初めての異世界転生

藤井 サトル

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月光の花嫁

大地の恐れるもの

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「これは鍵でしょうか?」

 普通に使う分には大きすぎる鍵だ。そのサイズから扉に使うものじゃない事は分かる。全体的に金色で持ち手のところに宝石があしらってある。

「こんな鍵何に使うんだ?」

 ゲームならばこの大きさでもすんなり受け入れられるだろうが現実で片手に収まりきらない程の大きい鍵を見ると違和感しかなく、玩具にしか見えないそれを大地はくるくると回し見る。

「鍵についてるこの石は魔石なんですよね。だから魔道具だと思うんですけど……」

 リリアの言葉はそこで止まってしまい、それ以上わからない事を暗に示していた。たのみのリリアがわからないならいくら考えていても仕方がなく、大地は改めてこの部屋を一瞥いちべつした。部屋としては少々手狭だろう。それ故に物置としていたのだと推測できる。しかし、なぜ宝箱をここに置いたのかがわからない。もっと適した場所はなかったのだろうか?

 ……置いたんじゃなく慌ててこの部屋に隠した?という方が正しいのかもしれない。扉が隠れていたことも合わせるとそう思える。

「取り敢えずここを出るか。鍵は気になるけれど持ち帰れば何かわかるかもしれないしな」

「はい」

 入ってきた扉を開けてもとの通路へ出る。しばらく歩いていると大地の足に何かが当たり蹴っ飛ばしてしまいカランコロンと音が鳴った。

「うわっ……」

 その蹴っ飛ばしたものを見る。それ事態は知っているものの生で見るのは初めてで背中にゾワゾワと悪寒のようなものが走る。それは人の頭から肉が全て無くなった物、#髑髏__しゃれこうべ_#だ。

「ここで亡くなった人のですね」

 リリアがそれへ目を向ける。特に臆した様子を見せない彼女は少しだけ祈ると奥の通路へ目を向ける。

「この先からは人が居た見たいですね」

 その奥にも点々と骨になった元人が見える。壁に寄りかかっていたり、倒れていたり。大地としては正直な気持ちとして生きた心地がしない。例えば骨のモンスターや幽霊のモンスターが襲ってくるとかなら割りきることができる。

 しかし、元々生きていた人の成れの果てと言うのは精神に直接ダメージを与えてくるのだ。自分が強かろうが弱かろうが本能に訴え掛けてくるものはきつい。

「ダイチさん?」

 そんな大地の様子を見たリリアが少し心配そうに声を掛けてきた後、少しだけクスリと笑みを作ったリリアは手を差しのべてきた。

「怖いのでしたら手を握りませんか?」

 とんでもなく恐ろしい選択をしてくる聖女だと大地は思った。こんなに誘惑に負けそうになる言葉を大地は知らない。

「お願いします」

 というか誘惑に負けた。情けないと思わなくもないが……九死に一生を得た気分だ。

「ふふ、でもダイチさんのこういう姿はめずらしいですね」

 手を握りながらリリアは呟くように言う。

「そりゃあ得たいの知れないものとか、自分の死を連想させる見慣れないものは怖いだろ」

 「あれ?」とリリアが言葉の中から何かが気になったように声をだした。

「得たいの知れないって、幽霊さんとかも怖いですか?」

 「ぐっ……」と声にならない声が出た。安心感を得たことからか失言まで混ざってしまったらしい。

「あ、あー、はい」

 ここまで来て嘘でもつけばさらにカッコ悪くなると大地は諦めて頷くしかなかった。

「リリアは怖くないのか?」

「私ですか?」

 考えてもいなかった事について問われ、「うーん?」と初めて考えると大地へ向きなおした。

「私は怖いという感じはしませんね。元々は生きていた人なので……」

 そういう考えになるのか。

「その元々生きていた人が蘇って襲ってきたらどうするんだ?」

 よくあるゾンビ映画やホラー映画のお約束だ。
 だいたいそういうので怖いイメージを植え付けられるわけだが……今の話を聞いてどう思うか反応が気になって大地はリリアの顔を覗くように見る。

「え?……どうなんでしょう?たぶん……倒します。でもそれは生きていても生きていなくても同じだと思いますけど……」

「……なるほど」

 言われてみれば確かにそうだ。と納得してしまった。むしろ生きて殺気を振りまいてくる人間の方が怖いまである……様な気がしてくる。

「そういう考えもあるか。なら俺もその辺の#髑髏__しゃれこうべ_#なら……やっぱ無理」

 リリアの言葉で自分も怖がることはない!そう思って#髑髏__しゃれこうべ_#へ振り向いたものの1秒も満たない時間ですぐに顔の向きを戻した。

 ダメだこれ。だって骨だよ?人の頭蓋骨だよ?気味悪いじゃん!これが急にカタカタカタカタって動き出してきたら声あげる自信あるよ?

 そんな風に考えていく大地の顔は青ざめるのだが、隣のリリアはクスクス笑ってる。大地としては笑い事じゃないのだが……。

「やっぱり怖いんですね。でも……よかったです」

「何が!?……もしかして俺が怖がる姿を見るのが好きなのか?」

 そう訪ねるとリリアは慌てて否定してきた。

「ち、違います!ただ、ダイチさんにも怖いものってあったんだって思ったら、つい言っちゃいました」

「そりゃあ俺だって人間だもの」

「はい……だからよかったなって……」

 むぅ……。ここはリリアがドSじゃないことを喜ぶべきか。人間だということを改めて認識してもらったことを喜ぶべきか。

「えへへ。ダイチさん。怖かったら抱きついてもいいんですよ?」

 頼られるのが嬉しくなったからかリリアがそんなことまで言い出した。それにたいして大地は少しだけ身長差を考えてニヤリと笑みを浮かべて答えた。

「ちんちくりんの子供に抱きつくのは無理だろ?」

「なっ!?私は子供じやありませーん!!」

 ものすごい抗議の目と声でリリアはそう返したのだった。
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