初めての異世界転生

藤井 サトル

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月光の花嫁

バイクも本気を出せば音の壁は超えられる

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「また新しい部屋だ」

 闘技場よりも広くはないその部屋はまたしても円形だ。ただ今度は壁があるため落ちる心配は無い。

「ダイチさん。出入り口が!!」

 自分達が入ってきた通路側、この部屋を抜けるための通路側。その両方が壁で閉じられたのだ。

「RPGかよ……」

 大地達の前にまた何か降ってきた。ガン!と強めの音を出してやって来たのは先ほどのロボットのようだ。ただ、闘技場に出てきた時よりも小さくなっていた。何よりも変わったのは下半身だ。足という形状から青銅色の三輪バイクのような物になっていた。

「ピピピ。強敵発見。過去ノ記憶ヲ一部ダウンロード」

 機械の音声が鳴り終わるとロボットを包むように上から光が降りてきた。

 その光が収まるとロボットの目が光った。

「これよりシンニュウシャをハイジョします」

 先程の機械音から肉声に近づいているが、それでもどことなくぎこちない音声だ。ただ、今の円柱の中のような場所とロボットのバイクを考えると嫌な予感しかしない。

 ロボットからブオン。とバイクを吹かしたような音が聞こえてきた。そしてすぐにブォォォォォと騒がしい音を出しながらこちらへ走ってくる。

「やべぇ!」

 大地とリリアは横っ飛びで避けた。そのロボットの行方を見ると壁に激突せずに壁を回るように走り続ける。

「わわわ。何ですかあれ!?壁!壁走ってますよ!!」

 その様子を見て少し楽しそうにはしゃぐリリアに『今戦闘中なんだけど』と思いながら「そ、そうだな」とロボット見続けて言う。

 ぐるぐると円柱を回り続けるロボットが突っ込んで来た時にカウンターの要領で攻撃すればバランスも崩れるだろう。

 その重い一撃を当てる為の武器を召喚する。それはレイヴンのようなハンマーだ。コイツで顔をぶっとばせばそれで終わりだ。

「ダイチさん。何かロボットから聞こえてきませんか?」

 耳を澄ましてみると奴の走る騒がしい音に隠れて確かに何か聞こえてくる。

「チャージ80%。タイショウをロックちゅう」

 チャージ?ロック?……もうこの敵やだ……。

「リリア、敵の攻撃がくるぞ!!」

 これから繰り出してくるのは光線、或は電力系の飛び道具だ。物理で殴ってくるならロックの意味はないだろうし、チャージはエネルギーを溜める以外の答えが見つからない。

 リリアの近くに駆け寄り彼女の魔法を頼る。リリアならどの攻撃がこようとも防げるはずだ。

「はい!」

 リリアが察してくれて魔法の壁をドーム状に作り出した。

「ユウドウシキホーミングレーザーをハッシャします」

 動き続けるロボットの背後から光線が放たれた。中央にいる大地たちに目掛けて絶え間なく放たれ続けられる様は光線で螺旋が描かれて見えるだろう。

「弾幕シューティングかよ!……リリア、もう少し耐えてくれ」

 「はい!」と返事をしてくれたものの受け続ければリリアだってもつはずがない。だからこそロボットへ一撃いれなければ殺られるだけである。リリアが作ったこの壁はこちらの攻撃を通り抜ける性質を持つ。それは確認済みだからこそ思いっきり……投げられる!!

 音と光が激しさを増す中、大地は手にした大きなハンマーをしっかり持ちその場で回って勢いをつけてハンマーを手放した。相手の動きが同じ場所を回るだけなのだからタイミングさえあえば当たる算段だ。

 ぐるぐるとハンマーは回転しながら真っ直ぐに飛んで見事にロボットの下半身へと命中する。壊れはしなかったがその衝撃で少しの凹みと勢いを殺されバランスを崩したロボットが倒れながら落ちると地面を少しだけ引きずって静止した。

「よしっ!」

 上手く当てられたことで喜ぶ大地をリリアが注意する。

「ダイチさん!敵はまだ動きます!!」

 その言葉通りロボットはどういう原理かわからないが、見えない手があるようにロボットが起き上がるとブオンと吹かした。

「マジかよ……三輪なのによくわからない起き方しやがって」

 大地が呟き終わるとロボットが再び大地達へと向き始めた。また突っ込んでくるのだろうと思われたがロボットの背後で何かカチャカチャと音が聞こえる。

 大地もリリアも嫌な予感がするとそれは動いた。ロボットの背後が少しだけ変形した事で現れたロケットブースターが点火する。

 大地はその初速で危険だと判断してリリアを直ぐに抱えて横に飛び退いた。急なことでリリアが魔法の壁を維持することが出来なくなり消え始めるが、その前にロボットが音速の壁を破る速さで魔法の壁に当たりバリンと突き破って壊した。

 ぎりぎり避けられた。もし判断が少しでも遅ければ二人とも引き殺されていた可能性がある。魔石でロボットが動いていても他部分に魔力が行き渡っていない事だって考えられ、大地も危険だったのだ。ただ、切羽詰まって避けたせいでロボットを見失ってしまった。それほど速く走ってきたのだ。

「奴はどこだ……!?」

 また壁の回りを走っているのか?そう考えたが見当たらない。しかし、消えるなんて事はない。

「ダイチさん。上、上にいます!!」

 見上げると縦に長いこの部屋の天井付近に奴はいた。折り返してこちらに走り落ちてきているロボットの狙いはそのまま地面へと激突することのようだ。
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