初めての異世界転生

藤井 サトル

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月光の花嫁

思いがけない展開は意識外からやってくる

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 今、大地とリリアは息を乱していた。何故か?それはグラネスと別れ、やや薄暗いこの場所で生存本能が働いているためだ。

「リリア……どうしてこうなったんだ……」

 荒い息のまま大地がそう問いかけるとリリアもまた息を乱しながら答える。

「それは……言いたくありません……」

 息が乱れていようとも、恥ずかしさを覚えれば顔は赤くなるものだ。

「そうだろう……な。だって変なスイッチを踏んでからこうなったんだもんな!!」

「ごめんなさいーー!!」

 二人は走り続ける。後ろから追ってくる生物に捕まりたくない一心で……。

***

 大地とリリアとグラネスはギルドで依頼を受けて遺跡調査にやって来ていた。内容は南の森で不自然な遺跡が見つかった為、内部を少しでも知りたいということだ。出来るだけ多くの情報と遺跡に関わりそうな物があったら渡してくれとお城の魔道具研究機関からの依頼で追加報酬もでるそうだ。

 三人は意気揚々として遺跡のあると言われた場所へやってくる。森の中に大きな洞窟があり、その中には下り階段が作られていた。下っていくと何かの神殿のような入り口につく。

 三人は臆せず遺跡の中へと足を踏み入れた。中は以外にも明るさが建物から生み出されていて暗いという印象より神秘的な印象が強かった。

「へぇ」

 大地がまじまじと遺跡の中を見て回るとリリアが声をかけてきた。

「ダイチさん。遺跡はお好きなんですか?」

 ダイチの動き方が遺跡調査に出張ってきた学者が動いて見て回るのとダブって見えたのだ。

「あー、そうだな。冒険しているって感じがして嫌いじゃないな」

 まるで冒険に憧れを持った子供が言いそうな言葉でリリアはクスクスと笑った。

「俺おかしな事を言ったか?」

 いたって真面目に答えたはずなのに笑われては大地も少しだけムッとする。

「いえ、ごめんなさい。でも、ダイチさんは冒険がお好きなんですね」

 男は大体ワクワクする冒険が好きなのだ。しかし、これを言ってはまたリリアに笑われそうな気がしてくる。

「まぁな……しかし、結構古そうな場所だけど、今までよくこの遺跡が見つからなかったな」

「魔道具で遺跡が隠されていたのだろうな。その効果が切れると表に出てくるのはよくある事なんだ」

「なんで遺跡を隠すんだ?」 

「そうだな。俺が知る限りモンスターを封印しておく場合や宝を隠す場合とかだな」

「なるほどな」

 モンスターが封印されている遺跡、宝が隠れている遺跡。どちらも良いな……と大地はロマンを感じてふと笑みをこぼす。

 そうやって大地が嬉しがっている事がわかっているリリアは小さくクスクスと笑う。そして大地の少し前に出ると遺跡の大きさを体で表すように両手を広げた。

「ダイチさん。こういう大きな遺跡にはほぼ必ずと言っていいほど罠が有るんですよ?だから気を付けてくださいね?」

 ――カチリ。

 リリアが言い終わると共に彼女の足元からそんな音がはっきりと聞こえた。一時だけ間があった。その時間はリリアを笑顔から青ざめた笑顔へ変えるのには十分だった。

 そしてなにか言葉を残すことは出来ずに大地とリリアは大きく開いた落とし穴へと落ちていく。ただ一人、離れたところにいたグラネスをおいて……。


 大地は落ちて直ぐにリリアを引き寄せ彼女が上になるように位置を替えてを守るように抱く。それからこの状況を打開するために何か召喚を……と考えてすぐに背中に衝撃が走った。それにより落とし穴の底へ着いたのだと理解した。

 痛みによる呻き声を少しだけ溢し、腕の中にいるリリアへ視線を向けた。

「リリア。大丈夫か?」

 大地の掛けた声に反応して腕の中でもぞもぞと動くリリアは顔をあげて「はい。大丈夫です」と答えてくれる。

 低い階層でホッとするべきか、それとも何かする前に地面へ体を打ち付けたことに悲しむべきか。どちらにしろ落ちた時の衝撃は殆ど大地が吸収したことでリリアに怪我はなかった事は良かったことだ。

 リリアがお礼をいいながら上から降りて立ち上がる。その重みが消えるのを少し残念に……思わないぞ!と強く思いながら大地も立ち上がり周囲を見た。

 今いる場所が四角い部屋だとわかるくらいにはやや薄暗い。見上げると大地とリリアが落ちてきたとわかる穴が空いている。そして壁際には通路へ続くこの部屋の出口があるのも確認済みだ。

「ここは……どこなんでしょうか?」

 不思議そうにそして少し怯えているようにも感じる。

「落ちた時間的に1~2階くらいだな」

「そうですか……」

 リリアはあまり深い地下じゃないことにほっとしたが思い出したように「あっ!」と声をあげた。

「ど、どうした?」

「すぐにここから移動しましょう!!」

 慌てながら言うリリアに大地は困惑を重ねる。

「わかったから落ち着いてくれ。そんなに慌てるような事なのか?」

「今いる場所は侵入者を撃退するために作られた落とし穴の先なんです。遺跡の構造上、落下から即死に繋がるように作れなかったのでしょうけど、落としただけで終わりにするはずがありません!!」

 リリアが捲し立てる様に一息でいい終える。そして、その説明の終わりと同時に上から何かがうごめく音が聞こえてくる。幾つもの足を動かすような……。

「なるほどな……罠か」

 余裕そうな笑みを一瞬浮かべたあと、「逃げるぞ!!」とリリアの手を掴んで通路へと走り出した。

「ダ……イチさん。後ろから来てるの……大きなムカデの大群です!!」

 手を引かれながら首を捻って後方に目をやったリリアが追ってきているモンスターを正確に伝えてくる。

「足が……足がいっぱいで気持ち悪いです!!」

「ええい、もう見るな。前を見て走れ!!」

「「うわあああああああああ!!!」」

 こうして遺跡の中で絶叫を振り撒きながらチェイスが始まったのだ。

 大地は前にも経験があるが大量の虫に終われるというのは精神的にくるものがあるのだ。それを今回初めて味わったのかリリアが涙目で走っている。

「リリア。大丈夫か?」

「ダイチ……さん。私、こんなの初めてで……ちょっと怖いです」

 息も乱れているところ体力よりも精神面がかなり削られているのだろう。だが恐怖とはそういうものなのだ。

 とはいえこのまま走らせ続けるのも危険かもしれない。足でももつれさせればあっという間にムカデの群れに飲み込まれるだろう。

 迎え撃とうとそう考えた先にリリアの叫びが聞こえてきた。

「ダイチさん!!道が途切れてます!!」

 通路の出口が見えたその先は大きな広い空間になっている。その中央には円形状のような広場だ。ただ、その場所に伸びる足場が途中から殆ど消えていた。古い遺跡だ足場が崩壊してしまったのだろう。逃げる道が無く大地とリリアは顔を真っ青に染めた。
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