初めての異世界転生

藤井 サトル

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フェアリーダウン

戦場じゃなければいがみ合う必要はないよね

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 捕まえるときは電気で気絶させただけだけど……え?当たりどころとか不味かった奴がいるのか?

 罪悪感を胸の中で渦巻かせているとゲルゴスが近づいてきて言った。

「全員無事にここで働いてますよ」

 親指を立ててサムズアップまでしたゲルゴスはいい笑顔してやがる。

「ふざけんな!全員無事なら紛らわしく言ってんじゃねぇよ!」

 大地の怒りの声を無視して奴等はハイタッチして騒ぎ始めた。さっきまで少し暗い雰囲気だったはずなのにそんなものは何処にもない。

「いやぁまさか騙されてくれるとは思いませんでした!!」

 嬉しそうに言ってくるゲルゴスにイラッとしてちょっと拳で語りたくなったところにゲルゴスが真面目な顔で聞いてきた。

「ところで……二人のエルフが居たと思うのですが」

 口調まで一変しやがった。って二人のエルフ?ライズとシャーリーか?

「やっぱりその二人だけは……」

 神妙な、でも少し暗い表情で聞いてくるゲルゴス。

「流石にあいつらは……」

 それに合わせて大地も真剣に、でも少し暗い雰囲気で言うとゲルゴスは「そうですか……」と視線を下に移していく。

「今も元気にホワイトキングダムで過ごしているぞ」

「へ?え?」

 今度はゲルゴスが混乱からのキョトンとした顔で大地を見続ける。
 それに満足した大地はニヤリと笑いながら「先程のお返しだ」と言った。

「生きているのですか?奴隷の呪いは!?」

 しかしすごい勢いでゲルゴスが食いついてきた。だから大地は二人の呪いを解き、そして王様に直接普通に過ごせるように取り計らってもらった事を教えた。

「そうですか……そうですか……よかった」

 心から安堵した様子を見せるゲルゴスに大地は興味深そうに聞いた。

「あの時、偉そうにしていたわりには何でそんなに心配するんだ?」

 話している内に思い出してくるのはたった一言で終わったゲルゴスの姿だ。ただ、その記憶の中にいるゲルゴスは一目で傲慢とわかる。

「……まぁそのなんだ。俺も戦争の指揮は上……セインダールの王様から直接言われてな、特に二人のエルフをつけるからと念まで押されていたから舐められんようにするしかなかったんだ」

 中間管理職っていうのは可哀想だねぇ。

「あんまり乗り気じゃなかったのか?」

「そうとも言い切れないな。功績をあげれば良い暮らしはできるし……何より義務だからな。いや義務でしたから」

 再びゲルゴスは大地に向かって頭を下げた。

「あの日、あの時、あの場所で。俺の仲間を全員助けてくれてありがとう」

 流石に面と向かって言われると照れ臭くある大地は照れ隠しに頬を二掻きしてから「あー、おう」とだけ応えた。

「ん?そう言えばお前ら全員捕虜何だよな?」

「え?ええ。そうですが……」

 大地が何を聞きたがっているのかピンと来ていないゲルゴスは様子を伺うように見てくる。

「捕虜にしては自由にしているなと思ってな。この町は立派な壁がある訳じゃないし逃げようと思えば逃げられるだろ?」

 この町を囲っているのは一般男性の下半身くらいまでの高さしかないモンスター避けの柵だ。はっきり言えばその捕まったその日に直ぐ脱出出来るだろう。

「それとも逃げられないように魔道具か何か使われているのか?」

 そんなものが有るかはわからないがそう言うのが有ると言われないとおかしいぐらい開放的なのだ。それはこのゲルゴスだけじゃなく捕虜である住民全員に言えることだが。

「んー。そうですね。私も来た当初は直ぐに逃げようと思っていたのですが……」

「ならどうして?」

 ここに住み続けている理由は全くわからない。先程の話をしていても自国の主を「王様」と敬意を持って言っていることから自国が嫌いな訳じゃないだろう。

「ここに来たその日に仕事を割り振られるんです。今日はまずやってみて欲しいと言われて……そこでまず違和感を感じたのは命令じゃないことですね。もっと奴隷のような日々を過ごすんだと思っていましたから」

 それはゲルゴスが生きてきて始めての接され方だった。高圧的でもなければ偉そうでもない。言うならば仲間として接されている感覚だ。

 だからその日だけは仕事を確りこなして逃げようと考えたのだ。ゲルゴスが紹介された仕事はまさかの物資の調達と配給の管理だった。もちろん一人ではなく先輩方と共に行動してのだ。その仕事中は雑談も推奨されているのか色んな話をしながら仕事をこなしていくのは中々楽しくあった。

 その仕事の合間には昼飯を夜仕事が終わってから夕飯も配給されただけではなく、小さな家を宛がわれ仕事による給料さえ貰えたのだ。これには流石に驚いて目を点にした。

 そんな驚きと共に逃げるタイミングを失ったゲルゴスはなし崩しとは言えこんな生活も悪くないと思い始め今に至る。

「なるほどな。でもよ?給料貰っても使い道はあるのか?」

 見た感じだが娯楽のような建物は無い。だが、果物屋のようなものはあるから買い物は出来るだろうけどそれで満足できるのかは謎だ。

「ああ、それならホワイトキングダムへ行って使うんですよ」

「ホワイトキングダムにか。捕虜なのに外へ出ていいのか?それに結構な距離あるけど危険だろ?」

 大地達もここに来る道のりは森を通ってきたのだ。馬車(レイヴン費用)でなかなかの速度を出してもらいつつだ。整備され街道になっているらしく通りやすい道中でモンスターには遭遇しなかったもののたまに木々の中から飛び出してくるらしく、レイヴンから「モンスターでたらよろしくお願いします!」等と大地を顎で使うような指示までしてくるのだ。だが、馬車の費用を負担してもらっているのでこちらは強く出る事が出来ず「わかった」と頷いた。

 だからこそここからホワイトキングダムに行くにしても森の街道を通る必要があるだろうし、モンスターに襲われれば死ぬ可能性もあるだろう。

「それも大丈夫ですよ。ここを領土として持つ貴族の方に言えばホワイトキングダムへの外出は許可されますし、無料で馬車まで出してもらえるんですよ。それにここにいる人の殆どが捕虜……つまり戦争で戦う事が出来るので協力なモンスターが出ない限りは袋叩きにできますね」

 意外にたくましい……というか待遇良すぎて羨ましいかもしれない。衣食住が確りされていて移動も無料とは……。

「ここを領土にしているという貴族さんは太っ腹なんだな」

「どうですかね。自分はここに来て日が浅いので先輩から聞いた話なんですがね、馬車無料はホワイトキングダムからのお達しらしく貴族の人の善意ではなかった見たいですし、少し前までは許可を取るのもなかなか難しかったらしいですよ」

 ありゃ。有給をなかなか取らせない上司みたいな奴だったんだな。

「少し前まではって言うのは?」

「ええ。急に来たと思ったら頭を下げてきて「今まですまなかった」と言ってきたんですよ。なんか一般人にボコボコにされた後、人としての在り方を改めて考え直したそうです。流石に貴族の人が俺達に頭を下げて謝ってくるとは思ってなかったので、先輩方も呆気にとられて「気にしていない」と言ったそうですけど」

 はー。貴族を殴るとか世も末だな。偉い人を殴ると牢屋に入れられると言うのに怖いもの知らずというか何というか。そいう奴には出来る限り近寄らない様にしておかないとな。

「そうか。その話を聞くと今はゆうきゅ……じゃなかった。ホワイトキングダムにも行きやすくなっているんだな」

「そうですね。ここで働いてある程度稼いだらホワイトキングダムで飲んだり娼館で楽しんだりとなかなか充実してますね」

 まぁ反乱が無いのは良い事だ。……そういえば牢屋であった盗賊はちゃんと捕まったままにしているだろうか。今度機会があったら見に行ってみるかね。

 大地がふと数日前の出来事を思い出していると奥からゲルゴスの名前を呼ぶ声が聞こえてきた。

「おっと。それでは自分はこれで失礼しますね」

 軽い会釈をしてからゲルゴスは持ち場へ帰っていく。これが戦場の指揮官だって言うんだから人は分からないものだな。
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