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フェアリーダウン
貸しと借り
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「悪い待たせた」
ザルドーラとレイヴン達の間に割って入った大地が自分とダレンを背中合わせで繋ぎ止めている機械のベルトを消した。
「わっとと……」
急にベルトが消えたことでバランスを崩しそうになったダレンが少しだけ足をもつれさせるが転ぶまでは至らずに持ちこたえた。
大地はザルドーラへ目を向けると視界に映った仲間がいた。捉えられて血を採取されているせいで生気が薄くなってしまったミルだ。その瞬間、大地の頭に血が一気に上った。
即座に飛び出した大地をザルドーラはレイヴン達を弾いたときと同じように黒い魔力の波を放った。
大地は迫り来る黒い魔力の波に対して何も手を加えず飛び込むように押し進み、そのまま魔力の波の中を突っ切ってザルドーラの前へと降り立った。
「とっととその娘を離しやがれ!!」
武器も出さず大地は拳に満身の力を込め、全力でザルドーラの頬を殴り飛ばした。それによって拘束していた魔法が解けた。だが、ミルは支えを無くして落下してしまう。大地は咄嗟に手を出すがミルを優しく受け止めながら掌に乗せることに成功した。
「遅くなって済まない」
返事をしようとミルは口を動かすのが精一杯で声を出す体力もなくなっていた。ただ、……それでも大地には『ありがとう』と言っている気がしたのだ。
すぐにダレンに駆け寄った大地は乞う様に言った。
「ダレン。ミルを治療してくれ」
その為に来た。ダレンはそう口にしなかったが頷いたときの瞳には確かにその意思を感じた。
「台座の代わりにその妖精を寝かせる様に手に乗せてくれ」
「その役目、俺がやるよ」
大地とダレンの話の流れがよくわかっていなかったレイヴンだが、今のミルを助けてくれるとだけわかると名乗り出た。
「レイヴン……わかった」
両手をくっつけて掌で皿を作るレイヴンの手の上へミルに負担が掛からないよう優しく乗せる。
ダレンの回復魔法が始まったのを見て大地はすぐにザルドーラを仕留めるべく走る。
「ザルドーラっ!!」
大地の一撃から回復していたようで男は起き上がっていて、青年の姿でいる奴は余裕そうな笑みを見せていた。
大地が再び拳で殴り掛かろうとするが、ザルドーラが向けた掌の先から出している闇の壁のようなもので阻まれてしまう。それでも大地はぶち破ろうと力を込め続けた。
「よう、どうだった?俺の魔法で作ったコピーは?」
変身時の口調と声質で語りかけてくるザルドーラに大地は笑みをつくって応える。
「ああ。お前の力量がよくわかる木偶の坊だったよ。それより……もっとお前自身の心配をしたほうがいいんじゃないか?」
大地は拳を闇の壁にめり込ませていく。
「悪いが頭にきてんだ……」
やがて拳が壁を貫通するとバチバチと魔法が崩れだす兆候が現れ、流石のザルドーラも冷や汗が流れる。
「まさか、パンドラの魔力で作った魔法壁を破るとでも!?」
大地の強さを改めて知ったザルドーラはこのままでは魔法壁が破られるのも時間の問題だ。そこまで考えたザルドーラはあえて大地から視線をはずした。
「貴方こそもっと心配する事があるんじゃないですか?後ろの妖精に掛けている回復魔法が失敗しそうですよ?」
この言葉で大地が後ろを向いた直後に魔法壁を消す。一瞬で魔法壁が消えて目を離していた大地は状況を判断する間もなくバランスを崩すだろう。そこを狙えば命を取れる。
「……失敗?」
大地がそう呟き、ザルドーラは『さぁ後ろを振り向け!』と心の中で叫ぶ。
「あいつは失敗なんてしねぇよ!」
魔法壁に掛かる負荷がさらに高まりバチンと強烈な音を立てて消失した。そして大地は一歩強く踏み込んでザルドーラの頬へ拳を叩き込む。……が、拳があたった瞬間にザルドーラの体は黒いモヤとなって霧散した。そして声が響いてきた。
「私が欲しい物は確り戴きました。ですからここは退散しましょう。また会う日を楽しみにしていますよ」
既に逃げ切られていた事に腹を立てる暇なんてない。ミルのようすの方が気になるのだ。直ぐに振り替えってミルとダレンの近くへ走る。
「ミルは……大丈夫なのか……?」
だけどダレンは回復魔法の使用を止めていた。
「大地……その……な……死力を尽くしたんだ……」
悲しそうな顔で言うダレンを見て察したくない気持ちが溢れてくる。
「嘘……だろ……?」
動揺した声で言う大地にダレンはなにも言わない。その代わりにダレンは大地をミルに会わせてやるようにその場をどいた。
目の前にはレイヴンがいる。両手を皿のように広げてその上には……座って大地を見続けるミルがいた。
「だから問題なく治療は終わってるぜ」
してやったりといった表情でダレンはニヤニヤと大地の顔を見ていた。
「おまっ……!!」
「あら、少しは心配してくれたのかしら?」
あどけなく笑うミルをみて怒りやら毒気やらが抜けていき、腹に残った気持ちをため息にして吐き出した。
「はぁ。心臓に悪いことさせるなよ……」
「そう。ごめんなさいね」
そう言ってミルは飛び上がるがふらふらとしている。
「お、おい。あんまり無茶するな!」
焦りながら言う大地に少しだけクスリと笑みを浮かべてミルは大地の肩へと腰を掛けた。
「それならここで休ませてちょうだい」
一先ず無事であることに安堵した大地は戦いは終わった事を示すために次のすることを口にした。
「さ、戻って報告し終わったら飯でも食うか!」
「「おーー!!!」」
ザルドーラの思惑は気になるが全員が無事だった事を喜ぶ中、ダレンが蚊帳の外にいる雰囲気を出していたので大地は「ダレンも来いよ!俺とレイヴンで奢るからさ。それと、貸しが出来ちまったし何かあったら頼れよ?」と言って大地とレイヴンで半ば強引にひきずりだした。
なすがままにされながらダレンは『自分の命を取らなかった貸しは何時返させてくれるんだ?』等と少しだけ笑みを浮かべながら「それじゃあ奢られよう!」と言って全員が帰路につくのだった。
尚、この後、大地はとてつもなく驚愕することになる。飯屋に入ってミルが頼んだ花蜜の値段に。そして大地とレイヴンはお互いに折半で良かったと思うのだった。
ザルドーラとレイヴン達の間に割って入った大地が自分とダレンを背中合わせで繋ぎ止めている機械のベルトを消した。
「わっとと……」
急にベルトが消えたことでバランスを崩しそうになったダレンが少しだけ足をもつれさせるが転ぶまでは至らずに持ちこたえた。
大地はザルドーラへ目を向けると視界に映った仲間がいた。捉えられて血を採取されているせいで生気が薄くなってしまったミルだ。その瞬間、大地の頭に血が一気に上った。
即座に飛び出した大地をザルドーラはレイヴン達を弾いたときと同じように黒い魔力の波を放った。
大地は迫り来る黒い魔力の波に対して何も手を加えず飛び込むように押し進み、そのまま魔力の波の中を突っ切ってザルドーラの前へと降り立った。
「とっととその娘を離しやがれ!!」
武器も出さず大地は拳に満身の力を込め、全力でザルドーラの頬を殴り飛ばした。それによって拘束していた魔法が解けた。だが、ミルは支えを無くして落下してしまう。大地は咄嗟に手を出すがミルを優しく受け止めながら掌に乗せることに成功した。
「遅くなって済まない」
返事をしようとミルは口を動かすのが精一杯で声を出す体力もなくなっていた。ただ、……それでも大地には『ありがとう』と言っている気がしたのだ。
すぐにダレンに駆け寄った大地は乞う様に言った。
「ダレン。ミルを治療してくれ」
その為に来た。ダレンはそう口にしなかったが頷いたときの瞳には確かにその意思を感じた。
「台座の代わりにその妖精を寝かせる様に手に乗せてくれ」
「その役目、俺がやるよ」
大地とダレンの話の流れがよくわかっていなかったレイヴンだが、今のミルを助けてくれるとだけわかると名乗り出た。
「レイヴン……わかった」
両手をくっつけて掌で皿を作るレイヴンの手の上へミルに負担が掛からないよう優しく乗せる。
ダレンの回復魔法が始まったのを見て大地はすぐにザルドーラを仕留めるべく走る。
「ザルドーラっ!!」
大地の一撃から回復していたようで男は起き上がっていて、青年の姿でいる奴は余裕そうな笑みを見せていた。
大地が再び拳で殴り掛かろうとするが、ザルドーラが向けた掌の先から出している闇の壁のようなもので阻まれてしまう。それでも大地はぶち破ろうと力を込め続けた。
「よう、どうだった?俺の魔法で作ったコピーは?」
変身時の口調と声質で語りかけてくるザルドーラに大地は笑みをつくって応える。
「ああ。お前の力量がよくわかる木偶の坊だったよ。それより……もっとお前自身の心配をしたほうがいいんじゃないか?」
大地は拳を闇の壁にめり込ませていく。
「悪いが頭にきてんだ……」
やがて拳が壁を貫通するとバチバチと魔法が崩れだす兆候が現れ、流石のザルドーラも冷や汗が流れる。
「まさか、パンドラの魔力で作った魔法壁を破るとでも!?」
大地の強さを改めて知ったザルドーラはこのままでは魔法壁が破られるのも時間の問題だ。そこまで考えたザルドーラはあえて大地から視線をはずした。
「貴方こそもっと心配する事があるんじゃないですか?後ろの妖精に掛けている回復魔法が失敗しそうですよ?」
この言葉で大地が後ろを向いた直後に魔法壁を消す。一瞬で魔法壁が消えて目を離していた大地は状況を判断する間もなくバランスを崩すだろう。そこを狙えば命を取れる。
「……失敗?」
大地がそう呟き、ザルドーラは『さぁ後ろを振り向け!』と心の中で叫ぶ。
「あいつは失敗なんてしねぇよ!」
魔法壁に掛かる負荷がさらに高まりバチンと強烈な音を立てて消失した。そして大地は一歩強く踏み込んでザルドーラの頬へ拳を叩き込む。……が、拳があたった瞬間にザルドーラの体は黒いモヤとなって霧散した。そして声が響いてきた。
「私が欲しい物は確り戴きました。ですからここは退散しましょう。また会う日を楽しみにしていますよ」
既に逃げ切られていた事に腹を立てる暇なんてない。ミルのようすの方が気になるのだ。直ぐに振り替えってミルとダレンの近くへ走る。
「ミルは……大丈夫なのか……?」
だけどダレンは回復魔法の使用を止めていた。
「大地……その……な……死力を尽くしたんだ……」
悲しそうな顔で言うダレンを見て察したくない気持ちが溢れてくる。
「嘘……だろ……?」
動揺した声で言う大地にダレンはなにも言わない。その代わりにダレンは大地をミルに会わせてやるようにその場をどいた。
目の前にはレイヴンがいる。両手を皿のように広げてその上には……座って大地を見続けるミルがいた。
「だから問題なく治療は終わってるぜ」
してやったりといった表情でダレンはニヤニヤと大地の顔を見ていた。
「おまっ……!!」
「あら、少しは心配してくれたのかしら?」
あどけなく笑うミルをみて怒りやら毒気やらが抜けていき、腹に残った気持ちをため息にして吐き出した。
「はぁ。心臓に悪いことさせるなよ……」
「そう。ごめんなさいね」
そう言ってミルは飛び上がるがふらふらとしている。
「お、おい。あんまり無茶するな!」
焦りながら言う大地に少しだけクスリと笑みを浮かべてミルは大地の肩へと腰を掛けた。
「それならここで休ませてちょうだい」
一先ず無事であることに安堵した大地は戦いは終わった事を示すために次のすることを口にした。
「さ、戻って報告し終わったら飯でも食うか!」
「「おーー!!!」」
ザルドーラの思惑は気になるが全員が無事だった事を喜ぶ中、ダレンが蚊帳の外にいる雰囲気を出していたので大地は「ダレンも来いよ!俺とレイヴンで奢るからさ。それと、貸しが出来ちまったし何かあったら頼れよ?」と言って大地とレイヴンで半ば強引にひきずりだした。
なすがままにされながらダレンは『自分の命を取らなかった貸しは何時返させてくれるんだ?』等と少しだけ笑みを浮かべながら「それじゃあ奢られよう!」と言って全員が帰路につくのだった。
尚、この後、大地はとてつもなく驚愕することになる。飯屋に入ってミルが頼んだ花蜜の値段に。そして大地とレイヴンはお互いに折半で良かったと思うのだった。
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