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月光の花嫁
金があっても得られないものがそこにある
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「この部屋は……」
大地が先行して入った部屋は他の部屋よりも暗い作りになっていた。なぜこの部屋だけそうなっているかわからないが、流石に罠の類いは無いだろうと思い足を進める。
その部屋の中央には一つの何かが置かれていた。その下に視線を移して全体を見ると凝った作りの台座だ。それはとても大事な物を置く為に作られたのだと考えられる。
大地が再び視線を上に戻して台座に乗っている物をまじまじと見る。
「これが魔道具か」
「でもこれは何でしょう?」
「お、おい」
隣でリリアが不思議そうに見る。そして大地が止める間もなくリリアはそれに手を伸ばして取った。
くるくると見回していく。形は円柱で大きさはさほど大きくないが。リリアの手ならば両手で握って一周出来るくらいだろう。
何かボタンらしき物を見かけたリリアは好奇心が覗かせたのか直ぐにボタンを押してしまった。
カチッと音がなると魔道具の中央部が発光する。それも魔道具だけではなく辺りを照らすような眩し光を放っているのだ。
「これって凄い物なのか……?」
元の世界にも似たような道具があるからこそ大地はこのランタンの様な魔道具が凄いと言われてもピンとこなかった。
「ダイチさん。これは凄い魔道具ですよ。今、私は魔力を込めてないんです」
ソレが何を意味するのかわからない大地としては「そ、そうなのか」と相槌を打つ。
「あの、大地さん。この魔道具を渡して報告したいんですが……その、良いでしょうか?」
「ん?たしか、ここの依頼ってお城の人関係だっけか」
「はい。魔道具を研究して開発しているところからです。なので……」
先程から言いにくそうにしているのは何故かわからないが、国の発展のために渡したいことくらいはわかる。
「それなら渡していいぞ」
「……大地さん。この魔道具は凄いんですよ?」
「それはさっき聞いたぞ?」
「それでも渡して良いんですか?」
「ん?いいぞ?」
何故か念を押して聞いてくるリリアが何を言いたいのかわからない故に大地は考えずに『ヨシ!』の精神で頷いた。その不毛なやり取りを見かねたグラネスが割って入る。
「ダイチ。リリアさんは研究者に魔道具を渡すよりも売った方がお金になると言っているんだ。俺やリリアさんはさほど困っていないが、お前は何時も持ってないだろう?」
「ん?ダイチ様は貧乏なのですか?」
ぐはぁっ……。この魔道具、誰にも言われたことがない事をシレッと言いやがって……。
「ちょっと金がないだけだ」
「……やっぱり渡さずに売りましょうか……そうすればダイチさんは――」
国とダイチを天秤にかけた結果、リリアが取った答えがそれであった。しかし、それに納得いくかと言われると……無理である。
「いや、報告時に渡してくれ。だいたいそれでも金が入るんだから良いだろ」
「でも……大金ですよ?」
その言葉には若干くらりと来るものがあるけれど……一度言ってしまった事による意地もある。だからもう一度断ろうかと思った矢先に手に握るマーガレットの魔道具が見えた。
「それなら……渡す条件としてその研究所?でマーガレットの体を作ってやれないか?」
「え?……うーん、お願いは出来ますけれど、作れるかわかりませんよ?」
「ああ。それでいい。マーガレットもそのままじゃ不便だろうしな」
掌で収まる魔道具を見ながら大地がそう言うと、リリアは頷いて「わかりました」と言って納得してくれた。
こうして無事に遺跡探索が終りホワイトキングダムへと戻った。だが国へ足を踏み入れた途端、大地に違和感が走った。
何か……視線を感じるな。
自分だけに向けられているのか、全員を対象にしているのかまではわからないが悪意は無さそうだ。
「グラネスさん。お願いがあるのですが」
歩きながらリリアはグラネスへ顔を向けて言う。本当ならこのまま依頼した研究者へ報告に行く所なのだが今朝のウサギ耳の女性が気になってしまっているのだ。
その事情をグラネスに話すと「そんなことが……わかりました。報告は俺が行ってきます」と引き受けてくれた。そこにリリアがその研究機関の依頼人へ手紙を用意してグラネスに魔道具(マーガレット込み)を託す。
そうしてグラネスと別れた後、リリアが取っている宿へと向かった。
宿に入り大地とリリアは部屋の近くまできた。そしてノックをするために大地が扉の前へ近づいていくと勢いよく扉が開いた。
その部屋から飛び出してきたのは薄いピンク色の長い髪の女。その顔立ちは少女と女性の中間と言う感じだが、メイド服により少しだけ女性よりに見える。
「ハンナさん!?」
リリアが取っている部屋から出てきたのはメイドのハンナだった。ハンナにはウサギ耳の女性の看病を頼んでいたからこの部屋から出てくること自体に驚きはない。だが、勢い余って大地へ突撃したハンナはそのまま押し倒して廊下で上下に重なっているのだ。
急展開で流石のリリアも名前を呼んで固まってしまった。
「リリア様!今、お部屋を覗いたらシーラ様がいなくなってしまいました!!」
ハンナは大地に乗りながら焦ったようすでそう言った。
大地が先行して入った部屋は他の部屋よりも暗い作りになっていた。なぜこの部屋だけそうなっているかわからないが、流石に罠の類いは無いだろうと思い足を進める。
その部屋の中央には一つの何かが置かれていた。その下に視線を移して全体を見ると凝った作りの台座だ。それはとても大事な物を置く為に作られたのだと考えられる。
大地が再び視線を上に戻して台座に乗っている物をまじまじと見る。
「これが魔道具か」
「でもこれは何でしょう?」
「お、おい」
隣でリリアが不思議そうに見る。そして大地が止める間もなくリリアはそれに手を伸ばして取った。
くるくると見回していく。形は円柱で大きさはさほど大きくないが。リリアの手ならば両手で握って一周出来るくらいだろう。
何かボタンらしき物を見かけたリリアは好奇心が覗かせたのか直ぐにボタンを押してしまった。
カチッと音がなると魔道具の中央部が発光する。それも魔道具だけではなく辺りを照らすような眩し光を放っているのだ。
「これって凄い物なのか……?」
元の世界にも似たような道具があるからこそ大地はこのランタンの様な魔道具が凄いと言われてもピンとこなかった。
「ダイチさん。これは凄い魔道具ですよ。今、私は魔力を込めてないんです」
ソレが何を意味するのかわからない大地としては「そ、そうなのか」と相槌を打つ。
「あの、大地さん。この魔道具を渡して報告したいんですが……その、良いでしょうか?」
「ん?たしか、ここの依頼ってお城の人関係だっけか」
「はい。魔道具を研究して開発しているところからです。なので……」
先程から言いにくそうにしているのは何故かわからないが、国の発展のために渡したいことくらいはわかる。
「それなら渡していいぞ」
「……大地さん。この魔道具は凄いんですよ?」
「それはさっき聞いたぞ?」
「それでも渡して良いんですか?」
「ん?いいぞ?」
何故か念を押して聞いてくるリリアが何を言いたいのかわからない故に大地は考えずに『ヨシ!』の精神で頷いた。その不毛なやり取りを見かねたグラネスが割って入る。
「ダイチ。リリアさんは研究者に魔道具を渡すよりも売った方がお金になると言っているんだ。俺やリリアさんはさほど困っていないが、お前は何時も持ってないだろう?」
「ん?ダイチ様は貧乏なのですか?」
ぐはぁっ……。この魔道具、誰にも言われたことがない事をシレッと言いやがって……。
「ちょっと金がないだけだ」
「……やっぱり渡さずに売りましょうか……そうすればダイチさんは――」
国とダイチを天秤にかけた結果、リリアが取った答えがそれであった。しかし、それに納得いくかと言われると……無理である。
「いや、報告時に渡してくれ。だいたいそれでも金が入るんだから良いだろ」
「でも……大金ですよ?」
その言葉には若干くらりと来るものがあるけれど……一度言ってしまった事による意地もある。だからもう一度断ろうかと思った矢先に手に握るマーガレットの魔道具が見えた。
「それなら……渡す条件としてその研究所?でマーガレットの体を作ってやれないか?」
「え?……うーん、お願いは出来ますけれど、作れるかわかりませんよ?」
「ああ。それでいい。マーガレットもそのままじゃ不便だろうしな」
掌で収まる魔道具を見ながら大地がそう言うと、リリアは頷いて「わかりました」と言って納得してくれた。
こうして無事に遺跡探索が終りホワイトキングダムへと戻った。だが国へ足を踏み入れた途端、大地に違和感が走った。
何か……視線を感じるな。
自分だけに向けられているのか、全員を対象にしているのかまではわからないが悪意は無さそうだ。
「グラネスさん。お願いがあるのですが」
歩きながらリリアはグラネスへ顔を向けて言う。本当ならこのまま依頼した研究者へ報告に行く所なのだが今朝のウサギ耳の女性が気になってしまっているのだ。
その事情をグラネスに話すと「そんなことが……わかりました。報告は俺が行ってきます」と引き受けてくれた。そこにリリアがその研究機関の依頼人へ手紙を用意してグラネスに魔道具(マーガレット込み)を託す。
そうしてグラネスと別れた後、リリアが取っている宿へと向かった。
宿に入り大地とリリアは部屋の近くまできた。そしてノックをするために大地が扉の前へ近づいていくと勢いよく扉が開いた。
その部屋から飛び出してきたのは薄いピンク色の長い髪の女。その顔立ちは少女と女性の中間と言う感じだが、メイド服により少しだけ女性よりに見える。
「ハンナさん!?」
リリアが取っている部屋から出てきたのはメイドのハンナだった。ハンナにはウサギ耳の女性の看病を頼んでいたからこの部屋から出てくること自体に驚きはない。だが、勢い余って大地へ突撃したハンナはそのまま押し倒して廊下で上下に重なっているのだ。
急展開で流石のリリアも名前を呼んで固まってしまった。
「リリア様!今、お部屋を覗いたらシーラ様がいなくなってしまいました!!」
ハンナは大地に乗りながら焦ったようすでそう言った。
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