初めての異世界転生

藤井 サトル

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叶わぬ願いと望んだ未来

猫猫亭で宴会するぞ!

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「……まじで奢りなのか?」

 猫猫亭に入る前、大地はギルド長にそう聞いた。

 少しだけ時間を遡り……あの後、ギルドに戻ったはいいが他の依頼をする時間はなかった。
 フルネールを始めライズもシャーリーもそのことについて理解が深いようで特に不平不満が飛び交うことはなかった。レヴィアに至っては『いつも通りね』といった様子を醸し出しているのが頼もしいやら悲しいやら。

 仕方なしにギルドで時間を潰して明日に備える。そう決めたのだが帰ってきたギルド長が大地にいうのだ。

「飲み会をするぞ!」

 その言葉を聞いた瞬間、大地はギルド長のおっさんの頭を疑ってしまった。『こちらにそんな金があるとお思いか?』と。そんな疑う眼差しを向けているとギルド長はにやりと笑った。

「安心しろ。俺のおごりだ」

 その一言で始まった飲み会だ。今宵のメンツはなんと豪華なことだろうか。

 まずは俺こと大地だ。そして女神フルネールにSランクモンスターのレヴィア。聖女リリアと貴族グラネスにSランクと同レベル以上のライズとシャーリー。ギルドの長であり戦闘力は町の切り札となるらしいベルヴォルフ。そのギルド長を凌駕する強さを誇る人妻ユーナ。

 メンツはそれだけでは収まらずカイ青年率いるパーティのマリンとオーガスや赤髪(名前聞いてない)にレイヴンパーティやクラリスまで参加している。その他にもギルドに出入りしていたハンターが何人も同行していて大所帯である。

 この団体に睨まれればたいていのやつは裸足で逃げ出すか命を乞うかもしれない。そしてそんな一団が向かった先は『猫猫亭』であった。

 こうして第一回バトルロワイヤル飲み会が開催された。

 リリエッタや店主が貸し切りにしてくれたようで自分たち以外に客がいないらしく「いいのか?」と聞くと笑顔でうなずいてくれた。

「もちろんよ!私の時といいアルテリナやヒュリーの時といい。私たちダイチさんにいっぱいお世話になっちゃったから……これくらいはさせてほしいの」

 少し恩着せがましくしてしまっている気がしないでもないがせっかくだから甘えさせてもらう事にした。一応その際に「色々頼んで貢献するぜ。」的なことを言うと笑いながら「期待しているね!」とリリエッタがいうのだ。
 まぁそんなお金に無責任なことが言えるのもここのもちがギルド長だからだが。

 そうこうしていると各々が好きな席に座っていく。
 それに出遅れた大地はひとまず適当な席に座ると同じように出遅れたリリアが隣へ座った。

「皆さん席を決めるの早いですよね」

「みんな早く飲みたかったんじゃないか?ってリリアもこういうのに参加するんだな」

 城で開かれたパーティーに参加しながらも人の相手をするのに疲れていたリリアだ。そして酒も飲まないというのだから参加してくるとは思わなかった。だけど、猫猫亭に向かう道中でリリアとばったり会いギルド長が誘うとあっさりついてきたのだ。

 尚、グラネスに至っては『ただ酒』と聞いて『行く』か『絶対行く』の二択しかなかったらしい。……こいつ貴族なんだから『ただ酒』とかどうでもいいじゃないか?と聞くと、「なんの。ただ酒だからこそ美味く飲めるものがある」と何かを悟りきったように言ってくるのだ。

 貴族の考えることも酒狂いの考えることもわからんもんだ。

「え、えへへ。お酒飲めないからご迷惑かと思ったのですけど……」

 そんな風に少し遠慮したような笑顔を向けるのだが飲めないなら飲めないでそれでいいと俺は思う。

「いいんじゃないか?まぁここにリリアが好きなジュースがあるかどうかはわからないが……」

「ダイチさん。それは聞き捨てならないわ!」

 そういってリリエッタが大地とリリアのテーブルにやってきた。

「大体のものはそろっているわよ!……っていうかなんでこのテーブルには二人だけなの?……あ!」

 周りのテーブルを見ると埋まっているものしかなくハブられた二人なのだとリリエッタは察した。そしてその表情は可哀想なものへと……。

「いや!まて!ただ単に出遅れただけだからな!」

 決して嫌われているわけではない。っと信じたいところだ……。もしこれで嫌われててリリアが気を利かせてやってきてくれた。というような流れだったら首でも吊るかもしれない……。

「ふふ。冗談よ!冗談!それでリリアさんはどういう飲み物がほしいんですか?」

 リリエッタがそう聞くと気づいたようにリリアが「あ、はい!」と返事をした後いつも通りのジュースを伝える。

「もちろんあるよ!ダイチさんはお酒でいいんだよね?」

「ああ。適当に持ってきてくれ。あとリリエッタのおすすめを頼む」

 そう言ってから大地はこの頼み方は嫌がられるかな?と思って訂正しようとしたがリリエッタは営業スマイルかはたまた本心からの笑顔を大地に向けて「わかりました!少々お待ちくださいね!」と言って店の奥へと入っていった。

「それにしてもダイチさん。今日は大活躍だった見たいですね」

 道中、ギルド長から大地が依頼について奮闘したことを聞かされたリリアはそのことについて触れてくる。

「そうかな?……助ける事ができたのは運が良かっただけだ」

「ふふ。たとえ運が良かっただけでもしっかり助けれたじゃないですか。凄いです」

「そうでもないさ……」

 そう言って誇らないのは大地らしいと言えばそうなのだが少しだけ寂しさをリリアは感じる。ただ、今それを言っても否定するように躱されるだろう。だからリリアは話題を変えた。

「そういえばどうして悪党さんは5人も捕まえたんでしょうか?人数が少ないほうが気づかれにくいんじゃないでしょうか?」

「ん~そうだなぁ。恐らくアジト位置からして貴族二人をさらうつもりだったんだと思うが……ヒュリーとアルテリナをどうして捕まえたのかはわからないな」

「私達が捕まった経緯。教えようか?」

 そんな大地達の声が聞こえたのか二人のウェイトレスが大地の左右から顔を出して頼んだ飲み物と料理を置きながらヒュリーがそう言うとアルテリナがヒュリーの名を呼んで窘める。

「ダメだよ。先にちゃんとお礼を言うんでしょ!」

 ヒュリーに向けていた少し怒った表情も大地に顔を向けた時には笑顔に変わっていた。

「ダイチさん。私達を助けてくれてありがとうございます。特に……ヒュリーを止めてくださったこと。お礼を言っても言い足りません」

 アルテリナがお辞儀しながら言うのを見てヒュリーも真似をするように慌ててペコリと頭を下げる。

「顔をあげてくれ。君達が無事に戻って……あれ?何で働いてるんだ?」

 今この場においてアルテリナとヒュリーがいることが不思議でならない。

「何でってアルテリナさんもヒュリーさんもここで働いている人だからですよ」

 そう何の疑いもなく笑顔を向けていってくるリリアだが、彼女は一つ見落としてはいないだろうか?

 何せ彼女達は今日まで捕まっていた子達だ。雰囲気や見た目から酷いことはされていなさそうだが、それでも精神はすり減っていてもおかしくない。

「それはそうだが、彼女達は三日間もの間、捕まっていたんだぞ?」

 そうリリアに言う。その言葉でリリアは理解して「あっ!」と驚いているのだが何故かアルテリナとヒュリーも反応した。

「あ!ち、ちゃんとお風呂には入りましたよ!」

「そうだぞ!アルテリナと一緒にちゃんと入ったぞ!」

 大地の考えていた事よりもズレた返答だ。しかも片方は求めていない情報つきである。

「……そうじゃない。疲労が溜まってるんだからゆっくり休まないと倒れるぞ?」

 正直、深刻な話のはずなのだがアルテリナもヒュリーも軽い感じで「何だその事か」と言いたげな感じでほっとしていた。

 ……ほっとする要素あるか?

「先ほどギルドの方が店主とお話をしているのを聞いてしまったんです。今日大地さんがお食事に来るって。だから、どうしてもお礼を言いたくて無理言って仕事に入らせてもらったの」

 彼女達が志願したってことか。

 大地がブラックな職場じゃなかったことに少しだけほっとしているとヒュリーがズイッと前に出てきて「それより私達が捕まった時のお話だよ!」と言うのだった。
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