初めての異世界転生

藤井 サトル

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月光の花嫁

秘めたリリアの思い

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 披露宴が終わった後、そのまま城へと泊っていくことを勧められた。少々困惑したものの大地もリリアも疲れがたまっている事を考慮してその好意に甘える事にした。

 ただ、通された部屋が問題で一部屋なあげく、二つの敷布団が並べて敷かれていた。

 今更……と思うかもしれないが、拉致や仕方なく女の子の部屋で一晩過ごすのと旅行先?で気を遣われて用意されて寝るのではレベルが違う。何よりもタガを外させるこのシチュエーションが非常にまずい。

 では、敷布団を離せば?と思うだろう。それだと『意識をしている』や『近くで寝るのを嫌がる』といった勘違いを引き起こさせる。それはそれでマズイ。特にリリアは以前、俺が何もしていなくても『嫌われているかも』と考えていた事をフルネールを通じて知っている。

 この場所に来てまでそんな重い感情を背負わせたくない……それと、これはついでの様な考えだが悲しむ顔も見たくはない……。

 それ故に部屋に入ると布団については何も触れずに大地は一目散に部屋の端へ行き、窓から月の都を眺めることにしたのだが、リリアも隣からひょこっと顔を出してきた。今、月の都全体で結婚式の宴が開催中だ。そんなお祭り騒ぎを見ているとリリアが呟いた。

「シーラさん。とても綺麗でした」

 披露宴で見せた彼女の姿は確かにとても美しかった。丁寧にされた化粧や整えられた衣装もさることながら、とても嬉しそうに笑って幸せそうにしていたのが一番そう思わせる要因だろう。

「そうだな……リリアもいつかああいう衣装を着て結婚するんだろうな」

 ついそう口に出していってしまったが告白のようになっていないか大地は心配になってしまった。なにせ家を買おうとした時に勘違いしたほどの女の子だ。だから今度は先手を打って勘違いをしない様に方向を修正しないといけない。

「あ、いや、今のは――」

 そう弁明を始めた大地だがリリアはそれを気にせずに言った。

「私は――結婚出来ません」

 そのリリアの表情は笑顔なのだ。作った笑みで悲しそうにした笑顔。なぜ彼女がそんな表情をしないといけないのか分からない。わからないが、「そうか……」と受け流すような言葉で終わらせるのが波風たたせない締めただと思っている。

 でも、思ってしまった。もう少しリリアを知りたいと。だから――聞いた。

「それは聖女だからか?それともリリアが結婚したいと思っていないのか?」

 自分でも意外だった。でも、大地自身よりも意外そうな顔をしたのがリリアだ。でも次の瞬間にはその驚いたような表情はリリアから消えていて困った顔をしていた。

「……聖女だからです」

「聖女にはそんな制約があるのか?」

「え、っと……」

 リリアはちょっと言いにくそうにしながら続けてくれる。

「正確には結婚は出来るんです。でも、私と結婚した人を寂しい思いをさせてしまうのが分かりきっていますから」

 聖女と言うのがそれほど大変だという事なのだろう。とはいえリリアらしい相手を思っての考え方だ。

「そうか。ま、人間考え方は変わる生き物だし、聖女だとしても一緒に居たいと思う人が出来ればいいな」

「……はい。そうなればいいですね」

 更に困った顔をしながらどこか他人事のように言うリリアだが、さすがにこれ以上は踏み込めないと思い大地もそれ以上何かを言う事は無かった。

 するとリリアが「あのダイチさん……」と呼んだ。

「ずっと考えていたんです……」

「何をだ?」

 リリアの顔を覗き込むよう大地は視線を向ける。その表情はどこか固く緊張をしているようだった。

「私……大地さんへどんなお礼を返せばいいかなって……」

「お礼?」

 ここに一緒に来たからか?でも別にお願いされて一緒にきたわけじゃないからな。

「今回は別にお礼されることしてないだろ?ここに来たのも俺の意思だし」

 しかし、リリアは首を横に振った。

「いえ……戦争の時に私がお願いした事によるお礼です」

 だいぶ前の話だ。ホワイトキングダムが仕掛けられた戦争にギルド長とユーナが出向いて殲滅せんめつをする辞令が王から下された。

 それを止めるべくリリアが大地に『誰一人殺さずに捕まえて欲しい』とお願いしたのだ。結果としてはその願い通りに大地は誰一人として殺めずに戦争を終わらせた。

 その事にたいしての報酬をリリアは引きずっている見たいだ。とはいえ、大地も王様の前で『報酬を頂く気はない』とはっきり言っているのだ。

「いやそれは――」

 大地が改めて断ろうとした言葉の出始めを、リリアが意気込みながらの言葉で遮られてしまう。

「ダイチさん!わ、わわわ、私にヨトギでお礼させてください!!」

「そんなのダメだ!」

 リリアの意を決した提案を大地は脊髄反射せきずいはんしゃのごとく断った。しかし、それでもリリアは食らいついてくる。

「でも!私ができるお礼なんてそれしかないんです!それともお金を受け取ってくれますか!?ダイチさんがしてくれたことを考えれば私の全財産でもたりないくらいですけど……!」

「受け取れるか!」

 全財産なんて重すぎるわ!

「それなら物がいいですか!?見合う報酬を考えたら私の杖くらいしか有りません!貰ってくれますか!?」

「そんな大事な物を受け取れるわけないだろ!」

 何でこう極端なんだ?

「やっぱり……そうなりますよね。だから……ダイチさんが喜んでくれる事を考えたらそれしかないじゃないですか」

 声をあらげていた先程とは一転してリリアは弱々しくそう言った。それがずっと考えていたことなのだろう。

「なぁ、その夜伽よとぎの発想はどこから来たんだ?」

「お父様とお兄ちゃんから……」

 リリアがお礼について悩んでいる時だった。その日はお城に用があって行った時に王様と兄のクルスに会ったのだ。直ぐに悩んでいる事を見破られて相談したところ「それならやはり夜伽を提案したらどうだ?」と王様が言い、クルスもそれに続いて「リリアの事が好きなら喜ばないわけがないだろう」と言う。

 王族なら決してしない提案を軽々しく口にできるのはこの国ならではだろう。が、その提案の直後、いつのまにかに後ろにいた王妃が王様へ、アーデルハイドがクルスへボディーブローを決める一幕があったのだ。

「あの二人はなんて事を言うんだ……」

「私が……私が魅力ないから嫌なんですよね……ちんちくりんですし……」

 あ……ちょっとヤバめだ。

「リリア?」

 このままじゃリリアが落ち込み続けると感じた大地がブレーキを掛けさせようと名前を呼ぶが、リリアの耳には入らず彼女は続けて言う。

「でも、このままじゃ……何時まで経ってもダイチさんの隣を歩けないんです。私はダイチさんと依頼をこなしたいのは甘えたいからじゃない!でも、ずっと助けてもらってばかりで……なのに何一つお礼をかえせなくて……」

 リリアの声が震え、その瞳には涙が溜まっているのが月夜の明かりが教えてくれた。

「このままじゃ……私は大地さんと一緒に依頼も出来ない!近くにいることすら出来なくなっちゃう!」

 それがリリアがずっと気にしていた事だと、訪れた静寂が肯定するかのようにリリアは口を閉じる。

「リリアはずっとそう考えていたんだな……」

 だから大地がゆっくりと話す。彼女がここまで言ったのだから大地も向き合って話すべきだと感じ、リリアの涙を指で拭き取る。

「わかった。俺も腹を割って話そうか」
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