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月光の花嫁
命を懸けても金は減る
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あのあとリリアがハンナに「今日は早めに戻りますね」と言ってから二人は宿を出た。
しかし、朝からイベントが盛りだくさんだった大地はやや疲れぎみで、ギルドへ着けばようやく落ち着けるなと心のオアシスを思いながら向かう。
「そういえば昨日はレイヴンさん達と依頼に行ってきたんですよね?」
「その報酬をこれから受け取りにいくんだ」
「その報酬を受け取った後はどうするんですか?」
何も考えていないところだったがリリアに言われたことで「そうだな……」と考える。
特別にやりたいことはないな……。
そう思ったときハッとするように気がついた。今の生活に慣れすぎていて家を買う事を忘れている。と。
「依頼でも探そうかな」
いつもの日常を装いながら答えたのだが何故かリリアに驚かれてしまった。
大地がそれに汗を足らりと垂らして「な、何か言いたそうだな」と聞くとリリアは少しだけ言い詰まったように「えと……」と前置きをする。
「ダイチさん。依頼書読めるようになったんですか?」
「あ……」
探すときはフルネールだよりにしていたからこそ彼女がいないことに辛さを覚える。自分では文字を読むことができない無能なのだ。……いや、女神から受け取った能力の代償なのだ。しかし、今この時は依頼どころか昼飯すら満足に頼めない。
改めて現状を悩み始めた大地にリリアは「それなら」と声をかけた。
「私達と一緒に依頼をこなしませんか?グラネスさんはもうギルドにいると思いますし」
反射的に「俺が入って迷惑じゃないか?」と基本的なテンプレで断ろうとしたがすぐに思い返した。今更迷惑もなにもないか。と。
そして今思い出せば昨日の飯代がかなり高かったはずなのだ。レイヴンには「今日の飯代は報酬から必ず引いとけよ」と念を押したまである故、どれくらい残っているかドキドキものである。つまり明日以降の飯代と家を買う金を稼がねばならないのだ。
「あー。それじゃあついてっていいか?」
「はい!もちろんです!」
ギルド前へ着き扉を開ける。ギィと音を立てて入っていくと珍しいものを見たというように視線を向けてきたのだ。それまでにやっていたことの手を止めて……。
大地とリリアは少しだけその雰囲気に怯みかけるがテーブルの席についているグラネスを見つけてそそくさと歩み寄った。
「グラネスさん」
「珍しいですね。リリアさんとダイチが一緒にギルドへ入って来るのは」
言われてみれば二人だけで入ってくるのは確かに無かったかもしれない。
「今日はダイチさんも一緒にギルドの依頼をこなしたいんですけどいいですか?」
「ダイチもですか……?」
グラネスがじっとこちらを見てくる。
何を値踏みしているんだ?強さなら十二分に知っているはずだよな。
「ついにフルネールさんに逃げられたのか?」
「おまえなんてこと言うんだよ!逃げられてねぇよ!」
ダイチが早口でそう返すとグラネスはふっと笑った。そしてリリアへと顔を向ける。
「もちろん冗談だ。俺は構わないですよ」
からかわれたことを知るとなんとか言い返してやりたいと大地は思うのだがその前にリリアが「そうですか!よかった」と笑顔で言ってしまうため、何も言うことができなかった。
グラネスが「では依頼でも探しましょうか」と言って席から立ちあがり掲示板へと歩み進めるので大地とリリアもそのあとに続いていく。
「どんな依頼がいいでしょうか」
グラネスが依頼書に目を通しながらリリアへと聞いていく。そのリリアも同じように依頼書をみてこれはどうでしょうか?等といくつかピックアップしていく。
「この依頼はどうですか?」
「それじゃあ簡単すぎるんじゃないですか?せっかくダイチがいるのですからもっと難しいもののほうが……」
「そうですか?それじゃあこっちのモンスターがいっぱい出るほうがいいでしょうか?」
「いいと思いますよ。でもこっちの死者が蘇ってくるっていう依頼でもいいかもしれませんね」
「ただ、私的にはこちらの古代遺跡調査の依頼も気になっているんです」
「ああ。最近見つかったっていう話でしたね。罠があるらしいですからAランク以上に指定されていますね」
ええ。なんか不穏な声が聞こえてくる……。とはいえ依頼を受けてもらわねば稼ぐことが……。あ!忘れてた!昨日の報酬を受け取りにいかねば。
リリアとグラネスをちょっと放置するとして大地はカウンターにいるユーナへと声をかけに来た。
「こんにちは、ユーナさん」
「あ、ダイチさん。今日はフルネールさんやレヴィアちゃんとは一緒じゃなくリリアちゃんと一緒なんですね」
ユーナまで物珍しそうに、でもどことなく嬉しそうに言ってきた。
「二人は用事があるようなので今日は一人だったんですけどリリアに誘われて」
「ふふ。そうですか」
「ユーナさん。昨日の報酬ってレイヴンから預かってませんか?」
大地がそう聞くとカウンター内をごそごそしてから小さな袋を取り出してきたが、少しだけユーナが目をそらして言う。
「レイヴンさんに報酬をお渡しした後、ダイチさんに渡す報酬の半分から折版した食事代を引いた金額をお預かりしてはいます。あの……これがそうなんですけど……」
そう前置きされてユーナから小さな袋を受け取るが持った拍子に本当に軽いことがわかる。その袋を逆さまにして自分の掌の上にお金を出してみると5枚ほどゴールドが落ちてきた。1枚100ゴールドの価値がある金貨だ。
「500ゴールド?」
「はい……いったいどんなお食事されたんですか?」
レイヴンから受け取った金額に困りながらユーナが尋ねると大地は「花蜜を少々……」と小さく伝えた。だが、それだけでユーナは納得できるものだった。
「蜂蜜と違って花蜜は取れる量が少ないですからね……」
だが必要な出費なのだ。むしろ金額が足りただけよかったとするしかない。大地はそう思いつつリリアとグラネスが依頼を手にしてやってくるのを見守るのだった。
しかし、朝からイベントが盛りだくさんだった大地はやや疲れぎみで、ギルドへ着けばようやく落ち着けるなと心のオアシスを思いながら向かう。
「そういえば昨日はレイヴンさん達と依頼に行ってきたんですよね?」
「その報酬をこれから受け取りにいくんだ」
「その報酬を受け取った後はどうするんですか?」
何も考えていないところだったがリリアに言われたことで「そうだな……」と考える。
特別にやりたいことはないな……。
そう思ったときハッとするように気がついた。今の生活に慣れすぎていて家を買う事を忘れている。と。
「依頼でも探そうかな」
いつもの日常を装いながら答えたのだが何故かリリアに驚かれてしまった。
大地がそれに汗を足らりと垂らして「な、何か言いたそうだな」と聞くとリリアは少しだけ言い詰まったように「えと……」と前置きをする。
「ダイチさん。依頼書読めるようになったんですか?」
「あ……」
探すときはフルネールだよりにしていたからこそ彼女がいないことに辛さを覚える。自分では文字を読むことができない無能なのだ。……いや、女神から受け取った能力の代償なのだ。しかし、今この時は依頼どころか昼飯すら満足に頼めない。
改めて現状を悩み始めた大地にリリアは「それなら」と声をかけた。
「私達と一緒に依頼をこなしませんか?グラネスさんはもうギルドにいると思いますし」
反射的に「俺が入って迷惑じゃないか?」と基本的なテンプレで断ろうとしたがすぐに思い返した。今更迷惑もなにもないか。と。
そして今思い出せば昨日の飯代がかなり高かったはずなのだ。レイヴンには「今日の飯代は報酬から必ず引いとけよ」と念を押したまである故、どれくらい残っているかドキドキものである。つまり明日以降の飯代と家を買う金を稼がねばならないのだ。
「あー。それじゃあついてっていいか?」
「はい!もちろんです!」
ギルド前へ着き扉を開ける。ギィと音を立てて入っていくと珍しいものを見たというように視線を向けてきたのだ。それまでにやっていたことの手を止めて……。
大地とリリアは少しだけその雰囲気に怯みかけるがテーブルの席についているグラネスを見つけてそそくさと歩み寄った。
「グラネスさん」
「珍しいですね。リリアさんとダイチが一緒にギルドへ入って来るのは」
言われてみれば二人だけで入ってくるのは確かに無かったかもしれない。
「今日はダイチさんも一緒にギルドの依頼をこなしたいんですけどいいですか?」
「ダイチもですか……?」
グラネスがじっとこちらを見てくる。
何を値踏みしているんだ?強さなら十二分に知っているはずだよな。
「ついにフルネールさんに逃げられたのか?」
「おまえなんてこと言うんだよ!逃げられてねぇよ!」
ダイチが早口でそう返すとグラネスはふっと笑った。そしてリリアへと顔を向ける。
「もちろん冗談だ。俺は構わないですよ」
からかわれたことを知るとなんとか言い返してやりたいと大地は思うのだがその前にリリアが「そうですか!よかった」と笑顔で言ってしまうため、何も言うことができなかった。
グラネスが「では依頼でも探しましょうか」と言って席から立ちあがり掲示板へと歩み進めるので大地とリリアもそのあとに続いていく。
「どんな依頼がいいでしょうか」
グラネスが依頼書に目を通しながらリリアへと聞いていく。そのリリアも同じように依頼書をみてこれはどうでしょうか?等といくつかピックアップしていく。
「この依頼はどうですか?」
「それじゃあ簡単すぎるんじゃないですか?せっかくダイチがいるのですからもっと難しいもののほうが……」
「そうですか?それじゃあこっちのモンスターがいっぱい出るほうがいいでしょうか?」
「いいと思いますよ。でもこっちの死者が蘇ってくるっていう依頼でもいいかもしれませんね」
「ただ、私的にはこちらの古代遺跡調査の依頼も気になっているんです」
「ああ。最近見つかったっていう話でしたね。罠があるらしいですからAランク以上に指定されていますね」
ええ。なんか不穏な声が聞こえてくる……。とはいえ依頼を受けてもらわねば稼ぐことが……。あ!忘れてた!昨日の報酬を受け取りにいかねば。
リリアとグラネスをちょっと放置するとして大地はカウンターにいるユーナへと声をかけに来た。
「こんにちは、ユーナさん」
「あ、ダイチさん。今日はフルネールさんやレヴィアちゃんとは一緒じゃなくリリアちゃんと一緒なんですね」
ユーナまで物珍しそうに、でもどことなく嬉しそうに言ってきた。
「二人は用事があるようなので今日は一人だったんですけどリリアに誘われて」
「ふふ。そうですか」
「ユーナさん。昨日の報酬ってレイヴンから預かってませんか?」
大地がそう聞くとカウンター内をごそごそしてから小さな袋を取り出してきたが、少しだけユーナが目をそらして言う。
「レイヴンさんに報酬をお渡しした後、ダイチさんに渡す報酬の半分から折版した食事代を引いた金額をお預かりしてはいます。あの……これがそうなんですけど……」
そう前置きされてユーナから小さな袋を受け取るが持った拍子に本当に軽いことがわかる。その袋を逆さまにして自分の掌の上にお金を出してみると5枚ほどゴールドが落ちてきた。1枚100ゴールドの価値がある金貨だ。
「500ゴールド?」
「はい……いったいどんなお食事されたんですか?」
レイヴンから受け取った金額に困りながらユーナが尋ねると大地は「花蜜を少々……」と小さく伝えた。だが、それだけでユーナは納得できるものだった。
「蜂蜜と違って花蜜は取れる量が少ないですからね……」
だが必要な出費なのだ。むしろ金額が足りただけよかったとするしかない。大地はそう思いつつリリアとグラネスが依頼を手にしてやってくるのを見守るのだった。
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