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月光の花嫁
精霊の力
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シーラはハンナに自分が持つ能力の事を話した。子供の時から受け継いできた力。それは自分の妹にも受け継がれているが、自分が知る限り世界でたった二人しか持っていないと思われる力。そしてそれによって自分と妹は狙われることになったのだと。
つまり、かなりの厄介事を抱えて来ているのだ。その上でシーラは宛もなく逃げ続けるしかない。何せ将来的には抜かれるとしても今は妹よりも自分の方が能力が高いのだ。利用されるわけにはいかない。
ハンナはシーラの事を聞いた後、その話を事実だと飲み込んでからシーラを運んだ方にも教えてあげてほしい。そう伝えた後にこうも言った。
「大丈夫。とっても優しい方と、とっても強い人なんですから!きっと力になってくれるはずです!」
その気持ちは嬉しかった。能力を明かす前となんら変わらずに心配してくれることが。厄介事を運び込んできているはずなのに優しく受け止めてくれることが。
だから、ハンナが食器を片付けに行った時にシーラは直ぐに宿から出ていくことに決めた。
何時までも居たいけれど……監視網が追手を見つけたからだ。見つかれば周りに被害が出る事は確実であり。そし万が一捕まってしまえば、次は逃げられない程の拘束で自由を完全に奪われて運ばれるだろう。月の都の近くにある月光の塔へ。だが、それは避けないといけない事態だ。それにハンナが言う強いがどの程度なのかもわからない。
戦う事をしないような人から見ればハンターランクがEでもCでもとても強く見えるのだ。だからこそせめて自分が信じた人でないと頼るわけにはいかない。
シーラは窓を開いて即座に飛び出した。リリアの部屋は宿の最上階である5階に取っている。ハンターの様に鍛えている人ならまだしも高い階層から飛び降りるのは危険なのだがシーラは自身の能力を活用する。
「竜巻を出して!」
シーラがそう叫ぶと着地地点に風の渦が巻いていきシーラをふわりと浮かせた後、ゆっくりと地面へ下ろした。周りにいる人達がざわつくのを無視してシーラは逃げる場所を求めて走り出す。
そして走っている中でシーラに声が届く。
『北に人が住んでいない廃墟がいっぱいあるわ!』
走るシーラの隣には女の子が一人浮いていてその子がそう教えてくれる。その子は自分と妹以外には視認されることがなく体も透けている。だけどシーラは幼いときからこの声をずっと聞いてきている。
「……そちらに逃げましょう」
こんな時に彼が居てくれたら……と思うが直ぐに考えを改めた。こんな時だからこそ彼に会いたい。そう強く思う。
幼馴染みであり、何時も護ってくれる。そしてこの世で一番大好きな彼に……。
「彼に会いたい……ってこんな時に弱気になっちゃダメね」
『そんなことないわよ。それにモリスだって貴方に会いたいと思っているわ』
シーラを励ます声と共に現れたのは大人の女性だ。こちも同じように透けて飛んでいるがシーラは見知った中である。
「ここが廃墟だらけの区域……なのよね」
『うん。でも国の中でこんなに廃墟が多いのってなんでだろ?』
女の子の声が響く。
「不思議ね……それに大きな屋敷だったものも結構ありそうね。わからないと言えばこの国は何て名前なのかしら?」
『それもわからないわ。シルフが派手にシーラを飛ばしすぎなのよ……』
『ええー!でもウンディーネだって水の痕跡を残してきたじゃない!』
『あんたが障害物もろとも突っ込むから仕方なく水壁で護るしかなかったんじゃない!』
「二人とも喧嘩はやめて。今はそれよりもこの辺りで身を潜めてやり過ごす事に――」
「こんなところに居たのか」
二人の言い合いに口を出したシーラだが、その声によって一人の黒いマントを羽織った男を呼び寄せてしまった。
「手間かけさせやがって……どうやら完璧に動けなくして欲しいようだな」
静かな怒りを含んだ声で睨む男はシーラの追手であり彼女を逃がした失敗を取り返しにきた男だ。
「最悪、お前が生きてさえいれば良いのだから手足をもいでもいいだろう?」
「サラマンダー!!」
シーラが叫ぶとその男の足元から火柱が勢いよく吹き出した。炎に包まれた男は原型を留めるのが難しくなり、やがて炎の中に消えていった。
これで自分を追ってくる者は居なくなるはずだ。襲われた月の都が今どうなっているのか気になるが安易に戻るわけにはいかない。こうして捕まっていないだけで最悪の事態は避けられている事を――。
「なるほど。それが精霊使いの力か」
だが、そうはさせまいと現れたのは先ほどシーラの力で燃やした男だった。
つまり、かなりの厄介事を抱えて来ているのだ。その上でシーラは宛もなく逃げ続けるしかない。何せ将来的には抜かれるとしても今は妹よりも自分の方が能力が高いのだ。利用されるわけにはいかない。
ハンナはシーラの事を聞いた後、その話を事実だと飲み込んでからシーラを運んだ方にも教えてあげてほしい。そう伝えた後にこうも言った。
「大丈夫。とっても優しい方と、とっても強い人なんですから!きっと力になってくれるはずです!」
その気持ちは嬉しかった。能力を明かす前となんら変わらずに心配してくれることが。厄介事を運び込んできているはずなのに優しく受け止めてくれることが。
だから、ハンナが食器を片付けに行った時にシーラは直ぐに宿から出ていくことに決めた。
何時までも居たいけれど……監視網が追手を見つけたからだ。見つかれば周りに被害が出る事は確実であり。そし万が一捕まってしまえば、次は逃げられない程の拘束で自由を完全に奪われて運ばれるだろう。月の都の近くにある月光の塔へ。だが、それは避けないといけない事態だ。それにハンナが言う強いがどの程度なのかもわからない。
戦う事をしないような人から見ればハンターランクがEでもCでもとても強く見えるのだ。だからこそせめて自分が信じた人でないと頼るわけにはいかない。
シーラは窓を開いて即座に飛び出した。リリアの部屋は宿の最上階である5階に取っている。ハンターの様に鍛えている人ならまだしも高い階層から飛び降りるのは危険なのだがシーラは自身の能力を活用する。
「竜巻を出して!」
シーラがそう叫ぶと着地地点に風の渦が巻いていきシーラをふわりと浮かせた後、ゆっくりと地面へ下ろした。周りにいる人達がざわつくのを無視してシーラは逃げる場所を求めて走り出す。
そして走っている中でシーラに声が届く。
『北に人が住んでいない廃墟がいっぱいあるわ!』
走るシーラの隣には女の子が一人浮いていてその子がそう教えてくれる。その子は自分と妹以外には視認されることがなく体も透けている。だけどシーラは幼いときからこの声をずっと聞いてきている。
「……そちらに逃げましょう」
こんな時に彼が居てくれたら……と思うが直ぐに考えを改めた。こんな時だからこそ彼に会いたい。そう強く思う。
幼馴染みであり、何時も護ってくれる。そしてこの世で一番大好きな彼に……。
「彼に会いたい……ってこんな時に弱気になっちゃダメね」
『そんなことないわよ。それにモリスだって貴方に会いたいと思っているわ』
シーラを励ます声と共に現れたのは大人の女性だ。こちも同じように透けて飛んでいるがシーラは見知った中である。
「ここが廃墟だらけの区域……なのよね」
『うん。でも国の中でこんなに廃墟が多いのってなんでだろ?』
女の子の声が響く。
「不思議ね……それに大きな屋敷だったものも結構ありそうね。わからないと言えばこの国は何て名前なのかしら?」
『それもわからないわ。シルフが派手にシーラを飛ばしすぎなのよ……』
『ええー!でもウンディーネだって水の痕跡を残してきたじゃない!』
『あんたが障害物もろとも突っ込むから仕方なく水壁で護るしかなかったんじゃない!』
「二人とも喧嘩はやめて。今はそれよりもこの辺りで身を潜めてやり過ごす事に――」
「こんなところに居たのか」
二人の言い合いに口を出したシーラだが、その声によって一人の黒いマントを羽織った男を呼び寄せてしまった。
「手間かけさせやがって……どうやら完璧に動けなくして欲しいようだな」
静かな怒りを含んだ声で睨む男はシーラの追手であり彼女を逃がした失敗を取り返しにきた男だ。
「最悪、お前が生きてさえいれば良いのだから手足をもいでもいいだろう?」
「サラマンダー!!」
シーラが叫ぶとその男の足元から火柱が勢いよく吹き出した。炎に包まれた男は原型を留めるのが難しくなり、やがて炎の中に消えていった。
これで自分を追ってくる者は居なくなるはずだ。襲われた月の都が今どうなっているのか気になるが安易に戻るわけにはいかない。こうして捕まっていないだけで最悪の事態は避けられている事を――。
「なるほど。それが精霊使いの力か」
だが、そうはさせまいと現れたのは先ほどシーラの力で燃やした男だった。
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