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異世界無双!1000対俺
お金の使い方はよく考えよう
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ギルドを出てこれからレヴィアの服を買いにいこうとした時である。
「ダイチさん。せっかくですしついでに皆さんでお食事しませんか?」
そうリリアからのお誘いがあった。フルネールもレヴィアも特に拒否のような反応をしておらず、グラネスに目を向けても頷くばかりで特にこれと言ったアクションがないため問題なしと判断した大地はリリアの誘いを受けることにした。
しかし、先んじてやることはレヴィアの服の購入だ。今の姿では町を歩くだけで人気者だからな……。
「しかしどういう服装がいいんだろうか?」
「可愛い服装がいいですよね?」
大地の問いに答えたのはフルネールなのだがそうじゃない。
「いや、尻尾の問題どうするんだよ」
一応スカートなら問題なくはけるだろうし、尻尾を上方向へ上げず下げていれば中は見られないだろうが、それは少々窮屈そうでもある。……たぶんレヴィアは嫌がるだろう。
「もうバカですね。そんなのは開ければいいんですよ。モンスターと契約する人がいるんですからモンスター用の服に加工するくらいしてくれますよ」
な…んだと……。そんな事までしてくれる店があるのか。
「と言うことでこのお店でお着替えタイムです!」
『お洒落は戦闘力』と書いてある店でフルネールとリリアが楽しそうにレヴィアを連れて奥へと消えていった。
残されたおっさんとゴツイおっさんのツインズは店の前で待つしかない。華?そんなものはねぇよ!
「グラネスもこんなのに付き合わされて大変だな」
「そうでもないさ。むしろSランク討伐のお手伝いに行くと言わないだけな……」
「そういや……なんでグラネスはリリアのためにそんなに命を張るんだ?」
グラネスは妻がいると聞いた。だが、こいつは無謀にも海龍に単独で向かうリリアのためについていったんだ。確実に死ぬとわかっているのに。だ。
確かにそのお陰でリリアが死ぬことはなかったけれど、大地が遅れたら二人とも死んでいたんだ。それもこいつの場合、妻を残して……だ。
「実は俺は貴族でな……」
貴族!?こんなにゴツイのにか!?
「実力もあるから隊の長も勤めてたんだ」
「実力がSランク相当だって言っていたからな」
しかし、それなら何故今ここにいるんだ?
「気になるようだな……待っている間、少し昔話でもしようか」
そう言ってグラネスは少し遠くを見つめた。過去の出来事を思い出すように。
***
俺の受け持つ隊は全員引き連れて南の森だ訓練することがあるんだ。
「よし!基礎訓練はここまででいいだろう!昼食の後、戦闘訓練に移る!」
その場外訓練は隊全体の強化と結束力を固めるのが目的となるんだが……10日に一回くらいしかやらないって言うのに毎回どこからか聞き付けくるのか今の妻……当時は許嫁のメリナが弁当を作って持ってくるんだよ。
「グ~ラ~ネ~ス!また来ちゃった!」
「メリナ……何時も言っているがここはモンスターが出る場所で危険なんだ。こんなことは止めてくれ」
「えー?でも、こう言う時じゃないと私の手料理食べてもらえる機会が無いじゃない」
メリナも貴族の令嬢なんだが料理が趣味でな。貴族の中では変わってると言われるだが……隊の中では人気でな。特に太陽のように眩しい笑顔に惹き付けられ、飯も美味いからな隊員達も喜んじまって、結局強く反対する奴は俺を含めて居なかったよ。
「どう?グラネス……美味しく出来てるかな?」
そんな風に毎回顔を除き込んで聞いてくるんだ。そして、それを見た隊員達は茶化す茶化す……。ま、茶化してきた隊員達はまとめて特別訓練してやったけどな。
……メリナとの結婚が近づいてきたあの日も場外訓練だったんだ。
「隊長。メリナさん遅いですね。何時もならもう来てるはずですのに」
「ようやくここが危ないってわかったんだろ。いいから訓練に集中しろ!」
俺は隊員にそう言っておきながらも気になってな。何度も言ったところで聞きやしないメリナが来なくなるか?とな。もし風邪とかならそれでいいんだ。
だけど、虫の知らせと言う奴か……嫌な予感がしたんだ。
「あ!隊長!?」
俺は隊を置いて何時もメリナがやって来る方向へと駆け出した。走れば走るほど焦りが強くなっていく一方できっと大丈夫だ。風邪かなんかだ。と思うようにしてな。
だが……悪い予感は当たるものだ。
南の森には小さな蛇型モンスターがいるんだ。名前はブラックロングアサシンと言ってな、数はかなり少なく滅多に出会うことはない上に女性でもナイフがあれば倒せるくらいだ。
ただ、その毒が強力でな噛まれればほんの数十分で命を落とす。そして、俺が森の中でメリナを見つけたときは……メリナは倒れていて、近くにはそのモンスターがナイフで首を切断されていたよ。
一瞬で噛まれていたのがわかった。噛まれてどれぐらい経っているのか。それを知るすべは俺にはない。
でも、まだ彼女から息づかいが聞こえてくる。まだ生きている。そう感じた瞬間的俺は彼女を抱き上げて王都まで必死に走ったよ。
毒って言うのは時間が経つにつれて治療が難しくなるんだ。加えてブラックロングアサシンの毒でもある。治療魔法が使えても並大抵の魔法使いでは治すことはできないだろう。……はっきり言ってしまえば助けられる可能性はなかった。だけど、王都に戻る最中、ギルド前に聖女リリア様がいたんだ。
あの時のリリア様は……何と言うか人が怖かったのかもしれない。……いや、何かに傷つくのが怖かった?そんな感じだな。
「リリア様!」
俺がそう言うとリリア様はビクついたんだ。
「な、なんですか……」
いつもの俺だったら……たぶんその反応だけで萎縮して頭を下げて離れただろうな。だが、俺もそれどころじゃなかったんだ。
「お願いします!メリナを助けてください!!」
そう言うとリリア様はメリナに顔を向けてな……そのとたんにリリア様の顔が怯えから真剣なものに変わったんだ。
「その人を早く下ろしてください!!」
今思うとあの感じは今のリリア様って感じだった。
俺が抱き上げていたメリナを地面に下ろすとリリア様は急いでメリナを魔法で調べてくれた。その時の表情からメリナの容態が最悪だったのはわかったよ。でも、リリア様は言うんだ。
「……必ず治しますから。安心してください」
当時のリリア様は聖女としての力を使うところは実は見たことなくてな。一度だけモンスターの戦いに行ったことがあるらしいが、その時も戦いはせずアーデルハイド王女様の後ろに隠れて、回復魔法が使える普通の魔法使いと同じような怪我人を治療するくらいしかしてないと聞いたんだ。
たぶん、その時もまだ魔法はあまり使い慣れていなかったんだと思う。
そして治療魔法が開始されたよ。リリア様の額には玉の汗を浮かべながら、それでも集中力を切らさず……ついにはメリナの毒を完全に消してくれた。
***
「リリア様は俺の妻の命の恩人なんだ。だから、結婚を機に俺は王様へ志願した。リリア様を守るために退役させて欲しいと。な」
グラネスは肺にたまった空気を吐き出すと大地に振り向いた。
「今だからわかるんだが、あの時のリリア様の実力では成功率が1%くらいの高難易度の魔法だったらしく、無理やり続けていたらリリア様も危険だったらしい」
「いろいろ聞きたいがその話って何年前だ?」
「あー、8年?……前だったかな。俺が21でリリア様が8の時だな」
そんな時から命を投げ出そうとしていたのか……恐ろしい子だ。この世界が嫌いなのか?
「今はもう城には勤めてないんだよな?その、金とか大丈夫なのか?結婚しているなら……」
「何言っているんだ俺も妻も貴族だぞ?俺が家にいなくても他で稼ぐ術は整えている。さらに言うと結局、俺は城勤めから離れていないんだ」
「そうなのか?でも今ハンターだろ?」
「俺が退役を申し出た時に王様が別命を割り込んできてな……それがリリア様と同じハンターとなって守ることだと。因みに俺がBランクでいるのはAランク以上のハンターに言い渡される依頼を避けるためだ」
「言い渡されるってそれは拒否れないのか?」
「断ればその国でハンターは続けられなくなるだろうな。それにパーティを組んでいても別々に依頼が来ることもある。だが、Bランクなら来ないしリリア様にくる依頼もついていけると言うわけだ」
なるほどな。
「まぁ簡単に言うと妻の命を救ってくれたから……俺はリリア様に命をかけれるんだ。あと、リリア様の前で『様』をつけて呼ぶと怒られるから気を付けたほうがいいんだが……大地には関係なさそうだな」
「あー、まぁ今さら『様』ってつけるのはな。最初なんて『ちんちくりん』って呼んでたぐらいだぞ?」
グラネスがそれを聞くと思い出したようにクックックと喉で笑う。
「ああ。大地がハンターになったばかりでモンスターと初めて戦いに行った時だな。あの後大変だったんだぞ?リリア様が『私たちも様子を見に行きましょう!』と言ってな、あんなリリア様を見たのは初めてだったぞ」
「俺の印象だとリリアはたまに暴走するからな……」
「まさにそれだ」
再びクックッと笑うグラネス。
「俺もユーナさんも止めたんだが結局聞かなくてな」
「……でもそのお陰でアーデルハイドもミリアさんも無事だったわけだからな」
「……リリア様は大地。貴方と出会ってからの変わりようは劇的だったよ。だから……これからも許されている限りはリリア様と仲良くしてやってくれ」
「若い女をこんなおっさんにお願いなんてするもんじゃないだろ。まぁリリアが結婚するまで。とかなら……だな」
グラネスが何も言わないのはそう言う未来が割りと近いからだろうか?
「何か聖女って特別みたいだし婚約とかしててもおかしくはないだろう?或いは、もうすぐそう言った話があるのかねぇ……」
前者にしろ、後者にしろもう少し距離感を考えて欲しいところだ。加えて思うのが氷の宮殿前の時のような誘惑めいた事は控えて欲しい。
……聖女を傷物にした。何て事が仮にあって、回りに知られたらそれこそ兵士がダーっと走ってきて、ガシッと俺を捕まえて、牢屋にポイー。と無駄の無い流れるような処理に俺の首も処理されてしまうからな。
「ダイチさん、グラネスさんお待たせしました!」
店から先に出てきたのはリリアだ。その言葉を聞く限りではすぐにフルネールとレヴィアがやって来るのだろう。そうなれば大地とグラネスはその店の中から来る人物へ注目する。
店の中からこちらに向かって影が動いてるのがわかる。そして開ききったドアの向こうからレヴィアが出てきた。
薄いエメラルドグリーンを基調としたスカートがやや広がるドレスに装飾があり、透けた白い羽衣を腕から背中へ通している。
「羽衣?」
「はい!乙姫的な感じにして見ました。可愛くないですか?」
「可愛いけど――さっ!?」
大地の言葉に反応してきたレヴィアが飛んできた。頭から突っ込んでくる形で大地のみぞおちに直撃する。だが、何とか痛みと衝撃を堪えて後ろに倒れずに踏ん張ることに成功した。
「レヴィア……どうした?」
気でも触れたか?
「もう、大地さんに誉めてもらえたのが嬉しいんですよ」
なんと言う喜び方だ。しかし痛い……あれ?痛い?俺結構頑丈じゃなかったっけ?
「この服気に入ったわ。でも、結構お金使っちゃったけど大丈夫なのかしら?」
大地から離れると何事もなかったように大人びた話し方だからギャップがすごい。この子今突撃してきたんだぜ。信じられるか?
「因みにいくらくらいだ?」
「えっと……ドレスが2万ゴールドで」
あー、まぁでもそのくらいはするよな。
「羽衣が……チ万」
「なんて?」
ちょっとよく聞こえなかったな。
「ですから……八万ゴールドです」
……合わせて10万ゴールドかぁ。女性の服って高いって聞いたことあるもんな。お洒落だもんな……。羽衣ってすごい。
「まぁ仕方ないか。レヴィアも気に入ってるようだしな。フルネール、リリア。買い物ありがとな」
「い、いえ。でもお金大丈夫でしょうか」
「まぁ後15万あるからな」
「いえ。それなんですけどね……試着の段階でレヴィアちゃんがどうすればいいかよくわかってなかったようで……」
「うん?歯切れが悪いな。つまり?」
「衣服を数枚破ってしまい14万ゴールドを置いてきました」
そっかぁ。知識を得たのがここ数年だもんな。そう言った意味でまだまだ子供だもんな。仕方ないとはいえ残り1万ゴールドか……。
「残り1万ゴールドがこちらです……」
フルネールが少し落ち込みながら渡してくる布袋は確かにかなり小さくなっていた。
「フルネール」
「はい……」
流石に怒られるだろうと覚悟を決めつつ待つフルネールに大地は優しく手を頭にのせて撫でる。
「大変だったな。レヴィアのお守りお疲れさん」
「え?え??怒ってないんですか?」
「金が減っちまうのはいつものことだろ?それより疲れただろ?」
店にもかなり迷惑かけただろうな……あ、だから高い羽衣買ってきたのか?
「せっかくだ。残りの1万ゴールドで美味い飯食って帰ろうぜ」
金無いのが何時ものことならこの先もなんとかなる。なんの問題もない。そう言った風に大地は飯屋へと歩き始め、リリア、フルネール、レヴィア、グラネスが後に続いていくのだった。
「ダイチさん。せっかくですしついでに皆さんでお食事しませんか?」
そうリリアからのお誘いがあった。フルネールもレヴィアも特に拒否のような反応をしておらず、グラネスに目を向けても頷くばかりで特にこれと言ったアクションがないため問題なしと判断した大地はリリアの誘いを受けることにした。
しかし、先んじてやることはレヴィアの服の購入だ。今の姿では町を歩くだけで人気者だからな……。
「しかしどういう服装がいいんだろうか?」
「可愛い服装がいいですよね?」
大地の問いに答えたのはフルネールなのだがそうじゃない。
「いや、尻尾の問題どうするんだよ」
一応スカートなら問題なくはけるだろうし、尻尾を上方向へ上げず下げていれば中は見られないだろうが、それは少々窮屈そうでもある。……たぶんレヴィアは嫌がるだろう。
「もうバカですね。そんなのは開ければいいんですよ。モンスターと契約する人がいるんですからモンスター用の服に加工するくらいしてくれますよ」
な…んだと……。そんな事までしてくれる店があるのか。
「と言うことでこのお店でお着替えタイムです!」
『お洒落は戦闘力』と書いてある店でフルネールとリリアが楽しそうにレヴィアを連れて奥へと消えていった。
残されたおっさんとゴツイおっさんのツインズは店の前で待つしかない。華?そんなものはねぇよ!
「グラネスもこんなのに付き合わされて大変だな」
「そうでもないさ。むしろSランク討伐のお手伝いに行くと言わないだけな……」
「そういや……なんでグラネスはリリアのためにそんなに命を張るんだ?」
グラネスは妻がいると聞いた。だが、こいつは無謀にも海龍に単独で向かうリリアのためについていったんだ。確実に死ぬとわかっているのに。だ。
確かにそのお陰でリリアが死ぬことはなかったけれど、大地が遅れたら二人とも死んでいたんだ。それもこいつの場合、妻を残して……だ。
「実は俺は貴族でな……」
貴族!?こんなにゴツイのにか!?
「実力もあるから隊の長も勤めてたんだ」
「実力がSランク相当だって言っていたからな」
しかし、それなら何故今ここにいるんだ?
「気になるようだな……待っている間、少し昔話でもしようか」
そう言ってグラネスは少し遠くを見つめた。過去の出来事を思い出すように。
***
俺の受け持つ隊は全員引き連れて南の森だ訓練することがあるんだ。
「よし!基礎訓練はここまででいいだろう!昼食の後、戦闘訓練に移る!」
その場外訓練は隊全体の強化と結束力を固めるのが目的となるんだが……10日に一回くらいしかやらないって言うのに毎回どこからか聞き付けくるのか今の妻……当時は許嫁のメリナが弁当を作って持ってくるんだよ。
「グ~ラ~ネ~ス!また来ちゃった!」
「メリナ……何時も言っているがここはモンスターが出る場所で危険なんだ。こんなことは止めてくれ」
「えー?でも、こう言う時じゃないと私の手料理食べてもらえる機会が無いじゃない」
メリナも貴族の令嬢なんだが料理が趣味でな。貴族の中では変わってると言われるだが……隊の中では人気でな。特に太陽のように眩しい笑顔に惹き付けられ、飯も美味いからな隊員達も喜んじまって、結局強く反対する奴は俺を含めて居なかったよ。
「どう?グラネス……美味しく出来てるかな?」
そんな風に毎回顔を除き込んで聞いてくるんだ。そして、それを見た隊員達は茶化す茶化す……。ま、茶化してきた隊員達はまとめて特別訓練してやったけどな。
……メリナとの結婚が近づいてきたあの日も場外訓練だったんだ。
「隊長。メリナさん遅いですね。何時もならもう来てるはずですのに」
「ようやくここが危ないってわかったんだろ。いいから訓練に集中しろ!」
俺は隊員にそう言っておきながらも気になってな。何度も言ったところで聞きやしないメリナが来なくなるか?とな。もし風邪とかならそれでいいんだ。
だけど、虫の知らせと言う奴か……嫌な予感がしたんだ。
「あ!隊長!?」
俺は隊を置いて何時もメリナがやって来る方向へと駆け出した。走れば走るほど焦りが強くなっていく一方できっと大丈夫だ。風邪かなんかだ。と思うようにしてな。
だが……悪い予感は当たるものだ。
南の森には小さな蛇型モンスターがいるんだ。名前はブラックロングアサシンと言ってな、数はかなり少なく滅多に出会うことはない上に女性でもナイフがあれば倒せるくらいだ。
ただ、その毒が強力でな噛まれればほんの数十分で命を落とす。そして、俺が森の中でメリナを見つけたときは……メリナは倒れていて、近くにはそのモンスターがナイフで首を切断されていたよ。
一瞬で噛まれていたのがわかった。噛まれてどれぐらい経っているのか。それを知るすべは俺にはない。
でも、まだ彼女から息づかいが聞こえてくる。まだ生きている。そう感じた瞬間的俺は彼女を抱き上げて王都まで必死に走ったよ。
毒って言うのは時間が経つにつれて治療が難しくなるんだ。加えてブラックロングアサシンの毒でもある。治療魔法が使えても並大抵の魔法使いでは治すことはできないだろう。……はっきり言ってしまえば助けられる可能性はなかった。だけど、王都に戻る最中、ギルド前に聖女リリア様がいたんだ。
あの時のリリア様は……何と言うか人が怖かったのかもしれない。……いや、何かに傷つくのが怖かった?そんな感じだな。
「リリア様!」
俺がそう言うとリリア様はビクついたんだ。
「な、なんですか……」
いつもの俺だったら……たぶんその反応だけで萎縮して頭を下げて離れただろうな。だが、俺もそれどころじゃなかったんだ。
「お願いします!メリナを助けてください!!」
そう言うとリリア様はメリナに顔を向けてな……そのとたんにリリア様の顔が怯えから真剣なものに変わったんだ。
「その人を早く下ろしてください!!」
今思うとあの感じは今のリリア様って感じだった。
俺が抱き上げていたメリナを地面に下ろすとリリア様は急いでメリナを魔法で調べてくれた。その時の表情からメリナの容態が最悪だったのはわかったよ。でも、リリア様は言うんだ。
「……必ず治しますから。安心してください」
当時のリリア様は聖女としての力を使うところは実は見たことなくてな。一度だけモンスターの戦いに行ったことがあるらしいが、その時も戦いはせずアーデルハイド王女様の後ろに隠れて、回復魔法が使える普通の魔法使いと同じような怪我人を治療するくらいしかしてないと聞いたんだ。
たぶん、その時もまだ魔法はあまり使い慣れていなかったんだと思う。
そして治療魔法が開始されたよ。リリア様の額には玉の汗を浮かべながら、それでも集中力を切らさず……ついにはメリナの毒を完全に消してくれた。
***
「リリア様は俺の妻の命の恩人なんだ。だから、結婚を機に俺は王様へ志願した。リリア様を守るために退役させて欲しいと。な」
グラネスは肺にたまった空気を吐き出すと大地に振り向いた。
「今だからわかるんだが、あの時のリリア様の実力では成功率が1%くらいの高難易度の魔法だったらしく、無理やり続けていたらリリア様も危険だったらしい」
「いろいろ聞きたいがその話って何年前だ?」
「あー、8年?……前だったかな。俺が21でリリア様が8の時だな」
そんな時から命を投げ出そうとしていたのか……恐ろしい子だ。この世界が嫌いなのか?
「今はもう城には勤めてないんだよな?その、金とか大丈夫なのか?結婚しているなら……」
「何言っているんだ俺も妻も貴族だぞ?俺が家にいなくても他で稼ぐ術は整えている。さらに言うと結局、俺は城勤めから離れていないんだ」
「そうなのか?でも今ハンターだろ?」
「俺が退役を申し出た時に王様が別命を割り込んできてな……それがリリア様と同じハンターとなって守ることだと。因みに俺がBランクでいるのはAランク以上のハンターに言い渡される依頼を避けるためだ」
「言い渡されるってそれは拒否れないのか?」
「断ればその国でハンターは続けられなくなるだろうな。それにパーティを組んでいても別々に依頼が来ることもある。だが、Bランクなら来ないしリリア様にくる依頼もついていけると言うわけだ」
なるほどな。
「まぁ簡単に言うと妻の命を救ってくれたから……俺はリリア様に命をかけれるんだ。あと、リリア様の前で『様』をつけて呼ぶと怒られるから気を付けたほうがいいんだが……大地には関係なさそうだな」
「あー、まぁ今さら『様』ってつけるのはな。最初なんて『ちんちくりん』って呼んでたぐらいだぞ?」
グラネスがそれを聞くと思い出したようにクックックと喉で笑う。
「ああ。大地がハンターになったばかりでモンスターと初めて戦いに行った時だな。あの後大変だったんだぞ?リリア様が『私たちも様子を見に行きましょう!』と言ってな、あんなリリア様を見たのは初めてだったぞ」
「俺の印象だとリリアはたまに暴走するからな……」
「まさにそれだ」
再びクックッと笑うグラネス。
「俺もユーナさんも止めたんだが結局聞かなくてな」
「……でもそのお陰でアーデルハイドもミリアさんも無事だったわけだからな」
「……リリア様は大地。貴方と出会ってからの変わりようは劇的だったよ。だから……これからも許されている限りはリリア様と仲良くしてやってくれ」
「若い女をこんなおっさんにお願いなんてするもんじゃないだろ。まぁリリアが結婚するまで。とかなら……だな」
グラネスが何も言わないのはそう言う未来が割りと近いからだろうか?
「何か聖女って特別みたいだし婚約とかしててもおかしくはないだろう?或いは、もうすぐそう言った話があるのかねぇ……」
前者にしろ、後者にしろもう少し距離感を考えて欲しいところだ。加えて思うのが氷の宮殿前の時のような誘惑めいた事は控えて欲しい。
……聖女を傷物にした。何て事が仮にあって、回りに知られたらそれこそ兵士がダーっと走ってきて、ガシッと俺を捕まえて、牢屋にポイー。と無駄の無い流れるような処理に俺の首も処理されてしまうからな。
「ダイチさん、グラネスさんお待たせしました!」
店から先に出てきたのはリリアだ。その言葉を聞く限りではすぐにフルネールとレヴィアがやって来るのだろう。そうなれば大地とグラネスはその店の中から来る人物へ注目する。
店の中からこちらに向かって影が動いてるのがわかる。そして開ききったドアの向こうからレヴィアが出てきた。
薄いエメラルドグリーンを基調としたスカートがやや広がるドレスに装飾があり、透けた白い羽衣を腕から背中へ通している。
「羽衣?」
「はい!乙姫的な感じにして見ました。可愛くないですか?」
「可愛いけど――さっ!?」
大地の言葉に反応してきたレヴィアが飛んできた。頭から突っ込んでくる形で大地のみぞおちに直撃する。だが、何とか痛みと衝撃を堪えて後ろに倒れずに踏ん張ることに成功した。
「レヴィア……どうした?」
気でも触れたか?
「もう、大地さんに誉めてもらえたのが嬉しいんですよ」
なんと言う喜び方だ。しかし痛い……あれ?痛い?俺結構頑丈じゃなかったっけ?
「この服気に入ったわ。でも、結構お金使っちゃったけど大丈夫なのかしら?」
大地から離れると何事もなかったように大人びた話し方だからギャップがすごい。この子今突撃してきたんだぜ。信じられるか?
「因みにいくらくらいだ?」
「えっと……ドレスが2万ゴールドで」
あー、まぁでもそのくらいはするよな。
「羽衣が……チ万」
「なんて?」
ちょっとよく聞こえなかったな。
「ですから……八万ゴールドです」
……合わせて10万ゴールドかぁ。女性の服って高いって聞いたことあるもんな。お洒落だもんな……。羽衣ってすごい。
「まぁ仕方ないか。レヴィアも気に入ってるようだしな。フルネール、リリア。買い物ありがとな」
「い、いえ。でもお金大丈夫でしょうか」
「まぁ後15万あるからな」
「いえ。それなんですけどね……試着の段階でレヴィアちゃんがどうすればいいかよくわかってなかったようで……」
「うん?歯切れが悪いな。つまり?」
「衣服を数枚破ってしまい14万ゴールドを置いてきました」
そっかぁ。知識を得たのがここ数年だもんな。そう言った意味でまだまだ子供だもんな。仕方ないとはいえ残り1万ゴールドか……。
「残り1万ゴールドがこちらです……」
フルネールが少し落ち込みながら渡してくる布袋は確かにかなり小さくなっていた。
「フルネール」
「はい……」
流石に怒られるだろうと覚悟を決めつつ待つフルネールに大地は優しく手を頭にのせて撫でる。
「大変だったな。レヴィアのお守りお疲れさん」
「え?え??怒ってないんですか?」
「金が減っちまうのはいつものことだろ?それより疲れただろ?」
店にもかなり迷惑かけただろうな……あ、だから高い羽衣買ってきたのか?
「せっかくだ。残りの1万ゴールドで美味い飯食って帰ろうぜ」
金無いのが何時ものことならこの先もなんとかなる。なんの問題もない。そう言った風に大地は飯屋へと歩き始め、リリア、フルネール、レヴィア、グラネスが後に続いていくのだった。
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