初めての異世界転生

藤井 サトル

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王族よりめんどい貴族のご乱心

王様はエルフもモンスターもおっさんにも寛容である。これが資質か?

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 これで話が全て終わった。そうほっとした大地だが、その安寧を壊すように王様が「ところでダイチ君」と名前を呼んだ。

 まだ何かあるのか!?

 そう思いながら王様の方を見ると手で制された。

「いや、ただの雑談だ。そう身構えなくていい」

 王様が椅子から立ち上がると王妃様も立ち上がり、アーデルハイド、リリア共々大地に近寄ってきた。

「ライズ君もシャーリー君も立ってくれるか?もう、面倒くさい話は終わったのだから」

 その言葉を聞いて二人は「はい」と返事をしながら立ち上がる。

 しかし、これはどういう状況だろうか?一国の王と王妃が近づいてくるのって……。

 王様は60台だろうか?白髪が見栄始めているのが良くわかる。髭を生やし、瞳はアーデルハイドと同じ薄い青。赤い立派な外套を羽織っている。

 王妃様は薄い水色の髪を頭の後ろで結っていて、年老いても尚、凛とした顔立ちは綺麗でアーデルハイドはこの人に似たのだろうと言うのが良くわかる。

 どことなくリリアとも似ているような気がするのは気のせいだろうか?

「ダイチさん。戦争お疲れさまでした。」

 ペコリとリリアがお辞儀しながら言う。

「大変でしたよね……」

「俺よりも東の砦にいる兵士達が大変そうだったかな」

 倒れてる敵を全員で牢屋に入れてたみたいだし。

「それはそうだろう。まさか本当にダイチ一人で何とか出来るとは私も思ってなかったからな」

 はっはっは。とアーデルハイドは笑うのだが、「後で冷やかしついでに差し入れでも持っていってやろう」等と気にかけている様子だった。

「ところでダイチ君は」

 王様がそう切り出した事で大地は王様へと向く。今のこの流れで変な話は流石に出ないだろう。そう思いながらだ。

「さっき戦争の約束で見返りは求めないと言ったが、少しくらいは求めても良いんじゃないかな?」

「いえ、それはおれ……私がしてやりたいと思ったからしたので――」

 大地がそこまで言ったあたりで王様は割り込んだ。

「あ、公式の場でもないし、人払いも元々してあるから口調は砕けて構わないよ」

 本当に良いのだろうか?

 だいぶボロ出てましたからね。今さらでしょう。

 はい……。

「それなら楽な話し方で。王様も言ってたけど約束を叶えてから見返りを求めるのも汚いやり方だからな。それはしたくないんだよ」

「うんうん。でもね?もしかしたら、ダイチ君にお願いした子も無茶な願いを勢いで言ってから後悔しているかもしれないよ?なんの報酬も約束させずに言ってしまったって」

 凄いな。なんか見てきたように言うけれど……これが王の資質つてやつなのか?

「でも……」

 とは言え、やはり憚られる。そう伝えようとするのだが王様は口を開いた。

「それにダイチ君がやったことはこの先、伝説として語り継がれていかれるかもしれないんだよ?世界の歴史には1000人切りや1万の兵を凌ぎきった話があるが……死者を出さずに戦争を終わらせた者はどこの国にも無いからね」

 ……俺、何かやっちゃ『それ以上は行けません!』

「しかし……」

 それでも躊躇する大地に王様は畳み掛ける。

「そんな事をしたのに何も見返りを求めないのはお願いした子も困ってしまうと思うよ?」

 そう言うものなのか?

 そうですねぇ。有る意味生殺しみたいなものじゃないですか?

「……そうですか。でも何を言えば」

 ようやく折れた大地に王様はニコニコしながら言った。

「なに、簡単なことさ。きっと何を言っても大丈夫だ。だから、ダイチ君が耳元で体でも要求すればきっと受け入れてくれるぞ」

 最後に親指をグッと立てる王様は最初の印象と遥かに違いました……まる。

 ナイス援護です王様ぁ!!

 フルネール何言ってんだ!!

 王様がとんでもないことを口走った為か王妃様がどこからかハリセンを出してスパンッと頭に叩き落とした。

 大地は大地で視線を横にずらすとリリアが耳まで赤くしながら俯いているのが見えた。

 恥ずかしいだろうに……お願いしてきたのはリリアだって言った方が良いのか、言わない方が良いのか……。

「ダイチさん?ごめんなさいね。うちのバカが」

 王妃様は倒れた王様を無視して笑顔でしれっと王様をけなす……いいのか?

「い、いえ」

 大地が気圧されているのを知りながら王妃様は続ける。

「先ほど褒美はエルフさん達の処分を無くすって言ってましたけど、その他に欲しいものはありませんか?お金でも貴族の地位でも家でも。私達が出来ることなら叶えてあげますよ?」

 報酬の幅が広すぎる。どうしてそこまでのが貰えるんだ?

「ライズやシャーリーの件だけで十分すぎますので……」

 そう拒むと王妃様は事前に聞いていた娘達からの情報と一致しているなと思いクスクス笑いだした。

「本当に無欲な人ですね。ですけど、戦争の件だけじゃないんですよ?娘の命も、そして、息子のクルスの命も救ってくださったのですから」

 王妃様はそう言うと今度は大地の耳打ちしながら言う。

「もしあれでしたらうちの娘との結婚でもいいんですよ?」

 王様に続いてとんでもないことを言う王妃様だ。その言葉を聞いた大地は焦りながら直ぐに離れた。

「ささ、流石にそれは要求出来ません!!」

「あらあら。気が変わったら何時でもいらしてくださいね?」

 そんなやり取りをしている脇でレヴィアは倒れている王様の頭を撫でていた。

「大丈夫かしら?」

「お嬢ちゃん優しいね。ありがとう」

 そう言って起き上がりしゃがみ直すと王様はレヴィアの尻尾に目が向いた。

「君はモンスターなのかな?」

「ええ、そうよ。レヴィアって名前を大地がつけてくれたのよ」

 そう誇らしげに言うと、王様は反対にレヴィアの頭を撫でる。

「良い名前だね。レヴィアちゃん」

 その後、立ち上がった王様は思い出すように言う。

「そうそう、明日、パーティーを開くつもりだ。皆には是非参加してほしい」

「いいんですか?貴族の中に俺たちが混ざったら浮きますよ?」

「よいよい。クルスの快気祝いだ。君達がいないでどうする?」

 本来ならそれでも断るべきなんだろう。そう思うが次の王様の言葉で大地とフルネールは即決してしまった。

「当然、御馳走も用意しよう」

「「是非参加させてください!」」
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