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温泉の中の金と銀
モンスターブリーダーさん
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大地にとっても、アルメルスにとっても予想外の行動だった。
目の前に金色の髪を伸ばした少女が現れたのだ。それがリリアだと大地はすぐに気づいたからこそ……反射的に危険から遠ざける為に武器を消してしまった。改めて武器を召喚してもチャージを開始したとしても相手の攻撃に間に合うことはない。
そうなると出たとこ勝負となるだろう。アルメルスがどんな攻撃かを瞬時に見極めて対処して無力化する。
相手の初動を待つ必要があり後手に回るということだが、相手を殺さずに場を収めるならこれしかないと大地は剣を召喚して相手の動きを見る。いつ動くのか大地に緊張が走る。一歩対処に遅れれば目の前にいるリリアが死ぬ。失敗なんて許されない。
だが、アルメルスは動かない。
まだ力をためているのか?とも考えた大地だがどうもそれとは違うようだと気づく。ただ、それに気づいたところでどう動けばいいかが割り出せるわけではない。
アルメルスが動く。先程まで光輝いていた剣の輝きは消えているがアルメルスはゆっくりとリリアに近づいていく。その行動を不信に思った大地は無理やりリリアの前にでて彼女を下がらせる意味を込めて腕を伸ばした。
アルメルスが何をしてくるかと思った時には片膝をつき剣を地面においていた。そして、握った手を自身の心臓がある位置へと動かした。
「聖女様のお仲間とは露知らず……ご無礼を申し訳ありません」
飛び込んできた少女が聖女だと理解したアルメルスは剣を納めるしかなかった。聖女と『敵対してはいけない』それがナイトガーデンの王から三騎士に絶対厳守と言われた掟の一つだからだ。しかし、その変わり身に大地もリリアもついていけていない。
「えーっと、ナル……ナインテイルは見逃してあげられませんか?」
困惑するリリアにアルメルスは言う。
「我が国は聖女様との不和を望んでおられません。しかし、今あのナインテイルを放置すれば厄介な事になる可能性があります」
「それはそこのナインテイルが操られる……ということか?」
「え!?」
ある程度考えをまとめていた大地の横からの言葉に何もわからないリリアは驚いて大地へと振り向いた。
「ダイチさん。どういうことですか?」
「モンスターを操る方法があるらしい。これは推測だがクラスターモンキーも海龍も操られてホワイトキングダムを襲ってきたんだと思うぞ」
「そんなこと出来るのでしょうか?」
大地が言ったことを信じられずに聞き返したリリアだがその返答はアルメルスが代わりに言う。
「はい。俺が知る限りですがたった一人だけそれを行うことが出来る奴がいるんです」
「それがザルドーラってやつか?」
「……そうだ。俺が調べたところ弱いモンスターを完全に操り終えた後にそのモンスターを強くしているようだ」
Sランクモンスターをそのまま操ることはしないのか?だが……レヴィアから聞いたクラーケンの意識を奪ったって話を考えるとSランクモンスターだって操れるんじゃないのか?
「くっくっく……」
どこからともなく声が聞こえてきた。その低い声は男だと予想させられる。問題はどこから聞こえてきたのかわからない点だ。
「私のことをよく調べたんだな」
空間に穴が開いた。自動ドアが開くように円形に空いた空間。その中に男が一人立っている。
「ザルドーラ!!」
アルメルスが現れた男を視認した瞬間、忌々し気にその名前を叫ぶように呼んだ。
その怒声を受けたザルドーラは思った通りの反応をするアルメルスを楽しそうに見下しながら笑う。
「あんたがザルドーラさんか。なるほど……」
大地がザルドーラを見て納得したようにうなずく。
「ほお。私の恐ろしさがわかるか?」
「いや?弱いモンスターしか操れない弱そうな顔してんなってな」
馬鹿にするように含み笑いをするその顔と言葉にザルドーラは眉を吊り上げる。
「言ってくれるな……お前らもそこのナインテイルのように殺してやるよ」
ザルドーラが指を鳴らす。すると森の中からガサリと音を立てながら巨大なカマキリ型のモンスターが姿を現した。鋭い鎌に四本の足。その巨躯は赤黒く染まっている。
さらにザルドーラが片腕を上げると再び空間に穴が開いた。それもザルドーラが出てきた時より大きく中から這い出てきたのはブラッディスより一回り大きい亀型のモンスターだ。大きいふじつぼがくっついているようなごつごつした甲羅が特徴的である。
「ブラッティスとセントトータスか……」
「そうだ。確かに私はAランク以下のモンスターしか完全に掌握する事は出来ない。Sランクはどうにもプライドが高くてな……暴れさせるだけなら問題はないんだが」
「だろうな。今までの傾向から見ると弱いモンスターを育ててるんだろう?」
アルメルスとザルドーラの会話を聞いてて大地は思う。『モンスターブリーダーかよ……』と。そんな事を考えている大地を他所に話は進む。
「その通りだ。だが、魔法と言うのは日々進歩するもんだぞ?」
二体のモンスターを黒い霧が包んだ。その霧は直ぐに晴れるのだが姿を表したモンスターはその姿を変化させていた。
顔の形が変わり身体中に黒い模様が刻まれている。ブラッディスの美しさもあった鋭い鎌は荒々しく禍々しいものへと変わり、セントトータスの岩のような甲羅は貴金属の光沢を発していた。
「一時的に私は魔法でモンスターのレベルをあげられるのだよ」
大地とアルメルス。いや、その場にいる全員がモンスターの強化に気をとられた瞬間、空間移動を行った。
子供ナインテイルの近くへ移動したザルドーラはナインテイルを捕まえるとその場から離れるために再び空間移動した。
「あ!ナルちゃん!!」
「モンスターを操る魔法を見せてあげよう」
ザルドーラが子供ナインテイルを高々と掲げる。醜悪な笑みを浮かべて黒い水を召喚する。その黒い水はナインテイルを包み込むと球体へと形を整えた。
「ナルちゃん!」
リリアの二度目の叫びだ。しかし、ナインテイルはその水の中でぐったりと動かない。
「無駄です。この水の中では何も届きませんよ。そこでじっくりと見てるんですね。このモンスターが私の配下になるところを!」
――パァン。
火薬が弾ける音が響く。そのつぎに聞こえた音はナインテイルが地面へ落ちる音だった。
「ぐっ……きさま……」
ザルドーラが苦痛に顔を歪ませる。ザルドーラの手は大地が撃ったハンドガンの弾によって風穴が空けられ血液が流れていく。
「何勝手なことしてんだ。横からしゃしゃり出てきてんじゃねぇよ!!」
ザルドーラにとって大地がここまで強い遠距離攻撃の手段を持っているのは予想外だった。大地とアルメルスが戦っているのをじっと見ていたが大地はずっと剣で戦っていたのだ。
アルメルスはそうとうの手練れであるのはザルドーラも認めるところだ。そんな相手に大地が手を抜いて戦っているとは考えられなかった。だから、もっとも得意とする武器は剣であり遠距離攻撃の手段があってもそこまで強くないと考えたのだ。
しかし、現実は何をされたのか理解できないほどの攻撃を持った上でアルメルスとの戦いで使わなかっただけだと理解させられた。それはつまり大地がアルメルスより遥かに強い事だと認識させる事態だった。
まだナインテイルの掌握は終わっていない。意識を奪っている途中だ。ナインテイルの『子供』の存在は非常に惜しい。捕らえ鍛えればSランク。そこで魔法による強化を施せれば無敵のモンスターともなったであろう。……だが、再び魔法を使う時間は許されないだろう。それどころかナインテイルの回収すら大地の視線の前では無理だ。
「仕方がありませんね」
ザルドーラが後ろへ飛ぶと空いた空間の中へ背中から入っていった。そして、その空間が閉じる前にナインテイルへ強化魔法を施した。
「そのモンスターはお返しします。暴走してますがね!」
ザルドーラは笑い声を響かせながらその姿を完全に消した。
目の前に金色の髪を伸ばした少女が現れたのだ。それがリリアだと大地はすぐに気づいたからこそ……反射的に危険から遠ざける為に武器を消してしまった。改めて武器を召喚してもチャージを開始したとしても相手の攻撃に間に合うことはない。
そうなると出たとこ勝負となるだろう。アルメルスがどんな攻撃かを瞬時に見極めて対処して無力化する。
相手の初動を待つ必要があり後手に回るということだが、相手を殺さずに場を収めるならこれしかないと大地は剣を召喚して相手の動きを見る。いつ動くのか大地に緊張が走る。一歩対処に遅れれば目の前にいるリリアが死ぬ。失敗なんて許されない。
だが、アルメルスは動かない。
まだ力をためているのか?とも考えた大地だがどうもそれとは違うようだと気づく。ただ、それに気づいたところでどう動けばいいかが割り出せるわけではない。
アルメルスが動く。先程まで光輝いていた剣の輝きは消えているがアルメルスはゆっくりとリリアに近づいていく。その行動を不信に思った大地は無理やりリリアの前にでて彼女を下がらせる意味を込めて腕を伸ばした。
アルメルスが何をしてくるかと思った時には片膝をつき剣を地面においていた。そして、握った手を自身の心臓がある位置へと動かした。
「聖女様のお仲間とは露知らず……ご無礼を申し訳ありません」
飛び込んできた少女が聖女だと理解したアルメルスは剣を納めるしかなかった。聖女と『敵対してはいけない』それがナイトガーデンの王から三騎士に絶対厳守と言われた掟の一つだからだ。しかし、その変わり身に大地もリリアもついていけていない。
「えーっと、ナル……ナインテイルは見逃してあげられませんか?」
困惑するリリアにアルメルスは言う。
「我が国は聖女様との不和を望んでおられません。しかし、今あのナインテイルを放置すれば厄介な事になる可能性があります」
「それはそこのナインテイルが操られる……ということか?」
「え!?」
ある程度考えをまとめていた大地の横からの言葉に何もわからないリリアは驚いて大地へと振り向いた。
「ダイチさん。どういうことですか?」
「モンスターを操る方法があるらしい。これは推測だがクラスターモンキーも海龍も操られてホワイトキングダムを襲ってきたんだと思うぞ」
「そんなこと出来るのでしょうか?」
大地が言ったことを信じられずに聞き返したリリアだがその返答はアルメルスが代わりに言う。
「はい。俺が知る限りですがたった一人だけそれを行うことが出来る奴がいるんです」
「それがザルドーラってやつか?」
「……そうだ。俺が調べたところ弱いモンスターを完全に操り終えた後にそのモンスターを強くしているようだ」
Sランクモンスターをそのまま操ることはしないのか?だが……レヴィアから聞いたクラーケンの意識を奪ったって話を考えるとSランクモンスターだって操れるんじゃないのか?
「くっくっく……」
どこからともなく声が聞こえてきた。その低い声は男だと予想させられる。問題はどこから聞こえてきたのかわからない点だ。
「私のことをよく調べたんだな」
空間に穴が開いた。自動ドアが開くように円形に空いた空間。その中に男が一人立っている。
「ザルドーラ!!」
アルメルスが現れた男を視認した瞬間、忌々し気にその名前を叫ぶように呼んだ。
その怒声を受けたザルドーラは思った通りの反応をするアルメルスを楽しそうに見下しながら笑う。
「あんたがザルドーラさんか。なるほど……」
大地がザルドーラを見て納得したようにうなずく。
「ほお。私の恐ろしさがわかるか?」
「いや?弱いモンスターしか操れない弱そうな顔してんなってな」
馬鹿にするように含み笑いをするその顔と言葉にザルドーラは眉を吊り上げる。
「言ってくれるな……お前らもそこのナインテイルのように殺してやるよ」
ザルドーラが指を鳴らす。すると森の中からガサリと音を立てながら巨大なカマキリ型のモンスターが姿を現した。鋭い鎌に四本の足。その巨躯は赤黒く染まっている。
さらにザルドーラが片腕を上げると再び空間に穴が開いた。それもザルドーラが出てきた時より大きく中から這い出てきたのはブラッディスより一回り大きい亀型のモンスターだ。大きいふじつぼがくっついているようなごつごつした甲羅が特徴的である。
「ブラッティスとセントトータスか……」
「そうだ。確かに私はAランク以下のモンスターしか完全に掌握する事は出来ない。Sランクはどうにもプライドが高くてな……暴れさせるだけなら問題はないんだが」
「だろうな。今までの傾向から見ると弱いモンスターを育ててるんだろう?」
アルメルスとザルドーラの会話を聞いてて大地は思う。『モンスターブリーダーかよ……』と。そんな事を考えている大地を他所に話は進む。
「その通りだ。だが、魔法と言うのは日々進歩するもんだぞ?」
二体のモンスターを黒い霧が包んだ。その霧は直ぐに晴れるのだが姿を表したモンスターはその姿を変化させていた。
顔の形が変わり身体中に黒い模様が刻まれている。ブラッディスの美しさもあった鋭い鎌は荒々しく禍々しいものへと変わり、セントトータスの岩のような甲羅は貴金属の光沢を発していた。
「一時的に私は魔法でモンスターのレベルをあげられるのだよ」
大地とアルメルス。いや、その場にいる全員がモンスターの強化に気をとられた瞬間、空間移動を行った。
子供ナインテイルの近くへ移動したザルドーラはナインテイルを捕まえるとその場から離れるために再び空間移動した。
「あ!ナルちゃん!!」
「モンスターを操る魔法を見せてあげよう」
ザルドーラが子供ナインテイルを高々と掲げる。醜悪な笑みを浮かべて黒い水を召喚する。その黒い水はナインテイルを包み込むと球体へと形を整えた。
「ナルちゃん!」
リリアの二度目の叫びだ。しかし、ナインテイルはその水の中でぐったりと動かない。
「無駄です。この水の中では何も届きませんよ。そこでじっくりと見てるんですね。このモンスターが私の配下になるところを!」
――パァン。
火薬が弾ける音が響く。そのつぎに聞こえた音はナインテイルが地面へ落ちる音だった。
「ぐっ……きさま……」
ザルドーラが苦痛に顔を歪ませる。ザルドーラの手は大地が撃ったハンドガンの弾によって風穴が空けられ血液が流れていく。
「何勝手なことしてんだ。横からしゃしゃり出てきてんじゃねぇよ!!」
ザルドーラにとって大地がここまで強い遠距離攻撃の手段を持っているのは予想外だった。大地とアルメルスが戦っているのをじっと見ていたが大地はずっと剣で戦っていたのだ。
アルメルスはそうとうの手練れであるのはザルドーラも認めるところだ。そんな相手に大地が手を抜いて戦っているとは考えられなかった。だから、もっとも得意とする武器は剣であり遠距離攻撃の手段があってもそこまで強くないと考えたのだ。
しかし、現実は何をされたのか理解できないほどの攻撃を持った上でアルメルスとの戦いで使わなかっただけだと理解させられた。それはつまり大地がアルメルスより遥かに強い事だと認識させる事態だった。
まだナインテイルの掌握は終わっていない。意識を奪っている途中だ。ナインテイルの『子供』の存在は非常に惜しい。捕らえ鍛えればSランク。そこで魔法による強化を施せれば無敵のモンスターともなったであろう。……だが、再び魔法を使う時間は許されないだろう。それどころかナインテイルの回収すら大地の視線の前では無理だ。
「仕方がありませんね」
ザルドーラが後ろへ飛ぶと空いた空間の中へ背中から入っていった。そして、その空間が閉じる前にナインテイルへ強化魔法を施した。
「そのモンスターはお返しします。暴走してますがね!」
ザルドーラは笑い声を響かせながらその姿を完全に消した。
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