿勢は大地の腕に体を押し付ける形のせいで、胸やお腹が当たって体温を直に感じてしまう。つまり……内心ドキドキなのである。
「リリエッタ。どうしたんだ?」
それでも冷静にそう訪ねるのだがその返答は帰ってこない。その代わりにリリエッタがもう一人の声の主へ顔を向けて口を開いた。
「ほら!クラリスちゃんも!一緒に捕まえて!」
一気にクラリスの顔が赤くなった。リリエッタのように抱きつくのがかなり恥ずかしいのだ。しかし、それが普通だと大地でさえ認識している。……まぁリリエッタの距離感も男である大地としては嫌いではない。
「え……えと……えい!」
かなり躊躇していたはずなのクラリスが思いきって大地の残った腕へと抱きついてきた。そんなうれしはずかし体験を味わってしまっているが、それでも何とか表情は崩さなかった。
「クラリス……恥ずかしいならやらなくていいんだぞ?俺は逃げないから」
「い、いえ!がんばります!!」
何を頑張ると言うのだろうか……。
「でも……迷惑ですか……?」
しかし、クラリスが直ぐにこの行為について考えたのか弱々しく聞いてくる。
二人の女の子に挟まれるなど元の世界では決してなかったであろう。それを迷惑などとは口が避けても言えない。だが、なにも言わずに今の状況を楽しむのはフェアと言えない。
「……いや、迷惑じゃないけど……胸とか当たってるんだが」
「はい……」
クラリスはわかっているような返事をしてくれた。だけど、その後の行動が離れるものではなく、逆にぎゅっと力を込めて引っ付いきた。
より感触が鮮明になるのだが、町の往来で、二人の女の子に挟まれている状況で反応するわけにはいかないのだ。この先を生きるために……。
「それで……なにか用があるのか?」
「えっとね。今日はアルテリナちゃんの誕生日なんです。それで、出来ればダイチさんにも来てもらいたくて……」
アルテリナ。確か猫猫亭の従業員の一人で以前、人売り?に拉致られた女の子だ。
「ああ。それはめでたいな。是非参加させて貰うよ」
「やった!それじゃあ行きましょう!」
大地が承諾するとリリエッタが喜びながら大地を引っ張っていく。
「まてまて、このまま行くのか?」
「うん!だって私たちが大地さんを捕まえてるんだから。さ、行こ?」
抱きつかれて捕らえられてしまっているのは確かだ。それなら仕方ないと自分に言い聞かせながら引っ張られる力に抵抗せず大地も歩き出した。
「そうだ!聞いてよダイチさん。クラリスちゃんがカイさんってハンターを虐めてるんだよ!」
クラリスがいじめ……?
「ち、ちが!そんなことしてないよ!!」
否定するクラリスにリリエッタが口を尖らせながらいった。
「でも、昨日カイさんがボロボロになっても無理やり起こさせて叩いてたじゃん……見てて可哀想だったよ」
「あれは……カイ君がBランク昇格依頼前に強くなりたいって言ってきたから……。一日で強くなる方法なんてないから、せめて窮地に陥っても頑張れる様に終わりを見せない組手をしてたの……」
つまりカイを想って鍛えていたのか……。
「でも起きる体力的無いって言っていても起きなきゃ当たる様に攻撃してたじゃん!それも地面が抉れてたんだよ!」
「それは……口先だけだ諦めようとしてたからだよ!ハンターは場合によっては体力が無くなってから動かないといけないときがあるんだよ!じゃないと……」
「死ぬからか?」
クラリスの言葉を引き継ぐように大地が言った。少しだけ驚いたクラリスが直ぐに頷く。
「リリエッタ。カイに生きてほしいからやったことなんだよ。傍から見ればそれは酷い有り様かもしれないけどハンターとしては大事なことなんだと思う」
場合によっては息つく暇もない状況なんてざらに有るのだろう。生き残れるハンターはそこで食いしばれるかどうか。それを教えるためなのだとしたら相当追い込まないといけないのはわかる。
「……そうなの?」
もっともハンターではないリリエッタが想像できないのは無理もないことだ。
「うん……でも、やっぱりやり過ぎたのかな……」
クラリスがそう思うのは恐らく回りからの評価だろう。一番最初にハンター達からクラリスのことを聞いたときはバーサーカーのような戦闘狂を思ったくらいだ。
「えっと……その、ごめんね。知らなかったけどクラリスちゃんも必死だったんだね」
そう謝るとリリエッタが大地から離れる。そして大地にだけ聞こえる様に言うのだ。
「ねね。ダイチさん。クラリスちゃんの頭を撫でてあげて?」
「え?いや、女性の髪をむやみに触るのはダメだろう」
「ううん。クラリスちゃんなら大丈夫!私が保証するから……お願い」
それを信じて本当によいのだろうか。そんな猜疑心が一瞬だけ生まれるがそれを振り払ってリリエッタを信じることにした。
「クラリス……カイもハンターならやりすぎくらいでちょうどいいだろ」
そう言いながら頭を撫でるのだが、クラリスの反応はなにかを言う訳ではなく、顔を腕へ押し付けるようにくっ付けてきた。
やはり髪をいきなり触られて嫌だったのだろうか。そう思いながらクラリスを見続けてると声が聞こえてきた。
「うん……ありがとう」
お礼を言ってくると言うことはきっと嫌なわけではなかったのだろう。そう安堵しているとクラリスも抱きついていた腕を離した。
少し惜しい気持ちは当然あるのだが、これで成金野郎の振るまいからは脱却できるのだ。
しかし、その後のクラリスの行動は驚かせるものだった。何せ、大地の懐にはいるように引っ付いてきたのだ。
「あの、よかったら抱き寄せてくれると嬉しい……です」
などと言うのだ。『◯◯してほしい』とお願いされたわけではないが、この言い方はそれと同等以上の強制力がありこの要求を飲めなければ男として失格の烙印を押されてしまうことだろう。
だから……大地は『致し方なく(ここ大事!)』クラリスの肩へ手を回して抱き寄せるのだ。
そして、それを見たリリエッタが反応してくる。
「あー!クラリスちゃんばかりずるい!ダイチさん!私も私もー!」
と言いながらクラリスと同じようにあいているもう片方の懐へ入り込んでくる。そして、目で訴えかけてくるのだ。『肩に手を回して抱き寄せて』と。
それならば、やはりここも『致し方なく(テストに出るほど大事!)』リリエッタの肩へ手を回して抱き寄せた。
もしかして今の俺はモテ期なのだろうか?と考えた後……今の現状を見て、よく漫画に出てくる根性の腐った成金が女の子を連れ回すシーンじゃね?と思わざるを得なかった。
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