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異世界無双!1000対俺
人望なき指揮官は守って貰えない
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いきなり物騒な事を言ってくる二人組だが殺意はしっかりと伝わってくる。
そしてロアと名乗った女性が腰を少し下げて刀に手をかけ濃い口を切った。その瞬間、刀は振られていた。
刀から鞘を抜く音を聞く間もなく刃の煌めきが大地に迫る。
――ガキン。
と音が鳴った。ギリギリ大地が反応して銃で受け止めたのだ。
「私の一刀を受けた……だと?」
自信がたっぷりあった一撃だ。確実に首をはねた。と思っていた一撃が黒い何かによって防がれたのだ。硬い鉱石だろうと何だろうと切り裂けぬものがないと思っていた事もそうだが、その速さについてきて受けきられたことにロアはショックを受ける。
「あ……っぶねぇな」
空いた片方の銃で狙いをつけるのだが、炎が顔に飛んできて離れざるを得なかった。
当たっても痛くはないだろうが目が焼かれるのはきつい。
「おい、殺した兵士をどこにやった」
白髪の男、ダレンが睨んできた。
「そんなもんいねぇよ!」
だってコロコロしてねぇし。
「くっ、俺が死体を操る天才だと知って対策を立ててきやがったな」
誰だよコイツ。知らねぇよんなこと。
「だが俺は死体を操るだけが取り柄じゃないぜ!」
ダレンが集中しだすと空中に黒い渦を作り出した。そしてその黒い渦から手が出てきた。それもだいぶゴツくて大きい緑色した手だ。
徐々に黒い渦が大きくなるにつれてその中から人型の姿をしている緑色の巨体が出てくる。人の3~4倍はあるその姿は人間ではなくモンスターだろう。この世界ではもしかしたら亜人という存在の方が近いかもしれない。少なくとも見た目上は。
「見よ。コレが俺の扱う中でも最高の死体。ハイオークだ」
結局死体を操るだけが取り柄じゃないか。
「ネクロマンサーってやつか?」
「フッ。そんなものと一緒にしないでいただきたい。アレはただ死体に命令して動かすだけだが俺のは違う!俺自らが死体の力を100%引き出して動かす事が出来る。つまり俺がこのハイオークを操るという事はいくら攻撃をしても動きを止めないハイオークが暴れ続けるという事だ!あーっはっは。恐れをなして命乞いをしてもいいんだぞ?」
「……なんつーか。悪趣味だな。お前こんなのと組んでるのか?」
「え?あ。まぁ……モンスターならいいかなって……」
少しだけ言いづらそうにするロアは直視する事が出来ない程のうしろめたさは有るらしい。
「……直前に兵士の死体を探してたんだけどな。コイツ。ま、いいや。そのハイオークって消し炭にしてもいいんだよな?」
とりあえず聞いてあげる優しさを誰か評価してほしい。でも嫌だって言っても消し炭にするけどな。
「はっはっはー。出来る物ならやってみるがいい。こいつは魔法耐性も半端なくてな。殺すのに苦労した――」
ダレンが高笑いしながら自慢話を続けていた瞬間。高温の火炎砲が彼の頬を焼きながら通り抜ける。そしてハイオークはというと上半身のほとんどが円形状に消えていて、その穴となった境界線の回りは黒ずんで焦げていた。
「その状態でも動けるなら次は下半身を丸々吹っ飛ばすけど……どうよ?」
大地の腕にはバズーカーの様な筒状の武器を手にしていた。この武器は火力を圧縮して高温の炎を弾丸の様に飛ばす新兵器である。
「な、な。俺のハイオークが。貴様、なんだその魔法は!?」
「さぁな。でも今の言葉でわかったな……手の内が無くなったってな」
すかさずバズーカーを消してハンドガンを召喚し彼の意識を奪う。
「さて、逃げる気は……なさそうだな」
「当然だ。どの道逃げたらあの将軍に何て言われるかわからん。なら、死ぬ覚悟をもって攻めさせてもらう!」
「そうか。それならいい夢を」
――パパン。
銃口から発射された弾丸はダレンとロアへ目掛けて放たれた。ダレンは情けなく当たって倒れるものの、ロアはそれに対して剣を振るった。弾丸は引き裂かれたことはロアの後方で二か所地面が爆ぜた事でわかった。だが、ロアは痺れていない。
「今、斬ったよな?刃でも触れれば電流が伝わるはずだが……」
「やはり触れれば……か。逆を返せば触れなければいいんだろう?なら簡単さ。真空で斬り裂けば問題ない」
化け物だこの人ぉ。真空で斬ればってなんやねん。
大地さん。考え事が漏れてますよ?あとSランクはやっぱすごい人もいるんですね~。
「なるほどな」
などと焦った表情を見せない大地はポーカーフェイスを維持するがどうするか困ったものである。中途半端に強いやつが相手だと手加減が難しいのだ。
「それは二発同時に撃っても防げるものなのか?」
二つの銃口を構えて引き金を引いた。が、ロアが剣を振ったのは一度だけだった。
「なめているのか?それとも狙いが下手……と言うわけじゃあるまい?」
大地は片方は確実にロアに当たる様に狙ったが、もう片方は外れる様に狙った。理由としては二つ同時に浴びたら電気量で死にかねないと判断したからだ。だが、見切られてしまっては意味がない。
「はぁ。なぁ、もう当たってくれない?」
「断る!」
ですよねー!
「一体何なんだ?何故私を殺そうとしない?それとも私を殺す価値が無いとでもいうのか?」
「ちげぇよ!誰も死なせないって約束してきたからな。わりぃが付き合ってもらうぜ?」
片方をただのゴム弾に切り替えて二丁の銃口をロアに向け――引き金を引き続けた。
ひたすら音が鳴りやまない中でロアはすべて切り落としていく。ロアは今二つの弾丸を切り落とすのに必死なのがまるわかりだ。だからこそ……不意打ちが光ると言うものだ。
大地は二つの銃を撃ち続けながら次の兵器を召喚する。それは大地の背後に出現するとポトリと落ちる。その兵器はピンが抜かれた閃光手榴弾だ。
※尚、この武器は前にも使っているが『破裂』すると言うのが攻撃性に入る故に兵器である事も記載しておこう。
突如眩い光がロアを襲い、眩い光の中でショック弾を受けた彼女は意識を失った。
「これでよしっと……」
そんな彼女たちも無事ブタ箱送りにしてからも兵士は後から後からやって来る。正直に言うともう何人送ってるのかわからない。
それでも撃つのをやめないのは……そこに死にたがりの兵士達がいるからだ。
「たまにけったいな服装をした奴がいたけどありゃなんだ?」
ロア達を送ったあとに3人ほど見かけたのだが、無防備に近づいてくるもんだから即弾丸をぶちこんでしまった。
ようやく終わりが見えてきたのだ。目の前にはラスト5人だ。フードを被ったのが二人。鉄の鎧を着ているのが兵士で二人。その真ん中にいるのが何か偉そうなやつだな。
「きさま、俺の兵士を何処にや――」
「えい」
――パン!
「ぐあぁー」
恐らく聡明な諸君らには何が起きたか状況を説明しなくてもわかってしまうだろうが、今回の隊を指揮するゲルゴス将軍が話している最中に大地は無表情で引き金を引いたのだ。その結果、ゲルゴス将軍の意識はこの場から即座にリタイアした。
さらに二人の兵士を撃ち抜いて三人仲良く砦へと出荷を終わらせる。
因みにフードを被った二人を残した理由はたった一つで、ただ顔を隠しているのが気になった。それだけだある。
「さて、あとはお前らだけか」
「殺したのか……」
片方のフードが聞いてくる。男の声だ。
「さぁどうだろうな?」
顔隠したまましゃべる相手に意地悪するように不適な笑みを浮かべて返す。
だが、フードの男……ライズは大地の事をこう受け取った。無表情で人を殺せるおぞましい男。と。
であれば全力で抵抗しなければならない。力量の差ははっきりしているがやらなけらば……やられる!
「その答えで十分だ!」
ライズは魔力を集める。その衝撃にフードが脱げてその美貌をさらした。金髪に翆眼、とがった耳はどうみても……。
コイツエルフだ!イケメンだ!!
大丈夫ですよ。大地さんだってかっこいいですよ!
エルフより?
………………。
何か言ってくれよぉ!!
「兄さん……!」
もう片方の人もフードが脱げるがこちらも同じくして金髪、翆眼のエルフだ。
もう一人もエルフだ!?美女だ!?
「俺たちはどのみち呪いで戦うしかないんだ!」
一度始めたら自分の力ではもう止められない。呪いの強制力がそうさせるのだ。その中でもある程度抵抗することはできる。使用する魔力量を少なくしたり、込める力を弱めたりと。
だが、目の前の男は危険すぎる。呪いの命令で命乞いは出来ないにしろ命を奪うのに容赦はしないだろう。だから、全力でやるしかない。
「業火に焼かれろ!!」
その言葉と共に大地の四方から火柱が上がり近づいていく。そして大地を炎で包むと天まで昇る巨大な火柱となった。
「初めて火の魔法を受けたが……たいしたことねぇな」
魔法によるものか熱さはあまり感じない。むしろ外の気温が暑くてどうでもいい感じだな。
あと、酸素を燃やしていないのか息も出来る。唯一あげるとすれば……火の明かりで目がチカチカするくらいだ。……つらい。早く出よ。
「くっ……倒せないとは思っていたが無傷か……」
「じゃあ。お休み」
銃口を向けて銃弾を放つとライズはそれを避ける。
うっそだろ!?銃弾を見て避けやがったぞ。
「兄さんを助けなきゃ……」
シャーリーが水を召喚する。それは球体を型どって凍ってゆく。やがで大きな氷の塊になると大地にめがけて飛んでいった。
それを片手を出して真正面から受けると氷は粉々に砕け散った。
うーん。海龍よりも攻撃力は劣るかな?
「うそ!?……これならどう!?落ちろ雷!!」
巨大な落雷が大地へと落ちる。それも一瞬ではなく柱のように雷が落ち続けるのだ。
目が目があああああああーーーー!!!!痛いんじゃなくてつらい。
落雷が終わると動かない大地をライズとシャーリーは様子を見る。やったのか?そう思った矢先、大地が動いた。
「そんな……」
シャーリーが怯んだ一瞬の隙に大地は機械型電撃ロープを召喚して投げるとシャーリーの体を両腕ごと巻き付き輪の様にカチリとはまって動けなくなる。
「きゃ!」
「シャーリー!!くそっ!」
ライズが剣を引き抜き大地へと接近して振り下ろす。だが、それも簡単に避ける大地は余裕そうに語り掛ける。
「もう諦めて楽にならないか?」
とっとと気絶してほしいところなのだが、その言葉はライズが聞くと『諦めて死ね』という意味に聞こえる。
「ふざけるな。俺たちは生きてこの呪いを解くんだ!!邪魔をするなぁ!!」
ライズの烈火の如くの勢いで剣を振るうがそれでも大地には当たらない。
「呪い?何か呪われてるのか?」
大地の言葉に動きを止めたライズは忌々しそうに言う。
「奴隷の呪いだ。聞いたことあるだろう?人間の王につけられたんだ!!」
ああ。ここにも人間を恨む奴が一人。
「……もしかしてお前達は無理矢理戦わさせられているのか?」
「だからどうした。貴様は兵士を皆殺しにするやつだろ!」
まって!何で俺がそんなことする奴に認定されてるんだ?
「俺なら呪いを解くことが出来る。だから一旦止まらないか……」
「なんだと……いや、それは嘘だな。この呪いを解けるのは聖女だけだと聞いたことがある。お前はどうみても男だろ?なら、俺を騙す口実としか考えられん!!」
まぁ戦いの最中に止まれってのは無理だよな。それなら無理矢理か。
ライズが大降りの一撃を大地へと繰り出す。それを避けずに剣をガシッと掴む。幸い【女神との契約】によって指が落ちるどころか怪我すらないのだが、無傷によって『これって人間やめてないかな?』と思うことで精神的ダメージが発生するのは問題だ。
「離せ!!」
「ちょっと我慢しろ」
そう言って大地はライズの肩に手を置くと後光の光を流すと、その瞬間バチっと弾かれた。
前回と違う感触に大地は困惑するが、ライズも困惑していた。
「呪いは解けてないが……弱まった?」
フルネール。奴隷の呪い解けないんだけどどうなってんの!
え?あー!もしかして強い奴隷の呪いを受けているんでしょうね。
奴隷の呪いに強弱があるのか。それでどうしたらいい?
そういう呪いは紋様に触れながら後光を直接流せば解除出来るはずですよ。
「お前本当に呪い解けるのか?」
一度、後光を流されたことによって呪いの効力が一時的にマヒした結果、ライズは自由に動くことができる。だからこそ、先ほど大地が言ったことに信憑性を感じたのだ。
「解くためには奴隷の紋様に直接触れないとダメらしい」
「……わかった。敵の俺が言うのも何なんだが……頼めるだろうか」
「任せろ。それで何処に刻まれているかわかるか?」
「俺は右腕だ」
そう言ってエルフは上半身の服を脱ぎ捨てる。確かに右腕にそれらしい紋様が見つかった。
「これか」
大地は呟きながらその紋様に触れて後光を流し込む。するとパリンと音が鳴り奴隷の紋様が消え去り、ライズが感じていた体の重さが消え去った。
「……呪いが消えたのがわかる……ありがとう。そして、すまない。シャーリーの呪いも解いてもらえないだろうか。その礼は必ず――」
「んなもん要らねえよ。因みにその子は何処に刻まれているんだ?」
「それは……俺にはわからない。一先ず最初に俺にやったようにバチっとしてくれれば呪いは弱まるはずだ」
いや、うん。俺が何したかよくわからないからそう言うしかないんだろうけど、頭の良さそうなエルフが擬音を口にするのは違和感あるなぁ。
そんなことを考えつつ一度肩にふれてバチったあと機械型電撃ロープを消し去る。
「兄さんこれは……?」
いまいち事態を読み込めていないが自身の呪いが弱まったことはわかる。だからこそ困惑した。
「シャーリーこの人なら呪いを解けるぞ。ただ奴隷の紋様に触れなければいけないんだ」
「え!?……触れないとダメなの?」
更に困惑の色を濃くしたシャーリーを見て、人間に触れられるのに抵抗があるのかも知れない。
やはりエルフだけあってプライドが高いのだろう。
「シャーリー。人間のことが嫌いだろうけど今は我慢してくれ」
「ううん。そう言うことじゃないんだけど……でもそうよね。わがまま言えないよね」
そう言うとシャーリーは自身の服、その襟首を閉めている紐をゆっくりとほどいていく。
「あのね、私の紋様はここなの」
シャーリーが緩くなった襟首から開いて胸元をはだけさせて見せる。確かに紋様が刻まれている。ただその場所がきわどい。下手に動かせば触れてしまいかねないだろう。
「えーっと、これは俺じゃなくてホワイトキングダムに戻ってリ……聖女にお願いした方がいいかな?」
「それが厳しいことはわかるだろう」
今は大地によって一時的に呪いが薄くなっているにすぎないのだ。後光の効力が切れた瞬間、魔法を連発されては危険なのである。
「その……私は覚悟を決めてますから。お願いします……!」
自分は手を絶対に出さないと言うようにシャーリーは腕ごと背中に回し、でも恥ずかしさから耳まで赤くしながら顔を背ける。
当事者からしたら……卑劣な方法で如何わしいことをしているように思える。だが、ずっと待たせているわけにもいかない。
「触るぞ」
だからこそ、大地は慎重に指を伸ばして紋様が刻まれた肌に触れた。
ピクっと小さく震える彼女の視線は大地へと戻ると艶かしい声が漏れるのだが、そこは残念!割愛させてもらいご想像に任せるとして、大地は出来る限り反応しないように勤める。劣情でも抱けば彼女の頑張りを裏切る行為だ。それは……とてもカッコ悪い。
邪念を振り払い大地が後光を紋様に流すとパリンと音を立ててシャーリーの奴隷の呪いはあっさりと消え去った。
「呪いが……消えた……」
そう実感した瞬間、シャーリーは思いっきり喜んだ。
「やったぁ!!ありがとう!!」
そして嬉しさのあまりに大地へと抱きつき、大地はその柔らかな感触に困惑しながら必死に落ち着かせるのだった。
そしてロアと名乗った女性が腰を少し下げて刀に手をかけ濃い口を切った。その瞬間、刀は振られていた。
刀から鞘を抜く音を聞く間もなく刃の煌めきが大地に迫る。
――ガキン。
と音が鳴った。ギリギリ大地が反応して銃で受け止めたのだ。
「私の一刀を受けた……だと?」
自信がたっぷりあった一撃だ。確実に首をはねた。と思っていた一撃が黒い何かによって防がれたのだ。硬い鉱石だろうと何だろうと切り裂けぬものがないと思っていた事もそうだが、その速さについてきて受けきられたことにロアはショックを受ける。
「あ……っぶねぇな」
空いた片方の銃で狙いをつけるのだが、炎が顔に飛んできて離れざるを得なかった。
当たっても痛くはないだろうが目が焼かれるのはきつい。
「おい、殺した兵士をどこにやった」
白髪の男、ダレンが睨んできた。
「そんなもんいねぇよ!」
だってコロコロしてねぇし。
「くっ、俺が死体を操る天才だと知って対策を立ててきやがったな」
誰だよコイツ。知らねぇよんなこと。
「だが俺は死体を操るだけが取り柄じゃないぜ!」
ダレンが集中しだすと空中に黒い渦を作り出した。そしてその黒い渦から手が出てきた。それもだいぶゴツくて大きい緑色した手だ。
徐々に黒い渦が大きくなるにつれてその中から人型の姿をしている緑色の巨体が出てくる。人の3~4倍はあるその姿は人間ではなくモンスターだろう。この世界ではもしかしたら亜人という存在の方が近いかもしれない。少なくとも見た目上は。
「見よ。コレが俺の扱う中でも最高の死体。ハイオークだ」
結局死体を操るだけが取り柄じゃないか。
「ネクロマンサーってやつか?」
「フッ。そんなものと一緒にしないでいただきたい。アレはただ死体に命令して動かすだけだが俺のは違う!俺自らが死体の力を100%引き出して動かす事が出来る。つまり俺がこのハイオークを操るという事はいくら攻撃をしても動きを止めないハイオークが暴れ続けるという事だ!あーっはっは。恐れをなして命乞いをしてもいいんだぞ?」
「……なんつーか。悪趣味だな。お前こんなのと組んでるのか?」
「え?あ。まぁ……モンスターならいいかなって……」
少しだけ言いづらそうにするロアは直視する事が出来ない程のうしろめたさは有るらしい。
「……直前に兵士の死体を探してたんだけどな。コイツ。ま、いいや。そのハイオークって消し炭にしてもいいんだよな?」
とりあえず聞いてあげる優しさを誰か評価してほしい。でも嫌だって言っても消し炭にするけどな。
「はっはっはー。出来る物ならやってみるがいい。こいつは魔法耐性も半端なくてな。殺すのに苦労した――」
ダレンが高笑いしながら自慢話を続けていた瞬間。高温の火炎砲が彼の頬を焼きながら通り抜ける。そしてハイオークはというと上半身のほとんどが円形状に消えていて、その穴となった境界線の回りは黒ずんで焦げていた。
「その状態でも動けるなら次は下半身を丸々吹っ飛ばすけど……どうよ?」
大地の腕にはバズーカーの様な筒状の武器を手にしていた。この武器は火力を圧縮して高温の炎を弾丸の様に飛ばす新兵器である。
「な、な。俺のハイオークが。貴様、なんだその魔法は!?」
「さぁな。でも今の言葉でわかったな……手の内が無くなったってな」
すかさずバズーカーを消してハンドガンを召喚し彼の意識を奪う。
「さて、逃げる気は……なさそうだな」
「当然だ。どの道逃げたらあの将軍に何て言われるかわからん。なら、死ぬ覚悟をもって攻めさせてもらう!」
「そうか。それならいい夢を」
――パパン。
銃口から発射された弾丸はダレンとロアへ目掛けて放たれた。ダレンは情けなく当たって倒れるものの、ロアはそれに対して剣を振るった。弾丸は引き裂かれたことはロアの後方で二か所地面が爆ぜた事でわかった。だが、ロアは痺れていない。
「今、斬ったよな?刃でも触れれば電流が伝わるはずだが……」
「やはり触れれば……か。逆を返せば触れなければいいんだろう?なら簡単さ。真空で斬り裂けば問題ない」
化け物だこの人ぉ。真空で斬ればってなんやねん。
大地さん。考え事が漏れてますよ?あとSランクはやっぱすごい人もいるんですね~。
「なるほどな」
などと焦った表情を見せない大地はポーカーフェイスを維持するがどうするか困ったものである。中途半端に強いやつが相手だと手加減が難しいのだ。
「それは二発同時に撃っても防げるものなのか?」
二つの銃口を構えて引き金を引いた。が、ロアが剣を振ったのは一度だけだった。
「なめているのか?それとも狙いが下手……と言うわけじゃあるまい?」
大地は片方は確実にロアに当たる様に狙ったが、もう片方は外れる様に狙った。理由としては二つ同時に浴びたら電気量で死にかねないと判断したからだ。だが、見切られてしまっては意味がない。
「はぁ。なぁ、もう当たってくれない?」
「断る!」
ですよねー!
「一体何なんだ?何故私を殺そうとしない?それとも私を殺す価値が無いとでもいうのか?」
「ちげぇよ!誰も死なせないって約束してきたからな。わりぃが付き合ってもらうぜ?」
片方をただのゴム弾に切り替えて二丁の銃口をロアに向け――引き金を引き続けた。
ひたすら音が鳴りやまない中でロアはすべて切り落としていく。ロアは今二つの弾丸を切り落とすのに必死なのがまるわかりだ。だからこそ……不意打ちが光ると言うものだ。
大地は二つの銃を撃ち続けながら次の兵器を召喚する。それは大地の背後に出現するとポトリと落ちる。その兵器はピンが抜かれた閃光手榴弾だ。
※尚、この武器は前にも使っているが『破裂』すると言うのが攻撃性に入る故に兵器である事も記載しておこう。
突如眩い光がロアを襲い、眩い光の中でショック弾を受けた彼女は意識を失った。
「これでよしっと……」
そんな彼女たちも無事ブタ箱送りにしてからも兵士は後から後からやって来る。正直に言うともう何人送ってるのかわからない。
それでも撃つのをやめないのは……そこに死にたがりの兵士達がいるからだ。
「たまにけったいな服装をした奴がいたけどありゃなんだ?」
ロア達を送ったあとに3人ほど見かけたのだが、無防備に近づいてくるもんだから即弾丸をぶちこんでしまった。
ようやく終わりが見えてきたのだ。目の前にはラスト5人だ。フードを被ったのが二人。鉄の鎧を着ているのが兵士で二人。その真ん中にいるのが何か偉そうなやつだな。
「きさま、俺の兵士を何処にや――」
「えい」
――パン!
「ぐあぁー」
恐らく聡明な諸君らには何が起きたか状況を説明しなくてもわかってしまうだろうが、今回の隊を指揮するゲルゴス将軍が話している最中に大地は無表情で引き金を引いたのだ。その結果、ゲルゴス将軍の意識はこの場から即座にリタイアした。
さらに二人の兵士を撃ち抜いて三人仲良く砦へと出荷を終わらせる。
因みにフードを被った二人を残した理由はたった一つで、ただ顔を隠しているのが気になった。それだけだある。
「さて、あとはお前らだけか」
「殺したのか……」
片方のフードが聞いてくる。男の声だ。
「さぁどうだろうな?」
顔隠したまましゃべる相手に意地悪するように不適な笑みを浮かべて返す。
だが、フードの男……ライズは大地の事をこう受け取った。無表情で人を殺せるおぞましい男。と。
であれば全力で抵抗しなければならない。力量の差ははっきりしているがやらなけらば……やられる!
「その答えで十分だ!」
ライズは魔力を集める。その衝撃にフードが脱げてその美貌をさらした。金髪に翆眼、とがった耳はどうみても……。
コイツエルフだ!イケメンだ!!
大丈夫ですよ。大地さんだってかっこいいですよ!
エルフより?
………………。
何か言ってくれよぉ!!
「兄さん……!」
もう片方の人もフードが脱げるがこちらも同じくして金髪、翆眼のエルフだ。
もう一人もエルフだ!?美女だ!?
「俺たちはどのみち呪いで戦うしかないんだ!」
一度始めたら自分の力ではもう止められない。呪いの強制力がそうさせるのだ。その中でもある程度抵抗することはできる。使用する魔力量を少なくしたり、込める力を弱めたりと。
だが、目の前の男は危険すぎる。呪いの命令で命乞いは出来ないにしろ命を奪うのに容赦はしないだろう。だから、全力でやるしかない。
「業火に焼かれろ!!」
その言葉と共に大地の四方から火柱が上がり近づいていく。そして大地を炎で包むと天まで昇る巨大な火柱となった。
「初めて火の魔法を受けたが……たいしたことねぇな」
魔法によるものか熱さはあまり感じない。むしろ外の気温が暑くてどうでもいい感じだな。
あと、酸素を燃やしていないのか息も出来る。唯一あげるとすれば……火の明かりで目がチカチカするくらいだ。……つらい。早く出よ。
「くっ……倒せないとは思っていたが無傷か……」
「じゃあ。お休み」
銃口を向けて銃弾を放つとライズはそれを避ける。
うっそだろ!?銃弾を見て避けやがったぞ。
「兄さんを助けなきゃ……」
シャーリーが水を召喚する。それは球体を型どって凍ってゆく。やがで大きな氷の塊になると大地にめがけて飛んでいった。
それを片手を出して真正面から受けると氷は粉々に砕け散った。
うーん。海龍よりも攻撃力は劣るかな?
「うそ!?……これならどう!?落ちろ雷!!」
巨大な落雷が大地へと落ちる。それも一瞬ではなく柱のように雷が落ち続けるのだ。
目が目があああああああーーーー!!!!痛いんじゃなくてつらい。
落雷が終わると動かない大地をライズとシャーリーは様子を見る。やったのか?そう思った矢先、大地が動いた。
「そんな……」
シャーリーが怯んだ一瞬の隙に大地は機械型電撃ロープを召喚して投げるとシャーリーの体を両腕ごと巻き付き輪の様にカチリとはまって動けなくなる。
「きゃ!」
「シャーリー!!くそっ!」
ライズが剣を引き抜き大地へと接近して振り下ろす。だが、それも簡単に避ける大地は余裕そうに語り掛ける。
「もう諦めて楽にならないか?」
とっとと気絶してほしいところなのだが、その言葉はライズが聞くと『諦めて死ね』という意味に聞こえる。
「ふざけるな。俺たちは生きてこの呪いを解くんだ!!邪魔をするなぁ!!」
ライズの烈火の如くの勢いで剣を振るうがそれでも大地には当たらない。
「呪い?何か呪われてるのか?」
大地の言葉に動きを止めたライズは忌々しそうに言う。
「奴隷の呪いだ。聞いたことあるだろう?人間の王につけられたんだ!!」
ああ。ここにも人間を恨む奴が一人。
「……もしかしてお前達は無理矢理戦わさせられているのか?」
「だからどうした。貴様は兵士を皆殺しにするやつだろ!」
まって!何で俺がそんなことする奴に認定されてるんだ?
「俺なら呪いを解くことが出来る。だから一旦止まらないか……」
「なんだと……いや、それは嘘だな。この呪いを解けるのは聖女だけだと聞いたことがある。お前はどうみても男だろ?なら、俺を騙す口実としか考えられん!!」
まぁ戦いの最中に止まれってのは無理だよな。それなら無理矢理か。
ライズが大降りの一撃を大地へと繰り出す。それを避けずに剣をガシッと掴む。幸い【女神との契約】によって指が落ちるどころか怪我すらないのだが、無傷によって『これって人間やめてないかな?』と思うことで精神的ダメージが発生するのは問題だ。
「離せ!!」
「ちょっと我慢しろ」
そう言って大地はライズの肩に手を置くと後光の光を流すと、その瞬間バチっと弾かれた。
前回と違う感触に大地は困惑するが、ライズも困惑していた。
「呪いは解けてないが……弱まった?」
フルネール。奴隷の呪い解けないんだけどどうなってんの!
え?あー!もしかして強い奴隷の呪いを受けているんでしょうね。
奴隷の呪いに強弱があるのか。それでどうしたらいい?
そういう呪いは紋様に触れながら後光を直接流せば解除出来るはずですよ。
「お前本当に呪い解けるのか?」
一度、後光を流されたことによって呪いの効力が一時的にマヒした結果、ライズは自由に動くことができる。だからこそ、先ほど大地が言ったことに信憑性を感じたのだ。
「解くためには奴隷の紋様に直接触れないとダメらしい」
「……わかった。敵の俺が言うのも何なんだが……頼めるだろうか」
「任せろ。それで何処に刻まれているかわかるか?」
「俺は右腕だ」
そう言ってエルフは上半身の服を脱ぎ捨てる。確かに右腕にそれらしい紋様が見つかった。
「これか」
大地は呟きながらその紋様に触れて後光を流し込む。するとパリンと音が鳴り奴隷の紋様が消え去り、ライズが感じていた体の重さが消え去った。
「……呪いが消えたのがわかる……ありがとう。そして、すまない。シャーリーの呪いも解いてもらえないだろうか。その礼は必ず――」
「んなもん要らねえよ。因みにその子は何処に刻まれているんだ?」
「それは……俺にはわからない。一先ず最初に俺にやったようにバチっとしてくれれば呪いは弱まるはずだ」
いや、うん。俺が何したかよくわからないからそう言うしかないんだろうけど、頭の良さそうなエルフが擬音を口にするのは違和感あるなぁ。
そんなことを考えつつ一度肩にふれてバチったあと機械型電撃ロープを消し去る。
「兄さんこれは……?」
いまいち事態を読み込めていないが自身の呪いが弱まったことはわかる。だからこそ困惑した。
「シャーリーこの人なら呪いを解けるぞ。ただ奴隷の紋様に触れなければいけないんだ」
「え!?……触れないとダメなの?」
更に困惑の色を濃くしたシャーリーを見て、人間に触れられるのに抵抗があるのかも知れない。
やはりエルフだけあってプライドが高いのだろう。
「シャーリー。人間のことが嫌いだろうけど今は我慢してくれ」
「ううん。そう言うことじゃないんだけど……でもそうよね。わがまま言えないよね」
そう言うとシャーリーは自身の服、その襟首を閉めている紐をゆっくりとほどいていく。
「あのね、私の紋様はここなの」
シャーリーが緩くなった襟首から開いて胸元をはだけさせて見せる。確かに紋様が刻まれている。ただその場所がきわどい。下手に動かせば触れてしまいかねないだろう。
「えーっと、これは俺じゃなくてホワイトキングダムに戻ってリ……聖女にお願いした方がいいかな?」
「それが厳しいことはわかるだろう」
今は大地によって一時的に呪いが薄くなっているにすぎないのだ。後光の効力が切れた瞬間、魔法を連発されては危険なのである。
「その……私は覚悟を決めてますから。お願いします……!」
自分は手を絶対に出さないと言うようにシャーリーは腕ごと背中に回し、でも恥ずかしさから耳まで赤くしながら顔を背ける。
当事者からしたら……卑劣な方法で如何わしいことをしているように思える。だが、ずっと待たせているわけにもいかない。
「触るぞ」
だからこそ、大地は慎重に指を伸ばして紋様が刻まれた肌に触れた。
ピクっと小さく震える彼女の視線は大地へと戻ると艶かしい声が漏れるのだが、そこは残念!割愛させてもらいご想像に任せるとして、大地は出来る限り反応しないように勤める。劣情でも抱けば彼女の頑張りを裏切る行為だ。それは……とてもカッコ悪い。
邪念を振り払い大地が後光を紋様に流すとパリンと音を立ててシャーリーの奴隷の呪いはあっさりと消え去った。
「呪いが……消えた……」
そう実感した瞬間、シャーリーは思いっきり喜んだ。
「やったぁ!!ありがとう!!」
そして嬉しさのあまりに大地へと抱きつき、大地はその柔らかな感触に困惑しながら必死に落ち着かせるのだった。
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