初めての異世界転生

藤井 サトル

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王族よりめんどい貴族のご乱心

理想のマイホームってどんなもの?

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 料理を求めて同じテーブルにつく。あの人だかりの中にはリリアの他にフルネールやレヴィアもいたのだが、そそくさと退場してしまったが故に再びバラバラだ。

 とはいえたまにはこんなのも良いだろう。気がつけば殆ど誰かと一緒にいることが多かったのだ。なればこそ、今、この時を一人でゆっくりとできるだろう。そう思っていたら後ろから人が近寄ってくる気配を感じた。そして振り向いた瞬間――。

「あの!ダ……ダイチ様ですよね?」

 ダイチ様!?

 真後ろからいきなりそう叫ばれた大地は何事か分からなかった。目の前には3人の女性だ。恐らくどの女の子も貴族のご令嬢なのだろう。

「そ、そうだけど……」

 一体何が起きてるのか全くわからない大地は彼女たちの様子を見るしかない。見るしかないのだが先程の貴族……レン・ベルカ・ヤングルと親しい間柄で報復のために罵倒しに来た。……のだとしたら大地のメンタルは持たないだろう。

「先程の戦い……すごかったです!!」

「ダイチ様はお強いんですね!!」

「すごくかっこよくて……一度お話してみたいと……」

 しかし、予想に反して三人の内、二人はキャーキャーと騒ぐように、一人はモジモジしながら言う。
 しかし、大地には今の状況がさっぱりわからなかった。

「ち、ちょっとま――」

 『まってくれ』そう言いたかったのだが、その大地の言葉を下記消すように反対方向から声が聞こえる。

「お前たちずるいぞ!!俺達もダイチさんと話したいんだ!!」

「そーだ!そーだ!」

「み、皆、仲良くしようよ……」

 こちらも三人で男だ。このパーティーに出席しているのだから貴族だろう。二人は活発で一人は内気な感じだ。
 そしてこの乱入によって大地は何が起きているのか更にわからなくなる。

「私達が先に声かけたのよ?」

「そんなの関係ないね!」

「何言ってるのよ!遠目でビビっていた癖に!」

「あれはダイチさんに迷惑に思われないタイミングを見計らってたんだよ!それも知らずに図々しい!」

「ケ、ケンカはやめようよ……」

「僕は……みんなで仲良くしたいよ……」

 本人を前にして、且つ、本人を無視してヒートアップする4人とオロオロしながら宥める2人。ただ険悪。というようにも見えない。どちからというとその光景は幼馴染達が集まってじゃれついているように見える。知り合い同士なのだろうか?

「お、お前らちょっと落ちつ――」

 だが止まらない。何とか場を納めようとするのだがそれは無視され話は混迷していく。

「だいたいあんた達知ってるの?ダイチさんがこんな貧相な服を着ている理由を!?」

 貧相って酷い……。

 グサリと来るような台詞に精神ダメージをうけるが、6人の貴族は気付かない。

「ダイチさんはねぇ。貧乏なのよ!」

 ぐはぁっ!

 別の貴族の女から言葉のナイフを突き立てられる。これがフルネールとかであれば反論の一つや二つも出てくるのだが、見ず知らずの人間から言われてしまうと事実なだけに何も言えない。

「でもね。それはリリア様やアーデルハイド様。それにクルス様を助けるためにお金を使ってるからなのよ。……それにボロいのは自分だけにして仲間には少しでも良い物を着せてあげる優しいダイチ様」

 貴族の女性は自分の思想の中の大地に思いを馳せるようにうっとりとする。優しく慈悲深い英雄として。

「それなら俺だって!ダイチさんが地面に家畜のように寝る理由は知ってるか?」

 ぐはぁ。家畜ってあんまりじゃないか……だいたい理由なんて同じだ。金がないだけ。

「ダイチさんは英雄だからな……宿に止まらないのは妬んだ奴によって襲撃される事を恐れているんだ。恐れるって言ってもダイチさんなら簡単に撃退できるだろう。でも回りの人間は違う!……ダイチさんはな回りの人を巻き込むことを怖がっているのさ。だから、回りを巻き込まないために何時も路上で寝てるんだぞ!」

 そんな理由知らない。え、俺、襲撃されるの?

「お前らそれどこの情報だよ……」

 大地が少しの頭痛を感じて額に手を当てる。だが、そんな大地の心境を理解できていない女性の一人が嬉しそう答えた。

「フルネールさんって言う女神様と同じ名前の綺麗な人が教えてくれたんですよ!」

 元凶はおまえか!!

 はい!私がやりました!優しさと悲壮感を交えた大地さんの話で評価はうなぎ登りになっているはずですよ!

 ぼろくそに言われてるんだけど?貧相とか家畜とか……。

 まぁまぁ。理由のない路上生活と正装服無しでは怪しまれますし……何時も関わってるリリアちゃんにも迷惑が及びますから多少の曲解は我慢してください。

 うぐぅ……。

「そうだ!良いことを考えましたわ!」

 一人の女性が胸の前で両手を優しく合わせて言う。

「私にお任せくだされば家の一つや二つ用意して差し上げますわ!」

 わーお。パトロン申し出てくるとは思わなかったな。

「いや!ここは俺が出そう!!」

 その言葉を皮切りに他の貴族達も「俺もだ!」「私も!」と名乗りあげ始めた。しかしここで止めなければ暴走列車が勢いをなくすことはないだろう。

「まてまて!俺は一度も家をくれなんて言ったことないぞ?」

 緊急停止ボタンを押すかの如く大地はそういうと女性側が一人ズイッと身を乗り出してきた。

「ダイチ様?少し想像してみてください。ダイチ様が起きるのは地面ではなく柔らかいフワフワのベッドの上。お花を浮かべたお風呂で汗を流したら用意してくださった朝食を頂き、その後は綺麗な花を咲かせた広い庭でのティータイムです。お花の香と美味しい紅茶を楽しむ。どうですか?素敵じゃないですか?」

「それは……確かに……」

 そうやってダラダラ過ごせるのはいいな。

「甘いな。男ならこういうのがいいんだ。ダイチさん。俺の話をきいてくれ!」

 今度は男の貴族がグイっと前に出てきた。

「自分の屋敷を持てば好きなメイドを雇えるんだ。うまい酒だってそろえる事も出来るだろうし、シェフを雇えば毎日豪華な料理だ。どうだろう?俺に任せてくれればそれら一式をまとめて用意する」

 メイドに酒に飯。そういうダラダラ過ごすのも……良い。

 どちらも甲乙捨てがたい提案なのだ。自分一人であれば大地は頷いていただろう。だが――。

「悪いな。魅力的な提案だけど見ず知らずの人に願うものじゃないからな」

 と断りを入れるがそれでも二人は諦めきれないと言う様に迫ってくる。

「ダイチさん!」

「ダイチ様!」

「「必要ならいくらでも出しますから!!」」

 二人の貴族がグイグイくるが大地は首を横に振った。

「気持ちだけありがたく貰っとく!」

 きっと何を言っても意味がない。言葉で収集をつけるのも無理だろう。それを察した大地はまだ食べていたい料理を断腸の思いで諦めてこの集団から素早く逃げ出すのであった。
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