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フェアリーダウン
リベリオンの領主
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部屋の中が見えてくる。両端は本棚で囲われていて中身は分厚い物から少し細いものまで幾つもある。床には赤いじゅうたんが敷かれていてリベリオンの領主である貴族が座る立派な机へと続いている。その席に座っている人物は残念ながら今は見る事が出来ない。それは不在と言うわけではなく回る椅子なのだろうか後ろの窓へと向いているからだ。
「ご当主様。お連れいたしました」
メイドがそう伝えると見ていない相手に一礼をしてから退室していく。そっと扉が閉じられると椅子がキィと少しの音を鳴らしながら回った。
「ご苦労。早速今回出した依頼について話をしよう……だが、その前に挨拶をしておこうか」
その椅子に座っていた男を大地は知っている。お城で開かれたパーティーで喧嘩を売ってきた男だ。名前は……。
「この屋敷の当主であるレン・ベルカ・ヤングルだ」
アイツここの当主であり依頼人かよ……やべぇ俺ってバレたら面倒な事がおきそうだ。
こそこそとレイヴンとレルムを盾にするように隠れてやり過ごそうとする大地だが隠れきれるわけもなく……。
「ん……?そこにいるのはダイチ……だな?」
レンの相貌が大地を見据える。名前まで呼ばれてしまえば隠し通せるものではないだろう。大地は聞こえないように溜め息を吐き出してから前へ出た。
「よう」
冷めたような表情でクールに装いながら視線でレンを射抜くように目を鋭く細める。これは言わば牽制である。長話をする気はないというのをありありと見せるための。
「ふ。あれから服屋には行けたのかな?俺に負けたダイチ君」
「負けた?ふざけんな!」
無理だった。
「あんなんてめぇが死ぬ気だったからじゃねえか!あと服屋に行けた。ありがとよ!」
「はっ!なんとでも言うがいい。あれは覚悟を持っていた俺の勝利だ!」
こいつ鼻で笑いやがった!?……ったく。仕方ねぇ。
「わかったわかった……」
あの日を境にもう少し丸くなっているかと思えばそんなことはなく、それどころかここまで強メンタルを持っているとは思わなかった。
大地が若干呆れたところで話題を変えた。
「ところで当主って言ったよな。それじゃあ捕虜の面倒を見てるのはお前なのか?」
「ここ家の当主でありこの町の領主である私が面倒を見ないで誰が見ると言うのだ?」
いや、まぁそうなんだけどさ。
「……俺、お前のことを殴ってないよな?」
つまりゲルゴスが言っていた貴族はこいつの事で、話に出たボコボコにした一般人が俺だったってことだよな?
「は?何を戯けたことを。一撃も受けてないぞ」
下手な噂に流された凡人め……。と言う様な冷めた目でレンが見てきた。
「そうだよな……。ま、いいや。一つ聞きたいんだがこの依頼は俺も一緒にやるつもりなんだが不満はないのか?」
「不満?……無いね。逆に聞こうか。この私の依頼だが君に不満はないのか?」
おっと、これは予想外の返しだ。
「……無いね」
そう応えるとレンはふっと少しだけ笑みを浮かべた。
「ならいいだろ?そもそもお前の実力は身をもって知っているからな、調査も無事に進むだろう」
それで話は終わりだと言わんばかりに大地から視線を外してレイヴンへと目を向けた。
「さて、まずは経緯から話そうか。初めて見た日は月の光が強かった晩の事だ」
捕虜が与えられる仕事の一つに町の安全を確保する為に周辺の巡回を行うものがある。基本的にこの仕事は志望者なら誰でもつくことが出来る上、給料も他より多く貰えるが当然モンスターとの戦が有る為に危険度も非常に高い。その巡回に出ていた捕虜が帰還中にここより南にある草原で光る玉を見たと言うのが始まりだった。
「こちらへ攻撃をしてくる意思は今のところ無いようなんだ。念のため巡回ルートから外しているがそのおかげで草原を様子見る事が出来なくなっていてな。更にあれがもしSランクのモンスターであるウィスプであった場合、人死にが出てしまう可能性が非常に高い」
「光る玉を見たのはその一回きりなのか?」
レイヴンの質問にレンは首を横に振った。
「いや、最初は見間違いだと言う話があがってな。その後も巡回で見てもらったんだが結局2夜連続で見かけたらしい」
一回だけでは確かに疑う声が出てくるだろう。だからレンはもう少し様子を見る必要があると判断してその次の日にも同じルートをたどる様に命じた。結果は同じで光る玉が発生していたという報告をしっかり受けた。その報告にはジッと浮かんでいるだけで何かしている様には見えないとのことだ。
さらに次の日……3日目にも同じルートを通ってもらった。その理由は同じ場所に居るかどうかだ。例えばこちらに少しずつ近づいてきている。或いは、居場所を常に変えている。そう言った情報を知る為だ。そして帰ってきた巡回者達の報告では『移動している様には見えなかった』である。であれば直ぐに危険な事が起きることはないのかもしれない。だが、放置しておくには少々怖い現象でもあるからこそギルドへ依頼をしたのだ。
「なるほどな。ミル。今の話で妖精である可能性はあるか?」
妖精であるミルとパーティを組んでいる事である程度の妖精への知識はある。だが習性を全て知っているわけではないのと近くに妖精がいるのだから直接聞いたほうが早いと当たり前に判断した。
「ん~どうかしら」
そんなミルは答えを出しあぐねる。今あるだけの情報では妖精特有の放浪とも言えなくもない。国から離れたばかりの妖精がよくやる行動の一つだからだ。
「なんとも言えないわね」
「そうか。それならまずは行って調べてみるしかないか」
レイヴンがそう締め括ると全員が出口の方向へと向きを変えた。
そして最初に大地が出ようと扉に手を掛けた時、レンが大地の背中に声を投げ掛けた。
「……今度、試合を申し込まさせてもらうぞ」
大地は手に込める力をピタッと止めた。
「また決闘か?」
「違う!試合だ!」
レンは勢いよく立ち上がりながら力強く否定した。彼が望んでいるのは死を匂わせる戦いではなく、力試し的なものなのだと大地は理解した。
「そうか……」
まさか彼がそんなことを言うようになるとは思ってもいなかった。無茶で理不尽なものではなく正々堂々と戦いたいと言われて少しだけ顔をにやけさせる大地。
「自信があるなら何時でもやってやるよ」
そう言って大地は扉を開くと背中越しに手を振って部屋を出ていった。
「ご当主様。お連れいたしました」
メイドがそう伝えると見ていない相手に一礼をしてから退室していく。そっと扉が閉じられると椅子がキィと少しの音を鳴らしながら回った。
「ご苦労。早速今回出した依頼について話をしよう……だが、その前に挨拶をしておこうか」
その椅子に座っていた男を大地は知っている。お城で開かれたパーティーで喧嘩を売ってきた男だ。名前は……。
「この屋敷の当主であるレン・ベルカ・ヤングルだ」
アイツここの当主であり依頼人かよ……やべぇ俺ってバレたら面倒な事がおきそうだ。
こそこそとレイヴンとレルムを盾にするように隠れてやり過ごそうとする大地だが隠れきれるわけもなく……。
「ん……?そこにいるのはダイチ……だな?」
レンの相貌が大地を見据える。名前まで呼ばれてしまえば隠し通せるものではないだろう。大地は聞こえないように溜め息を吐き出してから前へ出た。
「よう」
冷めたような表情でクールに装いながら視線でレンを射抜くように目を鋭く細める。これは言わば牽制である。長話をする気はないというのをありありと見せるための。
「ふ。あれから服屋には行けたのかな?俺に負けたダイチ君」
「負けた?ふざけんな!」
無理だった。
「あんなんてめぇが死ぬ気だったからじゃねえか!あと服屋に行けた。ありがとよ!」
「はっ!なんとでも言うがいい。あれは覚悟を持っていた俺の勝利だ!」
こいつ鼻で笑いやがった!?……ったく。仕方ねぇ。
「わかったわかった……」
あの日を境にもう少し丸くなっているかと思えばそんなことはなく、それどころかここまで強メンタルを持っているとは思わなかった。
大地が若干呆れたところで話題を変えた。
「ところで当主って言ったよな。それじゃあ捕虜の面倒を見てるのはお前なのか?」
「ここ家の当主でありこの町の領主である私が面倒を見ないで誰が見ると言うのだ?」
いや、まぁそうなんだけどさ。
「……俺、お前のことを殴ってないよな?」
つまりゲルゴスが言っていた貴族はこいつの事で、話に出たボコボコにした一般人が俺だったってことだよな?
「は?何を戯けたことを。一撃も受けてないぞ」
下手な噂に流された凡人め……。と言う様な冷めた目でレンが見てきた。
「そうだよな……。ま、いいや。一つ聞きたいんだがこの依頼は俺も一緒にやるつもりなんだが不満はないのか?」
「不満?……無いね。逆に聞こうか。この私の依頼だが君に不満はないのか?」
おっと、これは予想外の返しだ。
「……無いね」
そう応えるとレンはふっと少しだけ笑みを浮かべた。
「ならいいだろ?そもそもお前の実力は身をもって知っているからな、調査も無事に進むだろう」
それで話は終わりだと言わんばかりに大地から視線を外してレイヴンへと目を向けた。
「さて、まずは経緯から話そうか。初めて見た日は月の光が強かった晩の事だ」
捕虜が与えられる仕事の一つに町の安全を確保する為に周辺の巡回を行うものがある。基本的にこの仕事は志望者なら誰でもつくことが出来る上、給料も他より多く貰えるが当然モンスターとの戦が有る為に危険度も非常に高い。その巡回に出ていた捕虜が帰還中にここより南にある草原で光る玉を見たと言うのが始まりだった。
「こちらへ攻撃をしてくる意思は今のところ無いようなんだ。念のため巡回ルートから外しているがそのおかげで草原を様子見る事が出来なくなっていてな。更にあれがもしSランクのモンスターであるウィスプであった場合、人死にが出てしまう可能性が非常に高い」
「光る玉を見たのはその一回きりなのか?」
レイヴンの質問にレンは首を横に振った。
「いや、最初は見間違いだと言う話があがってな。その後も巡回で見てもらったんだが結局2夜連続で見かけたらしい」
一回だけでは確かに疑う声が出てくるだろう。だからレンはもう少し様子を見る必要があると判断してその次の日にも同じルートをたどる様に命じた。結果は同じで光る玉が発生していたという報告をしっかり受けた。その報告にはジッと浮かんでいるだけで何かしている様には見えないとのことだ。
さらに次の日……3日目にも同じルートを通ってもらった。その理由は同じ場所に居るかどうかだ。例えばこちらに少しずつ近づいてきている。或いは、居場所を常に変えている。そう言った情報を知る為だ。そして帰ってきた巡回者達の報告では『移動している様には見えなかった』である。であれば直ぐに危険な事が起きることはないのかもしれない。だが、放置しておくには少々怖い現象でもあるからこそギルドへ依頼をしたのだ。
「なるほどな。ミル。今の話で妖精である可能性はあるか?」
妖精であるミルとパーティを組んでいる事である程度の妖精への知識はある。だが習性を全て知っているわけではないのと近くに妖精がいるのだから直接聞いたほうが早いと当たり前に判断した。
「ん~どうかしら」
そんなミルは答えを出しあぐねる。今あるだけの情報では妖精特有の放浪とも言えなくもない。国から離れたばかりの妖精がよくやる行動の一つだからだ。
「なんとも言えないわね」
「そうか。それならまずは行って調べてみるしかないか」
レイヴンがそう締め括ると全員が出口の方向へと向きを変えた。
そして最初に大地が出ようと扉に手を掛けた時、レンが大地の背中に声を投げ掛けた。
「……今度、試合を申し込まさせてもらうぞ」
大地は手に込める力をピタッと止めた。
「また決闘か?」
「違う!試合だ!」
レンは勢いよく立ち上がりながら力強く否定した。彼が望んでいるのは死を匂わせる戦いではなく、力試し的なものなのだと大地は理解した。
「そうか……」
まさか彼がそんなことを言うようになるとは思ってもいなかった。無茶で理不尽なものではなく正々堂々と戦いたいと言われて少しだけ顔をにやけさせる大地。
「自信があるなら何時でもやってやるよ」
そう言って大地は扉を開くと背中越しに手を振って部屋を出ていった。
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