初めての異世界転生

藤井 サトル

文字の大きさ
上 下
187 / 281
月光の花嫁

命を懸けても金は減る

しおりを挟む
 あのあとリリアがハンナに「今日は早めに戻りますね」と言ってから二人は宿を出た。
 しかし、朝からイベントが盛りだくさんだった大地はやや疲れぎみで、ギルドへ着けばようやく落ち着けるなと心のオアシスを思いながら向かう。

「そういえば昨日はレイヴンさん達と依頼に行ってきたんですよね?」

「その報酬をこれから受け取りにいくんだ」

「その報酬を受け取った後はどうするんですか?」

 何も考えていないところだったがリリアに言われたことで「そうだな……」と考える。

 特別にやりたいことはないな……。

 そう思ったときハッとするように気がついた。今の生活に慣れすぎていて家を買う事を忘れている。と。

「依頼でも探そうかな」

 いつもの日常を装いながら答えたのだが何故かリリアに驚かれてしまった。

 大地がそれに汗を足らりと垂らして「な、何か言いたそうだな」と聞くとリリアは少しだけ言い詰まったように「えと……」と前置きをする。

「ダイチさん。依頼書読めるようになったんですか?」

「あ……」

 探すときはフルネールだよりにしていたからこそ彼女がいないことに辛さを覚える。自分では文字を読むことができない無能なのだ。……いや、女神から受け取った能力の代償なのだ。しかし、今この時は依頼どころか昼飯すら満足に頼めない。

 改めて現状を悩み始めた大地にリリアは「それなら」と声をかけた。

「私達と一緒に依頼をこなしませんか?グラネスさんはもうギルドにいると思いますし」

 反射的に「俺が入って迷惑じゃないか?」と基本的なテンプレで断ろうとしたがすぐに思い返した。今更迷惑もなにもないか。と。

 そして今思い出せば昨日の飯代がかなり高かったはずなのだ。レイヴンには「今日の飯代は報酬から必ず引いとけよ」と念を押したまである故、どれくらい残っているかドキドキものである。つまり明日以降の飯代と家を買う金を稼がねばならないのだ。

「あー。それじゃあついてっていいか?」

「はい!もちろんです!」

 ギルド前へ着き扉を開ける。ギィと音を立てて入っていくと珍しいものを見たというように視線を向けてきたのだ。それまでにやっていたことの手を止めて……。

 大地とリリアは少しだけその雰囲気に怯みかけるがテーブルの席についているグラネスを見つけてそそくさと歩み寄った。

「グラネスさん」

「珍しいですね。リリアさんとダイチが一緒にギルドへ入って来るのは」

 言われてみれば二人だけで入ってくるのは確かに無かったかもしれない。

「今日はダイチさんも一緒にギルドの依頼をこなしたいんですけどいいですか?」

「ダイチもですか……?」

 グラネスがじっとこちらを見てくる。

 何を値踏みしているんだ?強さなら十二分に知っているはずだよな。

「ついにフルネールさんに逃げられたのか?」

「おまえなんてこと言うんだよ!逃げられてねぇよ!」

 ダイチが早口でそう返すとグラネスはふっと笑った。そしてリリアへと顔を向ける。

「もちろん冗談だ。俺は構わないですよ」

 からかわれたことを知るとなんとか言い返してやりたいと大地は思うのだがその前にリリアが「そうですか!よかった」と笑顔で言ってしまうため、何も言うことができなかった。

 グラネスが「では依頼でも探しましょうか」と言って席から立ちあがり掲示板へと歩み進めるので大地とリリアもそのあとに続いていく。

「どんな依頼がいいでしょうか」

 グラネスが依頼書に目を通しながらリリアへと聞いていく。そのリリアも同じように依頼書をみてこれはどうでしょうか?等といくつかピックアップしていく。

「この依頼はどうですか?」

「それじゃあ簡単すぎるんじゃないですか?せっかくダイチがいるのですからもっと難しいもののほうが……」

「そうですか?それじゃあこっちのモンスターがいっぱい出るほうがいいでしょうか?」

「いいと思いますよ。でもこっちの死者が蘇ってくるっていう依頼でもいいかもしれませんね」

「ただ、私的にはこちらの古代遺跡調査の依頼も気になっているんです」

「ああ。最近見つかったっていう話でしたね。罠があるらしいですからAランク以上に指定されていますね」

 ええ。なんか不穏な声が聞こえてくる……。とはいえ依頼を受けてもらわねば稼ぐことが……。あ!忘れてた!昨日の報酬を受け取りにいかねば。

 リリアとグラネスをちょっと放置するとして大地はカウンターにいるユーナへと声をかけに来た。

「こんにちは、ユーナさん」

「あ、ダイチさん。今日はフルネールさんやレヴィアちゃんとは一緒じゃなくリリアちゃんと一緒なんですね」

 ユーナまで物珍しそうに、でもどことなく嬉しそうに言ってきた。

「二人は用事があるようなので今日は一人だったんですけどリリアに誘われて」

「ふふ。そうですか」

「ユーナさん。昨日の報酬ってレイヴンから預かってませんか?」

 大地がそう聞くとカウンター内をごそごそしてから小さな袋を取り出してきたが、少しだけユーナが目をそらして言う。

「レイヴンさんに報酬をお渡しした後、ダイチさんに渡す報酬の半分から折版した食事代を引いた金額をお預かりしてはいます。あの……これがそうなんですけど……」

 そう前置きされてユーナから小さな袋を受け取るが持った拍子に本当に軽いことがわかる。その袋を逆さまにして自分の掌の上にお金を出してみると5枚ほどゴールドが落ちてきた。1枚100ゴールドの価値がある金貨だ。

「500ゴールド?」

「はい……いったいどんなお食事されたんですか?」

 レイヴンから受け取った金額に困りながらユーナが尋ねると大地は「花蜜を少々……」と小さく伝えた。だが、それだけでユーナは納得できるものだった。

「蜂蜜と違って花蜜は取れる量が少ないですからね……」

 だが必要な出費なのだ。むしろ金額が足りただけよかったとするしかない。大地はそう思いつつリリアとグラネスが依頼を手にしてやってくるのを見守るのだった。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

アブソリュート・ババア

筧千里
ファンタジー
 大陸の地下に根を張る、誰も踏破したことのない最大のロストワルド大迷宮。迷宮に入り、貴重な魔物の素材や宝物を持ち帰る者たちが集まってできたのが、ハンターギルドと言われている。  そんなハンターギルドの中でも一握りの者しかなることができない最高ランク、S級ハンターを歴代で初めて与えられたのは、『無敵の女王《アブソリュート・クイーン》』と呼ばれた女ハンターだった。  あれから40年。迷宮は誰にも踏破されることなく、彼女は未だに現役を続けている。ゆえに、彼女は畏れと敬いをもって、こう呼ばれていた。  アブソリュート・ババ「誰がババアだって?」

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

世界樹を巡る旅

ゴロヒロ
ファンタジー
偶然にも事故に巻き込まれたハルトはその事故で勇者として転生をする者たちと共に異世界に向かう事になった そこで会った女神から頼まれ世界樹の迷宮を攻略する事にするのだった カクヨムでも投稿してます

クラスまるごと異世界転移

八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。 ソレは突然訪れた。 『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』 そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。 …そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。 どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。 …大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても… そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。

異世界貴族は家柄と共に! 〜悪役貴族に転生したので、成り上がり共を潰します〜

スクールH
ファンタジー
 家柄こそ全て! 名家生まれの主人公は、絶望しながら死んだ。 そんな彼が生まれ変わったのがとある成り上がりラノベ小説の世界。しかも悪役貴族。 名家生まれの彼の心を占めていたのは『家柄こそ全て!』という考え。 新しい人生では絶望せず、ついでにウザい成り上がり共(元々身分が低い奴)を蹴落とそうと決心する。 別作品の執筆の箸休めに書いた作品ですので一話一話の文章量は少ないです。 軽い感じで呼んでください! ※不快な表現が多いです。 なろうとカクヨムに先行投稿しています。

死んでないのに異世界に転生させられた

三日月コウヤ
ファンタジー
今村大河(いまむらたいが)は中学3年生になった日に神から丁寧な説明とチート能力を貰う…事はなく勝手な神の個人的な事情に巻き込まれて異世界へと行く羽目になった。しかし転生されて早々に死にかけて、与えられたスキルによっても苦労させられるのであった。 なんでも出来るスキル(確定で出来るとは言ってない) *冒険者になるまでと本格的に冒険者活動を始めるまで、メインヒロインの登場などが結構後の方になります。それら含めて全体的にストーリーの進行速度がかなり遅いですがご了承ください。 *カクヨム、アルファポリスでも投降しております

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

処理中です...