初めての異世界転生

藤井 サトル

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温泉の中の金と銀

お店のルールって知らないと失敗することあるよね

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 温泉の町ベルナー。
 名物は温泉であるのは推して知るところだ。王都ホワイトキングダムよりは狭いが至るところに温泉旅館が立ち並ぶ。また、森が近いことから動物もまま見かけることもあり身も心も疲れた人が安らぎを求めにやってくる観光地でもある。

 もう一つ面白い特徴としてこの町の中心には高い塔が建てられていて、その一番高い位置には大きな黄色い鐘が設置されているのだ。

「なぁあれって鐘だよな?」

 ベルナーについて早々に目についたのは温泉でなく塔の頂上にある鐘であり、その鐘を指差しながら聞いた大地の質問には熊型の亜人であるクラリスが答えた。

「ベルナーは温泉に入っている間は時間がわからないので朝の7時から夜の20時までの間は一時間に一回鐘を鳴らして知らせているんです」

 今回温泉に来たメンバーは大地、リリア、フルネール、レヴィアの他、ライズ、シャーリー、クラリス、グラネス。そして、グラネスの妻であるメリナだ。

 最初、グラネスからメリナさんを紹介された時、二つ目の美女と野獣枠が埋まったと思った。一つ目?そりゃもちろんギルド長とユーナさんだ。

 メリナさんは綺麗な赤い髪……スカーレットの髪と瞳は人を引き付ける程綺麗だ。ただ、思ったことをそのまま口にするのはやめてほしい……。

***

「ダイチ。俺の妻のメリナだ」

「へぇあなたがダイチさん何ですね。あまりパッとしないですね!」

 これが初対面での初台詞である。
 そのあとグラネスにたしなめられていたが……。

***

「温泉で浸かりすぎない為にか。クラリスは何度か来たことあるのか?」

「ん~。私は二回くらいかな。一回目は怪我した時に湯治にね。二回目は観光で。色んな温泉があるんですよ」

 思い出しながら言う彼女は楽しかった思いでもあるのかニコニコと満面の笑みを浮かべている。

「ほー。それは楽しみだな」

 町の入り口から真っ直ぐ色んな商店が並ぶ道を歩く。その町並みを見ながら進むうちにふと気になるのが同じような観光客が来ている服だ。

「大地さん。両手に花なのに……あまり他の女性を見ないでください。みっともないので」

「ああ。そんなつもりじゃ。ていうか観光客が来ている服って浴衣だよな……」

 怒られつつ疑問を口にした大地を見てふっふっふと笑みを浮かべたフルネールは得意気な顔をした。

「温泉と言えば浴衣でしょう!大分前にお告げで浴衣を作らせました」

 やりました!と言うように小さくガッツポーズするフルネールを見て『便利なお告げ……職権乱用じゃないか?』と思ってしまうのは仕方ない。

「ま、まぁ悪くないな」

「またまたぁ。そう控えめに言っても満更じゃないんでしょう?」

 くぅ。心が筒抜けか。だがこいつはいつも的確に俺のツボをついてくるんだよな。反応に困るぜ……!

「あれ?そう言えばレヴィアは?」

 先頭は大地だ。その左にフルネール、右にクラリスがいて真後ろをリリアとメリナが話していて、さらにその二人を見守るようにグラネスが続いている。最後尾にライズとシャーリーがいるがこの縦列にはいない。

 視線を動かして商店の方へ見やると食べ物屋にレヴィアがいた。その店はカウンターのような物を店外へ向けて設置されている。そしてそのカウンターの上に大皿を置いて食べ物を乗せている。そうやって観光客に見せているのだろう。

「ねぇ。これは食べ物よね?」

「肉団子串と言ってとても美味しいぞ」

「そうなの?」

 肉団子と仰々しい名前からは想像しにくいが串に刺さっているのはやや白っぽい肉の塊だ。店主の言葉を聞いてレヴィアは徐に手を伸ばした。

 皿に乗っている事から食べてもいいものだと思い込んでしまっているレヴィアは串を手に取るとお金を払う前に先端にある肉を口へ放り込んで美味しそうに食べてしまった。

 その瞬間を見てしまった大地とフルネールはすぐに店の前へ全力ダッシュしてきた。

「店のオヤジ。すまない。すぐ払うから!」

「店主さんすみません」

 その様子を見てレヴィアは困惑しつつ固まる。何か自分はやってしまったのだろうかと。

「いや、美味しそうに食べてくれたみたいだし構わんよ!」

「大地……私何かダメだった?」

「あー、こう言う店は初めてだもんな。ここに置いてあるのは売り物なんだ。だから、次から食べたい時は金をちゃんと払うんだぞ?」

 クルスの依頼から貰った報酬は10万だが、5万は人探しの依頼両なのでそのまま大地の懐へ。
 残り5万は大地とリリアとグラネスで三人で分けた。金額訳はグラネスが一番大変な思いをしたことで大地とリリアは2万ゴールドを押し付け、後は1万5千ゴールドずつのわけだ。

 それにより大地の合計金額は6万5千ゴールドだが、この中からレヴィアへいくらか渡していた……フルネールが。お金の管理は全部フルネールへ任せているのだ。今回の場合はそこからちゃんと払えば問題なかったのだ。

「えっと。ごめんなさい!」

 ペコリと頭を下げてお金を出そうとするレヴィアだが店のおっちゃんはソレを止める。

「モンスターだったんだな。それじゃあ人間の生活は知らなくてしょうがない。それにちゃんと謝れているんだからそれはプレゼントだ食べてくれ」

「ありがとう!」

 再び美味しそうに頬張るレヴィアを見てほっとしつつ、美味しそうに食べる姿を見て大地も食べたくなる。

「すまないな。詫びに俺たちも何本か買うよ」

 大地がそう言うとフルネールが幾らかお金を取り出して代わりに払う。

 大地が金をもっていても文字が読めないからあまり意味ないのは分かつているつもりだ。それでもフルネールに払わせていると女にたかるヒモになった気分が押し寄せてくる。

「お、毎度あり!美味いと思ったらまた買いに来てくれよな!」

「おう!」

 店のおっちゃんから串を貰って振り返りながら答えた大地は一本をフルネールへ渡した。

「一大事になりかねなかったが店のおっちゃんがいい人で助かったな」

「そうですね。でも、レヴィアちゃんも喜んでますし結果的にはよかったですね」

 レヴィアの頭を撫でながら串を受け取ったフルネールは歩きながら肉団子を頬張る。そして大地もフルネールが食べるのを見てから同じく頬張った。

「これは……まさか……」

「大地さん。これをご存知で?」

 もう一度確かめるために口へ放り込んで味と食間を確かめた大地は確信を得た。

「つくねだこれぇ!」
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