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温泉の中の金と銀
無料の宿泊施設でもお泊まりは無し
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大地が兵士に連れて行かれた後、リリアは大臣に回復魔法を掛けた。リリアの魔法により大臣の頬の腫れは引いていて痛みも収まっている。
「なんともお優しい。ありがとうございます。リリア殿下」
「いえ、発端は私のせいですから……」
そう、最初っから大地に自分の素性を明かしていればこんなことは起きなかったのだ。『王女と敬われたくない』何て言うわがままからの嘘が始まりなのだ。
「それにしても野蛮な奴だ!」
大臣は憤慨してそう言うのだが、それを目の前で聞いていたリリアは眉尻を上げながら怒った。
「ダイチさんを悪く言うのはやめてください!」
荒々しく言うそのリリアの声に驚く大臣とは裏腹にクルスやアーデルハイドは感心していた。ここ最近のリリアは喜怒哀楽を確り表に出してきて変わったなと、そう思っていたがまさか大臣に真正面から言うまで変わっていたとは思わなかった。
大臣はクルスやアーデルハイド。そしてリリアの教育係まで受け持っていたのだ。食事のマナーや言葉遣い等々、様々な立ち振舞いを厳しく躾られた。
たまにうんざりして愚痴を言うような事もあったが大臣と仲が悪いわけでは決してない。クルス、アーデルハイドは大事なことだと確り認識していたからだ。
ただ、リリアは二人と少し違っていた。彼女は愚痴を言うことは一つもなかった。それは大臣が教えてくれる事を全て覚えればいい子になれる。それを信じていたリリアは大臣へ不平不満を募らせることもなく、口答えなんて一回もしたことがない。
「り、リリア殿下?」
戸惑い始めた大臣はクルスへと視線を向ける。
「大臣。リリアは王族だとバレたくなかったんだよ」
「バレたくない……?いやしかし、この国にいて陛下や殿下達を知らないとは考えにくいのですが」
先程、相手に身分をわからせる為に口上したが、相手がリリアの事を王女だと知らないな上で話したわけではない。だからこそ、リリアが何故泣いたのか理解出来ていなかった。
「ダイチさんはちょっと特別なんです。でも、王族としてでも聖女としてでもない接し方してくれ人なんです」
どうしたら伝わるのかわからないリリアは大臣へ少し困り顔をしながらそう言った。
「…………」
その言葉を聞いた大臣はしばしリリアの顔を見ながら黙る。その顔はどうやら少し険しそうで、言ったリリアは内心ひより始める。
しかし、大臣は表情をニコリと一変させた。
「リリア殿下……お変わりになられましたな。表情がより豊かになっておられます」
以前のリリアは表情を出さない子とかでは決してない。だが、その時よりも喜怒哀楽のメリハリ……と言うようなものがはっきりと出ている。
「リリア殿下。私が隠し事をばらしてしまって申し訳ありません」
本来順位をつけるべきではないとわかっているが、それでも大臣はクルス、アーデルハイド、リリアの中でなら一番リリアを可愛く思い、一番リリアがどうなったらいいかを考えている。
だからリリアを尊重してきているのだ。先程のは……ダイチと言う野蛮な男と初めて会ったせいで少々狂いもしたが根っこは変える気はない。
「いえ。私も大臣さんにお話していませんでしたから……でも、ダイチさんは許してあげてほしいんです」
「あの男をですか?」
リリアの言葉を聞いてもあまりいい顔をしない大臣だ。勢いよく殴り飛ばされたのだから簡単には許せるようなものでもないかもしれない。そもそも、大臣に手をあげる等、すぐに処刑へ移ってもおかしくない事でもある。
「ダイチさんは仕方なく手をあげたんです……ううん。私のせいで手をあげざるをえなかったんです!だから、処刑とかは……」
大臣はリリアの懇願にも似た言葉を聞くとため息一つ吐き出した。
「リリア殿下は……いえ、仕方ありません。どうやら今の悪者は私みたいですから」
「悪者なんてそんな!」
大臣の言葉を否定しようとするリリアだが大臣は首を横に振ってそれを遮る。
「いいのです。それよりも……頼もしくなりましたな」
「あの鬼のように厳しかった大臣がそんな事を言うなんてねぇ」
クルスが軽口を叩くと大臣はジロリと視線を向けて言う。
「何処かの王子、王女と違ってリリア殿下は口答えも愚痴も何もありませんでしたからな。リリア殿下のお願いなら一つや二つ聞き入れてもいいでしょう」
くるりと振り返り大臣は「陛下」と声を掛けた。
「今回の一件、不問と言うことでよろしいでしょうか?」
大臣が大方の方向性を決めようとも最後の決断はやはり王となる。
もちろん王様は異論などないのだが……ここで渋い顔をすればリリアの面白い表情が見えるかもしれないと余計なことを考え始めてしまった。
「ふむ……だ――」
『だが、城の者に手を出したのだから相応の罰は必要ではないか?』と切りだそうとしたタイミングで王妃が一言だけ王様に放った。
「リリアに嫌われますよ?」
みぞおちに一撃いれられたような衝撃が王様を襲った。それにより一気に考え方を変えて、顔を少しだけ青ざめながら王様は言い直した。
「ダイチをここにつれて参れ。今回の件は不問となった牢屋に入れておく必要もない」
その言葉に兵士が動き出し、リリアの顔はパァっと明るくなる。その表情に王様も大臣もやや満足げである。
「しかし、陛下。あの者……ダイチとはどういう者なんでしょうか?」
大臣が首をかしげながら聞くと我らがフルネール。声高々に名乗りをあげた。
「それは私からお話しましょうか」
「ふむ?貴方は?」
大臣がそう聞くとフルネールは確りと答えた。
「私はフルネール。大地さんの……」
間をたっぷりとあける。演出のようにも見えたその話し方だが……実際はなんて答えようか全く考えていないノープランなのだ。リリアの手前、『恋人』『伴侶』『専用の娼婦』等とおふざけが言えない制限がある為、言葉が止まってしまっただけなのだ。
「お友達……でしょうか?」
迷うに迷った末に出た答えが疑問系のソレである。
「いや、ワシらに聞かれても……」
コホンと一つや咳払いをして仕切り直すとフルネールは再び威風堂々と口を開いた。
「大地さんはここ最近こちらへ来たんです。流れ者です。浮浪者です」
「そうですか。最近こちらへ……」
フルネールが言った後ろ二つを大臣はスルーしたところ、フルネールはやや変わった人だと認識し始めているのだ。
「とても強いハンターなんですよ?Sランクのモンスターも倒せますね」
「ほう。それではランクはSなんでしょうな」
それならクルス王子達が彼を認識しているのも頷ける。そもそもSランクになれる人間は貴重なのだ。
「いえ、ランクはCランクですね。余りお金に執着していないので」
ハンターのランクはお金だけでなく権力も望めば与えられる。また、Sランク程ともなれば王族、貴族にも認識され個人での依頼も増えるのだが先のフルネールの口振りからするとその事についてわかっていなさそうである。
ただ……自分を殴った事を考えると権力にも執着はしていないのだろう。それはいくら強くても扱いづらい。Sランクの人間は金か権力のどちらかは欲しているものだ。
ホワイトキングダムのSランクに与えられる権力とは例えば土地を持つことができたり、店を建てる事も許される。
「あとは……そうですね。リリアちゃんを我が物にしようとしているあたりでしょうか」
「なんですと!?」
フルネールの言葉に大臣は驚きの余りに大声を出すがすぐさまリリアから否定の声があがる。
「そそ、そんな事をする人じゃありませんよ!」
リリアのその言葉を聞いても大臣は訝しんだ様子を見せる。
「ふむふむ。リリアちゃんはダイチさんに何もされていないと……」
フルネールは自分で言って頷いているが、リリアはふと思い出してしまった。氷の宮殿での出来事を。暖めるために大地が抱き締めてきたこと。それと胸についての話をしたことも……。
リリアは顔を赤くしながら「さ、されてませんよ!」と強く否定してしまった。残念な男陣営ではリリアの挙動で疑うようなことはしなかったが、フルネール、シャーリー、アーデルハイド、そして王妃は『何か』あったのだとピント来るものがあった。
「そうですか。何もされてないんですね」
だが、ソレを突っ込むようなことはせず微笑みながらフルネールはその話を締め括るのだった。
謁見の間の扉が音を立てて開いた。大地が兵士に連れられてやってきたのだ。大地の顔を見たリリアはほっとしながら言った。
「ダイチさん。大丈夫ですか?」
「ああ。中々快適だったぞ」
残念ですけどその快適に過ごせるお部屋は没収です。
それはいいんだけど、処刑宣告されるだろうしフルネールも逃げ出す準備しておけよ?
え?
え?
謁見の間へ戻ってきた大地は改めて今の状況を見てみる。
王様、王妃様は変わらずに座ったままだ。ライズやシャーリーは俺の顔をみて笑顔を見せてくれる。グラネスはいつも通りたぶん酒のことをかんがえてるんじゃないだろうか?
レヴィアは余り感心がなさそうだ。良くわかっていないともとれるな。フルネールは……笑顔だけど何かニヤニヤしてる……なんで?
そしてリリアは今の表情からほっとしているのがわかる。最後に大臣だが入ってきてからずっとこっちを見続けていた。
「さて、ダイチよ。大臣を殴った件だが今回は二人の意向により不問とする」
「二人の意向?と言うか処刑じゃないのか?」
大地は首をかしげながらその疑問を投げ掛けた。
大地さんは何いってるんですか?
いや、だから。処刑宣告されると思っていたんだが。
誰が処刑されるんですか?
俺だろ。
え?
え?
……どうしてそんな考えを?
そりゃあ大臣を殴ってるし、お前だって残念だって……。
だって無料で三色昼寝つきのベッドがある快適なお部屋から出てもらう事になってしまったんですから。残念でしょう?
ああ。そう言うね……。
「ダイチさん。私が大臣さんにお願いしたんです……余計なお世話でしたでしょうか?」
リリアが横からやって来た。少しだけ後ろめたさが残っての発言だ。
「いや、そんなことはない。ただ、大臣はソレでよかったのか?」
大地は大臣へ振り向くとその彼は意外にも不満そうな表情はなく淡々とした様子で頷いた。その反応から察するに許されはしたが好かれてはいないみたいだ。
「リリアさんが大臣さんを説得してくれたんですよ」
シャーリーがリリアを見ながらそう教えてくれた。
「そうか。大変な役目を押し付けちまったな」
「いえ、そんなことはありません。私が嘘をついたのがいけなかったんですから……」
「そう言うな。嘘なんて誰でもつくものだ」
「それは……大地さんも?」
「もちろんそうだ。ま、これからも今まで通りよろしく頼むぜ」
「はいっ!」
可愛い少女が見せる元気な様子というのは悪くないものだ。
「それはそうとダイチ」
急に呼んできたのはクルスだ。この流れは報酬か!?と期待しつつ振り返りながらクールな様を見せつけて大地は対応する。
「どうした?」
「明日から暇あるか?」
暇?なんの話だろうか?っていうか報酬は?お金は?
「予定は特にないな」
ずっと行き当たりばったりなのはこの世界に来てから継続中かもしれない。たまには骨を休めたいものだ。
「そうか。それなら温泉に行ってはどうだ?」
「温泉?そんなものがあるのか?」
「この国から南東に言ったところに町があるんだ。名をベルナーと言ってな幾つもの温泉があるんだ。そこでゆっくり休んできたらどうだ?」
それは確かに魅力的な提案ではあるのだが如何せん金がない。
大地がその提案に乗るかどうするか迷っているとクルスが近づいてきて耳打ちをしてきた。
「実はなリリアを連れ出してやって欲しいんだ。特に今日のことは精神的に堪えてるはずだから……」
ぐぅ。ソレを言われると俺にも非がある分ことわり辛い。
「それと人探しと山の魔石調査の報酬は今日中に10万ゴールド渡すから頼めないか?」
ま、まぁ報酬もかなりの額だし行くのもありかな……。
大地さん。報酬10万ゴールドって凄いですね!
な、聞こえてたのか?
はい!耳は良いほうなんですよ。触ってみます?
『良い』ってそういう意味じゃないだろ!地獄耳とかそういう……。
失礼な女神耳です!
「クルス。折角だから行ってくるよ」
フルネールの最後の言葉にやや呆れつつ大地はクルスへ小声で返した。
「それはよかった。俺もアーデルハイドも共には行けないからなよろしく頼む」
わくわくワード『温泉』によって内心で心踊らせつつ大地は頷くのであった。
「なんともお優しい。ありがとうございます。リリア殿下」
「いえ、発端は私のせいですから……」
そう、最初っから大地に自分の素性を明かしていればこんなことは起きなかったのだ。『王女と敬われたくない』何て言うわがままからの嘘が始まりなのだ。
「それにしても野蛮な奴だ!」
大臣は憤慨してそう言うのだが、それを目の前で聞いていたリリアは眉尻を上げながら怒った。
「ダイチさんを悪く言うのはやめてください!」
荒々しく言うそのリリアの声に驚く大臣とは裏腹にクルスやアーデルハイドは感心していた。ここ最近のリリアは喜怒哀楽を確り表に出してきて変わったなと、そう思っていたがまさか大臣に真正面から言うまで変わっていたとは思わなかった。
大臣はクルスやアーデルハイド。そしてリリアの教育係まで受け持っていたのだ。食事のマナーや言葉遣い等々、様々な立ち振舞いを厳しく躾られた。
たまにうんざりして愚痴を言うような事もあったが大臣と仲が悪いわけでは決してない。クルス、アーデルハイドは大事なことだと確り認識していたからだ。
ただ、リリアは二人と少し違っていた。彼女は愚痴を言うことは一つもなかった。それは大臣が教えてくれる事を全て覚えればいい子になれる。それを信じていたリリアは大臣へ不平不満を募らせることもなく、口答えなんて一回もしたことがない。
「り、リリア殿下?」
戸惑い始めた大臣はクルスへと視線を向ける。
「大臣。リリアは王族だとバレたくなかったんだよ」
「バレたくない……?いやしかし、この国にいて陛下や殿下達を知らないとは考えにくいのですが」
先程、相手に身分をわからせる為に口上したが、相手がリリアの事を王女だと知らないな上で話したわけではない。だからこそ、リリアが何故泣いたのか理解出来ていなかった。
「ダイチさんはちょっと特別なんです。でも、王族としてでも聖女としてでもない接し方してくれ人なんです」
どうしたら伝わるのかわからないリリアは大臣へ少し困り顔をしながらそう言った。
「…………」
その言葉を聞いた大臣はしばしリリアの顔を見ながら黙る。その顔はどうやら少し険しそうで、言ったリリアは内心ひより始める。
しかし、大臣は表情をニコリと一変させた。
「リリア殿下……お変わりになられましたな。表情がより豊かになっておられます」
以前のリリアは表情を出さない子とかでは決してない。だが、その時よりも喜怒哀楽のメリハリ……と言うようなものがはっきりと出ている。
「リリア殿下。私が隠し事をばらしてしまって申し訳ありません」
本来順位をつけるべきではないとわかっているが、それでも大臣はクルス、アーデルハイド、リリアの中でなら一番リリアを可愛く思い、一番リリアがどうなったらいいかを考えている。
だからリリアを尊重してきているのだ。先程のは……ダイチと言う野蛮な男と初めて会ったせいで少々狂いもしたが根っこは変える気はない。
「いえ。私も大臣さんにお話していませんでしたから……でも、ダイチさんは許してあげてほしいんです」
「あの男をですか?」
リリアの言葉を聞いてもあまりいい顔をしない大臣だ。勢いよく殴り飛ばされたのだから簡単には許せるようなものでもないかもしれない。そもそも、大臣に手をあげる等、すぐに処刑へ移ってもおかしくない事でもある。
「ダイチさんは仕方なく手をあげたんです……ううん。私のせいで手をあげざるをえなかったんです!だから、処刑とかは……」
大臣はリリアの懇願にも似た言葉を聞くとため息一つ吐き出した。
「リリア殿下は……いえ、仕方ありません。どうやら今の悪者は私みたいですから」
「悪者なんてそんな!」
大臣の言葉を否定しようとするリリアだが大臣は首を横に振ってそれを遮る。
「いいのです。それよりも……頼もしくなりましたな」
「あの鬼のように厳しかった大臣がそんな事を言うなんてねぇ」
クルスが軽口を叩くと大臣はジロリと視線を向けて言う。
「何処かの王子、王女と違ってリリア殿下は口答えも愚痴も何もありませんでしたからな。リリア殿下のお願いなら一つや二つ聞き入れてもいいでしょう」
くるりと振り返り大臣は「陛下」と声を掛けた。
「今回の一件、不問と言うことでよろしいでしょうか?」
大臣が大方の方向性を決めようとも最後の決断はやはり王となる。
もちろん王様は異論などないのだが……ここで渋い顔をすればリリアの面白い表情が見えるかもしれないと余計なことを考え始めてしまった。
「ふむ……だ――」
『だが、城の者に手を出したのだから相応の罰は必要ではないか?』と切りだそうとしたタイミングで王妃が一言だけ王様に放った。
「リリアに嫌われますよ?」
みぞおちに一撃いれられたような衝撃が王様を襲った。それにより一気に考え方を変えて、顔を少しだけ青ざめながら王様は言い直した。
「ダイチをここにつれて参れ。今回の件は不問となった牢屋に入れておく必要もない」
その言葉に兵士が動き出し、リリアの顔はパァっと明るくなる。その表情に王様も大臣もやや満足げである。
「しかし、陛下。あの者……ダイチとはどういう者なんでしょうか?」
大臣が首をかしげながら聞くと我らがフルネール。声高々に名乗りをあげた。
「それは私からお話しましょうか」
「ふむ?貴方は?」
大臣がそう聞くとフルネールは確りと答えた。
「私はフルネール。大地さんの……」
間をたっぷりとあける。演出のようにも見えたその話し方だが……実際はなんて答えようか全く考えていないノープランなのだ。リリアの手前、『恋人』『伴侶』『専用の娼婦』等とおふざけが言えない制限がある為、言葉が止まってしまっただけなのだ。
「お友達……でしょうか?」
迷うに迷った末に出た答えが疑問系のソレである。
「いや、ワシらに聞かれても……」
コホンと一つや咳払いをして仕切り直すとフルネールは再び威風堂々と口を開いた。
「大地さんはここ最近こちらへ来たんです。流れ者です。浮浪者です」
「そうですか。最近こちらへ……」
フルネールが言った後ろ二つを大臣はスルーしたところ、フルネールはやや変わった人だと認識し始めているのだ。
「とても強いハンターなんですよ?Sランクのモンスターも倒せますね」
「ほう。それではランクはSなんでしょうな」
それならクルス王子達が彼を認識しているのも頷ける。そもそもSランクになれる人間は貴重なのだ。
「いえ、ランクはCランクですね。余りお金に執着していないので」
ハンターのランクはお金だけでなく権力も望めば与えられる。また、Sランク程ともなれば王族、貴族にも認識され個人での依頼も増えるのだが先のフルネールの口振りからするとその事についてわかっていなさそうである。
ただ……自分を殴った事を考えると権力にも執着はしていないのだろう。それはいくら強くても扱いづらい。Sランクの人間は金か権力のどちらかは欲しているものだ。
ホワイトキングダムのSランクに与えられる権力とは例えば土地を持つことができたり、店を建てる事も許される。
「あとは……そうですね。リリアちゃんを我が物にしようとしているあたりでしょうか」
「なんですと!?」
フルネールの言葉に大臣は驚きの余りに大声を出すがすぐさまリリアから否定の声があがる。
「そそ、そんな事をする人じゃありませんよ!」
リリアのその言葉を聞いても大臣は訝しんだ様子を見せる。
「ふむふむ。リリアちゃんはダイチさんに何もされていないと……」
フルネールは自分で言って頷いているが、リリアはふと思い出してしまった。氷の宮殿での出来事を。暖めるために大地が抱き締めてきたこと。それと胸についての話をしたことも……。
リリアは顔を赤くしながら「さ、されてませんよ!」と強く否定してしまった。残念な男陣営ではリリアの挙動で疑うようなことはしなかったが、フルネール、シャーリー、アーデルハイド、そして王妃は『何か』あったのだとピント来るものがあった。
「そうですか。何もされてないんですね」
だが、ソレを突っ込むようなことはせず微笑みながらフルネールはその話を締め括るのだった。
謁見の間の扉が音を立てて開いた。大地が兵士に連れられてやってきたのだ。大地の顔を見たリリアはほっとしながら言った。
「ダイチさん。大丈夫ですか?」
「ああ。中々快適だったぞ」
残念ですけどその快適に過ごせるお部屋は没収です。
それはいいんだけど、処刑宣告されるだろうしフルネールも逃げ出す準備しておけよ?
え?
え?
謁見の間へ戻ってきた大地は改めて今の状況を見てみる。
王様、王妃様は変わらずに座ったままだ。ライズやシャーリーは俺の顔をみて笑顔を見せてくれる。グラネスはいつも通りたぶん酒のことをかんがえてるんじゃないだろうか?
レヴィアは余り感心がなさそうだ。良くわかっていないともとれるな。フルネールは……笑顔だけど何かニヤニヤしてる……なんで?
そしてリリアは今の表情からほっとしているのがわかる。最後に大臣だが入ってきてからずっとこっちを見続けていた。
「さて、ダイチよ。大臣を殴った件だが今回は二人の意向により不問とする」
「二人の意向?と言うか処刑じゃないのか?」
大地は首をかしげながらその疑問を投げ掛けた。
大地さんは何いってるんですか?
いや、だから。処刑宣告されると思っていたんだが。
誰が処刑されるんですか?
俺だろ。
え?
え?
……どうしてそんな考えを?
そりゃあ大臣を殴ってるし、お前だって残念だって……。
だって無料で三色昼寝つきのベッドがある快適なお部屋から出てもらう事になってしまったんですから。残念でしょう?
ああ。そう言うね……。
「ダイチさん。私が大臣さんにお願いしたんです……余計なお世話でしたでしょうか?」
リリアが横からやって来た。少しだけ後ろめたさが残っての発言だ。
「いや、そんなことはない。ただ、大臣はソレでよかったのか?」
大地は大臣へ振り向くとその彼は意外にも不満そうな表情はなく淡々とした様子で頷いた。その反応から察するに許されはしたが好かれてはいないみたいだ。
「リリアさんが大臣さんを説得してくれたんですよ」
シャーリーがリリアを見ながらそう教えてくれた。
「そうか。大変な役目を押し付けちまったな」
「いえ、そんなことはありません。私が嘘をついたのがいけなかったんですから……」
「そう言うな。嘘なんて誰でもつくものだ」
「それは……大地さんも?」
「もちろんそうだ。ま、これからも今まで通りよろしく頼むぜ」
「はいっ!」
可愛い少女が見せる元気な様子というのは悪くないものだ。
「それはそうとダイチ」
急に呼んできたのはクルスだ。この流れは報酬か!?と期待しつつ振り返りながらクールな様を見せつけて大地は対応する。
「どうした?」
「明日から暇あるか?」
暇?なんの話だろうか?っていうか報酬は?お金は?
「予定は特にないな」
ずっと行き当たりばったりなのはこの世界に来てから継続中かもしれない。たまには骨を休めたいものだ。
「そうか。それなら温泉に行ってはどうだ?」
「温泉?そんなものがあるのか?」
「この国から南東に言ったところに町があるんだ。名をベルナーと言ってな幾つもの温泉があるんだ。そこでゆっくり休んできたらどうだ?」
それは確かに魅力的な提案ではあるのだが如何せん金がない。
大地がその提案に乗るかどうするか迷っているとクルスが近づいてきて耳打ちをしてきた。
「実はなリリアを連れ出してやって欲しいんだ。特に今日のことは精神的に堪えてるはずだから……」
ぐぅ。ソレを言われると俺にも非がある分ことわり辛い。
「それと人探しと山の魔石調査の報酬は今日中に10万ゴールド渡すから頼めないか?」
ま、まぁ報酬もかなりの額だし行くのもありかな……。
大地さん。報酬10万ゴールドって凄いですね!
な、聞こえてたのか?
はい!耳は良いほうなんですよ。触ってみます?
『良い』ってそういう意味じゃないだろ!地獄耳とかそういう……。
失礼な女神耳です!
「クルス。折角だから行ってくるよ」
フルネールの最後の言葉にやや呆れつつ大地はクルスへ小声で返した。
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