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叶わぬ願いと望んだ未来
リリア・ロウ・ホワイト
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モンスターを倒した後に魔石の暴走が収まったのを確認し終えた大地達4人は山から出ると少しだけ休憩することにした。レヴィアのおかげで火照っていた体の熱も取れてきて心休まる時間となった。
大地やリリアに外傷はないが前線で戦ってくれたグラネスは結構な傷だらけになってしまっていてリリアが少し悲しそうな顔をして回復魔法を使用するのだが、そんなグラネスは「何時もの事ですから気にしないでください」と困り顔で言うのだ。
そんな休みの中、大地は脳内会話でフルネールへ無事に終わったことへの報告だ。
フルネール。レヴィアをよこしてくれてありがとな。助かったよ。
はい。こちらも熱風が来なくなったので快適になりましたよ!
そうかそれはよかった。
これはクルスからの報酬も期待ができるというものである。一歩間違えれば町に多大な被害が出ていたかもしれない状況を打開したのだから……。
「さて、うまい飯を食いに町に帰るか」
グラネスの治療はすでに終わっていてリリアも十二分に休憩ができているのか顔には活力が戻っていた。本当に一安心だ。
すでにレヴィアには礼は言っているものの今回のMVPは間違いなく彼女になるだろう。ならば出た報酬で美味いものくらいは食べさせたいところだ。今日なら失踪依頼の報酬がもらえるはずだからな。
そう胸に期待を膨らませながら大地達は王都ホワイトキングダムへと帰っていくのだった。
そして王都についてギルドに近づくと喧噪が聞こえてきた。更にギルド前に近づいていくと二人の人物が中央に立って周りから褒められていて称賛が送られていた。その二人というのがライズとシャーリーだ。
「あ、ダイチさん。帰ってきたんですね」
フルネールが大地に気づいてパタパタと小走りで近づいてきた。
見ただけでは何が起きているのかよくわからないがいったい何が起きているのだろうか。
「なぁフルネール。これは?」
「ライズさんとシャーリーさんが町にくる熱風を防ぎ続けてくれましたからね。いろんな人がお礼を言っているんですよ」
つまり目に見えないところで頑張っていた大地、リリア、グラネスよりも、目に見える範囲で頑張っていたライズとシャーリーに観衆の目は向けられた。ということなのだろう。
「シャーリーさんたちが頑張ってくれたんですね。よかったです」
町も人も問題なさそうでホッと胸をなでおろすリリアは悔しそうというものは見えず、ほかの人達と同じように感謝しているようだった。まさに聖女の鏡だ。
「今からリリアが頑張ったこと言って回るか?」
少しだけ悪戯な笑みを浮かべながら聞く大地にリリアはムッとしながら答えた。
「その必要はありません!私はチヤホヤされたくて頑張った訳じゃないんです」
「そうか……それなら俺が誉めてやろう」
プイッとそっぽ向いたリリアの頭を大地は少しだけ乱暴に撫でた。が、リリアは更にムッとした。
「子供扱いしないでください!それに私はダイチさんに怒ってるんですから」
おおう。何で怒ってるんだ?
「俺が何かしたか?」
「……死ぬつもりだったじゃないですか」
大地の質問にリリアは震える声で答えた。今思い出しても怖かった……。そう思わせるリリアの表情は目に涙が溜まり始める。
「……そんなわけねーよ。あんなところで死のうとするわけないだろ?」
これは嘘である。
死ぬ覚悟もしていた。だが、それはもう終わったことでこれ以上リリアが悲しむことはないのだから気楽に嘘として話を切り上げるほうがきっといい。
「本当……ですか……?」
そうやって聞いたリリアに大地は作った笑顔を向けながら「当たり前だろ?」と言うのだ。
その後、フルネールに呼ばれて行った大地の背中を見ながらリリアは本当に小さく「うそつき……」と呟いた。
言及しなかったのは怖いからかもしれない。いつも強い大地が緊急時はそういう決断を勝手にする人だと考えると怖い。だってそれは急に目の前から居なくなる行いと同義ではないか。
でも、言及しなかった理由はもう一つある。それは自分の中ではっきりしているのだ。自分の事を棚に上げて言いたくなかった……。
フルネールによって呼び出された大地はギルド内に入ると目の前にはギルド長が立っていた。
「用があるのはおっさんか?」
「俺と言うよりクルス王子だな。城まで来てくれって言っていたぞ?」
「んー?今回の依頼の話しか?」
「恐らくな。先行してグラネスが報告に行っているから事態も把握しているはずだ」
そう言えばリリアの近くにグラネスは居なかったな。……あいつ忍者かよ。
「そうか。呼ばれたわけだし早速行ってくるか」
振り返りギルドから出る大地にギルド長は「リリアさんも連れて来てくれって言ってたぞ」と追加情報を投げてきた。
外に出ると人だかりは更に増えていた。それは何故か?答えは簡単でライズとシャーリーに加えて聖女のリリアが居たことで皆は三人を誉めちぎっていたのだ。
「この騒ぎは?」
「ダイチさん!えっと、皆さんごめんなさい。そろそろ行かないといけないので失礼しますね!」
大地に気づいたリリアは回りの人たちにそう言って大地の手を引っ張っていく。そのリリアに便乗してライズとシャーリーも揃って逃げるようについてきたのだ。
「いやぁ。逃げるのにちょうどよかった。助かったよ」
ライズが笑いながら言ってくるが顔には疲労の色も見える。シャーリーも少し困った顔を浮かべているところ兄の言うことがわかるようだ。
「ところでどこ行くの?」
「ああ。クルスに呼び出されてな。ちょうどリリアも連れてきてほしいとのことだ」
「山の依頼のことでしょうか?」
「たぶんそうだと思うぞ」
そうこうしていると何度目かの城門前まで来た。門番のおっさんも顔を覚えててくれたのか軽い挨拶と共にすんなり入れてくれた。
そのままお城内部へと入ると目の前にクルスが立っていた。
「……王子自ら出迎えてくれるのか?」
「ま、暇だったからな。ライズとシャーリーもいるのか。ちょうどいい来てくれ」
王子が暇って大丈夫なのか……この国は?
そう思いつつもクルスに案内されるままに少し歩き謁見の間の前にやって来た。兵士さんが重々しい扉を音を立てながら開いてくれるのでクルスを先頭に中へ入っていく。
謁見の間に入ると目の前には王様と王妃様だ。前と変わらずに座っている。その右を見るとアーデルハイドが立っているのも変わらない。
おっと、こちら側には既にグラネスが立っているな。それと前回来た時より槍を持った兵士は多くいるな。
等と考え事をしていたらいつの間にかにグラネスはリリアの隣へ移動していて、クルスが王様に向かって跪いていた。
「バーム陛下。大地達を連れて参りました」
リリア、グラネス、ライズ、シャーリーは同じように膝間つくのだが、大地は今の空気が苦手すぎて思考放棄しつつ立ったままである。フルネールは『二回目は別にやら無くていいかな』の精神で、ぶっちゃけ面白いと感じなかったので立ったままである。最後のレヴィアは一度前に教わったように跪こうとしたのだが、大地とフルネールが動かなかった事でどうしたらいいかわからなかった。なので、大地とフルネールに合わせる様に立ったままである。……あちゃー。
「うむ。よく来てくれた」
その一言でクルス達は姿勢を戻しながら立ち上がった。
「ダイチ、リリア、グラネス。魔石の調査ご苦労であった。国の被害が大事に至らずにすんだのは君たちのおかげだ。特にダイチ、君の活躍が凄かったとグラネスから聞いているぞ」
俺何かしたかな?リリアに比べると大したことしてないよな……。
「いや、俺はそんなに活躍してないよ。魔石を調べたのはリリアが頑張ったからだし、モンスターの攻撃を受け続けて守ってくれたのはグラネスだ。誉めるならそっちにしてくれ」
「ダイチさん!、そ、そんなことなありませんよ!」
「俺も自分の役割を全うしただけだ」
「いやいや。だいたいモンスターはリリアが倒したしな」
「それを言ったらダイチさんと契約しているレヴィアちゃんも倒してくれました!」
などと、功績の醜い?擦り合いが始まるのだが、ニコニコしている王様が口を開き始めるとピタッと止まる。
「うむうむ。国を護ってくれたのだ全員に褒美を出すつもりでいるから期待していてくれ。そして……」
王様は視線を横に動かしてライズとシャーリーへと向いた。
「ライズ。シャーリー。二人のおかげで町への被害は最小限に収まった。礼を言う」
王様から直接言われたシャーリーは少しだけ頬を赤くして照れながら言う。
「い、いえ。私達はこの町に住まわせてもらえるだけじゃなくお家も用意してくださってますし……」
「それならばやはり褒美は用意せんとな。頑張ってくれた我が国の民である二人にはな」
「王様……ありがとうございます!」
これにて一件落着!後は帰るだけ!……となればよかったんだ。和やかなムードを一気に崩したのは謁見の間と廊下を繋ぐ扉が開いて目の前に立っていた爺さんだ。
少し太っているくらいの爺さんは大地達を敬遠するように回り込みながら王様の近くへと歩いて言った。
「お話は済みましたかな」
「ああ……大臣。どうしたと言うのだ?」
「こちらの外から様子を見させていただいていたのですが……気になる事がありましたので」
そう言ってつかつかと大地の方へ迷い無く近づいてくる爺さん。
「あなたがダイチさんですな?」
爺さん……いや、大臣の目がギラリと光ったように見えた。
「――先ほどから気になっていましたがリリア殿下にそのような言葉遣いは見過ごせません」
この場において誰もが予想もし得なかった言葉を大臣が言ってしまったのだ。それを隠そうとしていた者たちは全員固まるほかなかった。
リリアの父親である王様も母親である王妃様もアーデルハイド王女もクルス王子も理解が追い付かず止まっていた。フルネールでさえ何も言えないでいるのだ。
ライズとシャーリーはリリアが王女である事を知ってはいたが今の空気が凍った気配は敏感に察知していた。
レヴィアは流石にどういった状況か分からず首をかしげていて、大地は何の事か分からずその視線をリリアに向けた。
そしてリリア……この中で一番ショックを受け、まだ取り繕えるかを考え始める。だが、リリアがその答えを導き出す前に大臣の口は先に動く。
「だいたい貴様はなんなんだ?英雄と囃し立てられているからと天狗になっているのですか……?」
大臣が言葉を綴る中、リリアはその勢いに負けない様に声を出そうとするがうまく出ない。それ故にか細く「やめて……」と震える声で発する。
「私はリリア様を幼い時より躾係としても見て来ましたが貴方のような言葉遣いも分からない輩といるのは勘弁なりませんな!」
リリアの声は大臣に届かない。「やだ……やめて……」と少しずつ声が出るようになったリリアの声量は先ほどより大きい物となるが……。
「だいたい何ですかその身なりは?」
「やめて、言わないで……!」
ようやくまともに声が出る頃にはリリアの目じりに小さな涙が溜まっていた。
ただそれでも声は震えていてバレてしまっているという不安と怖さがリリアの胸を締め付けている。しかし、それでも大臣は聞いていなかった。
「そもそもの身分を考えてもらいたいですな。リリア様は聖女であり――」
その言葉を聞いたリリアは直ぐに嫌な予感が走る。だからそれまで以上に大きな声でリリアは力の限り叫んだ。
「やめてっっ!!!」
「この国の第二王女――リリア・ロウ・ホワイト王女殿下なのですぞ!」
大臣ははっきりと大きな声でそう言った。
大地やリリアに外傷はないが前線で戦ってくれたグラネスは結構な傷だらけになってしまっていてリリアが少し悲しそうな顔をして回復魔法を使用するのだが、そんなグラネスは「何時もの事ですから気にしないでください」と困り顔で言うのだ。
そんな休みの中、大地は脳内会話でフルネールへ無事に終わったことへの報告だ。
フルネール。レヴィアをよこしてくれてありがとな。助かったよ。
はい。こちらも熱風が来なくなったので快適になりましたよ!
そうかそれはよかった。
これはクルスからの報酬も期待ができるというものである。一歩間違えれば町に多大な被害が出ていたかもしれない状況を打開したのだから……。
「さて、うまい飯を食いに町に帰るか」
グラネスの治療はすでに終わっていてリリアも十二分に休憩ができているのか顔には活力が戻っていた。本当に一安心だ。
すでにレヴィアには礼は言っているものの今回のMVPは間違いなく彼女になるだろう。ならば出た報酬で美味いものくらいは食べさせたいところだ。今日なら失踪依頼の報酬がもらえるはずだからな。
そう胸に期待を膨らませながら大地達は王都ホワイトキングダムへと帰っていくのだった。
そして王都についてギルドに近づくと喧噪が聞こえてきた。更にギルド前に近づいていくと二人の人物が中央に立って周りから褒められていて称賛が送られていた。その二人というのがライズとシャーリーだ。
「あ、ダイチさん。帰ってきたんですね」
フルネールが大地に気づいてパタパタと小走りで近づいてきた。
見ただけでは何が起きているのかよくわからないがいったい何が起きているのだろうか。
「なぁフルネール。これは?」
「ライズさんとシャーリーさんが町にくる熱風を防ぎ続けてくれましたからね。いろんな人がお礼を言っているんですよ」
つまり目に見えないところで頑張っていた大地、リリア、グラネスよりも、目に見える範囲で頑張っていたライズとシャーリーに観衆の目は向けられた。ということなのだろう。
「シャーリーさんたちが頑張ってくれたんですね。よかったです」
町も人も問題なさそうでホッと胸をなでおろすリリアは悔しそうというものは見えず、ほかの人達と同じように感謝しているようだった。まさに聖女の鏡だ。
「今からリリアが頑張ったこと言って回るか?」
少しだけ悪戯な笑みを浮かべながら聞く大地にリリアはムッとしながら答えた。
「その必要はありません!私はチヤホヤされたくて頑張った訳じゃないんです」
「そうか……それなら俺が誉めてやろう」
プイッとそっぽ向いたリリアの頭を大地は少しだけ乱暴に撫でた。が、リリアは更にムッとした。
「子供扱いしないでください!それに私はダイチさんに怒ってるんですから」
おおう。何で怒ってるんだ?
「俺が何かしたか?」
「……死ぬつもりだったじゃないですか」
大地の質問にリリアは震える声で答えた。今思い出しても怖かった……。そう思わせるリリアの表情は目に涙が溜まり始める。
「……そんなわけねーよ。あんなところで死のうとするわけないだろ?」
これは嘘である。
死ぬ覚悟もしていた。だが、それはもう終わったことでこれ以上リリアが悲しむことはないのだから気楽に嘘として話を切り上げるほうがきっといい。
「本当……ですか……?」
そうやって聞いたリリアに大地は作った笑顔を向けながら「当たり前だろ?」と言うのだ。
その後、フルネールに呼ばれて行った大地の背中を見ながらリリアは本当に小さく「うそつき……」と呟いた。
言及しなかったのは怖いからかもしれない。いつも強い大地が緊急時はそういう決断を勝手にする人だと考えると怖い。だってそれは急に目の前から居なくなる行いと同義ではないか。
でも、言及しなかった理由はもう一つある。それは自分の中ではっきりしているのだ。自分の事を棚に上げて言いたくなかった……。
フルネールによって呼び出された大地はギルド内に入ると目の前にはギルド長が立っていた。
「用があるのはおっさんか?」
「俺と言うよりクルス王子だな。城まで来てくれって言っていたぞ?」
「んー?今回の依頼の話しか?」
「恐らくな。先行してグラネスが報告に行っているから事態も把握しているはずだ」
そう言えばリリアの近くにグラネスは居なかったな。……あいつ忍者かよ。
「そうか。呼ばれたわけだし早速行ってくるか」
振り返りギルドから出る大地にギルド長は「リリアさんも連れて来てくれって言ってたぞ」と追加情報を投げてきた。
外に出ると人だかりは更に増えていた。それは何故か?答えは簡単でライズとシャーリーに加えて聖女のリリアが居たことで皆は三人を誉めちぎっていたのだ。
「この騒ぎは?」
「ダイチさん!えっと、皆さんごめんなさい。そろそろ行かないといけないので失礼しますね!」
大地に気づいたリリアは回りの人たちにそう言って大地の手を引っ張っていく。そのリリアに便乗してライズとシャーリーも揃って逃げるようについてきたのだ。
「いやぁ。逃げるのにちょうどよかった。助かったよ」
ライズが笑いながら言ってくるが顔には疲労の色も見える。シャーリーも少し困った顔を浮かべているところ兄の言うことがわかるようだ。
「ところでどこ行くの?」
「ああ。クルスに呼び出されてな。ちょうどリリアも連れてきてほしいとのことだ」
「山の依頼のことでしょうか?」
「たぶんそうだと思うぞ」
そうこうしていると何度目かの城門前まで来た。門番のおっさんも顔を覚えててくれたのか軽い挨拶と共にすんなり入れてくれた。
そのままお城内部へと入ると目の前にクルスが立っていた。
「……王子自ら出迎えてくれるのか?」
「ま、暇だったからな。ライズとシャーリーもいるのか。ちょうどいい来てくれ」
王子が暇って大丈夫なのか……この国は?
そう思いつつもクルスに案内されるままに少し歩き謁見の間の前にやって来た。兵士さんが重々しい扉を音を立てながら開いてくれるのでクルスを先頭に中へ入っていく。
謁見の間に入ると目の前には王様と王妃様だ。前と変わらずに座っている。その右を見るとアーデルハイドが立っているのも変わらない。
おっと、こちら側には既にグラネスが立っているな。それと前回来た時より槍を持った兵士は多くいるな。
等と考え事をしていたらいつの間にかにグラネスはリリアの隣へ移動していて、クルスが王様に向かって跪いていた。
「バーム陛下。大地達を連れて参りました」
リリア、グラネス、ライズ、シャーリーは同じように膝間つくのだが、大地は今の空気が苦手すぎて思考放棄しつつ立ったままである。フルネールは『二回目は別にやら無くていいかな』の精神で、ぶっちゃけ面白いと感じなかったので立ったままである。最後のレヴィアは一度前に教わったように跪こうとしたのだが、大地とフルネールが動かなかった事でどうしたらいいかわからなかった。なので、大地とフルネールに合わせる様に立ったままである。……あちゃー。
「うむ。よく来てくれた」
その一言でクルス達は姿勢を戻しながら立ち上がった。
「ダイチ、リリア、グラネス。魔石の調査ご苦労であった。国の被害が大事に至らずにすんだのは君たちのおかげだ。特にダイチ、君の活躍が凄かったとグラネスから聞いているぞ」
俺何かしたかな?リリアに比べると大したことしてないよな……。
「いや、俺はそんなに活躍してないよ。魔石を調べたのはリリアが頑張ったからだし、モンスターの攻撃を受け続けて守ってくれたのはグラネスだ。誉めるならそっちにしてくれ」
「ダイチさん!、そ、そんなことなありませんよ!」
「俺も自分の役割を全うしただけだ」
「いやいや。だいたいモンスターはリリアが倒したしな」
「それを言ったらダイチさんと契約しているレヴィアちゃんも倒してくれました!」
などと、功績の醜い?擦り合いが始まるのだが、ニコニコしている王様が口を開き始めるとピタッと止まる。
「うむうむ。国を護ってくれたのだ全員に褒美を出すつもりでいるから期待していてくれ。そして……」
王様は視線を横に動かしてライズとシャーリーへと向いた。
「ライズ。シャーリー。二人のおかげで町への被害は最小限に収まった。礼を言う」
王様から直接言われたシャーリーは少しだけ頬を赤くして照れながら言う。
「い、いえ。私達はこの町に住まわせてもらえるだけじゃなくお家も用意してくださってますし……」
「それならばやはり褒美は用意せんとな。頑張ってくれた我が国の民である二人にはな」
「王様……ありがとうございます!」
これにて一件落着!後は帰るだけ!……となればよかったんだ。和やかなムードを一気に崩したのは謁見の間と廊下を繋ぐ扉が開いて目の前に立っていた爺さんだ。
少し太っているくらいの爺さんは大地達を敬遠するように回り込みながら王様の近くへと歩いて言った。
「お話は済みましたかな」
「ああ……大臣。どうしたと言うのだ?」
「こちらの外から様子を見させていただいていたのですが……気になる事がありましたので」
そう言ってつかつかと大地の方へ迷い無く近づいてくる爺さん。
「あなたがダイチさんですな?」
爺さん……いや、大臣の目がギラリと光ったように見えた。
「――先ほどから気になっていましたがリリア殿下にそのような言葉遣いは見過ごせません」
この場において誰もが予想もし得なかった言葉を大臣が言ってしまったのだ。それを隠そうとしていた者たちは全員固まるほかなかった。
リリアの父親である王様も母親である王妃様もアーデルハイド王女もクルス王子も理解が追い付かず止まっていた。フルネールでさえ何も言えないでいるのだ。
ライズとシャーリーはリリアが王女である事を知ってはいたが今の空気が凍った気配は敏感に察知していた。
レヴィアは流石にどういった状況か分からず首をかしげていて、大地は何の事か分からずその視線をリリアに向けた。
そしてリリア……この中で一番ショックを受け、まだ取り繕えるかを考え始める。だが、リリアがその答えを導き出す前に大臣の口は先に動く。
「だいたい貴様はなんなんだ?英雄と囃し立てられているからと天狗になっているのですか……?」
大臣が言葉を綴る中、リリアはその勢いに負けない様に声を出そうとするがうまく出ない。それ故にか細く「やめて……」と震える声で発する。
「私はリリア様を幼い時より躾係としても見て来ましたが貴方のような言葉遣いも分からない輩といるのは勘弁なりませんな!」
リリアの声は大臣に届かない。「やだ……やめて……」と少しずつ声が出るようになったリリアの声量は先ほどより大きい物となるが……。
「だいたい何ですかその身なりは?」
「やめて、言わないで……!」
ようやくまともに声が出る頃にはリリアの目じりに小さな涙が溜まっていた。
ただそれでも声は震えていてバレてしまっているという不安と怖さがリリアの胸を締め付けている。しかし、それでも大臣は聞いていなかった。
「そもそもの身分を考えてもらいたいですな。リリア様は聖女であり――」
その言葉を聞いたリリアは直ぐに嫌な予感が走る。だからそれまで以上に大きな声でリリアは力の限り叫んだ。
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