161 / 281
温泉の中の金と銀
夜の銀
しおりを挟む
こうして慰安旅行は無事に終わった……ところで夜中に目が覚めてしまった。
「明日には帰るのにゆっくり眠れないのか俺は……」
上半身を起き上がらせて回りを見る。みんな眠っているが特に印象深いのはリリアとレヴィアが手を繋いで寝ていることだ。しかし……この状況は何か違和感があるがそれはわからない。たぶん気のせいだろうと結論付けてせっかくだから夜中の風呂でも楽しむ事にした。
風呂の準備をしながら風呂場までの道のりを思い出す。今一番危惧していることは実は夜中は閉まってます。と言われる事だろう。それっぽい張り紙があったら諦める他無い。
しかし、天は大地に味方したようだ。どうやら浴場に繋がる脱衣場の扉が開く。これは問題ないやってるだろう。
いそいそと服を脱ぎ真夜中の温泉だ。
月と星が見える温泉は真っ暗というわけでもなくうっすらと星の光に照らされていた。
これは風景も楽しめそうだ。
そう考えながらかけ湯してから温泉へと足を踏み入れたところでまたもや違和感だ。それは温泉が広い。
こんなに広かったか?
少しずつ視線を横に向けていくと入り口がもう一つあるのだ……。大地は理解した。この温泉は夜中になると混浴になるのでは?と。だが、誰もいなければ――。
「大地さん?」
温泉の方から聞き覚えがある声だ。夜空の雲が動き月明かりがその女性を照らしていく。綺麗な銀色の髪と少しだけ浮いている大きい胸が見えた。
「フルネール……か?」
顔から血の気が引く音が聞こえる。
起きたときの違和感はこれだった。なんの障害もなく上半身を起こせることに疑問を持てばある程度推理できだだろう。
「ごめん!覗くつもりはなかったんだ。すぐ出るな!」
そうやって回れ右をして出ていこうとしたところにフルネールは大地を呼び止めた。
「待ってください。お風呂に入りに来たのでしょう?……一緒にはいりませんか?」
勇気を出すのに一瞬だけ間を空けたがフルネールはそう言った。
「いやでも、お前だって恥ずかしいだろ」
「それは……そうですけど大地さんを信じてますから。それとも私とお風呂はいるのは嫌ですか?」
何とも断りにくい事を言う女神だ。
「嫌じゃないけどよ……お前は体に何か巻いてるのか?」
「いいえ?」
この女神は危機感と言うものを持っていないのだろうか?
「……はぁわかった。まだ埋め合わせしてなかったからな」
「埋め合わせって……ああ。リリアちゃんが泣いた時のですね」
お城でリリアの素性が暴露されたときの話だ。その時にフルネールへ苛立ちのままに返事をしてしまったのだ。
大地は諦めながら温泉の中へ足を沈めていく。完全に浸かり終わるとゆっくり暖まるのだがフルネールが隣に移動してきた事で緊張が走る。
「おま、俺がせっかく離れたのに……」
「埋め合わせなら隣に来てくださいよ……寂しいじゃないですか。それにお話もしたいですしね」
隣には一糸纏わぬフルネールだ。顔を向ければ白い肌や彼女の普段見えない部分が見えてしまうだろう。……だから大地は視線を逃がすように月を見る。
「話し?」
「はい。まず私の質問からですね」
フルネールが改まって聞きたいことか……どんな内容なんだ。
「大地さん」
「おう……」
ごくりと息を飲む。間を空けるフルネールから聞くのはとんでもない話かもしれないと、心の準備をした。
「皆さんの素足は拝みました?」
「ああ……は?え?何言わせんだ!!」
とんでもない話だった。こいつ俺を変態として話しかけてきて思わずフルネールの方へ視線を移しそうになった。
「えー?リリアちゃんの生足ですよ!クラリスちゃんもいい足してますよ!!」
「知らねぇよ!!」
そう言いながらも確りと見ているのは言えないことだ。……浴衣だから見えちゃうんだ。しかたないよな?
「おかしいですね。大地さんが喜びそうな話題のはずなんですが……」
クスクスと笑いながら言うフルネールの言葉と表情が合っていない。
「まったく……俺をからかいたいだけかよ……」
その言葉を最後に少しの静寂が訪れる。チャプチャプとお湯に浸かる音とたまに吹く風の音。まさに自然の中に身を投じている感覚を味わっていると再びフルネールが口を開く。
「ねぇ大地さん」
「ん?」
ポツリとフルネールが大地の名前を呼んだ。
「肩はまだ痛みますか?」
「いや、もう痛みはないな」
「そうですか」
フルネールは夜空を見上げながら言う。
「……この世界は何をするにしても魔力が殆どの割合を占めています。魔道具なら魔力を込めて使うタイプと込めずに使うタイプ。そのどちらも魔力は必要ですし、戦いとなれば魔法はもちろんですが魔力を込めて攻撃することが殆どなんですよ。魔力の込めかたで力や速さが変わってきますからね」
アルメルスの技やカイが最初に突っかかってきたときも魔力を込めていたのかもしれない。
「ですから私は大地さんの体を転生させる時に魔力を有した攻撃をほぼ無効化するようにしました。今まで言わなかったのはいざという時に悪意ある攻撃が避けれないと困ると思って……」
ナルの最後の噛みつきで傷ついたのは込めていた魔力を消したからか。
「……この世界に来てから至れり尽くせりだな」
普通の人とは明らかに違う作りにした。それなのに怒らず少しだけ笑つて言う大地にフルネールは甘えるように肩へ頭をのせる。
「フルネール?」
「……ごめんなさい。少しだけこうさせてください。女神でも甘えたい時だってあるんです」
フルネールを拒む気はない大地はなすがままだが……悪くない気分だ。まぁ美女にそんな事されれば拒める男は居ないと断言できる。
「謝る必要はない。俺の方こそ役得だ……」
「はい……」
大地からフルネールに聞きたいことはあるにはある。何せ魔力の攻撃を通さない体なんて異質も良いところだろう。なら『何故そんな体にしたのか』だ。
前からフルネールが隠し事をしているのは知っていた。それが『リリアが王女』か今日の『異質な体』の話かと思ったが……何か違う気がする。きっと俺をそんなに強くした理由に繋がるのだろうが……それでも質問する雰囲気ではなくなってしまった。
それならそれで仕方がない。今はこの肩に乗る重みと髪の質感を味わいながら銀の美女との一時を楽しむ事にしよう。
「ねぇ大地さん」
「何だ?」
また一時の静寂が訪れる。だがいやな時間でもない。
「初めて異世界転生をして呼び出したのが貴方でよかったです」
「そうか。俺の方こそ適当に選ばれて嬉しいよ……」
「……私頑張りますね」
「?……おう」
月明かりに包まれるまま二人の時は過ぎて行くのだった。
「明日には帰るのにゆっくり眠れないのか俺は……」
上半身を起き上がらせて回りを見る。みんな眠っているが特に印象深いのはリリアとレヴィアが手を繋いで寝ていることだ。しかし……この状況は何か違和感があるがそれはわからない。たぶん気のせいだろうと結論付けてせっかくだから夜中の風呂でも楽しむ事にした。
風呂の準備をしながら風呂場までの道のりを思い出す。今一番危惧していることは実は夜中は閉まってます。と言われる事だろう。それっぽい張り紙があったら諦める他無い。
しかし、天は大地に味方したようだ。どうやら浴場に繋がる脱衣場の扉が開く。これは問題ないやってるだろう。
いそいそと服を脱ぎ真夜中の温泉だ。
月と星が見える温泉は真っ暗というわけでもなくうっすらと星の光に照らされていた。
これは風景も楽しめそうだ。
そう考えながらかけ湯してから温泉へと足を踏み入れたところでまたもや違和感だ。それは温泉が広い。
こんなに広かったか?
少しずつ視線を横に向けていくと入り口がもう一つあるのだ……。大地は理解した。この温泉は夜中になると混浴になるのでは?と。だが、誰もいなければ――。
「大地さん?」
温泉の方から聞き覚えがある声だ。夜空の雲が動き月明かりがその女性を照らしていく。綺麗な銀色の髪と少しだけ浮いている大きい胸が見えた。
「フルネール……か?」
顔から血の気が引く音が聞こえる。
起きたときの違和感はこれだった。なんの障害もなく上半身を起こせることに疑問を持てばある程度推理できだだろう。
「ごめん!覗くつもりはなかったんだ。すぐ出るな!」
そうやって回れ右をして出ていこうとしたところにフルネールは大地を呼び止めた。
「待ってください。お風呂に入りに来たのでしょう?……一緒にはいりませんか?」
勇気を出すのに一瞬だけ間を空けたがフルネールはそう言った。
「いやでも、お前だって恥ずかしいだろ」
「それは……そうですけど大地さんを信じてますから。それとも私とお風呂はいるのは嫌ですか?」
何とも断りにくい事を言う女神だ。
「嫌じゃないけどよ……お前は体に何か巻いてるのか?」
「いいえ?」
この女神は危機感と言うものを持っていないのだろうか?
「……はぁわかった。まだ埋め合わせしてなかったからな」
「埋め合わせって……ああ。リリアちゃんが泣いた時のですね」
お城でリリアの素性が暴露されたときの話だ。その時にフルネールへ苛立ちのままに返事をしてしまったのだ。
大地は諦めながら温泉の中へ足を沈めていく。完全に浸かり終わるとゆっくり暖まるのだがフルネールが隣に移動してきた事で緊張が走る。
「おま、俺がせっかく離れたのに……」
「埋め合わせなら隣に来てくださいよ……寂しいじゃないですか。それにお話もしたいですしね」
隣には一糸纏わぬフルネールだ。顔を向ければ白い肌や彼女の普段見えない部分が見えてしまうだろう。……だから大地は視線を逃がすように月を見る。
「話し?」
「はい。まず私の質問からですね」
フルネールが改まって聞きたいことか……どんな内容なんだ。
「大地さん」
「おう……」
ごくりと息を飲む。間を空けるフルネールから聞くのはとんでもない話かもしれないと、心の準備をした。
「皆さんの素足は拝みました?」
「ああ……は?え?何言わせんだ!!」
とんでもない話だった。こいつ俺を変態として話しかけてきて思わずフルネールの方へ視線を移しそうになった。
「えー?リリアちゃんの生足ですよ!クラリスちゃんもいい足してますよ!!」
「知らねぇよ!!」
そう言いながらも確りと見ているのは言えないことだ。……浴衣だから見えちゃうんだ。しかたないよな?
「おかしいですね。大地さんが喜びそうな話題のはずなんですが……」
クスクスと笑いながら言うフルネールの言葉と表情が合っていない。
「まったく……俺をからかいたいだけかよ……」
その言葉を最後に少しの静寂が訪れる。チャプチャプとお湯に浸かる音とたまに吹く風の音。まさに自然の中に身を投じている感覚を味わっていると再びフルネールが口を開く。
「ねぇ大地さん」
「ん?」
ポツリとフルネールが大地の名前を呼んだ。
「肩はまだ痛みますか?」
「いや、もう痛みはないな」
「そうですか」
フルネールは夜空を見上げながら言う。
「……この世界は何をするにしても魔力が殆どの割合を占めています。魔道具なら魔力を込めて使うタイプと込めずに使うタイプ。そのどちらも魔力は必要ですし、戦いとなれば魔法はもちろんですが魔力を込めて攻撃することが殆どなんですよ。魔力の込めかたで力や速さが変わってきますからね」
アルメルスの技やカイが最初に突っかかってきたときも魔力を込めていたのかもしれない。
「ですから私は大地さんの体を転生させる時に魔力を有した攻撃をほぼ無効化するようにしました。今まで言わなかったのはいざという時に悪意ある攻撃が避けれないと困ると思って……」
ナルの最後の噛みつきで傷ついたのは込めていた魔力を消したからか。
「……この世界に来てから至れり尽くせりだな」
普通の人とは明らかに違う作りにした。それなのに怒らず少しだけ笑つて言う大地にフルネールは甘えるように肩へ頭をのせる。
「フルネール?」
「……ごめんなさい。少しだけこうさせてください。女神でも甘えたい時だってあるんです」
フルネールを拒む気はない大地はなすがままだが……悪くない気分だ。まぁ美女にそんな事されれば拒める男は居ないと断言できる。
「謝る必要はない。俺の方こそ役得だ……」
「はい……」
大地からフルネールに聞きたいことはあるにはある。何せ魔力の攻撃を通さない体なんて異質も良いところだろう。なら『何故そんな体にしたのか』だ。
前からフルネールが隠し事をしているのは知っていた。それが『リリアが王女』か今日の『異質な体』の話かと思ったが……何か違う気がする。きっと俺をそんなに強くした理由に繋がるのだろうが……それでも質問する雰囲気ではなくなってしまった。
それならそれで仕方がない。今はこの肩に乗る重みと髪の質感を味わいながら銀の美女との一時を楽しむ事にしよう。
「ねぇ大地さん」
「何だ?」
また一時の静寂が訪れる。だがいやな時間でもない。
「初めて異世界転生をして呼び出したのが貴方でよかったです」
「そうか。俺の方こそ適当に選ばれて嬉しいよ……」
「……私頑張りますね」
「?……おう」
月明かりに包まれるまま二人の時は過ぎて行くのだった。
0
お気に入りに追加
158
あなたにおすすめの小説
日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
アブソリュート・ババア
筧千里
ファンタジー
大陸の地下に根を張る、誰も踏破したことのない最大のロストワルド大迷宮。迷宮に入り、貴重な魔物の素材や宝物を持ち帰る者たちが集まってできたのが、ハンターギルドと言われている。
そんなハンターギルドの中でも一握りの者しかなることができない最高ランク、S級ハンターを歴代で初めて与えられたのは、『無敵の女王《アブソリュート・クイーン》』と呼ばれた女ハンターだった。
あれから40年。迷宮は誰にも踏破されることなく、彼女は未だに現役を続けている。ゆえに、彼女は畏れと敬いをもって、こう呼ばれていた。
アブソリュート・ババ「誰がババアだって?」
スマートシステムで異世界革命
小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 ///
★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★
新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。
それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。
異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。
スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします!
序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです
第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練
第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い
第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚
第4章(全17話)ダンジョン探索
第5章(執筆中)公的ギルド?
※第3章以降は少し内容が過激になってきます。
上記はあくまで予定です。
カクヨムでも投稿しています。
世界樹を巡る旅
ゴロヒロ
ファンタジー
偶然にも事故に巻き込まれたハルトはその事故で勇者として転生をする者たちと共に異世界に向かう事になった
そこで会った女神から頼まれ世界樹の迷宮を攻略する事にするのだった
カクヨムでも投稿してます
クラスまるごと異世界転移
八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。
ソレは突然訪れた。
『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』
そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。
…そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。
どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。
…大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても…
そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。
明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです
見よう見まねで生産チート
立風人(りふと)
ファンタジー
(※サムネの武器が登場します)
ある日、死神のミスにより死んでしまった青年。
神からのお詫びと救済を兼ねて剣と魔法の世界へ行けることに。
もの作りが好きな彼は生産チートをもらい異世界へ
楽しくも忙しく過ごす冒険者 兼 職人 兼 〇〇な主人公とその愉快な仲間たちのお話。
※基本的に主人公視点で進んでいきます。
※趣味作品ですので不定期投稿となります。
コメント、評価、誤字報告の方をよろしくお願いします。
異世界貴族は家柄と共に! 〜悪役貴族に転生したので、成り上がり共を潰します〜
スクールH
ファンタジー
家柄こそ全て!
名家生まれの主人公は、絶望しながら死んだ。
そんな彼が生まれ変わったのがとある成り上がりラノベ小説の世界。しかも悪役貴族。
名家生まれの彼の心を占めていたのは『家柄こそ全て!』という考え。
新しい人生では絶望せず、ついでにウザい成り上がり共(元々身分が低い奴)を蹴落とそうと決心する。
別作品の執筆の箸休めに書いた作品ですので一話一話の文章量は少ないです。
軽い感じで呼んでください!
※不快な表現が多いです。
なろうとカクヨムに先行投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる