初めての異世界転生

藤井 サトル

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王族よりめんどい貴族のご乱心

エルフと運命。その未来

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 馬車から降りた場所は大きな門を抜けた先にあるお城の大扉の前だ。そこで立ち尽くしていると扉が音を立てて開いた。その中には年老いた男が姿勢よく立っていた。

「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」

 特に挨拶なしでその男が振り返り歩き始めた。先導してくれるようだとわかり、そのままついていく事にした。

 城には一度だけ戦争するために来たことがある。と書くとこの国に喧嘩を売りに来たように聞こえるが、この城にある魔方陣から転移してもらっただけである。その時に余り内部を見ることが叶わなかったが今はその余裕がある。

 床には真っ赤なカーペットが引かれ、天井にはシャンデリアが並ぶ。今歩く廊下の左右には他の部屋への扉があったり、高そうな絵がかけられている。

 窓がないのは城に入って真っ直ぐ中央に向かっているからだろう。後どれくらい歩くのか?そう考えた矢先、大広間に出そうな入り口が見えた。扉はも大きくその両端に兵士が立っているのが見える。

 扉を開いてもらい大広間に入ると目の前には王様らしき人とその右には王妃様らしき人が豪華な椅子に座っていた。どうやらここが謁見の間のようだ。そこから視線を右に動かすとアーデルハイドとリリアが立っていた。

 ……りりあ?リリアナンデ?

 と思うが、考えれば奴隷絡みなら聖女が同室していても不思議ではないか。

「王様、お連れいたしました」

「うむ。下がってよいぞ」

 初老の男に頷いた王様は彼に引き下がるように言うと、初老の男は一礼を行ってから退室した。

 さて、ここからが問題だ。え?礼儀作法?そんなもの知らんぞ?敬語は……まぁできる。あれだよな?ですます言っておけば良いんだろ?

「お主がダイチか?」

 王様がそう言って大地を見つめてくる。少し白髪が見えてきているくらいだが金色の髪とうっすらと青い瞳はアーデルハイドと同じだ。

 これが王の威圧か!……人間の性か何か知らないが偉い人って苦手だ。

「はいです」

 大地さん。その返事は流石に無いです。

 ちょっと緊張しているだけだ、……たぶん。

「まずは此度の戦争、良くやってくれたな」

 おお、王様が誉め――。

「だが、ギルド長には皆殺しを頼んでいたはずだが?見せしめの意味を込めてな。それはダイチも聞いておるな?」

 あ、あー!誉めたんじゃなくて皮肉だったんかいな。

 アーデルハイドやリリアが王様の言葉で困惑の色をその表情に表した。

「お父さ――」

 そうアーデルハイドが王様を呼ぼうとしたが、王妃様がきつくアーデルハイドを睨んで黙らせた。

 しかし、その間に大地は冷静さを取り戻し王様を真っ直ぐ目を向ける。

「ええ、聞いています。けれど、私にはその勅命を受けていませんので」

 やればできるじゃないですか。後で頭を撫でてあげますね。

 いま大事な話をしてるところだから!

「ふむ」

 大地がそう言うと王様はしばし無言になる。部下が勝手にやりました作戦はダメだっただろうか?……まぁ部下が使う作戦じゃないし、部下でもないけど。

「そもそも、何故誰一人殺さなかった?力を誇示したかったか?」

「とある人と約束したからです」

「約束とな?」

「はい。誰も殺さないで欲しいと言われ、私が了承しただけです」

 そう言うと再び王様は「ふむ」と言って沈黙する。
 王様が考えている時間なのだろうが、この間が精神をじょりじょりと削られる感覚に陥るのだ。

 ああ。帰りたい。

 ダメですよ。もう少し頑張ってください?撫で撫でが待っていますよ!

「それで、ダイチの引き受けた報酬はなんだ?」

「え?報酬……?」

「そうだ。そんな無茶な話を引き受けたんだ。それなりのものを要求したのだろう?」

 んなこと言われても特に欲しいものがあってやったわけじゃないんだけど……。

 適当にこれから体を要求しますって言えば良いじゃないですか。

 言えるか!!

 リリアちゃんもいますし一石二鳥じゃないです?

 意味違うし何も得られてないからな?むしろ色々失うからな?一石二地獄だからな?

 そんなことわざありませんよ?

 知っとるわ!

「よもやただで……なんて事はないだろう。むしろそちらの方が怖いものだ。後からそれを弱味にして漬け込む事が出来るからな」

 バカな脳内会話をしてるうちに道を塞がれてしまった。

「……何も要求していませんし、するつもりもありません」

「その者とダイチがどういう関係かわからないが……理由なく引き受けた。と言うことか?」

「理由……ならあります」

 その言葉に王様は目を細目て鋭い視線で大地を観察するように見る。

「俺はその人に命を救われているんですよ。……だから俺ができる範囲でなら彼女の願いを聞いてやりたいんです」

「それが王である私の意向を無視してでも『誰一人死なせずに戦争を終わらせた』理由か?」

「そうです」

 何度めかの「ふむ」と王様が呟くが今度はすぐに口を開いた。

「命を……か。中々の枷をつけられたみたいだな」

「そうでもないですよ。俺がしたいからしているだけですし」

 今まで険しい顔つきだった王様が少し笑みをこぼしたように見えた。

「あなた?もうそろそろ良いんじゃないかしら?」

 そして隣の王妃様が王様にそう言うのだ。

 良いってなにが?

「そうだな。ダイチ君すまなかったな」

 君呼びもそうだが、雰囲気も何もかもが違いすぎる王様についていけてない大地はつい回りを見ると、後ろのフルネールやフルネールに教わったレヴィア、ライズとシャーリーは跪いていた。

 え?あれ?立っていたの俺だけかよ!?

 ええ、王様の前だというのにさすが大地さんだなって。権力に媚びねぇぜ!って姿勢がちょいワルですね!

 って言うか神様がその姿をとるのもどうよ?

 一回やってみたかったので♪

「後ろの皆さんも立ち上がってください」

 王妃様がそう優しく言うことで後ろの全員が立ち上がれた。

「えーっと?」

 何が何やら良くわからない大地は首をかしげていると王様が再び口を開いた。

「君がどういう人物か。王女から聞いてはいるが今回の件を通して見てみたかったんだ」

 ポカンとしているのは大地だけではなくアーデルハイドやリリアも展開についていけてないようだ。

「さて、まずは今回の戦争の褒美だが500万ゴールドを用意してある」

「ま、まってくれ!……あ!待ってください!」

 つい敬語を崩して言ってしまったが言い直したからセーフ?

 アウトじゃないですか?ちゃんと牢屋まで面会しにいきますね♪

 不吉なこと言うなよ。

 冗談ですよ冗談。ちゃんと一緒に牢屋に入りますから、よろしくお願いしますね♪

 牢屋行きを確定するなよ!

「これでは不満か?」

「いえ、そもそも私は王様の意向を無視してるのですよね?……それはつまり邪魔をしたのではないですか?だとしたらその報酬は受け取れません」

 大地の説明に王様がカラカラと笑い出した。

「確かに見せしめに言ったことは確かだが……裁量はベルヴォルフに任せるといつも通りに言ったのだ」

 確かにそんなことが読まれていたような?

「つまりどうするか全て任せた事になる。そのベルヴォルフがダイチ君が動くのをよしとして、結果的に全員捕虜として捕まえる事になったと言うだけの話だ。ダイチ君が邪魔したことは何一つない。……いや、それどころかあの状況で一人も死者を出さないことで国の力を見せしめる事ができたであろうな」

 つまり俺は無罪か!

「わかってくれたことで褒美を――」

「あの、その褒美の事なんですけど」

 大地さん。王様の話を遮るなんて本当に牢屋が好きなんですね?それとも、私と一緒に入れるからですか?

 え?あ、あー。やばい?

 しかし、大地の危惧は杞憂と言えるほど王様からは怒りを感じず優しく聞いてきた。

「別の褒美が欲しいとかかな?」

「はい。おれ……私の後ろにいる――」

「捕虜になるはずだったエルフの二人か?」

 大地より先に王様が言ったことで二人はビクリと反応する。

「はい。彼らは奴隷として戦争に無理やり参加させられていただけなんです。ですからどうか二人を捕虜として扱うのは許してあげてほしいんです」

「つまり二人を自由にさせる。と?」

「はい」

「ふむ」

 王様が考えている仕草をしながら王妃の方へ振り向いた。すると急に青ざめたような顔をしながら直ぐにこちらへと顔を向け直してきたのだ。何が見えたか分からないが今、王様から目線を外すのは得策じゃないだろう。

「二人の名は?」

 そして、そう王様が訪ねると二人は再び跪いて答えた。

「ライズ・エル・フォルンです」

「シャーリー・エル・フォルンです」

 王様は頷くと二人の瞳を覗き、そして、一つだけ問う。

「ライズとシャーリー。二人は……」

 次の言葉で二人の運命が変わるだろう。いや、二人だけではない。もしライズとシャーリーをこの国に押し込めるようなら大地は二人を連れての大逃亡劇が開始されるだろう。

 それ故にライズとシャーリーだけではなく大地も緊張からか唾を飲んで待つ。

「どうしたい?この国に住むか?南に森があるからそちらがいいか?それとも、この国を離れたところがいいか?」

 王様の言葉はつまり大地のお願いを既に受理しているものだった。その上で国の近くならば住む場所まで提供しようと言うのだ。

 路上生活をする大地たちよりも格上げである。……まじかよ。

「ほら、二人とも。王様の質問に答えてあげてくださいな」

 思ってもない言葉だっただけに唖然としているフォルン兄弟にフルネールが声をかけると、ようやくはっと気づいたように動き出した。

「あ、シャーリー?」

 ライズが妹の名前を呼ぶと、シャーリーは頷いて口を開くのだが、その先は王様ではなく大地だった。

「あの、ダイチさんもこの国に住んでいるんですよね?」

 あれ?俺達と一緒にギルド前で寝たはずだよな?

 いえ、大地さん。普通に考えて町の路上で寝る生活は住んでいるって言えるか微妙じゃないですか?

 ぐぅ……久々のボディブローか……。

「ま、まぁそうだな。住んでるよ」

 そう苦し紛れに言うと、視界の端でアーデルハイドが笑うのを堪えている姿とリリアがそれを苦笑しながら「笑ってはだめですよ」と止めているのが映った。

 あいつら……。

「そ、それなら私達も一緒にこの国に住みたいです。ダイチさんに恩返ししたいです……」

 そんな事考えなくていいのにな。

「わかった。家を用意するからそこに住むといい」

 王様の好意にライズが驚くと、少し考えてから言う。

「私達はそのような事をしてもらう立場では……」

 だが、王様はライズの言葉を手で制した。

「ダイチ君が言っていたように戦争に参加したのは君達の本意ではない事を知っているつもりだ。そして、この国に住む意思が有る事もわかった。なれば少しは国からも手伝わせてくれるか?君達がこの国で過ごしやすく住むのを」

「王様……ありがとうございます」

 奴隷にすることしか考えていない人間もいれば、このように優しい王もいるのだと。胸を熱くしながら敬意をもって二人のエルフは再び跪いた。
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