初めての異世界転生

藤井 サトル

文字の大きさ
上 下
131 / 281
叶わぬ願いと望んだ未来

ガチ勢に手を出してはならない

しおりを挟む
 ヒュリーの話を聞くとリリエッタの一件があった次の日、休みになった二人はたまたま聞いたフォリアと言う見せに行ってみることにしたらしい。

 その道中で叫び声が聞こえてきたので何事かと駆けつけた。そこで見たのは今まさに貴族の一人が襲われているところだった。

 ヒュリーとアルテリナは誰か人を呼ぼうとするのだが、その前に悪党の仲間に後ろから捕まってしまった。そしてそのまま貴族達のいる場所へ連れていかれた。

 そして、悪党の口ぶりから自分達も『商品』になるようなことを言われたまま二日たち運び出された。だが、その時にクラリスが来てくれた。彼女がベストタイミングで見つけ馬車を破壊したことでその日の内に運ぶことが出来なくなり、大地達が来て悪党の全てがご破算になった。と言うことらしい。

 アルテリナとヒュリーはそこまで話すと自分の持ち場へと戻っていった。

 聞けば聞くほど本当に運が良かったようだ。何せアルテリナとヒュリーが捕まったことでクラリスが動き、クラリスが動いたとこで運ばれなくなり、その結果大地達がまとめて助ける事ができたのだから。

 リリアに「皆がいたから無事に終わったんだな」と伝えるとリリアは頷いてからこう付け足してきた。

「その中には大地さんだってしっかり入っているんですから……もっと人を助けた自分を肯定してください」

 別に否定しているわけではないのだがリリアからは否定的に見えるのかも知れない。

「俺はあまり……」

「知ってます。功績を公言したいと思ってないんですよね」

 それが大地らしさだとわかっているからリリアはクスクス笑う。

「仕方の無い人ですね」

 リリアは少し前に置かれたジュースを手に取りながら言う。

「でも、頑張ったのに労いの言葉一つもないのは寂しいですから……」

 大地も自然と頼んだ酒を手に取ると一度はずした視線を再度リリアへ向ける。

「大地さん。今日はお疲れさまでした」

 優しく微笑むリリアにつられて大地も笑みを浮かべた。

「ありがとう」

 そうお礼を言うとどちらともなくグラスを近づけてカチンと重ねた。そんな小さい乾杯の後に頼んだもろもろを口つける。

 二人で料理を楽しみながら他愛の無い会話が続く。今日リリアが受けた依頼で出たモンスターの形や大きさがどんなものだった……とか。

 今日、大変だったであろう大地はお昼ご飯しっかり食べたのか……とか。

 大地は今日、始めてハンターの集会場に行ったとか。

 そんな特別の欠片もない話が並んでいった。そんな揺ったりとした空間が流れている大地のテーブルとは裏腹に別のテーブルからはいろんな声が飛び交っている。

 例えば……「最後の一切れは俺がもらっウバアァー」とか。
 これの解説をするとカイが料理の皿に残った肉を取ろうとした瞬間、どこからともなく飛んできた魔法を顎に受けて仰け反ったところだ。

 他には……「俺の酒ーーーーーー!!」と叫ぶ奴とかだ。
 大体の検討はついているだろうが叫んだのはグラネスだ。叫ぶ理由は頼んだ酒を横からかっさらわれた。と言うところだ。

 既にこの場所は頼んだものが横からかっさわれていく戦場であるが、唯一、フルネール、ユーナ、シャーリーが頼んだ料理は不可侵領域となっているのか手を出す奴はいない。――いや、いなくなったというべきだろうか。

 最初に誰だったかフルネールが頼んで目の前に置かれた串焼きのチーズ乗せをかっさらってしまった。一瞬だった。その男はくるりと回って床に叩きつけられて背中を打ち付ける。宙に浮いてしまった料理はフルネールがしっかりと盛り付け通りにキャッチした。

「駄目ですよ?私が頼んだ料理を勝手に取っては……」

 優しい声……とは裏腹にその目から怒りがにじみ出ているのを感じ取り男は「はい……」と恐る恐る返事をする。するとフルネールは今度こそ声とその表情がシンクロしたように優しい笑みを浮かべる。

「わかればいいんですよ。それじゃあこれだけあげましょう」

 そういって串焼きを一つ渡して元の席に座ったのだ。

 そうなるとフルネールに手を出そうとする輩はいなくなった。だが、流石に?危険じ……手を出してはいけない人はもういないだろう。そう油断した男がシャーリーの手に取った甘いものを奪ってしまった。

「……私の……パンケーキ……」

 フルネールのようにスパンとやるわけではないが魔力がシャーリーを中心に渦を巻きながら高まっていく。次第に魔力の渦の中に氷の粒が混じってきている。これはまずいと周りが感じると女性の一人が男からパンケーキを奪い返してシャーリーに戻した。そうしたことで涙目だったシャーリーに笑顔が戻ってきて「ありがとう!」と言って機嫌も戻りパクパクと食べ始めたことで緊張が一気に解けるのだった。

 そう、緊張が解けて緩みが出てしまったのだ。だから誰かがそれも最後の一つとなったユーナの好物に手を出した。――出してしまった。
 スティック状の魚の揚げ物だ。ソースとタルタルソースのようなものをつけて食べるのが好きなのだ。それを横からかっさろうとした男へギルド長は「それはやめろーーー!」と叫ぶのだが……遅かった。

「あら……あらあら……」

 その言葉だけ言うのだが目が光っていて……怖い。
 いつもの優しいユーナからは想像ができないほどだ。カタリと音を立てて席を立ちあがりゆらりと近づいていく。だがそこで発する言葉は多くない。

「あらあらあら……」

 ユーナの周りの空間がねじ曲がっている。最初のフルネールの対応が可愛く優しく見えるだろう。何せ彼女は殺気まで出すことはなかったのだから。食べ物の恨みは怖い……ということだ。
 一歩一歩近づかれて男はあわわと狼狽える。そんな男にユーナは手を差し伸べるのだ。救いの?NO!答えは簡単であり、且つ、ギルド長もよく知るものだ。

「ぎゃあああああああああああ」

 男の体が宙に浮く。それを支えるのは男の顔を掴んでいるユーナの手だけである。

「ユーナ!追加の料理だ。食うだろ?」

 そのユーナの前にギルド長は新たに同じ料理を目の前に見せるとユーナはパッと手を放して「食べる食べる♪」と表情を一変させた。

 男は顔と地面に落ちた時の衝撃で尻に痛みがあるくらいで済んだのだ。そこからはこの食べ物ガチ勢三人の料理に手を出すやつはいなくなった。みんな命が惜しいから……料理になるかは君次第。と言ったところだ。料理の腕の話じゃなく素材の話だが。

 まぁ今日は貸しきりにしてもらっているし、店のものを壊さないなら多少は平気だろう。

「こんなところにお肉があるぞーーー!!」

 酔っ払ったカイが大地達のテーブルに来るや否やテーブルの上にある皿を持ち上げた。そのとたんに男どもが「フッーー!」とリア充めいた喜びかたで盛り上がり始めた。

「あ!こっちに来てまで飯を取ろうとするな!っていうかほしけりゃ頼めよ!」

「兄貴もこんなに財産貯めておいてずるいぞー!」

 レイヴンがそう言いながら別の皿を持っていってしまう。……こいつらハイエナかよ!

 リリアが乾いた笑いを浮かべながら惨状に目を向ける。まるで嵐が起きてすべての料理を持っていかれた見たいに思えた。

「あ、あはは。皆さん凄いですね」

「まったくとんでもねえな。料理も頼み直しだ」

 お互いの感想を言い合うとそれがおかしく思い二人で笑い合う。ひとしきり笑うと大地はリリアへ向いた。

 前から気になっていた事でフルネールに答えてもらえなかったこと。

「なぁリリアについて聞いても良いか?」

「わ、私の事ですか?」

「俺が名前を聞いたとき、その名前を知られたくなかったように見えてさ。何でかな……と、ずっと気になっていたんだ」

 大地に嘘を教えた名前のことだ。それについて聞かれたリリアは動揺して「それは……その……」と言葉が出せずにいる。

 でも、もし本当の事を言ってしまえば教えた名前が嘘とわかってしまうわけだからリリアが何も答えられないのは仕方がないのだ。その様子を見た大地としてはどうしても知られたくないのかな?と思うばかり。

 リリアの家の事なのか、聖女にまつわる何かなのか。はたまた両方かわからないが……やはりそう簡単に教えてもらうことは出来ないか。

「あー、すまん。リリアを困らせたかった訳じゃないんだ。この話はやめて別の話題に変えようか」

 大地がそう言うとリリアの視線は真っ直ぐ大地の目を捉えていうのだ。

「ダイチさん。今は言えませんが……いつかきっとお伝えしますので……」

 いつか……そう、いつになるかわからないが、それでも必ず家の事を……いや、リリア自身が抱えている事の全てを伝えよう。そうリリアは決心して答えた。

「そうか……よし!この話はこれでおしまいにしようか。リリアは何頼む?」

 と、平然を装いながら元いた世界の時のようにメニュー表を手に取って聞くのだが……メニュー表を開くと大地は固まった。

 その理由を知るリリアはクスクス笑いながら大地へと近づき隣からメニューを見るように覗き込む。

「ダイチさん。何が食べたいですか?」

 リリアは少しだけ顔をあげて大地を見ながらそう代わりに読むと言わんばかりに聞くのだった。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

アブソリュート・ババア

筧千里
ファンタジー
 大陸の地下に根を張る、誰も踏破したことのない最大のロストワルド大迷宮。迷宮に入り、貴重な魔物の素材や宝物を持ち帰る者たちが集まってできたのが、ハンターギルドと言われている。  そんなハンターギルドの中でも一握りの者しかなることができない最高ランク、S級ハンターを歴代で初めて与えられたのは、『無敵の女王《アブソリュート・クイーン》』と呼ばれた女ハンターだった。  あれから40年。迷宮は誰にも踏破されることなく、彼女は未だに現役を続けている。ゆえに、彼女は畏れと敬いをもって、こう呼ばれていた。  アブソリュート・ババ「誰がババアだって?」

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

世界樹を巡る旅

ゴロヒロ
ファンタジー
偶然にも事故に巻き込まれたハルトはその事故で勇者として転生をする者たちと共に異世界に向かう事になった そこで会った女神から頼まれ世界樹の迷宮を攻略する事にするのだった カクヨムでも投稿してます

クラスまるごと異世界転移

八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。 ソレは突然訪れた。 『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』 そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。 …そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。 どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。 …大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても… そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。

見よう見まねで生産チート

立風人(りふと)
ファンタジー
(※サムネの武器が登場します) ある日、死神のミスにより死んでしまった青年。 神からのお詫びと救済を兼ねて剣と魔法の世界へ行けることに。 もの作りが好きな彼は生産チートをもらい異世界へ 楽しくも忙しく過ごす冒険者 兼 職人 兼 〇〇な主人公とその愉快な仲間たちのお話。 ※基本的に主人公視点で進んでいきます。 ※趣味作品ですので不定期投稿となります。 コメント、評価、誤字報告の方をよろしくお願いします。

異世界貴族は家柄と共に! 〜悪役貴族に転生したので、成り上がり共を潰します〜

スクールH
ファンタジー
 家柄こそ全て! 名家生まれの主人公は、絶望しながら死んだ。 そんな彼が生まれ変わったのがとある成り上がりラノベ小説の世界。しかも悪役貴族。 名家生まれの彼の心を占めていたのは『家柄こそ全て!』という考え。 新しい人生では絶望せず、ついでにウザい成り上がり共(元々身分が低い奴)を蹴落とそうと決心する。 別作品の執筆の箸休めに書いた作品ですので一話一話の文章量は少ないです。 軽い感じで呼んでください! ※不快な表現が多いです。 なろうとカクヨムに先行投稿しています。

死んでないのに異世界に転生させられた

三日月コウヤ
ファンタジー
今村大河(いまむらたいが)は中学3年生になった日に神から丁寧な説明とチート能力を貰う…事はなく勝手な神の個人的な事情に巻き込まれて異世界へと行く羽目になった。しかし転生されて早々に死にかけて、与えられたスキルによっても苦労させられるのであった。 なんでも出来るスキル(確定で出来るとは言ってない) *冒険者になるまでと本格的に冒険者活動を始めるまで、メインヒロインの登場などが結構後の方になります。それら含めて全体的にストーリーの進行速度がかなり遅いですがご了承ください。 *カクヨム、アルファポリスでも投降しております

処理中です...