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王族よりめんどい貴族のご乱心
パーティーを始めよう
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まっすぐ飛ばされたものは確実に大地へと近づく。だが、その速度は大したことなく、飛んできている間に布っぽい物だとわかった。
危険性がないものと判断した瞬間、大地は素早く横に避けてしまった。リリアが後ろにいることを忘れて……。
「きゃっ!」
その何かはちょうどリリアの顔にベシッと当たってしまい、驚いたリリアが小さな驚きの声をあげて後ろへとバランスを崩してしまった。
「危ない!」
とっさに大地は手を伸ばしてリリアを支えることで、リリアが転ぶことも飲み物を溢すこともなく無事にすんだ。そのことに安心すると大地はレンに向かって叫ぶ。
「お前、リリアになんてことをするんだ!」
「お前が避けるからだろ!!」
うむ、一理ある。だが、意義あり!
「物を投げられたら普通避けるだろ!!だいたい何を投げたんだよ?」
リリアの前に落ちた物を見ると手袋のようだ。
これってアレか?決闘か?
「手袋……か?」
「そうだ。田舎者では知らないだろうが手袋を相手に投げつけると言うのは決闘を申し込む合図だ」
「まじかよ……」
驚いている大地にレンはしたり顔で言う。
「今さら後悔しても遅い」
「まさか……」
驚き続ける大地に満足しながらレンは心の中で『もっと怯えるが良い!』と叫んでいた。だが――。
「リリア、お前決闘しないといけないんだってよ?」
聖女に喧嘩売るとか正気かよ?しかもこの国の王族と親しいのに……。貴族って怖い。
「え?ええ?」
驚き困惑するリリアは大地とレンを交互に見て、やらないといけないのか真剣に悩み始めた。
「ちっがーーーうっ!!お前に投げたんだよ!!リリア様に決闘を申し込む奴なんていねぇよ!!普通わかるだろ!!」
「残念、俺は変わり者らしいからヨクワカラナイナー」
何人かの人に言われてるからな仕方ないな。
「その決闘って受けないとどうなるんだ?」
「え?」
まさかの返答に固まるレン伯爵。
いや、え?じゃないだろ!なんて間抜け面してんだよ。予想外の質問に対処できないようじゃ本当に落ちぶれるぞ?
「いや、普通受けるだろ?え?受けないとかない……だろ?プライドとか無いのか?」
「プライドねぇ。少なくとも貴族相手に見せるようなモンは持ってねぇな」
「な、なら!受けなければ貴様の家をぶち壊してもいいんだぞ!」
まじか、こいつすごいぞ!無い物まで壊すことができるとかチート能力の持ち主かよ。
「ふーん、俺、家持ってないけど?」
「は?そ、それならお前が止まっている宿屋を!」
「路上でいつも寝てるが?」
「そんな嘘を信じるわけ――!!」
ヒートアップしているレンにリリアが言う。
「あの、ヤングル伯爵。本当のことなんですよ」
リリアに言われれば流石に嘘じゃないとわかる。わかるのだが嘘だとも言いたくなる事実だ。
「ぐ……ぬぬ……」
貴族の『生ぐぬぬ』頂きましたー!……仕方ない、可哀想だから受けてやるか。貴族マジめんどい。
「わかったわかった。受けてやるよ」
大地がそういうと一気に上機嫌になったレンだった。
パーティーとはやはり戦場だ。大きい広さがあるこの部屋の一角を借りることができた。と言うのも、リリアからアーデルハイドに話が渡り、そこから王様と王妃様に新キャラ大臣にまで話が通ったと言う。
まぁ少しだけ不満なのは人だかりができて完全に見せ物だと言うことだ。その人混みからひそひそと声が聞こえてくる。
「またヤングルのバカ息子だよ……」
「今度の標的はアレか。可哀想にそこの人もボロ剣渡されて戦わされるんだろ?」
どうやら俺はデキレース?に参加させられる見たいだ。
ちらりと回りの人だかりを見るとフルネールはこちらを見ながら貴族たちと話をしている。レヴィアは最前列にいるけど食事に夢中だ。リリアは……ああ。やり過ぎ注意と言いたそうに目で訴えて来てるな。
「おい、丸腰じゃ可哀想だからお前にも獲物を渡してやるよ」
そう言ってレンが執事に目で合図すると執事が長い木製の箱を持ってきた。
「これをどうぞ」
「俺の武器は木の箱か」
木の箱ごと持ちながらいうとレンから冷静に「ちがう!その中身だ!」と突っ込みを頂いた。仕方なしに箱を開けると中には錆やら刃がかけているやらでボロボロの剣が出てきた。
「申し訳ありません。大事になる前に降参して頂ければ……」
執事が小声でそう言って心配してくる。この人もきっと苦労してるんだろうな。
「人だかりに来てみれば何しているんだ?」
貴族と話し込んでいて事情を知らないクルス王子がこの人だかりが気になってやって来たようだ。
「これはクルス殿下。これからこの者と決闘を行うところです。良ければ殿下も見ていかれますか?」
レンがそう伝えるのだが、クルスからしたら開いた口が塞がらない思いだった。
「……ヤングル伯爵。そこの者が誰だか知っているのか?」
「いえ?」
クルスが何故そんなことを聞くのかわからないが……少なくとも変にかしこまったり、クルスがそこの男にすぐ挨拶をしていないあたり政治的な問題はないと考えた。
「そ、そうか」
二人の話しも終わりだろうと思い、大地は先程から気になっていた質問を聞くことにした。
「なぁ、決闘のルールってわからないんだが、魔法は使って良いのか?」
「む?そうだな。ここは室内だから魔法は無しだ」
ふむ、数秒生きながらえれてよかったな。
「あとは……相手が死ぬか、降参するまで続行だな」
ふむふむ。死ぬまで……ね。
「剣が壊れたら素手でもいいか?」
「ああ。もちろんいいぞ」
そう言いながらレンは自前のキラキラする剣を引き抜いた。
「羨ましいか?この魔力を帯びた剣は名剣だぞ?」
死を匂わせた状況下で魔法剣と呼ばれる獲物を持ち出せば8割は腰が引けて謝ってくる。楯突いたものが泣きながら詫びをいれてくる。そう自分の身分をわからせて貴族の私に使う言葉も改めさせるのだ。その瞬間が最高に楽しい。
だが残念な事に目の前の男は残りの2割り見たいだ。名剣対ボロ剣の構図がわかっても立ち向かってくる阿呆だ。だが、それならそれで良い。名剣とボロ剣では大人対子供のような縮図だ。相手になるわけがない。
そしてこれが、これこそがレン・ベルカ・ヤングルの必勝方である。
今回もこのままあのボロ剣をへし折って勝つ。
「さぁかかってこい」
そう言ってレンが剣を構えた。それが決闘開始の合図だ。
大地がどんな動きをするか観察する。アホのように剣でも振りかぶってくれればそこに一撃叩き込んで剣をへし折り心を砕ける。何も相手を傷つける事だけを考えて決闘を申し込むのは二流の貴族だ。一流は血を出さず相手を屈服させて、且つ、観客も見てて楽しめる物であれば良いのだ。
前に出てくるか。横から来るか……。確りと見定めて初動で潰すのが一番効果的だと知っている。これまで決闘をしてきた相手は貴族からごろつきと幅広い。その中から2割でも人数は二桁は軽く越す。
その為、レンは経験に裏打ちされた自信を持って立つのだが次の瞬間、その経験はまったく意味を成さないことを知る。
――バキッ!
レンは目を見張った。
「はあぁっ!?」
大地がもつボロ剣が落ちたのだ。それも柄が折れて落ちのだと理解した。だけど意味がわからなかった。今まで確かに何本も剣を折ってきたがそれは名剣をぶつけてきたからだ。
柄が相当脆くなっていた?……いくらボロボロでもそれは刃の部分だけだったはずだ。
「すまん壊れたから……素手で戦わせてもらうな」
大地さん。それは世間一般では『壊れた』のではなく『壊した』のですよ?
美人女神は博識だなぁ。
もう、そんな風に煽てても何も出ませんよ♪
「す、素手で勝てると思うなよ!こいつの切れ味は岩さえ軽く切り裂けるのだからな!」
そのレンの言葉に回りの人が『マジかよ』と言った様子でざわつく。剣の力だけでそこまで強いのであれば相当の業物だと言えるのだ。
「そうかい」
大地がそう言葉を口にした瞬間に姿を消した。……実際には素早く動いただけなのだがレンの目には消えたようにしか見えなかった。いや、回りのやつらもそれは同じだ。
「どこに――」
「後ろだよ」
「うわぁっ!」
突如、真後ろからの声で半ばパニックになったレンが剣を無造作に振るった。確りと狙われたわけでもなく、鋭い振りでもないその剣を叩き折ることなんて大地には容易い。
「大地さん!それきっと高いものですよ!」
大地の拳が動いた直後にフルネールが叫んだことで剣の腹にあたる直前でピタリととまる。悲しき貧民の性というやつだろう。
高いと聞けば壊したら弁償させられる考えが脳裏に浮かんでしまうのだ。
剣を盾にするなんて卑怯なやつめ!
しかし、この剣の切れ味に恐れをなしたと考えたレンは高笑いをした。
「はーっはっは!やはり名剣は怖いか!?」
確かに大地は名剣に恐れをなした。(弁償額が半端なさそうで)怖いのだ。
だから、大地はレンが再び振り下ろしてきた剣の塚を狙って手を伸ばして捕まえる。
「なんだと!この、離せ!」
最初は弾こうかと思ったが回りに観客がいることを考えると危険な真似はできない。
そして、力任せに剣を奪うとその辺の床へ転がした。
「さて、死ぬか降参か……だったな?どちらがいいか選ばせてやるよ」
久々に醜悪な笑みを浮かべてプレッシャーを与える大地。きっとレンには悪魔に見えたことだろう。だが、それでも貧民に心を挫かれるわけにはいかない。どんなに窮地でも絶望的な状況でも屈してしまったら貴族と名乗れなくなる。そう信じているから。
「ふざけるな!!」
と突っぱねる。しかし、降参しないなら仕方ない。
大地はすかさず拳を振るった。レンにとっては恐ろしく早い拳だ。反応できるわけもなく目の前で止まった拳を数秒見つめて寸止めされたことようやく気づけた。
そして、その恐ろしさを知ってしまったからこそ、戻された大地の拳を動いたとわかった瞬間、目をつぶってしまった。
再び寸止めされたとわかるとレンの精神はかなりすり減り息も荒くなってきた。冷や汗など止まるはずもない。
「な、なぜ……当てない?」
「降参しないかなっと思ってな?どうだ?」
リリアの目の前。ということも相まって傷つけたくないのが正直なところだ。しかし、こんな風に脅してもレンは一向に屈することはなかった。
「降参などするくらいなら死を選ぶ!貴族がお前のような貧民と戦って負けるなどあってはならないんだ!!」
すごい気迫だ……。
大地にはそこまで必死に守るプライドはない。だからこそプライドを守って死を選ぶ事について100%の理解はない。だが……。
プライド=本当に大事にしているもの。
と言うことなら少しだけわかる。心から大事にしているものを必死に守るのはおかしい話ではないのだと。
「わかった」
ならば。と大地はこの下らない決闘を終わらせる事にする。瞬時に貴族の胸ぐらをつかみあげて最後の質問だ。
「最後に聞くぞ?降参は?」
「しない!やるならとっととやれ!!」
最後の最後まで震えて、大地の目を見返して、虚勢を張りながら、声に覇気の炎を灯らせてレンは叫んだ。
「そうか、それなら……!!」
次の瞬間には拳が飛んでくるはずだ。でも、レンは目を瞑ることは意地でもしない。もし目を瞑ればそれは屈服したことと同義だからしない。大地から直接受けるプレッシャーに恐怖を感じながら目を見開く。
「俺が降参しよう」
次の瞬間にはパッと手を離す。すると腰が抜けたのか地面に座り込むヤングルは大地が離れていく姿を見つめるしかない。
「な、何故だ!?俺を殺していれば君の勝ちだったんだぞ!?」
自分を殺さなかった理由がレンにはわからない。何せ勝たなければ守れるものも守れないのだから……絶対優位の状況で降参など馬鹿げている。今回の決闘で死んだとしてもそれは降参しなかったのが悪いのだ。でもそれは死よりプライドを選らんだ結果とも言えるが……。
「馬鹿かおめーは?」
「なんだと!?」
憤慨しながら怒るレンだ。だが、そのレンの回りに取り巻きたちが集まってきた。
「「ヤングル伯爵、ご無事ですか……」」
計4人……男女2ずつの取り巻きだ。座り込んでしまったヤングルに手を貸しながら立ち上がるのに手を貸していた。
正直むちゃくちゃな事をしてくる奴だと思っていたが確りと慕う人間がいるなら傷つけずに終わらせられて良かったと思う。
「俺にとっては勝ち負けよりも誰も死なせない方が大事なんだよ。ただそれだけだ……」
そう言ってテーブルに置いた料理を食べに戻ろうとする大地の背中に向けてレンは一つだけ聞いた。
「……お前の名は?」
「ダイチ ユキムラだ」
その後はもう去っていく背中を見つめるしかなかった。この日、始めてレンは『試合に勝って勝負に負ける』その意味を体験することになった。
「どうだった。ダイチは強かったろ?」
強い……何てものじゃない。『アレは本当に人間なのか?』そう問いただしたくなる気持ちがあった。だけど、それ以上に『ダイチ』という名を一つの噂と結びつけた。
「殿下。もしかして……アレが不殺の英雄……ですか?」
「そうだ。Sランクを余裕ではね除け、1000人の敵に対して誰一人殺さなかった男だ。私も始めて彼が戦うのみたが……噂に違わぬな」
力だけではない。考え方も何もかも自分とは違う生き方をしている相手だった。それが衝撃的で……そして、自信の心に何かが響くのをレン・ベルカ・ヤングル伯爵は感じた。
危険性がないものと判断した瞬間、大地は素早く横に避けてしまった。リリアが後ろにいることを忘れて……。
「きゃっ!」
その何かはちょうどリリアの顔にベシッと当たってしまい、驚いたリリアが小さな驚きの声をあげて後ろへとバランスを崩してしまった。
「危ない!」
とっさに大地は手を伸ばしてリリアを支えることで、リリアが転ぶことも飲み物を溢すこともなく無事にすんだ。そのことに安心すると大地はレンに向かって叫ぶ。
「お前、リリアになんてことをするんだ!」
「お前が避けるからだろ!!」
うむ、一理ある。だが、意義あり!
「物を投げられたら普通避けるだろ!!だいたい何を投げたんだよ?」
リリアの前に落ちた物を見ると手袋のようだ。
これってアレか?決闘か?
「手袋……か?」
「そうだ。田舎者では知らないだろうが手袋を相手に投げつけると言うのは決闘を申し込む合図だ」
「まじかよ……」
驚いている大地にレンはしたり顔で言う。
「今さら後悔しても遅い」
「まさか……」
驚き続ける大地に満足しながらレンは心の中で『もっと怯えるが良い!』と叫んでいた。だが――。
「リリア、お前決闘しないといけないんだってよ?」
聖女に喧嘩売るとか正気かよ?しかもこの国の王族と親しいのに……。貴族って怖い。
「え?ええ?」
驚き困惑するリリアは大地とレンを交互に見て、やらないといけないのか真剣に悩み始めた。
「ちっがーーーうっ!!お前に投げたんだよ!!リリア様に決闘を申し込む奴なんていねぇよ!!普通わかるだろ!!」
「残念、俺は変わり者らしいからヨクワカラナイナー」
何人かの人に言われてるからな仕方ないな。
「その決闘って受けないとどうなるんだ?」
「え?」
まさかの返答に固まるレン伯爵。
いや、え?じゃないだろ!なんて間抜け面してんだよ。予想外の質問に対処できないようじゃ本当に落ちぶれるぞ?
「いや、普通受けるだろ?え?受けないとかない……だろ?プライドとか無いのか?」
「プライドねぇ。少なくとも貴族相手に見せるようなモンは持ってねぇな」
「な、なら!受けなければ貴様の家をぶち壊してもいいんだぞ!」
まじか、こいつすごいぞ!無い物まで壊すことができるとかチート能力の持ち主かよ。
「ふーん、俺、家持ってないけど?」
「は?そ、それならお前が止まっている宿屋を!」
「路上でいつも寝てるが?」
「そんな嘘を信じるわけ――!!」
ヒートアップしているレンにリリアが言う。
「あの、ヤングル伯爵。本当のことなんですよ」
リリアに言われれば流石に嘘じゃないとわかる。わかるのだが嘘だとも言いたくなる事実だ。
「ぐ……ぬぬ……」
貴族の『生ぐぬぬ』頂きましたー!……仕方ない、可哀想だから受けてやるか。貴族マジめんどい。
「わかったわかった。受けてやるよ」
大地がそういうと一気に上機嫌になったレンだった。
パーティーとはやはり戦場だ。大きい広さがあるこの部屋の一角を借りることができた。と言うのも、リリアからアーデルハイドに話が渡り、そこから王様と王妃様に新キャラ大臣にまで話が通ったと言う。
まぁ少しだけ不満なのは人だかりができて完全に見せ物だと言うことだ。その人混みからひそひそと声が聞こえてくる。
「またヤングルのバカ息子だよ……」
「今度の標的はアレか。可哀想にそこの人もボロ剣渡されて戦わされるんだろ?」
どうやら俺はデキレース?に参加させられる見たいだ。
ちらりと回りの人だかりを見るとフルネールはこちらを見ながら貴族たちと話をしている。レヴィアは最前列にいるけど食事に夢中だ。リリアは……ああ。やり過ぎ注意と言いたそうに目で訴えて来てるな。
「おい、丸腰じゃ可哀想だからお前にも獲物を渡してやるよ」
そう言ってレンが執事に目で合図すると執事が長い木製の箱を持ってきた。
「これをどうぞ」
「俺の武器は木の箱か」
木の箱ごと持ちながらいうとレンから冷静に「ちがう!その中身だ!」と突っ込みを頂いた。仕方なしに箱を開けると中には錆やら刃がかけているやらでボロボロの剣が出てきた。
「申し訳ありません。大事になる前に降参して頂ければ……」
執事が小声でそう言って心配してくる。この人もきっと苦労してるんだろうな。
「人だかりに来てみれば何しているんだ?」
貴族と話し込んでいて事情を知らないクルス王子がこの人だかりが気になってやって来たようだ。
「これはクルス殿下。これからこの者と決闘を行うところです。良ければ殿下も見ていかれますか?」
レンがそう伝えるのだが、クルスからしたら開いた口が塞がらない思いだった。
「……ヤングル伯爵。そこの者が誰だか知っているのか?」
「いえ?」
クルスが何故そんなことを聞くのかわからないが……少なくとも変にかしこまったり、クルスがそこの男にすぐ挨拶をしていないあたり政治的な問題はないと考えた。
「そ、そうか」
二人の話しも終わりだろうと思い、大地は先程から気になっていた質問を聞くことにした。
「なぁ、決闘のルールってわからないんだが、魔法は使って良いのか?」
「む?そうだな。ここは室内だから魔法は無しだ」
ふむ、数秒生きながらえれてよかったな。
「あとは……相手が死ぬか、降参するまで続行だな」
ふむふむ。死ぬまで……ね。
「剣が壊れたら素手でもいいか?」
「ああ。もちろんいいぞ」
そう言いながらレンは自前のキラキラする剣を引き抜いた。
「羨ましいか?この魔力を帯びた剣は名剣だぞ?」
死を匂わせた状況下で魔法剣と呼ばれる獲物を持ち出せば8割は腰が引けて謝ってくる。楯突いたものが泣きながら詫びをいれてくる。そう自分の身分をわからせて貴族の私に使う言葉も改めさせるのだ。その瞬間が最高に楽しい。
だが残念な事に目の前の男は残りの2割り見たいだ。名剣対ボロ剣の構図がわかっても立ち向かってくる阿呆だ。だが、それならそれで良い。名剣とボロ剣では大人対子供のような縮図だ。相手になるわけがない。
そしてこれが、これこそがレン・ベルカ・ヤングルの必勝方である。
今回もこのままあのボロ剣をへし折って勝つ。
「さぁかかってこい」
そう言ってレンが剣を構えた。それが決闘開始の合図だ。
大地がどんな動きをするか観察する。アホのように剣でも振りかぶってくれればそこに一撃叩き込んで剣をへし折り心を砕ける。何も相手を傷つける事だけを考えて決闘を申し込むのは二流の貴族だ。一流は血を出さず相手を屈服させて、且つ、観客も見てて楽しめる物であれば良いのだ。
前に出てくるか。横から来るか……。確りと見定めて初動で潰すのが一番効果的だと知っている。これまで決闘をしてきた相手は貴族からごろつきと幅広い。その中から2割でも人数は二桁は軽く越す。
その為、レンは経験に裏打ちされた自信を持って立つのだが次の瞬間、その経験はまったく意味を成さないことを知る。
――バキッ!
レンは目を見張った。
「はあぁっ!?」
大地がもつボロ剣が落ちたのだ。それも柄が折れて落ちのだと理解した。だけど意味がわからなかった。今まで確かに何本も剣を折ってきたがそれは名剣をぶつけてきたからだ。
柄が相当脆くなっていた?……いくらボロボロでもそれは刃の部分だけだったはずだ。
「すまん壊れたから……素手で戦わせてもらうな」
大地さん。それは世間一般では『壊れた』のではなく『壊した』のですよ?
美人女神は博識だなぁ。
もう、そんな風に煽てても何も出ませんよ♪
「す、素手で勝てると思うなよ!こいつの切れ味は岩さえ軽く切り裂けるのだからな!」
そのレンの言葉に回りの人が『マジかよ』と言った様子でざわつく。剣の力だけでそこまで強いのであれば相当の業物だと言えるのだ。
「そうかい」
大地がそう言葉を口にした瞬間に姿を消した。……実際には素早く動いただけなのだがレンの目には消えたようにしか見えなかった。いや、回りのやつらもそれは同じだ。
「どこに――」
「後ろだよ」
「うわぁっ!」
突如、真後ろからの声で半ばパニックになったレンが剣を無造作に振るった。確りと狙われたわけでもなく、鋭い振りでもないその剣を叩き折ることなんて大地には容易い。
「大地さん!それきっと高いものですよ!」
大地の拳が動いた直後にフルネールが叫んだことで剣の腹にあたる直前でピタリととまる。悲しき貧民の性というやつだろう。
高いと聞けば壊したら弁償させられる考えが脳裏に浮かんでしまうのだ。
剣を盾にするなんて卑怯なやつめ!
しかし、この剣の切れ味に恐れをなしたと考えたレンは高笑いをした。
「はーっはっは!やはり名剣は怖いか!?」
確かに大地は名剣に恐れをなした。(弁償額が半端なさそうで)怖いのだ。
だから、大地はレンが再び振り下ろしてきた剣の塚を狙って手を伸ばして捕まえる。
「なんだと!この、離せ!」
最初は弾こうかと思ったが回りに観客がいることを考えると危険な真似はできない。
そして、力任せに剣を奪うとその辺の床へ転がした。
「さて、死ぬか降参か……だったな?どちらがいいか選ばせてやるよ」
久々に醜悪な笑みを浮かべてプレッシャーを与える大地。きっとレンには悪魔に見えたことだろう。だが、それでも貧民に心を挫かれるわけにはいかない。どんなに窮地でも絶望的な状況でも屈してしまったら貴族と名乗れなくなる。そう信じているから。
「ふざけるな!!」
と突っぱねる。しかし、降参しないなら仕方ない。
大地はすかさず拳を振るった。レンにとっては恐ろしく早い拳だ。反応できるわけもなく目の前で止まった拳を数秒見つめて寸止めされたことようやく気づけた。
そして、その恐ろしさを知ってしまったからこそ、戻された大地の拳を動いたとわかった瞬間、目をつぶってしまった。
再び寸止めされたとわかるとレンの精神はかなりすり減り息も荒くなってきた。冷や汗など止まるはずもない。
「な、なぜ……当てない?」
「降参しないかなっと思ってな?どうだ?」
リリアの目の前。ということも相まって傷つけたくないのが正直なところだ。しかし、こんな風に脅してもレンは一向に屈することはなかった。
「降参などするくらいなら死を選ぶ!貴族がお前のような貧民と戦って負けるなどあってはならないんだ!!」
すごい気迫だ……。
大地にはそこまで必死に守るプライドはない。だからこそプライドを守って死を選ぶ事について100%の理解はない。だが……。
プライド=本当に大事にしているもの。
と言うことなら少しだけわかる。心から大事にしているものを必死に守るのはおかしい話ではないのだと。
「わかった」
ならば。と大地はこの下らない決闘を終わらせる事にする。瞬時に貴族の胸ぐらをつかみあげて最後の質問だ。
「最後に聞くぞ?降参は?」
「しない!やるならとっととやれ!!」
最後の最後まで震えて、大地の目を見返して、虚勢を張りながら、声に覇気の炎を灯らせてレンは叫んだ。
「そうか、それなら……!!」
次の瞬間には拳が飛んでくるはずだ。でも、レンは目を瞑ることは意地でもしない。もし目を瞑ればそれは屈服したことと同義だからしない。大地から直接受けるプレッシャーに恐怖を感じながら目を見開く。
「俺が降参しよう」
次の瞬間にはパッと手を離す。すると腰が抜けたのか地面に座り込むヤングルは大地が離れていく姿を見つめるしかない。
「な、何故だ!?俺を殺していれば君の勝ちだったんだぞ!?」
自分を殺さなかった理由がレンにはわからない。何せ勝たなければ守れるものも守れないのだから……絶対優位の状況で降参など馬鹿げている。今回の決闘で死んだとしてもそれは降参しなかったのが悪いのだ。でもそれは死よりプライドを選らんだ結果とも言えるが……。
「馬鹿かおめーは?」
「なんだと!?」
憤慨しながら怒るレンだ。だが、そのレンの回りに取り巻きたちが集まってきた。
「「ヤングル伯爵、ご無事ですか……」」
計4人……男女2ずつの取り巻きだ。座り込んでしまったヤングルに手を貸しながら立ち上がるのに手を貸していた。
正直むちゃくちゃな事をしてくる奴だと思っていたが確りと慕う人間がいるなら傷つけずに終わらせられて良かったと思う。
「俺にとっては勝ち負けよりも誰も死なせない方が大事なんだよ。ただそれだけだ……」
そう言ってテーブルに置いた料理を食べに戻ろうとする大地の背中に向けてレンは一つだけ聞いた。
「……お前の名は?」
「ダイチ ユキムラだ」
その後はもう去っていく背中を見つめるしかなかった。この日、始めてレンは『試合に勝って勝負に負ける』その意味を体験することになった。
「どうだった。ダイチは強かったろ?」
強い……何てものじゃない。『アレは本当に人間なのか?』そう問いただしたくなる気持ちがあった。だけど、それ以上に『ダイチ』という名を一つの噂と結びつけた。
「殿下。もしかして……アレが不殺の英雄……ですか?」
「そうだ。Sランクを余裕ではね除け、1000人の敵に対して誰一人殺さなかった男だ。私も始めて彼が戦うのみたが……噂に違わぬな」
力だけではない。考え方も何もかも自分とは違う生き方をしている相手だった。それが衝撃的で……そして、自信の心に何かが響くのをレン・ベルカ・ヤングル伯爵は感じた。
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異世界貴族は家柄と共に! 〜悪役貴族に転生したので、成り上がり共を潰します〜
スクールH
ファンタジー
家柄こそ全て!
名家生まれの主人公は、絶望しながら死んだ。
そんな彼が生まれ変わったのがとある成り上がりラノベ小説の世界。しかも悪役貴族。
名家生まれの彼の心を占めていたのは『家柄こそ全て!』という考え。
新しい人生では絶望せず、ついでにウザい成り上がり共(元々身分が低い奴)を蹴落とそうと決心する。
別作品の執筆の箸休めに書いた作品ですので一話一話の文章量は少ないです。
軽い感じで呼んでください!
※不快な表現が多いです。
なろうとカクヨムに先行投稿しています。
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