初めての異世界転生

藤井 サトル

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雪夜咲く、美人の笑顔に、満ち足りる

不思議な部屋で不思議な初体験

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「その怒ってないか?」

 大地が恐る恐ると言った感じでリリアに顔を向けた。そのリリアはというと……。

「そうですね……ダイチさん少し怖かったですし、少し驚きましたし、いきなりの事でショックでした」

「そ、そうだよな。やっぱり許せないよな」

 リリアが表情をムっとさせて怒りながら大地に近づき、背伸びして見上げる形で大地の顔を覗き込む。

「ショックでした!!」

「え……っと」

 二度も言うほど怒っていると言うことだよな。なんて返せばいいんだろうか。

 リリアの言葉で困惑する大地にリリアは言った。

「私が聞きたい言葉……わかりませんか?」

 リリアの瞳がまっすぐ大地の瞳を捉える。その強い意思に導かれるように大地は答えを出す。

「ごめんなさい……」

「はい!許してあげます♪」

 大地の口から聞きたかった言葉を聞けて満足したリリアは久々の笑顔を大地に見せる。

「いや、本当にその言葉だけでいいのか?もっと別な事でも」

 この世界に言葉としてはないがセクハラしていることは確かだ。それ以外にも理想を壊す為に言った言葉、その時に発していたリリアの震える声を思い出すとかなりショックを与えてたのだと思う。

「要りませんよ。だって、こんなに私の事を考えて行動してくれたんですから……その言葉だけで充分です」

 リリアは初めて他人の人柄や性格を見極める目と知識と経験が欲しいと感じた。自分の理想を当てはめるのではなく、その人が持っている人間性を見極められるようになりたいと。

 出来る出来ないは置いといて普通の人なら誰でも持っている感性だ。それを大地が教えてくれた。

「だから……この話はこれでお仕舞いにして、この部屋をもっと調べてみませんか?」

 焦っても仕方ない。落ち込んでも仕方ない。不安はあるけれど……たった一つでも見つけたい。その意思を表すように隅から隅まで部屋を探してみる。

 しかし、この白い空間では調べられる物も少ない。リリアには部屋の中で魔力が不自然に集まっているところがないかを探して見て貰った。だが、この部屋に魔力が溜まりすぎているらしく、やはりわからないと言われてしまった。

「ここに何もないとは思えないんですけど……」

 何時までもここにいるわけにはいかない。無いなら無いで他を探しにいかなければ本当に間に合わないのだ。

「リリア。そろそろ行こう」

「はい」

 その事についてリリアもわかっているからこそ頷いた。口惜しそうにもう一度部屋を見渡した後、虹色の波紋が出ている壁に目を向けた。だが、その壁から虹色の球体が作られた。恐らく大地達と同じようにこの部屋に誰かが入ってきたのだ。

 大地はリリアを庇うように立ち、リリアは杖を握りしめて立ち向かう準備をする。こんな場所に普通の人が来るとは思わないから……きっとモンスターだ。

 その球体が消えて現れたのは……小さな女の子だ。リリアより小さいその女の子は髪は足元近くまで伸びている。髪の色と瞳の色は同じで澄んだ瑠璃色という表現が近いかもしれない。顔立ちは身長に合うように幼く見た目の年齢としては10歳くらいだ。
 だが一番特徴的なのは……その女の子が裸であり背後に見える青い尻尾だ。

 上手いこと長い髪で色々な部分が隠れているからいいものの、それでも目のやり場に困る。

「ななな!」

 言葉になら無い大地でどうしたものかと困惑するが、リリアの心境はそれどころじゃなかった。

「気をつけて下さい!魔力がすごく高いです。恐らくモンスターが変身しています!!」

 リリアがぎゅっと杖を強く握るのは相手の魔力の高さからくる……恐怖だ。
 そして、そのモンスターが口を開いた。

「アタシの根城に人間が何のようだ!!!」

 威嚇全開で叫ぶ女の子。そしてその物言いからモンスターであるのも確かなようだが……はて?どこかで聞いたことがあるような声だ。

「こんなところまでアタシを狙いに来たのか!!今までの奴等のように殺してやるー!」

 尻尾をビタンビタンと地面に叩きつけるのは威嚇だろう。

「んー?もしかしてお前……リヴァイアサンか?」

 その一言に目の前の大地の顔を覗き込むように見上げる。

「あの時の……人間?」

 どうやら大地の記憶も捨てたようなものじゃ無いらしい。声とリリアの反応で推測したがピタリと当てはまったみたいだ。

「そうか、ここはお前の寝床だったのか」

「な、何しに来たのよ!やっぱりアタシを襲うつもりなのね!?」

 大地の強さを知っているからこそ、リヴァイアサンは傷つきたくなくて自分のからだを抱き締めながら一歩後ずさる。……のだが、人間の女の子と区別がつかない姿で、且つ裸の女の子がその台詞を言うと大地がガチ犯罪者にしか見えなくなってくる。

「ま、まて!そんなつもりはない!」

「で、でも!そっちの人間は杖を構えてるじゃない!!」

 リヴァイアサンの視線はリリアに向けられている。リリアとしては警戒して構えていたのだ。
 だけど、今のようすを見て直ぐに襲われそうにないと考えた。そして、本当なら危険すぎる事だが……思いきった行動に移る。

「ごめんなさい。襲われると思ったんです」

 そう言ってリリアは杖を手放す。地面に落ちた杖はカランと音をたてた。

「え?……本当に違うの?」

「はい。知らなかったとはいえ貴女のお家おうちにお邪魔してすみませんでした」

 ペコリと頭を下げるリリア。その様子を伺っていたリヴァイアサンが少しして口を開く。

「……あんたもそこの男と同じで変な人なの?」

「変な人……?ふふ、そうかもしれませんね」

 クスクス笑うリリアを不思議そうに見て首をかしげた後、大地へと顔を向けた。

「アタシを襲いに来たんじゃなければあなた達はここに何しに来たの?」

「俺たちはスノーパールと言う果実を探してたんだ。だけど、少し前にあった大きな音と地揺れの影響で雪崩が起きて、それに巻き込まれてな。気づけばこの近くにいたんだ」

「大きな音……?」

 リヴァイアサンの顔色がどんどん青くなっていく。それはもう何か心当たりありそうな……。

「何か知っているのか?」

「さっきここを出る時に天井に頭をぶつけて。そのせい……かも?わ、わざとじゃないのよ!?本当よ!?頭も痛かったんだから!!」

 慌てながら言い訳するリヴァイアサンだ。モンスターがしゃべるのも珍しいのだろうが、ここまで感情を露にできるのも長く生きていると聞いたリヴァイアサンだからなのかもしれない。

「いや、怒ってねえよ。それに俺達はそろそろここを出ていくしな。スノーパールを探さないといけないんだ」

「あ!そのスノーパールって真っ白い果物よね?」

 思い当たる節があるようでリヴァイアサンが頭の奥底に眠る記憶を掘り起こす。

「「え?」」

 大地とリリアが予想外からの言葉で驚く。しかし、考えてみたらリヴァイアサンはかなり昔からいるのなら知っていてもおかしくはない。因みに……フルネールはスノーパールについては知らなかった。と言うより基本的には聖女に関すること以外は殆ど知らないらしい。

 まぁ、だからこそフルネールはこの世界に来て楽しんでるのだろう。そうじゃなければ石畳のベッドで寝るのも嫌だろうに。……いや、口に出さないだけでもやっぱり嫌だよな。

「なぁ、それがどこにあるか教えてくれないか?」

「知りたいの?」

「ああ。欲しいんだ。頼む」

「うーん。なら一つ条件があるの」

「条件?」

 話せるとはいえ、リヴァイアサンはモンスターだ。もし人間を……生け贄を要求してきたらどうにもなら無いだろう。

「もう人間に襲われるの疲れたの。ここ最近は特に多くて……だから、何とかして欲しいの!」

 思った要求とは違うがこれはこれで難題だ。どうすればいいのか検討はつかない。なのだがリリアは違った。

「リヴァイアサンさんは人間から襲われるのを防げればいいんですよね?」

「うん。何かいい方法あるの?」

「はい!ダイチさんと契約すれば他の人から狙われないと思いますよ!」

 ただ、基本的にはリヴァイアサンを狙った人の方が命はないだろう。それに、リヴァイアサンのようなとんでもないモンスターと契約する人間なんて過去にも類の無い事例だ。

「まて、リリア。契約って何だ?」

「モンスターを使役する魔法ですよ。こちらは奴隷の呪いと違ってモンスターと心を通わせられた人がモンスターを使役出来るようになるものです」

「なるほどな」

 なぁフルネール。俺ってモンスターと契約してもいいのか?

 あら?リリアちゃんから聞いたんですか?

 ああ。そうなんだが、契約してもいいのかわからなくてな。

 もちろん大丈夫ですけど、魔法が使えない大地さんなら魔道具無いと出来ないと思います。

 そうか。わかった。ありがとな。

 きっとリリアちゃんなら持ってるでしょうし、モンスター契約する初体験ですね♪

 最後の言葉を無視して一度はずした視線をリリアへ戻す。

「俺はその契約?するための魔法って使えないんだが」

「それなら大丈夫です。私がそれようの魔道具をもってますから」

 リリアが真っ黒の紙のような物を取り出した。それで契約するのだろうか。

「その契約ってアタシがその男に従うってことよね?」

 リヴァイアサンってかなり強いモンスターなら流石に人間に従うのは嫌なのかもしれない。前に人間嫌いだと言っていたし。

「はい。そうなりますけど……リヴァイアサンさんは嫌ですか?ダイチさんの近くが一番安全だと思うのですが」

 今までの事を考えてもリリアとしてはそれは揺るがなくはっきり言う。

「そうね……」

 そう考えたリヴァイアサンだが直ぐに口を開いた。

「ダイチ……でいいのよね?あんたの名前」

「ああ。そうだ」

「わかったわ。ダイチと契約する。でも名前はつけてちょうだいね」

 名前?

 リリアをちらりと見ると補足してくれるように教えてくれる。

「契約したモンスターを呼ぶ名前ですよ。私の魔力を魔道具に込めていますから、これを貼り付けるんです。モンスターがそのまま受け入れてくれれば契約は完了なんですけど、張り付ける前にダイチさんが考えた名前を呼んであげてください」

 ふむふむ。

「貼り付けるってどこに?」

「基本どこでもいいんですが……その人の趣味によりますね。ダイチさんなら……胸。でしょうか?」

「たのむからそれはもう引っ張らないでくれ」

「ふふ。ごめんなさい」

 どんどんリリアの性格が意地悪くなっている気がしなくもない。……見ようによってはそう言う冗談も言えるようになった。と言うことだろうか。

「とりあえずわかった。名前か……レヴィア。レヴィアはどうだ?俺の世界で使われるリヴァイアサンの別名で、レヴィアタンという名前があってな。そこから文字ったんだが」

「レヴィア……悪くないわね」

 快く承諾してくれてひと安心だ。

「利き腕に貼るから手を出してくれるか?」

 大地が聞くとリヴァイアサン……もといレヴィアは右手を出してくれた。

「レヴィア。これから宜しくな」

 そう言いながらその差し出された手首の近くに紙を張る。すると、黒い紙はレヴィアの右手に巻かれると材質が紙から金属のものに変化し黒色から銀色へ、最終的な形は腕輪になった。

「これでいいのか?」

「んー?アタシ……なんとなく大地の物になったって感じがするわ」

 レヴィアが自分の中の変化を確かめた後に言った。が、その物言いも出来れば言い方を変えて欲しい。

「うん。でも、不思議な感じかするけど悪くないわね。アタシを人間からしっかり守ってよね?」

 無邪気にいうのだが、そろそろ一つ何とかしたいことがある。それは……。

「何か予備の服か何かもってないか?」

 未だにレヴィアが裸だと言うことだ。レヴィアは気にしていないようだがその姿で連れかえろうものなら、言い訳をする暇なく牢屋行き待ったなしである。

「それなら、このダイチさんのマントを着させてあげてください。これなら尻尾があっても着やすいと思いますよ」

 確かにそれなら邪魔になりにくいだろうが……。

「リリアはどうするんだ?」

「私は自分のコートを来ます外側はまだ濡れてますけど中は特殊な魔法がかけられているので乾いてますから」

 そう言ってリリアが手渡してくるマントを受け取った。そこで大きさが小さくなっていることに気づく。

「あれ?俺のマント小さくないか?」

「そのマントは魔力を流すと伸縮出来るんです。こんな感じですね」

 リリアが言いながら大地の持つマントに触れて魔力を流す。するとその手の内にあるマント少しだけ縮む。

「これくらいならレヴィアさんにも丁度いいと思います」

 リリアが調整してくれたマントを持ちながら大地はレヴィアに振り向いた。

「取り敢えずこれを着てくれるか?」

「……人間って不便ね」

 少しだけそのマントを見た後に言うのだがレヴィアはマントへと手を伸ばす。

「いいわよ。来てあげる」

 そう言ってマントを羽織る。やはり残念なことに背後の尻尾の辺りが捲れてしまうようだ。まぁ彼女を後ろから見なければ問題はない。

「へぇ、服ってのも中々いいわね」

 正確にはマントだが、レヴィアは気に入ったらしいので、一先ずはよしとした。
 そしてここからが本題だ。

「レヴィア。スノーパールについてなんだが」

「そうね。大地。この部屋の中央に立ってくれる?」

 なぜ?と思いながらも大地が中央へと移動する。それを見た後にレヴィアは次の指示をする。

「そこで軽く飛んでみて」

 またもや謎の指示だ。だが、今は信じるしかないからこそためしにジャンプしてみた。
 ピョンと跳んで着地する。すると、地面が揺らぎ始めた。と思いきや部屋の隅の床が動いているのだ。

「その階段から降りるとそれらしいのがあるわ。大地達が探しているのと同じかはわからないけど」

「いや、その前になんだこの仕掛け」

「すごい昔の話に聞いたのだけれど、魔力が必要な仕掛けを先に見せることで、魔力が不必要な仕掛けを後につけると気づかれにくいそうよ」

 その言葉にリリアはグサリと来る。この部屋に入って魔力の感知しかしてこなかったのだ。つまり、製作者の思惑にまんまと踊らされたのだ。

「な、なるほどな。取り敢えずその階段を降りるか」

 大地が先導して開いた床のそこに見える階段を下りていった。
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