初めての異世界転生

藤井 サトル

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温泉の中の金と銀

温泉は和風に限る

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 風呂から上がる頃にはあの狐のモンスターは居なくなっていた。次にあったと時は倒さなければいけないかもしれないが……その時はその時だ。

 浴衣に着替えた大地とライズ、グラネスは風呂上がりの一杯を楽しんでいた。
 ……こいつら呑んでばかりだとは思わないでほしい。せっかくの温泉なのだからこういう楽しみかたも大人にはあるのだ。

 しかも、部屋の作りが畳なのだ(恐らくフルネールがお告げで作らせているんだろう)。浴衣に畳……グッジョブと言わざるを得ないな。

「ダイチさん達はもう上がっていたのですね」

 そう言って入ってきたのはリリアだ。着なれていない浴衣でやや恥ずかしそうにしているのはポイントが高い。その上でまだ体が火照っているのだと知らしめる湯気は彼女を女の子から女性へと押し上げている……気がする。

「まぁな」

「早いですね~って何食べてるんですか?」

 次に入ってきたフルネールが早々に近づいてきてテーブルに乗っているつまみを見ていく。

「軽くつまんでいたんだよ……特にこの肉は温泉に来ていたモンスターにも好評だったぞ?」

 その一言で数人が反応した。リリア、シャーリー、クラリスがモンスターという単語を聞いて心配そうな顔をするのだ。

「大丈夫だったの!?」

 一歩クラリスが歩み寄って聞いてきた。浴衣に熊耳……悪くない組み合わせだ。

「敵意は感じなかったし人懐っこい奴だったぞ。狐のモンスターでナインテイル?だと言っていたな」

「それはSランクのモンスターですよ!」

 次に近づいてきてのはシャーリーだ。浴衣+エルフって外国人に浴衣を来てもらった感じでアンバランスがいいよな。

「あー、尻尾が3本しかなくてな子供だというんだ。なかなか可愛かったぞ」

「ダイチさんばっかりずるいです!」

 他二人とは方向性が違う感想を持ってリリアも近づいてくる。彼女への感想は……まぁその、直視し続けるのは犯罪に思えてくるとだけ。

「ところで大地さん。私たちの服装は何時もと違うわけですけど?」

 わざとらしく聞いてくるフルネールに大地は思いの外しれっと答えた。

「ああ。みんな新鮮でよく似合ってるな」

「こういう時にちゃんと褒めることが出来ないと……まぁ皆さん喜んでるし良いですけど……」

 大地の言葉でリリアやシャーリー、クラリスは照れている。そんな彼女達を見ながらフルネールは諦めたように言った。

「ところでダイチさん!聞きたいことがあるんだけど!」

 シャーリーが思い出しかのように大地へと距離を詰めるきた。それはまるで大地を問い詰めるかの様な表情だ。

「な、何だよ?」

 シャーリーに何かしたっけな?

 そんな疑問を頭のなかで浮かべて過去を振り替える。一番怪しいと思われるのはライズにあおられて『シャーリーに興奮する』と言ってしまった事だろうか。

 だがあれはほんの少し前の話だ。今さら掘り出してくるような彼女ではない。恐らく今日の出来事の中にヒントはあるはずだ。レヴィアがお店の人に迷惑をかけた話か?それとも風呂で酒を呑んだ件か?

 シャーリーが次に言葉を発するまでの少しの時間で大地は脳内の思考を回転させるが思い当たる節は見つからない。

「り……」

 シャーリーが一言目を口にするが一文字で言葉が詰まってしまった。『り』とは何か?その文字から言葉を連想させていく。

 り……?り、り。リス……ちがう。リンス……だから違う!……。りー?

 が、思い付かない。シャーリーが何について聞きたい事が全くわからない。そうしてシャーリーの目をじっと見つめていると、彼女はようやく口を開いてくれた。

「リリアさんに何かしたんですか?」

「え?」

「ふぇっ!?」

 シャーリーの言葉に驚いたのはクラリスとリリアだ。そのリリアは戸惑いもあって変な声が出てしまった。

「シャーリーさん何を――もがもがー」

 シャーリーの問い詰め蛮行リリアはを止めようとするがフルネールに「私も聞きたいです」と言われながら口を塞がれてしまった。

「……藪から棒になんだ?」

「お城でダイチさんと何かあったのか?って聞いたときにリリアちゃんの様子が変だったの!絶対ダイチさんがリリアちゃんに何かしたでしょう!」

 んー?あー。まぁあったと言えばあったな。死なせないためとは言えとても人には言え無いことが。

「そうだな」

 そう言って大地は立ち上がりシャーリーへと自分からも近づいた。視線も重なり距離もだいぶ近い。その大地の行動に飲まれていたシャーリーは一言も声に出せないでいる。

「何だ?同じことしてほしいのか?」

「え?……あ、あの……」

 距離を詰められたことでシャーリーはあの時の赤くしていたリリアの顔を思い出す。そしてこのまま何をされるかわからないがリリアが顔を赤くした事をここでやるのかと……動揺と混乱がシャーリーを染め上げる。

 「むー!むー!」とフルネールの手の中で喋れないリリアが何かを言いたそうにしている。恐らく大地の行動で非常時に抱き締めてもらった事がばれるのを嫌がっているのだろう。

 大地はシャーリーへと手を伸ばすと心臓がどきどきと早鐘を打っているシャーリーは反射的に目をつぶった。

「ほいよ」

 大地は軽く言いながらシャーリーの手を掴んで握った。リリアがばれるのを嫌がっているが俺もあれがばれるのは嫌だ!捕まるし!

「へ、え?」

 暗い世界で手が握られる感触を感じたシャーリーは目を開ける。目の前には自分の手と大地の手が繋がっていた。

「これがリリアちゃんにしたこと?」

 嘘かも。シャーリーは流石のリリアでも手を握られただけで顔を赤くすると思えない。そう思っていた。

「正確にはこうだな」

 大地は一度手を離すとシャーリーの指の間に自分の指を入れていく恋人繋ぎへと変える。

 それが先ほどよりも大地の指の感触が確りと伝わってきたシャーリーは少しずつ顔が熱くなっていく。これは……確かに嬉しいけど恥ずかしくなる。それに皆に見られてると意識したら……シャーリーは一気に顔を赤くした。

「わ、わかったから。もう離してぇ…………」

 残った片方の手で顔を隠しながらシャーリーかギブアップ宣言をしたことで大地は手を離した。

「ほれ、フルネールもリリアを離してやれ」

「え?あ……そうですね。リリアちゃんごめんなさい」

 そう言ってフルネールはリリアを解放するのだが……リリアは膨れっ面で怒っていた。

「フルネールさん酷いです!」

 そう言いながらプイッとそっぽ向くリリアはいつぞやのフルネールが拗ねた時に似ている。そして、フルネールはまさか拗ねられるとは思っていなかったみたいで困りながら「ご、ごめんなさい。ほ、ほら、美味しいお肉ありますから!」等とつまみを渡そうとして誤魔化そうとしていた。
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