初めての異世界転生

藤井 サトル

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叶わぬ願いと望んだ未来

自由と平和の意味

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 いつもの滝行を終えると大地達はギルドに向かって歩いていく。
 その道中でフルネールがこっそりいうのだ。シャーリーが服を脱ぐのも恥ずかしがっていた事を。なんでも脱いでいる時に出る音にも顔を赤くするほどだった。と。

 どうしてこの女神はそういう情報をいとも簡単に伝えてくるのか。良心の呵責を感じることが無いのだろうか?そんな疑いの目をフルネールに向けるとフルネールは言った。

「可愛いシャーリーちゃんを見れなかった大地さんへの…お、す、そ、わ、け。ですよ♪」

 そんな情報を貰えば……きっと顔を赤くしたであろう可愛いシャーリーの様相を想像しやすいけれども……。

「それに大地さん。私は本当に嫌がるような事を教えたりしませんよ?」

 む……。

 確かにそうかもしれない。何だかんだで一線は護っている感じは確かにする。

「そんなことよりもうすぐギルドへ着きますよ?」

 フルネールが言うように目の前にはもうギルドの建物が見えている。

「ここ最近は特にギルドの依頼をやれなかったからな」

「そうだ。ダイチ。俺とシャーリーをダイチのパーティに入れてほしいんだがダメか?」

 隣についたライズがしてくる提案に大地は複雑な顔をする。
 実際に彼と彼女の実力はSランクに並ぶほどであり、普通のハンターパーティであれば大手を振って迎え入れるだろう。大地としても戦力的な意味で言えば断る必要はどこにもないのだ。では、何を渋っているのかというと……。

「ライズとシャーリーは平和に過ごしたいんじゃないのか?ギルドの依頼で受けるのは基本戦闘系だぞ?」

 問題はそこなのだ。二人が願う生活としては掛け離れているとも言え、それによって大地も二つ返事で承諾する事が出来ない。

「ありがとう。俺たちの事をそこまで考えてくれて」

 ライズが素直な気持ちでお礼を言うと「でも」と続けた。

「平和は何も戦わない事じゃないよ。俺もシャーリーも日々の生活を繰り返せれる事だと思っている。奴隷の様に誰かに従ってではなく自分の意思で戦いもするしトラブルを起こす事もな。生きて働いて美味い飯を食って寝床で寝る。これが出来る暮らしが平和だとね」

 「だから」とライズは大地の顔を見ながら再び同じ願い事を口にする。

「俺たちをパーティに入れてくれ」

 ライズの言い分はもちろん分かる。だから大地はシャーリーへと振り向いた。もしかしたら彼女の考えは違うかもしれないからだ。しかし、そんなことはなかった。

「私も……兄さんと同じ考えだよ。ダイチさん。私頑張るからパーティに入れて!」

 シャーリーまでそう言うのならもう止める必要はないだろう。

「わかった。それじゃあ5人で依頼をこなすか」

 話がまとまった事でギルドの扉を開く。まず大地がギルド内に足を踏み入れるとギルド内にいるハンター達が大地達へと視線を向けた。その後直ぐに雑談に戻る者や掲示板に視線を戻す者がいる中でフルネール目当てで見続ける奴らもいる。……たぶんレヴィア目当ても何人か混じってるかもしれない。

 そしてその直ぐにフルネールがギルド内へと足を踏み入れる。やはり数人見蕩れている奴らがいるのがよくわかる。大地自身も変にからかわれたりしていなかったら彼らと同じ気持ちだったかもしれない。今だけ幸せの夢を見ているがいい。

 次に入ったのはレヴィアだ。長い髪と尻尾。そして羽衣が目を引くのか見続ける奴らもやはりいる。
 フルネールは見てくるハンター達に軽く手を振っていたがレヴィアは完全無視を決め込んでいる。

 何時もならここで終わりなのだが、次にライズが足を踏み入れた。途端、ギルド内の女性人がガタッと立ち上がったのだ。女性でこの反応は珍しいが金髪イケメンエルフだからね。しかも、サービス精神旺盛で一人一人に確り微笑みかけてるし。人気なのも頷ける。
 ただ、男どもの反応が舌打ちしたり表情が暗かったりしてるけど。

 最後にシャーリーがギルド内に入ると見かけない美女のせいか男どもがガタッと立ち上がるのだ。ただ、女性陣と違って男どもは大地に羨ましいからの嫉妬の視線を投げ掛けている。

 少し前ならこんな視線を鼻で笑っていただろうが……俺も丸くなったものだ。

「ユーナさん」

「ダイチさん。皆さんお揃いですね」

 『皆さんの』中にはライズとシャーリーはすでに含まれている見たいだけど、それでも確り言うことが大事だろう。

「ああ。今日はライズとシャーリーも俺と一緒に行動するよ」

「わかりました。……今から少しお時間はありますか?」

 ユーナが少しだけ表情を曇らせて聞いてきた。
 その表情から伺える分にはデートのお誘いとかはないだろう。彼女は人妻だからもとよりその線は流石にありえないのだが。

 とは言え少しだけ身構えてしまいそうになるのだが、困っているのであれば話を聞くだけ聞いてみてもいいかもしれない。

「どうしたんだ?」

「大地さんが来たら呼んでくれとギルド長が言っていまして、来ていただけると嬉しいのですが……」

 いつも以上に丁寧に接してくるユーナに違和感を覚える。それに何時もならもっと元気と笑顔を振り撒いて挨拶してくれるのだがそれもない。

 すごぉく面倒そうな状況になりそうだ。

 それでもこちらを見てくるユーナはもしかしたら機嫌を伺っているのかもしれない。つまりそれは上(ギルド長)からの呼び掛けと下(大地)の返答によって絶賛板挟み中なのかもしれない。

 管理職のつらいところよね。

「わかった。連れてってくれるか?」

 大地がそう言うと少しだけほっとした表情を見せるユーナは「皆さんこちらへどうぞ」と言って案内してくれる。もちろん行き着く場所は『俺の部屋(ハート)』と書かれたギルド長室だ。

 前に来たときはこんなハートマーク何て書いてあっただろうか?等とくだらない妄想で大地は現実逃避をする。

 何故かって?……そりゃあ嫌な予感がさっきからしているからさ!

 帰る場所なんて無いけど『もう帰りたいな……』等と月曜日の満員電車に乗り込む前の気分を思い出す。そうこうしているとユーナさんがその扉を開けてしまう。

「よお。待ってたぜ」

 開口一番にギルド長が口を開いて言った言葉がこれだ。大地がユーナに連れられてこの部屋に来ることがわかっていたような口振りである。

 それほど大地の行動はあまり変化していないのかもしれない。

「呼ばれた理由はクルスも関わっているのか?」

 ギルド長室であるこの部屋に入って目の前にソファーがあるのだが、そこにクルスが座って紅茶を啜っていた。クルスが大地の一言を聞いて片手を上げて「や!」と、王族とは思えない挨拶をしてくる。

 ギルド長だけなら依頼関係かと思ったがクルス(王族)がいるとなると……まさか昨日の貴族の一件でお叱りとかか?

「そう警戒するな。まぁまず俺の話を聞いてくれ……」

 ギルド長は最初にそう前置きをして口を開いた。
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