初めての異世界転生

藤井 サトル

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フェアリーダウン

悪役のおきまり手段

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「くはっ……おっと失礼。余りにもお変わりが無い様子でしたので笑いが溢れて――なっ!?」

 ザルドーラが話している途中で大地は直ぐにザルドーラに向けて斬撃を振るった。それも先ほどと同じ刃でだ。

 だが、刃はまたもや漆黒の刃に砕かれてしまう。

「再生する剣なんでしょうけど、何回振るっても意味はありませんよ!」

「そうかな?悪いがスタミナはある方なんでな!」

 瞬時に柄から刃が作られると大地は振るう。それをザルドーラは素早く反応して余裕で砕く。

「それがどうしました!」

 大地は何度も刃を再生させてはザルドーラへと打ち込んでいく。そしてザルドーラはそのすべてを砕いた。ただそれによってザルドーラが防戦一方になるのは確かな事実であった。

「何度やっても同じことですよ!こんな粉々に散るような武器……で……」

 七色の刃はかなり細かく砕かれている。だが、その破片は消えることなく宙に舞っていた。それに気づいたザルドーラは大地の表情を見て何かを考えているとを読み取った。

「貴方……何を考えているんですか!?」

 諦めていない大地の目を見たザルドーラが若干の焦りと共に言い放った。

「お前、自分が有利だと考えを止めるだろ。それはとてつもない弱点だぜ!」

 準備が調い大地の目が鋭さを増した。そこから大地の本当の攻撃が来ると察したザルドーラは判断を強いられた。守りか攻撃か。……ここは攻撃だ。大地が何かをする前に即座につぶせば問題ない。何せ相手が動くよりこちらはすでに剣を振るえる。この勝負は勝てる。そう勝ち誇りながらザルドーラが剣を振り上げた。

「だから考えを止めるなよ」

 その瞬間、とてつもない轟音が鳴り響いた。その出どころは大地が出しっぱなしにしていた戦車の砲身からだ。放たれた砲弾が振り上げたザルドーラの剣先へと命中した。本当ならザルドーラに直撃させたかったがあまりに近すぎる距離では大地自身が危険なのだ。衝撃の余波をぎりぎり耐えられる距離が剣先である。もっとも仮に相手が一般の人……いや、Sランクハンターだとしても衝撃の余波で腕が吹っ飛ぶほどだが敵はザルドーラ。パンドラの魔力により強固な魔法防壁を身にまとっている。それ故に剣しか弾けない十分な化け物である。

 でも――これで終わりだ。

「俺の新武器。流星剣は砕いた刃を自由自在に操れる!お前はここで死ね!」

 宙を舞っている砕け散った刃の破片が動き出した。太陽の光に反射しながらキラキラと空中へ舞い上がるとそのすべてがザルドーラへと降り注いでいく。大量の鋭い刃の流星群。それがザルドーラの体を切り刻んでいった。

「くくく……なるほど。これが女神が選んだ男の力……か……」

 雰囲気が一変した。すでに体がボロボロになっているはずなのにどこか余裕すら醸し出すザルドーラは笑みすら浮かべている。

「随分余裕そうだな?」

「そうでもないな。だが……」

 奴は虫の息のはずなのだ。はずなのだが……何か嫌な予感がする。

「せっかくだ。貴様を道ずれにしようか」

 急速にザルドーラの魔力が高まっていった。それに伴い黒い電気のようなのがバチバチと放電を始める。直感的に危険だと判断した大地が即座に飛び退こうとするがその前に魔力がたまり切ってしまった。

「ダークバニッシュ!」

 ザルドーラを中心にとんでもない爆発音を立てながら真っ黒な闇がドーム状に広がっていく。逃げ損じた大地はその闇の爆発に飲まれていった。

「……流石に……死ぬかと思った」

 死にはしなかったもののパンドラの魔力より生まれた爆発は大地にかなりのダメージを与えていた。そのせいあってすぐには立てそうにない。だが、一番危険なはずのザルドーラをやったのだ。少しは安心していてもいいだろう。

 ようやくゆっくりできる。そう思った大地の近くで足音が聞こえてきた。この足音は人間のそれだろうが、人間が全員仲間というわけではない。盗賊……いや、盗賊でなくても酷いことを考える人間なんてたくさんいる。それも弱っていると知ると豹変するかの如く。何とか立ち上がり鉄の剣を召喚すると共に振り返り、足音が聞こえてきた方向に剣先を向けた。

「うわ!危ないな!」

「ん?」

 先ほど聞いた声だ。落ち着いて近くに来た人物を確認するとそこには白髪の男とポニーテールの女、そして見知らぬ数人の男女。つまりこいつらはリベリオンの巡回者たちなのだろう。

「ダレンとロアか……?」

「ダイチ……ここで何があったんだ?お前もそんなにボロボロになってよ」

 戦車や流星剣は消しているがザルドーラとの戦いの爪痕により地面は酷いものだった。焼け焦げ、切り刻まれ、大小の穴ぼこがありおまけに流星剣で削られている。

「悪い。かなり強いやつと戦ったんだ」

 周りを警戒しながらダレンは恐ろしい場所を歩くように大地へと近づいていく。何せハイオークの死体を一撃で使用不能にした男がボロボロになっているのだ。もし大地と戦ったやつが生きているのだとしたら殺される可能性すら考えられる。

 そんな風に近寄ってくるダレンを安心させるために大地は声をかける。

「ああ。倒したから安全だぞ」

「そ、そうか。とりあえず傷を治そう」

 ダレンが大地の治療に取り掛かった。リリアよりも速度は遅いものの確かに痛みが和らいでいく。

「お前本当に回復魔法が出来たんだな……っていうかしてくれるんだな」

「なかなか失礼なやつだな……」

 ジト目で見てくるダレンに大地は苦笑する。

「悪い。ギャップってやつがなぁ」

 そんな適当な言い訳でもダレンは呆れながら回復魔法は続けてくれている。死者を操る魔法を使うという邪悪全開なくせに情に厚いのか丁寧に治療をしてくれるのだ。それが少しだけおかしくて口元をほころばせる。

 もうレイヴン達もSランクモンスターは倒し終わっているだろう。あとは戻ってレイヴン達と合流すればいい。そして依頼の報告を行えばいいだけだ。青い空を見上げながらそんな今日の残りの時間を考えているとふとザルドーラが言っていたことについて気になった。

 『欲しいものがある』とはいったい何だったのか。結果的にあいつはそれを入手して死んだのか?……そうだとしても自爆したら意味がないのではないだろうか。そもそも欲しいものとは何だったんだ?情報なのか?物なのか?……もし、まだ手に入れてなかったのだとしたら自爆するのはおかしいのではないだろうか。

 とてつもなく嫌な予感がして大地が汗をたらりと落とした時だった。

『ダイチさん!まずいことになった。ミルが怪我を負ってしまったんだ!……とにかくすぐ戻ってこれないか!?』

 脳内に響いてきたその声はとても焦りが混じったレルムの声だった。
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