初めての異世界転生

藤井 サトル

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叶わぬ願いと望んだ未来

ガチ勢に手を出してはならない

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 ヒュリーの話を聞くとリリエッタの一件があった次の日、休みになった二人はたまたま聞いたフォリアと言う見せに行ってみることにしたらしい。

 その道中で叫び声が聞こえてきたので何事かと駆けつけた。そこで見たのは今まさに貴族の一人が襲われているところだった。

 ヒュリーとアルテリナは誰か人を呼ぼうとするのだが、その前に悪党の仲間に後ろから捕まってしまった。そしてそのまま貴族達のいる場所へ連れていかれた。

 そして、悪党の口ぶりから自分達も『商品』になるようなことを言われたまま二日たち運び出された。だが、その時にクラリスが来てくれた。彼女がベストタイミングで見つけ馬車を破壊したことでその日の内に運ぶことが出来なくなり、大地達が来て悪党の全てがご破算になった。と言うことらしい。

 アルテリナとヒュリーはそこまで話すと自分の持ち場へと戻っていった。

 聞けば聞くほど本当に運が良かったようだ。何せアルテリナとヒュリーが捕まったことでクラリスが動き、クラリスが動いたとこで運ばれなくなり、その結果大地達がまとめて助ける事ができたのだから。

 リリアに「皆がいたから無事に終わったんだな」と伝えるとリリアは頷いてからこう付け足してきた。

「その中には大地さんだってしっかり入っているんですから……もっと人を助けた自分を肯定してください」

 別に否定しているわけではないのだがリリアからは否定的に見えるのかも知れない。

「俺はあまり……」

「知ってます。功績を公言したいと思ってないんですよね」

 それが大地らしさだとわかっているからリリアはクスクス笑う。

「仕方の無い人ですね」

 リリアは少し前に置かれたジュースを手に取りながら言う。

「でも、頑張ったのに労いの言葉一つもないのは寂しいですから……」

 大地も自然と頼んだ酒を手に取ると一度はずした視線を再度リリアへ向ける。

「大地さん。今日はお疲れさまでした」

 優しく微笑むリリアにつられて大地も笑みを浮かべた。

「ありがとう」

 そうお礼を言うとどちらともなくグラスを近づけてカチンと重ねた。そんな小さい乾杯の後に頼んだもろもろを口つける。

 二人で料理を楽しみながら他愛の無い会話が続く。今日リリアが受けた依頼で出たモンスターの形や大きさがどんなものだった……とか。

 今日、大変だったであろう大地はお昼ご飯しっかり食べたのか……とか。

 大地は今日、始めてハンターの集会場に行ったとか。

 そんな特別の欠片もない話が並んでいった。そんな揺ったりとした空間が流れている大地のテーブルとは裏腹に別のテーブルからはいろんな声が飛び交っている。

 例えば……「最後の一切れは俺がもらっウバアァー」とか。
 これの解説をするとカイが料理の皿に残った肉を取ろうとした瞬間、どこからともなく飛んできた魔法を顎に受けて仰け反ったところだ。

 他には……「俺の酒ーーーーーー!!」と叫ぶ奴とかだ。
 大体の検討はついているだろうが叫んだのはグラネスだ。叫ぶ理由は頼んだ酒を横からかっさらわれた。と言うところだ。

 既にこの場所は頼んだものが横からかっさわれていく戦場であるが、唯一、フルネール、ユーナ、シャーリーが頼んだ料理は不可侵領域となっているのか手を出す奴はいない。――いや、いなくなったというべきだろうか。

 最初に誰だったかフルネールが頼んで目の前に置かれた串焼きのチーズ乗せをかっさらってしまった。一瞬だった。その男はくるりと回って床に叩きつけられて背中を打ち付ける。宙に浮いてしまった料理はフルネールがしっかりと盛り付け通りにキャッチした。

「駄目ですよ?私が頼んだ料理を勝手に取っては……」

 優しい声……とは裏腹にその目から怒りがにじみ出ているのを感じ取り男は「はい……」と恐る恐る返事をする。するとフルネールは今度こそ声とその表情がシンクロしたように優しい笑みを浮かべる。

「わかればいいんですよ。それじゃあこれだけあげましょう」

 そういって串焼きを一つ渡して元の席に座ったのだ。

 そうなるとフルネールに手を出そうとする輩はいなくなった。だが、流石に?危険じ……手を出してはいけない人はもういないだろう。そう油断した男がシャーリーの手に取った甘いものを奪ってしまった。

「……私の……パンケーキ……」

 フルネールのようにスパンとやるわけではないが魔力がシャーリーを中心に渦を巻きながら高まっていく。次第に魔力の渦の中に氷の粒が混じってきている。これはまずいと周りが感じると女性の一人が男からパンケーキを奪い返してシャーリーに戻した。そうしたことで涙目だったシャーリーに笑顔が戻ってきて「ありがとう!」と言って機嫌も戻りパクパクと食べ始めたことで緊張が一気に解けるのだった。

 そう、緊張が解けて緩みが出てしまったのだ。だから誰かがそれも最後の一つとなったユーナの好物に手を出した。――出してしまった。
 スティック状の魚の揚げ物だ。ソースとタルタルソースのようなものをつけて食べるのが好きなのだ。それを横からかっさろうとした男へギルド長は「それはやめろーーー!」と叫ぶのだが……遅かった。

「あら……あらあら……」

 その言葉だけ言うのだが目が光っていて……怖い。
 いつもの優しいユーナからは想像ができないほどだ。カタリと音を立てて席を立ちあがりゆらりと近づいていく。だがそこで発する言葉は多くない。

「あらあらあら……」

 ユーナの周りの空間がねじ曲がっている。最初のフルネールの対応が可愛く優しく見えるだろう。何せ彼女は殺気まで出すことはなかったのだから。食べ物の恨みは怖い……ということだ。
 一歩一歩近づかれて男はあわわと狼狽える。そんな男にユーナは手を差し伸べるのだ。救いの?NO!答えは簡単であり、且つ、ギルド長もよく知るものだ。

「ぎゃあああああああああああ」

 男の体が宙に浮く。それを支えるのは男の顔を掴んでいるユーナの手だけである。

「ユーナ!追加の料理だ。食うだろ?」

 そのユーナの前にギルド長は新たに同じ料理を目の前に見せるとユーナはパッと手を放して「食べる食べる♪」と表情を一変させた。

 男は顔と地面に落ちた時の衝撃で尻に痛みがあるくらいで済んだのだ。そこからはこの食べ物ガチ勢三人の料理に手を出すやつはいなくなった。みんな命が惜しいから……料理になるかは君次第。と言ったところだ。料理の腕の話じゃなく素材の話だが。

 まぁ今日は貸しきりにしてもらっているし、店のものを壊さないなら多少は平気だろう。

「こんなところにお肉があるぞーーー!!」

 酔っ払ったカイが大地達のテーブルに来るや否やテーブルの上にある皿を持ち上げた。そのとたんに男どもが「フッーー!」とリア充めいた喜びかたで盛り上がり始めた。

「あ!こっちに来てまで飯を取ろうとするな!っていうかほしけりゃ頼めよ!」

「兄貴もこんなに財産貯めておいてずるいぞー!」

 レイヴンがそう言いながら別の皿を持っていってしまう。……こいつらハイエナかよ!

 リリアが乾いた笑いを浮かべながら惨状に目を向ける。まるで嵐が起きてすべての料理を持っていかれた見たいに思えた。

「あ、あはは。皆さん凄いですね」

「まったくとんでもねえな。料理も頼み直しだ」

 お互いの感想を言い合うとそれがおかしく思い二人で笑い合う。ひとしきり笑うと大地はリリアへ向いた。

 前から気になっていた事でフルネールに答えてもらえなかったこと。

「なぁリリアについて聞いても良いか?」

「わ、私の事ですか?」

「俺が名前を聞いたとき、その名前を知られたくなかったように見えてさ。何でかな……と、ずっと気になっていたんだ」

 大地に嘘を教えた名前のことだ。それについて聞かれたリリアは動揺して「それは……その……」と言葉が出せずにいる。

 でも、もし本当の事を言ってしまえば教えた名前が嘘とわかってしまうわけだからリリアが何も答えられないのは仕方がないのだ。その様子を見た大地としてはどうしても知られたくないのかな?と思うばかり。

 リリアの家の事なのか、聖女にまつわる何かなのか。はたまた両方かわからないが……やはりそう簡単に教えてもらうことは出来ないか。

「あー、すまん。リリアを困らせたかった訳じゃないんだ。この話はやめて別の話題に変えようか」

 大地がそう言うとリリアの視線は真っ直ぐ大地の目を捉えていうのだ。

「ダイチさん。今は言えませんが……いつかきっとお伝えしますので……」

 いつか……そう、いつになるかわからないが、それでも必ず家の事を……いや、リリア自身が抱えている事の全てを伝えよう。そうリリアは決心して答えた。

「そうか……よし!この話はこれでおしまいにしようか。リリアは何頼む?」

 と、平然を装いながら元いた世界の時のようにメニュー表を手に取って聞くのだが……メニュー表を開くと大地は固まった。

 その理由を知るリリアはクスクス笑いながら大地へと近づき隣からメニューを見るように覗き込む。

「ダイチさん。何が食べたいですか?」

 リリアは少しだけ顔をあげて大地を見ながらそう代わりに読むと言わんばかりに聞くのだった。
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