初めての異世界転生

藤井 サトル

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月光の花嫁

マジックのネタって分からないから凄いのである

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「くそ、またか……」

 先程から大地がジークへ殴りかかると必ず別方向から刃が振り下ろされる。しかし、不思議なことに素早く避けてから視線を元いた場所へ移しても何かが起きた形跡がない。

「何をしているんだ……?」

 相手を観察すればある程度の攻撃は見えてくるもの。だが、ジークは何の動きを見せていない。

「くっくっく。近づくこともままならないようだな!だが賢明だ。不用意に近づけば切られてしまうかもしれないからな」

 近くに行っては退いてを繰り返す大地をジークは楽しそうに見てきている。

「そろそろこちらも仕掛けさせて貰おうか……」

 ジークが掌を上に掲げ唱えた。

「スパイラル・ケージ!」

 その掌に小さな水球が生まれて上下にふよふよと動きながら大地の真上まで飛んでいく。その位置にたどり着いた水球から大地を挟む様に細い水柱を射出した。そしてその水柱が動き出した。クルクルと大地を閉じ込めるように回り水の螺旋を描く。

「その水に少しでも触れればてめぇの体はバラバラだ!さらにそいつはどんどん迫ってくるぞ?迫る死に恐怖しながら死にやがれ!」

 水の回転速度は早く、ジークの言う通りで少しずつだが迫ってくるのも目に見えてわかる。本当に驚異になる魔法なのだろう。大地以外ならば。

 大地が集中してみると水柱の合間がしっかりと見える。まるでスロットの目押しの感覚のように。そしてその合間を通り抜けることも容易だ。

「どうするかな……」

「余裕そうなフリをしたくなるのもわかるぞ。虚勢を張っていなければ辛いのだろう?」

 勝ち誇りながら言ってくるジークの鼻をへし折りたくなった大地は普段では決してやらない事をやりたくなった。

「……この程度の魔法で俺が怯むと思っているのか?」

 そう言って大地がわざと足を一歩踏み出した。

「バカめ!切り刻まれるがいい!!」

 ジークが高らかにそう言った。そして大地の足が水に触れた次の瞬間、水魔法の効果が消し飛んだ。

「な、なんだと!?俺の魔法が何で消えた!?……何をしたんだ……」

 そのまさかの結果にジークは狼狽え始めた。そして表情も何か良からぬ者に恐れを抱くような目つきへと変えた。

「貴様何者だ!」

「俺はの名は大地だ。Cランクのハンターだよ」

「ふざけるな!お前みたいなCランクのハンターが居てたまるか!」

 ジークは再び魔力をためる。そして掌を大地に向けた。

「これならどうだ!」

 緑色の風がジークの掌に生まれ解き放たれた。その姿はツバメを小さくしたようで、3羽が自由に飛び回る。

 そして、ジークが人差し指を大地に向けた事が合図となったのか3羽全てが大地へ急降下し始める。そしてそれと同時にジークが手に持つ禍々しい剣を振りかぶりながら突っ込んできた。

「魔法を避けたら俺の剣が貴様を切り裂く!魔法を受ければただではすむまい!」

 先程、水の魔法が消えたのは何かの間違いだと言うように意気揚々とジークはやってくる。ただ、魔法を受けても魔力をカットしてくれるこの体では無傷ですむことから警戒するのはジークの剣だけである。

 だから大地はあえて小さなツバメの魔法を受けて平然としながら召喚した剣でジークを迎え撃った。

 二つの刃が重なると金属音が響く。

「何故だ……俺の魔法が効いていないのか!?」

「ああ、お前のへなちょこ魔法でダメージなんか受けねぇよ!」

 戦いの基本、それは精神的ダメージを与えることだ。言葉が交わせれば動揺を誘える……だが、それ以上に戦意喪失させられればそれが良い。

「……なるほど」

 しかし、ジークの表情は動揺から別の顔へ一変した。

「魔法が効果ないのはわかったが刃は怖いと見える。こう言うのはどうだ?」

 大地の耳元に風切り音が聞こえてきた。それ故につばぜり合いを放棄して大地はすぐさま飛び退いた。

 だけど、最初と同じように何が振り下ろされたのか全くわからない。しかし、あえて受ける選択肢は無い。

 ザルドーラの様に見えない風魔法を使っている船も考えられる。それにもし見えない物理攻撃で振り下ろされたのがマーガレットが持つクラウ・ソラスのようなとんでもない業物であれば即死は免れないからだ。

「またこの音か……」

「やはりな……。さぁ踊って貰おうか」

 ジークが離れたところから剣を振り下ろす。その少しのタイムラグの後、大地に何が振られた音が聞こえてくる。

 それはジークが剣を振るう度に聞こえてきて、大地は回避し続ける事しか出来ない。

 くそっ……。あいつが振り下ろす度に何かが振り下ろされているのか……だけど何かが引っ掛かる。それは何だ……?

 幾度も剣が振られ、その度に大地の耳元で風切り音が聞こえてくる。だけど、ジークは調子にのってその行動をやり過ぎた。

「ああ、そういうことか……」

「何がわかったというんだっ!」

 ジークが再び剣を振り、大地の頭上に何かが振り下ろされる音が聞こえる。だが、大地はその場から動くことはなかった。

「流石にここまで乱発されればわかるな。お前の素振りと音が聞こえるタイミングがバラバラだ。……それはただ音を届けるだけだろ?」

 初見ではわからなかったがタネが割れれば簡単なことだ。もっとも最初っからおかしくもあった。何せあいつが剣を振る前にも聞こえたんだから。

「デルラト召喚まで気づかずに右往左往していればよかったものを……」

「そろそろ終わりにしようか」

 ……あまり、殺傷力の高い武器を人に使いたくはないが仕方がないだろう。

 大地の手には真っ黒い銃が握られていた。それは人を殺めるために作られた武器であり、その中に入っている弾丸も鎮圧用のゴム弾なんかではない。殺傷用の弾丸だ。大地はジークへと銃口を向けた。

「なんだそれは?遊んでいるのか?」

 完全になめきっているジークが少しだけかわいそうに見えてくる。そこに大地は躊躇いもなく引き金を引く。

 パン!という破裂音と共にジークの肩から血が吹き出し、ジークは「ぐあっ」と声をあげた。

「何しやがった!?」

「何ってこれが俺の魔法だよ」

 見えない攻撃で破壊力もある。それはどんな魔法であるかさえわからないジークにはかなり驚異に見えた。

「……くっ。だが、俺を倒したところで召喚は止められんぞ!」

 そう宣言した直後にパリンと何かが壊れる音が届く。

「お前はリリアをなめすぎだ」

「ダイチさん!シーラさん達にかけられていた魔法を壊しました!」
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