初めての異世界転生

藤井 サトル

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叶わぬ願いと望んだ未来

火口下の魔石

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 細長い通路を抜けると目指していた目的地へとついた。円形状に広がる空間で上を覗き見ると空に繋がっている穴が見える。

 どうやらここが火口の真下のようだ。

 視界を下に移すと段差……と言うにはあまりにも深い縦に掘られた空間だ。その地面は溶岩が固まったように黒く、熱を出しているのか赤やオレンジ色が交ざった線が所々に引かれている。

 また、その黒い地面にあちらこちらの穴が開いている。ここから下の地面までかなり距離があるというのに溶岩のボコリボコリという音が聞こえてきた。それほど激しく熱されているのならば温度も異様に高い事を感じさせる。

 そして魔石と思われる物が置かれている場所は中央だ。下の黒い地面に神殿のような乳白色の台座が建てられていて、その上に鎮座しているのは真っ赤に光る大きな石だ。長方形のその石はモノリスのようにも見えてくる。

 だが、ここまでは概ね予想通りだ。気になるのは何故か高い位置の壁から溢れ出るように流れ落ちている溶岩だ。

 グラネスの話だと熱が地面に伝わって溶岩が上がってくるんじゃなかっただろうか?その話が本当なら上から溶岩が流れてくる理由がわからない。が……大地は嫌な予感を感じていた。

 そこまでが素人の大地が見た印象だがリリアはこの場所に来てから現状が危険だと頭の中で警鐘を鳴らしていた。

 その理由はいくつかある。
 まずこの部屋に入った時に感じた温度の上昇量だ。通ってきた細い通路と比べると二段三段と熱くなっている。それは魔石の力が増大している事を意味してもいる。

 そして壁から流れ続ける溶岩だ。リリアは何回かこの場所に来たことはある。それは溶岩の調査ではなくモンスター退治ではあるがこの場所に何度も訪れたのだ。

 それでも一度たりとも壁から溶岩が流れていたことなんてない。異常事態は他にもある。

 魔石が赤くのだ。魔石は魔力によって反応し光る。これはどの魔石でも同じだが込められた魔力によって光具合が異なる。少しの魔力なら淡く多くの魔力なら濃く光る。そしてその魔力の質が高ければ高いほど強い光を発する事になる。

 溶岩の魔石は真っ赤で強い光を産み出している。魔力は確かに世界中に漂っているが竜の谷のような特別な場所以外ではごく少量しか無いはずだ。

 この時期の山でもほんの少し魔力が多くなる程度のはずなのだがどう見ても魔石に入っている魔力量が普段の数倍はあるだろう。このままいけばとんでもない事になるのは間違いないかもしれない。

 そして、一目見た時に気付いた最後の異常は魔石を置いている白炎石はくえんせきという石材を用いて作られた台座の魔道具だ。

 あれはこの世界で知らない人がいないと言われる有名な魔道具職人であり魔道具作りの天才『ガルダ・トラース』が手掛けたものだ。

 その仕掛けは地中に伝わった熱が溶岩を作り上げた際、生まれた溶岩から魔力を一定以上感知すると仕掛けが動くようになっている。その仕掛けというのが台座が上へ昇るだけなのだが……その上る高さは自分達と同じ位置まで上昇するのだ。あまり意味無いようにも思えるが溶岩で埋まってしまわないようにするには必要な仕掛けである。

 今の温度から熱量を考えれば作動していないとおかしいはずだ。だが、動きそうな気配は見えない。

 本当なら台座が上がっているところに魔道具で橋を架けて魔石の様子を見るつもりだったが、こうなってしまえばその手段を取ることはできない。

「下に降りて……魔石を調べてみましょう」

 リリアが意を決したように言った。調べるならそれしか方法はないのだが……グラネスは賛成しかねた。

「危険です!今の状態ではいつ溶岩が溢れてくるかわかりません!」

 溶岩に飲まれれば助かる見込みは万に一つもない。そんなものは常識だからこそグラネスは焦りながらリリアの行動を言葉で止めようとする。でも、リリアはそれで止まらない。いや、むしろ止まってはいけない程、今の状態が危険なのだ。

 直ぐにでも魔石を調べなければ取り返しのつかない事態を引き起こす可能性がある。
 魔力の溜まり具合やどのようにして魔力が集まっているか、限界量がどの程度残されているのか。

 対処方法を調べ王様お父様に報告しなければならない。もしできるのなら今すぐにでも対処した方がいいぐらいだ。

「今の状態の方が危険なんです!すぐに調べないと!!」

 切羽詰まりながら言うリリアにグラネスは口をつぐんだ。魔石や魔力、魔法のことはある程度知識はあるがリリアには到底及ばない。そのリリアがこれほど慌てて言っているのだ。

「ダイチさん!お願いです。下へ下りる手段が欲しいです!」

 先程のグラネスとのやり取りを見て出していいのかと迷いが生じたが……自分にもグラネスにもわからない何かが起きているのだろう。

「わかった」

 短くそれだけ言った大地は機械の蜘蛛を数匹召喚する。最初は魔法の絨毯を出そうかと思ったのだがアレには爆弾を積んでいる。もし召喚したらここの熱で即座にドカンだ。

 だが、小蜘蛛を大きくした機械の蜘蛛なら自爆機能も持たせておらず爆発する心配はない上、小蜘蛛より太い糸で下までの道を作り上げられる。

 大地の意思で蜘蛛は動き出す。糸を重ねていき強度を上げながら作り上げていく道は……階段だった。

 柔軟な糸とピンと折れない糸を上手く使い分けられていて宙ぶらりんに見える柔らかそうな糸の階段は大地が試しに乗っても揺れることはなく確りと作られていた。

「リリア」

 大地がその名を呼びながら差し出した手をリリアは手をそっと乗せる。すると大地はその手を確りと掴み蜘蛛糸の上へと引き寄せた。

「わわ……あれ、地面は確りしているんですね」

 柔らかそうな見た目で揺れる事を想定したリリアは乗った瞬間に何も起きず逆にバランスを崩してしまいそうになり大地へとしがみついた。

「大丈夫か?」

 リリアは頷いたあと大地から離れる。足場も確りとしている事で問題ないと判断したのか直ぐに下へと駆け下りて行く。大地もグラネスも後に続いて魔石の場所まで下りて行ったのだった。
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