初めての異世界転生

藤井 サトル

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月光の花嫁

いざ月の都へ

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 ようやく衣服を着てくれたハンナへ振り向くことができた。その際にハンナが「色々ご無礼を働いてしまったので少しでも……その、お詫びにと思ったのですが……」と呟いた。その返しに大地は言う。

「メイド服姿で十分かわいいんだからずっと目の保養になってるっての」

 すると彼女は俯いてしまった。なんにせよこれで事案が回避されたことは喜ばしい事だろう。

「それで、シーラはこれからどうする気だ?」

 今の彼女の状況は理解できた。先ほどの口ぶりから既に月の都は敵の手の内にあるだろう。だからシーラがこれからどうしたいかである。

「私は……この国で隠れ住むのが一番いいはずなんです」

 弱々しく言うのは不安の現れだろう。自分の住む場所から逃げて見知らぬ町だ。怖いのも当然である。

「ですけど……やっぱり帰りたい。私の里を取り返したい。助けて……ほしいです」

 断られる。そう思いながらシーラは勇気を振り絞って言った。

「ハンナさんの傷を治してくれたんです。私が出来ることならお手伝いします!」

 リリアが頷く。これでこれからの方向性が決まったと、口に出そうと言うタイミングでハンナがシーラにスススーと近づいていく。

「ところでシーラさん。その幼馴染みさんとはどう言ったご関係なのですか?」

 それを今聞くのはどうなんだ?

 と、呆れる大地を尻目にハンナはそれはもう楽しそうな笑顔で聞いているのだ。メイドにとってこの手の話しは大好物なのだ。三食の合間に食べるおやつタイムで話題に上がればそれはもう盛り上がるのである。

「え?……た、ただの幼馴染みです!」

「またまたぁ。さっき名前を言ったときに嬉しそうな顔をしていましたよ?好きなんじゃないですか?」

「……えと……はい……」

 ハンナの追求にシーラは観念したように顔を真っ赤に染めてそう言った。そしてその反応にハンナはキャーキャー騒ぐ。

「で、ではお付き合いとかしているんですね!」

 話が三角飛びレベルに飛躍するがシーラは首を振って律儀に答えた。

「それは出来ないんです」

「え?もしかして片想いですか?」

「そ、そうじゃなくて……身分の違いです。私これでも月の都では良い身分なんです。だから……」

 再びキャーキャーとハンナが騒ぎ始めた。話からは両思いだとわかる。その上見分の差による恋でハンナの乙女心は暴走してしまっているのだ。

「それはきっと愛で乗り越えられますよ!!」

「そんな、ダメですよ……」

 そうなれば良いと思わなくもない。だが、それでもお互いが違う身分故に近寄りすぎないとシーラはモリスと話し合ったのだ。

「あの……」

 そんな中で疑問に思ったリリアが声を出した。

「身分の違いってそこまで大事なのでしょうか?」

 そう首をかしげて聞くのだ。だが、リリアはこれでも一国の王女だ。そんな彼女がそう言うことを平然と聞けるのがシーラには不思議だった。

「聖女樣はホワイトキングダムの王女樣でもありますよね?」

 リリアが居たことで今いる国がホワイトキングダムだとわかっている上でシーラはそう訪ねた。

「はい。第二王女です」

 それに確りと頷くと共にチラリと大地へ視線を移す。大地がその視線を受けて頷くとリリアは少し嬉しくなって顔をほころばせる。

「リリア樣やアーデルハイド樣はご結婚相手を自由に選んでいいのですか?」

 普通の国であれば政略として他国等、周辺の有益になりそうな相手と結婚をさせられるものだ。だが、リリアは頷いた。

「はい。そう見たいですよ?そもそも王子であったお父様と農民だったお母様が結婚して今に至りますから……私たちにも自由にさせてくれているみたいです」

「凄い身分差なんだな……」

 さすがのこれには大地も口を出してしまった。するとリリアは昔聞いた話も持ち出してきた。

「確か……お父様からお母様に『我が国は最強だから君と生きていきたい』って言ったらしいです」

 ……それがプロポーズの台詞かよ。

「それでも……私達は……」

 正直リリアが羨ましい。本当に自由にして良いのなら……。だけれど、自分の力も身分も月の都を支える為に使われるべきだ。何よりも、他国から守り隠し通さないといけないものがある。その力を蓄える為の政略の道具にならなければいけないだろう。

 それ以降全員が黙ってしまった事でどんどん空気が重くなっていく。

「あ、あー。とりあえず月の都に行って取り返すことから始めようぜ」

 この重苦しい雰囲気に耐えられなくなった大地がそう言うとシーラが困惑して聞いてきた。

「あの!その!……ダイチ様も助けてくれるのですか?」

 リリアはお礼と言う理由があるが大地には自分を助ける理由なんてない。それどころか色々助けてもらったことへのお礼すらしていないのだ。

「ん?迷惑か?」

「そんな、迷惑だなんて……でも、私は貴方に何もお礼できていないのに……」

 うん?なにか見返りの話をしているのか?

「いや、別にいいんじゃないか?」

「そんなわけにはいきません!そ、そうだ!月の都についたらおもてなしをさせてください!」

「いや、まずは取り返さないとだろ?」

 大地がそう言うと「はぅ……そうでした」と沈んでしまう。この人は天然か?

「ま、珍しいもんを見せてくれたお礼ってことで良いじゃないか」

「え?」

 何の事を言っているわからずシーラは首をかしげる。ハンナになら精霊の魔法を直接使用したが大地に特別な何かを見せた覚えはない。それ故に尋ねようとした時だった。

「は!?やっぱり私の体をこっそり見たのですね!?」

 そう言って自分の体を抱きしめるようにして言うハンナへ大地は即座に「違う!」と耳を赤くしつつ強く否定した。

「俺が言いたいのは……こ・い・つ・ら!だ」

 大地は言葉と共に4体いる精霊に人差し指を向けていく。その粗暴な言動に精霊たちが憤慨して好き放題言い始めた。

『こいつらって何よーー!!』
『この俺をコイツ呼ばわりとは面白れぇ』
『サラマンダー変な事を言わないで頂戴。それだから人間が調子に乗るんですよ』
『僕もそう思うよ。最初のガキ呼ばわりといい、もう少し敬意を持ってほしいね』
『でもノームは見たまんま子供じゃない?』
『前から思っていたけれどシルフの方こそ言動すべてが子供じゃないか』

 そんな風に言い合いをする精霊達を始めてみたシーラが笑う。出会ってから思い詰めた表情ばかりだったシーラがようやく笑顔を見せた。

 ひとしきり笑ったシーラが大地へ向いて言った。

「本当にそれでいいんですか?きっと物凄く大変になります」

 先ほど助けてもらったことで大地の強さはある程度理解できている。それでも里を取り返すのは楽ではない。

「もちろんだ。それに間違いを正してやりたいしな」

「間違い?」

 シーラがそう聞き返すと大地は頷く。

「さっき一番いいのはここに居ることってシーラは言ったけどよ、一番いいのはやっぱりあんたが月の都で暮らしていくことだろ?」

 その言葉にシーラは嬉しくなって瞳に涙を溜めながら「はい……!」と嬉しそうに返事をする。

 これで行くことは問題ないだろう。フルネールにも連絡をいれておくか。

 ちょっと月の都ってところに行ってくる。

 お一人でですか?

 いや、リリアと――。

 お二人でっ!!??

 違う!シーラっていう今日助けた女性とだ!

 脳内で騒ぐフルネールにシーラと言う女性について教える。その間は静かにしてくれていたのだがシーラが精霊使いだと話すと小さく「そうですか……」と呟いた。

 それから助けにいくと伝えるとフルネールは一呼吸ほど間を置いた。

 だいたいわかりました。大地さん。シーラちゃんと月の都をお願いしますね。

 任せろ。

 フルネールに託されるようにお願いされたことで話を終わらせる。

「それじゃあ月の都へ行くか」
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