初めての異世界転生

藤井 サトル

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月光の花嫁

わからないことが多くても前へは進む

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 闘技場の扉を抜けると来たときと同じような壁の無い一本橋を走り続ける。この場所で横から攻撃されようものなら底の見えない闇の中へ放り出されてしまうだろう。

 ただ、目の前には遺跡内部へ続く入り口だ。そして、未だに後方の闘技場から破壊音が聞こえてくる。

「リリア。このまま突っ切るぞ!」

 逃げるように二人は走り続けそのまま通路へと飛び込んだ。通路に入る事で物理的にここまでは追ってこれないと判断した二人はようやく一息つける事となった。

「流石にこの狭さじゃ入ってこれないよな」

「そうですよね」

 闘技場の方へ一度目を向けてから言うと通路の先へ向き直る。その先はまたもや薄暗い回廊へと続いていた。

「そういえば遺跡にモンスターが封印されているって言ったよな」

「はい。いくつかあるんです。例えば手に負えない程のすごく強いモンスターなら封印をしていたり、例えば……宝ならすごい効果のある魔道具を使われない様に隠すんですが、その番人としてモンスターを置いていたりします。当然ですが前者の方が強いモンスターが出てくるので遺跡調査って注意が必要なんです」

「モンスターが居ないパターンってないのか……」

「はい。宝だけが眠っている事はもちろんあります。ただ、大体そういう場合って強いモンスターの気配がないので他のモンスターがうろついたりしていますから……」

 苦笑気味で言うリリアは今言ったパターンの全てを体験しているのだろう。

「そういえば。ダイチさんは最近変わった事ってありませんでしたか?」

「変わった事?今の状況もだいぶ変わっていると思うけど」

 そう言うとリリアが少しだけ頬を赤くして「そ、そういう事じゃなくて……」とそっぽ向いてしまった。しかし、変わった事なんてそうそうあるものでは……。と考えた矢先に今朝の事を思い出した。

「ああ。そうそう」

 その一言でそっぽ向いていたリリアが大地へと向き直る。

「朝起きたら知り合いが全員メイドだったんだよ」

 そう笑みを浮かべて言うとリリアが今度は少しだけ怒ったように「も、もー!」と膨れ面になってしまった。そうしてからかい終わった大地は一つだけ今日の出来事について口をついた。

「夢かな」

「夢?って眠ってみる夢の話ですよね?」

 夢についてはリリアも色々ある為、すぐにその思考へとたどり着いた。とは言え大地は普通の人間……とは違う事を直ぐに思い大地を注視して聴く体勢を取った。

「その夢だよ。今朝見た夢なんだけど世界が壊れる夢を見たんだ」

「世界が壊れる……」

 小さく復唱するリリアは思い当たる節はある。そして大地がどうして見たかと言うと女神の力を授かっているからだろう。と当たりをつけることも出来る。でも何故そんな夢が出てきたのかが分からない。もしかしたら世界は自分が聖女の役割をこなす事が出来ないと暗示しているのだろうか。

「―リア。リリア!」

「ひゃい!」

 リリアを何度呼んでも反応しなくて焦った大地が少しだけ大きい声で呼ぶとリリアが脊髄反射で返事をした。何もリリアに起きていなかったことにホッとした大地は心配そうに声をかける。

「大丈夫か?」

「……はい。大丈夫です」

「いきなり黙りこくって何を考えていたんだ?」

「い、いえ。大したことでは……」

 咄嗟に言ってしまったが……大丈夫。ただの夢の話なのだから何もないはずだ。

「そうか?」

 何も知らなさそうに大地はそれだけ言ったのでリリアは笑顔を作って「はい」と返す。深く突っ込まれなった事で少しだけホッとした。

 しかし、大地はその様子から深く聴いても答えはもらえないと察していた。

 後でフルネールへ夢の話込みで今の事を聞いてみた方がいいかもしれないな。

 明らかにリリアが何かを隠したのだ。答えにくいものなのかもしれないが、そろそろ仲間外れは止めてほしいものである。

「ダイチさん。私からもう一つ聞いてもいいですか?」

「ん?なんだ?」

 今度は最初っから真面目に答えよう。そう思った大地がリリアの目を見る。

「好きって何ですか?」

 んんんんんー?何だ?哲学の話か?

「好きって……肉が好きとかそういう話か?」

 リリアより察しの悪い大地が出した答えは物の好みの問題だが、リリアは首を横に振った。

「いえ。そうではなく……えっと、人が好きとかの好きです」

「家族が好きとかそういう話か?」

「わかりません。フルネールさんやお姉ちゃん達からよく考える様に言われてますけど……」

 ふむ。

「それじゃあ少し質問を変えて、リリアは誰かを好きになったのか?」

「お姉ちゃんもお兄ちゃんもダイチさんもフルネールさんも好きですよ?」

 あー。つまりそういう話か?だとすると相談する相手を間違えてないだろうか?俺が愛の伝道師に見えるのだとしたら節穴としか思えない。

「なるほど。まぁそうだな……はっきりとした答えは俺には出せないが好きってのは一緒にいたいとか、声を聞きたいとかそういう自分の我儘を強く思える相手じゃないか?」

「自分の我儘?……でもそんなことしたら相手の迷惑じゃないですか?」

「それを迷惑と取るかどうかは相手次第だろ。少なくともそう思える相手が好きって言えるって事でいいんじゃないかな」

「好き……」

 ピンと来ていないリリアは歩きながら黙って考え始めてしまった。この場所が彼女の宿とかならそのままでもいいかなと思えるが、この回廊の終わりが近づいてきたのだ。
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